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「お任せします」
そうか。服装に合わせて髪型も変えるのがオシャレなんだ。私は……厚いとか寒いとか基準で髪型作ってたなぁ。あと、ラーメン食べるときに邪魔だとか……。
今日は、化粧をしてから仕上げにヘアアイロンを取り出して、前に出した髪の毛をくるくると巻いてくれました。
あれ?もしかして、わざわざこのためにヘアアイロンまで大学に持ってきてくださったのでしょうか?
「さ、できた!今日も結梨絵ちゃんかわいい!」
眼鏡を顔の前に充てて鏡を見る。
「ありがとうございます。菜々さん、お化粧とても上手で、嬉しいです」
眼鏡はハンカチにくるんでバックの中に入れる。コンタクトを忘れたので、眼鏡ケースもないのです。
「そうだ。菜々さん、化粧していただいたお礼です」
「え?お礼なんていいよ!こっちの都合で飲み会に来てもらうんだし……。むしろこっちがお礼したいくらいっていうか、お礼はあいつからもらうし」
あいつ?
「いえ、大したものではないのでもらってください。趣味で作っているものなので、その、むしろ迷惑かもしれないですけれど……」
菜々さんの手の中に、小さなガラス玉のついたストラップを渡す。
「うわー、きれい!何?これ、作ったの?作れるの?ビー玉みたいなのを買って作るの?すごいね、白い花が入ってて、青くて本当に素敵」
光に透かすようにして、菜々さんはストラップを持ち上げた。
「そのビー玉みたいなのは、トンボ玉っていいます。ガラスの棒をバーナーであぶってとかして作るんです」
「すごい、すごい!嬉しい、ありがとう!これ、世界に一つだけってことだよね?」
菜々さんの香りがふわっと私を包んだ。
いい匂い。
ぎゅっと抱き着かれました。
こういう人との接触に慣れていないので、びっくりしたけれど、そこまで喜んでもらえるなんて嬉しいです。
「一つだけと言いたいんですが、実は同じデザインで私も持っているんです。手作りなので完全には同じじゃないのですが。あ、おそろいになってしまって迷惑であれば、今度別のを持ってきます」
「へぇー、そうなんだ。ふふ。おそろいなんて、中学生以来よ。くすぐったくってうれしいね」
にこっと菜々さんが笑います。花のような笑顔です。
「結梨絵さんとおそろいって言ったらうらやましがるかな。ふふふっ」
誰がでしょう?
「たくさんありますし、欲しいという人がいれば差し上げますけど?」
「あー、いいのいいの。さぁ、行こうか。待ち合わせは店の前」
移動中菜々さんにはトンボ玉の作り方を聞かれました。それから、他にどんな趣味があるのかとか。
「彼氏はいないんだよね?でさ、気になる人とか好きな人とかは?あ、忘れられない人がいるってこともない?」
気が付けばいつの間にか質問攻めにあっています。
「残念ながらそのどれもないですね。大学の時半年くらい付き合った人とは社会人になってから生活がすれ違って別れてしまって、それ以来さっぱりです」
「へー、あ、いたいた!もうみんな揃ってるみたいね」
駅から高架下沿いを歩いて2分。とある店の前で立っている4人に菜々さんが手を振りました。
私はあいにくこの距離だと人数くらいしか分かりません。
「4人?」
「ああ、言ってなかったっけ?今日は初夏と丸山くん。それから私と結梨絵ちゃん。他2名の合計6人よ。人数が少なめのほうが、初夏も丸山くんとたくさんしゃべれるでしょ?」
なるほど。
初夏ちゃんの恋を応援シリーズですね。
でも、だったら…。
「私もいないほうが4人とかのほうがよかったんじゃ?」
「なっ、ダメよ、ダメ!それじゃぁ、まるっきり意味がないからっ!」
「意味?」
「えっと、あいつが、その」
あいつ?
「いらっしゃい。店なんだけど、ここで大丈夫?」
丸山くんらしき人が目の前の店を指さしました。
「大丈夫って?」
菜々さんの疑問に、丸山くんが答える。
「俺らは問題ないんだけど、普通の居酒屋のほうがいいかな?大丈夫?ちょっと変わってるでしょ?」
ちょっと変わってる?
店は、高架下でちょっと喧しそうだ。暖簾がかかった店は、決してオシャレという雰囲気ではないが、汚いわけでもなくって、落ち着いた渋い感じ。
確かに、女性には敷居が高そうな店。会社帰りのサラリーマンが寄るようなイメージの店です。
「私はお酒がおいしければ問題ないよ。初夏と結梨絵ちゃんは?」
菜々さんの問いかけに、小さな声で初夏ちゃんが答えた。
「私も、大丈夫です」
「本当に大丈夫?缶詰居酒屋だよ。飲食メニューは全部缶詰なんだよ?」
丸山くんが心配そうに初夏ちゃんに尋ねています。
ふーん。なんだかんだと脈はありそうですね。
「好き嫌いはないので大丈夫です。それに、こういうお店は女性だけでは入りにくいので楽しみです」
「そっか。えっと、結梨絵ちゃんは?」
缶詰居酒屋?
「私も、楽しみです。缶詰居酒屋なんて初めてなので」
「そう、よかった」
丸山くんがほっと息を吐きだし、菜々さんの元カレ(仮)の背中をドンっと叩きました。
「いやぁー良かったな和臣」
ああ、和臣さんという名前なのですね。
「ったく、ひやひやしたよ。確かに面白い店だけど、こう、女性を連れてくことも考えてほしかったよ。オシャレさのかけらもなくてごめんなぁ。こいつ、モテる癖に本当気が利かないというか、女の子のことに無知というか……」
「やっぱりモテるんですか」
菜々さんと付き合えるくらいだからそうですよね。それに、とても話しやすかったですし……。
和臣さんの顔を見上げる。