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 ずいぶん身長が高い。学生相談室の黒崎さんも背が高かったけれど、同じくらいあるんじゃないかな?185センチくらいありそう。

 顔はよく見えない。

「やっぱり?……そう、見える?」

 首を傾げる。

 よく顔が見えないけれど、遊んでそうな顔をしてるのでしょうか?

「見た目とかじゃなくて、この間話をしていて楽しかったので。あと、食べ物をおいしく食べられる人っていいですよね」

 あ。


 それは私の好みでした!モテそうに見えるのとは関係ありません。

 食堂で働いていると、顔はいいのに食べ方が汚くて好き嫌いも多くて食べ残す学生もよく見て来ました。

 男女問わず、そういう人は、いくら顔がよくてもどうも嫌悪感があるのです……。だから、思わず……。

 和臣さんは、何でもおいしく食べてたし、口に物を入れているときにしゃべらないとか、箸の持ちかたとか動かし方、きれいな食べ方をしていましたので……。

「そ、そうか、ありがとう」

「ありがとう?」

「和臣はさぁ、顔がいいから女は寄ってくるんだけど、むしろ顔が良すぎて女に嫌な目にあうことが多くて、ちょっとした女性恐怖症なんだよねぇ。だから、見た目を褒められてもなぁんにも嬉しくないんだって。贅沢な悩みだよねぇ」

 丸山さんの言葉に、和臣さんがうるさいと小さく声を上げる。

「えっと、ごめんなさい。あの、見た目は、その、実は眼鏡を外すと顔がよく見えないので、もし見えてたら私も、イケメンですねと言っていたかもしれません」

「あ、え?顔が見えてない?そ、そう。じゃぁ、本当に、顔は関係なく、僕と話をして楽しいって言ってくれたんだ……」

 和臣さんの弾んだ声を遮って、菜々さんが声を上げました。

「ほーら、話はあとあと、店に入ろう!座って話そう!」

「菜々ちゃんは、酒飲みながら話そうだろう?」

「ふっふー。もちろんですよ、飲み会だもの!」

 菜々さんに背中を押されて店の中へ。

 うわぁー、すごい!

 なんといえばいいんでしょう。

 漫画喫茶は、漫画の詰まった棚が所狭しと並んでいます。ここには、漫画の代わりに、缶詰が並んだ棚が所狭しと並んでいます。

 残念ながら眼鏡不在のため、なんの缶詰が並んでいるのかは分からないけれど。きっと、私が普段スーパーで買っているような缶詰とは違うんでしょう。

 席に案内され、着席すると店員さんが説明してくれた。

「缶詰はセルフサービスになっております。好きな缶詰を自由に選んでください。温める場合は皿に移してあちらの電子レンジで。空になった缶はこちらの袋にお入れください。会計は缶の数で行います。ドリンクメニューはこちらになります」

 飲み物を頼んで、さっそく菜々さんが立ち上がる。

「何を食べよう!こんなに缶詰に種類があるなんて思ってなかった!」

 うん。そうですよね。菜々さんの声からわくわくが伝わってきます。

 みんなが立ち上がり、各々缶詰を探しに行く。

「結梨絵さん、サンマの缶詰のコーナーはこっちですよ」

 え?

 和臣さんに声を掛けられました。

「もしかして、あの、私がサンマを食べたいと言ったから、この店を?」

「いや、あの、本当はおいしいサンマを食べられる店を探せたらよかったんだけど、時期的に見つけられなくて。だったら、せめて、いろいろなサンマが味わえればと……」

「ご、ごめんなさい、じゃないですね、ありがとうございます。あの、まさか本当にサンマなんて言った言葉を参考にしてもらえるなんて……」

 魚の特売日に頭がいっぱいで、飲み会のことを考えていたわけではなかったので、申し訳ないです。

「いや、お礼を言われるようなことは……。他の人のリクエストが、おいしい酒、焼き鳥、面白い店だったから……で」

 よかった。ほかの人のリクエストも考慮した結果だったのですね。

「ああ、この店は確かに面白いですし、お酒の種類も豊富でおいしそうですよね。あと焼き鳥の缶詰も置いてある……最高じゃないですか!」

「いや、でも、丸山の言う通り、女性のことももうちょっと考えるべきだったよね。ちょっと煙草の煙が髪や服についちゃうかな……」

 頭を横に振る。

「大丈夫ですよ。私も菜々さんも初夏ちゃんも、みんな楽しんでます。あ、一つお願いしてもいいですか?」

 なぜ、ここまで低姿勢なのでしょう?丸山さんによっぽどこっぴどく言われたのでしょうか?

 本当に別に気にしていませんし、、お店選びを任せたからには、文句なんて言う立場ではないのです。

「お願い?」

「眼鏡がないので、缶詰の文字が読めなくて、どんな缶詰があるのか教えてもらってもいいですか?」

「もちろん。サンマの味噌煮、サンマの塩焼き、サンマの水煮」

 定番だけれど。水煮?そのまま食べるんでしょうか?

「サンマの蒲焼、醤油煮、味噌カレー」

「カレーですか?しかも、味噌?」

 私の声に、和臣さんは棚から味噌カレーを取ってくれました。

 顔の前に近づけて缶を見ます。20センチの距離まで持ってくれば文字も読むことができるのです。

「そういえば、この前もメニューをそうやって見ていたね。本当に見えてないんだ」

「そうなんですよ。眼鏡なしだと0.1ないので。まるで雨に濡れたガラス越しの景色を見ているみたいにぼんやりして見えます」

 気になるので、サンマの味噌カレーをとりあえずキープしてみます。

「さんまと柚子胡椒、焼きサンマと大根おろし、さんまとレンコン炊き合わせ、ショウガ入りさんま、サンマオイル漬け、さんまと粒マスタード、サンマのトマト煮、さんまの昆布巻き、さんまの」

「あー、和臣さん、ちょっと待ってください、サンマの缶詰だけで、そんなにも種類があるんですか?どうしよう、いろいろと気になります」

 思ってた以上にすごいようです。

 どうしましょう……。


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