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「ふーん」
「丸山、おまえも高い位置の缶がとれなかったら取ろうか?」
「和臣~、ちょっと背が高いからって図に乗るなよ!踏み台があるから大丈夫だ!初夏ちゃん、どれがいい?一番上に並んでるのは辛いものシリーズのようだぞ」
「あはは、邪魔しちゃ悪いから、あっち見てくるよ。行こう、結梨絵さん」
「じゃ、邪魔って、邪魔ってなんだよ!」
丸山君の後ろに立っていた初夏ちゃんが恥ずかしそうにうつむいた。
丸山君の声にもどこか気恥ずかしさが混じっている。
順調、順調。
「ああ、このあたりはご飯ものとパンの缶詰みたいだね」
別の棚に移動して缶詰を見ていく。
「あ、クッキーとか甘いものもありますよ。見てください、和臣さん、缶詰じゃないものもありました」
棚の一番下には、縦に置かれていたクッキー缶やおせんべい缶があった。
「これ、缶は缶だけど、缶詰じゃないですよね」
「本当だ。ぷっ。面白いな。でも、缶詰じゃなくていいなら、缶ビールや缶チューハイ並べとけば、飲み物も注文しなくてよくなるのに」
「そうですね!そこまでは思いつきませんでした!」
ふふふと、二人で笑いながら缶詰を物色する。
「まだデザートの時間じゃないですよね」
甘いもの系缶詰の棚を離れる。
「甘いものは好き?」
「ええ。普通に好きです。和臣さんは好きですか?」
「僕も普通に好き」
「普通ですか。じゃぁ、大好きってことですね!」
「え?普通に好きは大好きってことなのか?」
「ええ。女子としては普通に、甘いものは別腹なの!っていう……男性から見れば大好き程度ということです」
「なるほど、僕たち男性の言う、普通に肉は好きだっていうレベルで好きってことだ」
「ふふふっ、そうですね!女子からすると、男性の肉好きって、女子の言う肉が好きっていうレベルを超えた好きですもんね!」
和臣さんも楽しそうに笑っている声が聞こえる。
……どんな顔をして笑っているんだろう。
表情も、見てみたいなぁ。
もう少し、顔を近づけたら見えないかな?
少しだけ和臣さんに顔を寄せてみた。
「!」
すぐに、和臣さんが私から距離を取る。
あ……。
近づかれたくないんですね……。
「ごめんなさい、少し、よろけてしまって……」
本当に今はよろけそうです。
足が小さく震えます。
「ぼ、僕こそ、ごめん。支えてあげないといけないのに、逃げるような感じになっちゃって……。いくら顔が見られたくないからって……自分勝手だった」
顔が見られたくない……。
どうしてそこまで見られたくないのでしょう。
誰かにバカにされて振られた経験でもあるのでしょうか。
「いいえ、あの、私こそ……」
自分が見たくなったからって、こっそり顔を見ようとしてしまって……ごめんなさい。
嫌われたくないです。
顔を見ようとしたなんて知られたら……嫌われるかも……しれません。
足の震えはひどくなり、思わずしゃがみこむ。
落ち着こう。落ち着くのです。
「あ、ほら、和臣さん、このあたりは肉コーナーです。肉、食べましょう!肉!」
なんとか普通に声が出ました。
いくつか缶を手に取り和臣さんに差し出す。
「いくら肉が好きだって言ったからって、合わせることはないよ?結梨絵ちゃんの好きなもの選べばいいよ」
「私も、肉は好きですよ?男性の普通ほどじゃありませんが」
和臣さんが少しだけほっとした声音で答える。
「そう、女性として普通に好きなんだね」
「ふふ。それにほら、これは肉は肉でも熊です。ちょっと食べてみたいです」
「熊か……昔一度だけ食べたことがあるけれど、肉がぱさぱさしていて獣臭かったよ。あ、いや、ごめん。食べるのを楽しみにしてる人に言う言葉じゃなかった」
「獣臭いんですか?」
缶詰の側面を見る。
「えっと、生姜にお酒と、臭みを取る材料も使われているみたいですけれど」
「うーん、じゃぁ、大丈夫なのかな?ほかにも熊は置いてあるかな」
と、二人で熊の缶詰をいろいろ手に取って原材料や説明書きを読み比べていると、菜々さんの声が聞こえてきました。
「ぷっ。二人ともさっそく缶詰の説明書き読んでるし」
「あ、菜々さん」
「ったく、帰ってこないから、何してるのかと思ったら……。っていうか、何かしてたわけじゃないのねぇ」
菜々さんが何か含みのある言葉を和臣さんに向けた。
「す、するわけ、ないだろ」
焦った声を出す和臣さんに、菜々さんがふっと鼻で笑って、私の肩を押した。
「さ、早く戻ろう。せっかくだからいろいろ食べてみて、美味しかったら缶を撮影して後日読めばいいっしょ」
「あ、なるほど。そうですね。菜々さん、賢いです」
「で、何を選んでたの?」
菜々さんが私の手に持っていた缶を手に取りました。
「うっわー、熊か!熊は一度食べたことあるけど、臭くて食べられたもんじゃなかったんだよなぁ……」
菜々さんも熊を食べたことがあるのですか?
あ……。もしかして……。
ちらりと和臣さんを振り返って見ます。
一緒に食べに行ったということでしょうか?