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 誰がそんなことを言ったのでしょう?

「私は知らない話を聞くのは楽しいです。でめんどくさいと思うことはありませんよ?」

 菜々さんが楽しそうにふぅーんと声を上げました。

「だってさ」

 菜々さんが顔を和臣さんのほうに向けた。

「ありがとう、結梨絵さん。そう言ってもらえると嬉しいんだけど、この癖はアプリのバグ解明方法についてや、数学者の歴史的偉業や、IT産業における株価予想とか……その、相手の興味があるなしに関係なく出てしまうんで……」

 ああ。

「確かに興味はありませんし、話をされても理解できなくて申し訳ないなぁと思うかもしれないですが……知らない話を聞くのは楽しいです。アプリってそんなにいろいろ作るのが大変なんだなぁと思うかもしれませんし、もしそれが使ったことのあるアプリだったら秘密を知ったみたいで嬉しくなるかもしれません。あと、その話がきっかけで興味のもてるアプリが見つかるかもしれませんよね?」

 丸山君が和臣臣さんの背中を叩いた。

「よかったな、和臣!結梨絵さんみたいないい人がいて!」

「あ、ああ」

 へ?

「いえ、私、いい人じゃないですよっ!その、私もどちらかといえば、知っている話をついついしちゃうタイプなのです」

 話を聞くくらいでいい人だと思われるなんて、買いかぶりもいいところですよ……。

「そうなの?じゃぁ、似たもの同士?」

 丸山君の声は弾んでいる。

「似てもいないと思います。あの、私はそんなむつかしい話はできなくて……」

「結梨絵さんはどんな話をするの?」

 和臣さんの言葉に促されて、さっき思い浮かんだことを話します。

「初夏ちゃん、山わさびを食べたことがないと言いましたよね?」

「はい。わさびっていうと、普通のしか食べたことがなくて」

「さっきの和臣さんの話で知ったんですが、山わさびは西洋わさびのことだそうです。西洋わさびは食べたことありますか?」

「ないと思います。わさびは、お寿司や刺身くらいにしか使わないので……あ、チューブやパックに入ったわさびしか」

 私の欲しかった言葉を初夏ちゃんが口にするので、思わず口元が笑ってしまいました。

「今度、チューブやパックの原材料を見てみてください。商品に本わさびと書いてないものの多くは、西洋わさびが原料になっているはずですから」

「そうなのか?」

「知らなかった」

 初夏ちゃんより前に声を上げたのは和臣さんでした。

「ええ。だから西洋わさびはむしろ食べなれた味……あ、私の場合は本わさびじゃないわさびのチューブを結構使うので……」

 安いので。

「ほら、私も結構うんちく魔ですよね?商品を裏返していろいろ見ちゃういますし……めんどくさいですか?」

 和臣さんを見ます。表情は見えないけれど、首を横に振るのが分かりました。

「知らない話を聞くのは楽しい」

「一緒ですね」

 思わず二人で思わず笑ってしまいました。

 丸山君が、笑っている和臣さんの背中を2度ほど叩きます。

「いやぁ、菜々ちゃんの言う通りだなぁ」

「でしょ!」

「え?菜々ちゃんは丸山君になんて言ったんですか?」

「初夏ちゃんにはあとで教えてあげるわ。っていうか、丸山君に聞いてくれる?」

「ああ。初夏ちゃんにはいろいろ面白い話教えてやるよ。この件も含めて」

「面白い話ですか?楽しみです」

 と、みんなは別の話題で盛り上がりだしました。

 その様子を見ると、初夏ちゃんと丸山君の仲は、前よりも近くなっているような気がします。よかった。

「結梨絵さんは、どんな男性が好み?その、顔がよくて頭がよくて背が高くてお金持ちとか……好きかな?」

 和臣さんの質問に、菜々さんが隣でぶっと噴き出した。

「バカじゃないの、何その質問っ!」

「ふふふっ。和臣さんは面白いことを聞くんですね?」

 一部の女性は、確かにそういう男性が好みかもしれません。

 ずっと昔、3高とかはやったそうですし。

 高収入高身長高学歴でしたでしょうか。

「好み、ですか……」

 改めて問われると、私はどういう人が好きなのでしょう?ずいぶん恋もしていません。

 昔好きになった人は……どうして好きだったのかな?

「一緒にいて疲れる人は駄目ですね」

「疲れる……?背が高い相手だと、見上げていないといけないから首が疲れるとか……?」

 和臣さんの言葉に、再び菜々さんがぶっと噴き出した。

「そうですね、ある意味そうかもしれません」

 私がそう言うと、菜々さんが少しだけ腰を浮かせた。

「結梨絵ちゃん、どんな基準なの、それっ!」

「あ、いえ。物理的というか肉体的に疲れる話ではなくて……。首が疲れるよねって気が付いて、目線を合わせてくれたら疲れないですよね?いつも見上げていることを当たり前だと思って、首が疲れることに気が付いてくれない相手といたら、精神的にきついと思うんです」

 菜々さんが椅子の背に体重をかけました。

「そういうことかぁー。なるほど。確かに、自己中で相手のこと考えない男は疲れるわ」

「そろそろ第二弾選んでくるか?」

 いつの間にかテーブルの上の缶詰がほとんど空になっていた。

 ここは飲み物以外は注文できないので、食べるものがなくなったら自分で取ってくるしかないわけです。

「結梨絵さん、今度は何が食べたいですか?」

 立ち上がると、隣に和臣さんが立っていました。

「缶のラベル、読み上げますよ」

「ありがとうございます。でも、目の高さにあるものならば読めるので、大丈夫ですよ」

 私に付き合わせてしまったら、和臣さんが好きなものが選べなくなってしまいますから。

 先ほどサンマの並んでいた棚の裏側を見てみることにします。

 サンマの缶詰が並んでいた棚は、客席側の周りにある棚だった。その裏には図書館に並ぶ本棚のように3つの棚が並んでいる。通路の幅は図書館よりも少し狭いが、しゃがんで下のほうを見るには十分の幅があります。

 棚の裏に回ると、後ろに和臣さんがついてきました。


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