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「ああ、そうでした。高いものを奢ってもらうのもちょっと申し訳ない気持ちになって困りますけど、服装とか……この間みたいにジーパンでレストランに連れていかれても、なんだか場違いになってしまうので」

「ああ、それなら途中でブティックに寄って、ふさわしい服を買えばいいよ。プレゼントするから」

 ぷっ。

 あははは。

 思わず笑ってしまう。

「面白いですね、和臣さん。なんだかロマンス小説に出てくるCEOの男性みたい。ふふふ、」

「ロマンス小説?」

「大体独善的でなんでも自分の思い通りになると思っている横柄な男が多いんですけどね」

「え?」

「だけど、本当は優しくて、ただ接し方を知らないだけの魅力的な男性だったり」

「魅力的?」

 和臣さんの戸惑った声ではっと気が付きます。

「あ、えっと、ロマンス小説に出てくる男性の話です。その、デートするときはやっぱりどこへ行くのか、内緒にしたいなら、どんな服装で来てほしいとか、ちょっとは教えてあげたほうがいいかも。おいしいパスタの店と行って連れて行って、小麦粉アレルギーだったら台無しですし……。海に行って、泳げなかったら台無しですし……」

 女性の場合は、体をあまり動かしたくない日がある場合もありますし。

 次の日の予定に合わせてあまり遅くに帰りたくないとか疲れるようなことはしたくないとかもあるでしょうし。

「あとは、あれだなぁ。飲食店ならトイレは男女別の店を選んだほうがいい」

「なんか、勉強になる話してるなぁ」

 丸山さんともう一人も会話に参加し始めた。

「初夏はどう思う?初デートではどういう店に行きたい?」

 初夏ちゃんがほほを染めた。

「ど、どこへでも。好きな人と一緒なら……あの、でも、風が強いところだと……大変かな……」

 うわぁ、青春です。

「だねぇ、せっかくセットした髪の毛がぼっさぼさとか……」

 菜々さんがくるんと巻いた髪の毛を持ち上げました。

 和臣さんはうんうんと頷いて聞いています。

「わかった。例えば、結梨絵さんだと字幕映画に誘わないほうがいいってことだよね?字幕が見えないから」

 菜々さんがあちゃーと額を押さえています。

「そういうことじゃない……字幕映画の問題じゃなくて、映画の選び方の問題なんだけどね……」

「あ、今日は忘れてしまいましたけれど、コンタクトをはめれば字幕もちゃんと見えますよ?」

 口に出してからしまったと思い、慌てて言葉を続けます。

 これじゃぁ、字幕映画に誘ってくださいって遠回しに言っているみたいじゃないですか。

「初夏ちゃんは、どんな映画が好きなんですか?」

 話題を変えるために、早口で別の人に質問をぶつけます。

「私は洋画よりも邦画が好きなんです。字幕を読むのが遅いので……」

 初夏ちゃんの言葉に同意するように、丸山君が口を開きました。

「あー、分かる。吹き替えよりは字幕で見たいけど、俺も字幕のスピードについていけないことあるから。見逃さないように瞬きしないと目が乾くし」

 ふふふ。二人は順調です。

「菜々ちゃんは字幕見なくても英語ならわかるんだよね?」

 初夏ちゃんが菜々さんに話しかけました。

「字幕があると逆に分かりにくいんだよね。英語で聞いているのと、字幕の意味が違うことがあって混乱する。だから、洋画は吹き替えで見てる。映画もDVDのように字幕ナシが選べればいいんだけどねぇ」

「え?菜々さんすごい。英語ペラペラですか?」

 驚いて声を上げてしまいました。

「留学してたからね。1年。聞くのには困らないかな。でも話すときはやっぱり1年だと、どう言っていいのか分からないこともあるかな」

 そういえば、留学していたから今何年だけど何歳みたいなこと言っていたっけ?

「旨い、これなんだっけ?」

 丸山君が皿を指さした。

「サンマの味噌カレーです」

「ああ、味噌とカレーか!カレー風味のなんだろうと思ったら。うめぇわ。」

 そうでした。せっかく珍しい缶詰がたくさん食べられるのですから、味わわなければ。

「これは、初夏ちゃんが選んだものですか?」

「はい。山わさびって聞いたことはあったんですけど、食べたことがなかったから」

 山わさびの醤油漬けの缶詰です。

 少し取って口に運ぶ。

「はー。おいしい。ご飯が進みそうな味ですね。あ、お酒にも合います。これ一缶あれば、他に何もつまみいりませんね」

 思わず、ごくごくとカクテルを水のように飲んでしまい、和臣さんがふっと笑い声を漏らす。

「確かに。でも、まだまだほかにもおいしいものがたくさんあるから、他のものも食べよう」

「もちろんです。でも山わさびの醤油漬け、初めて見ました。どこに売っているんでしょうか?」

 また食べたくても、入手はむつかしそうですよね。

「山わさびは家庭菜園でも育てられるんだよ。家庭菜園で作って自宅で醤油漬けにするという地方もあるみたいだよ」

「え?家庭菜園で?わさびって、水がきれいな山で栽培するイメージですけど……」

 和臣さんが山わさびの缶詰を持ち上げて、側面の文字を見ています。

「ああ、やっぱりだ。産地は北海道だね。北海道では自生してたりもするらしいよ。山わさびって名前で呼ばれると、山に自生してるイメージが強くなっちゃうけど、別名は西洋わさびや、わさび大根って言うんだ。虫が付きやすいけれど、それさえ気を付ければ山わさびは、プランター栽培でも大丈夫らしい。土に植えれば、すぐに根を張るらしいよ」

「プランターでも?和臣さんは物知りなんですね」

 すごいなぁと思って誉め言葉が自然に口から出ました。

 ところが、和臣さんははっと息をのむと、コトンと缶をテーブルに置いて「あー、またやってしまった」と小さくつぶやきました。

「え?」

 首を傾げると、丸山君がこちらを見ました。

「気になると、すぐに確かめたくなって缶の説明書きを読んだり調べたりする細かさとか、知っているうんちくを長々と話し始めるところとか……。ちょっとめんどくさい男だなーって思わない?」

 めんどくさい?


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