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ご意見

【降参だ】


 ああ、これは、いつものライバル君からです。

 降参?

 ライバルとして勝負をしているつもりは全くなかったのですが、降参というのは、知らない間に私が勝ってしまったということなのでしょうか?

 いや、もう、謎でしかありません。

 いったい、なんのライバルで、なんの勝負をしていたというのでしょう。

 そもそも、私は人と競ったり争ったりとかあまり好きではないのに……知らないうちに、誰かと勝負をしているとか怖いです。


返信

【私は、あなたを負かそうと思ったことはありません。勝負しているつもりも初めからありません。もし、何かしら私があなたに勝っているということを感じたのであれば、自分の成長の助けにしてください。私も皆さんのご意見でいろいろなことを教えてもらい成長しております】


 これでいいでしょうか。

 この二つの紙と、アルバイト募集の紙と、それから連絡の紙を掲示板に貼ります。


連絡

【本日の返信は月曜以降になります】


 毎日の返信は期待していないでしょうが、土日も挟むとずいぶん間が空いてしまう気がしたので……。


 さて。そろそろほかの人も出勤してきました。着替えて、仕事、仕事。

 あ、ご意見用紙に返信を書くのも仕事だけれど……。やっぱり、体を動かしていないと仕事してるっていう感じが薄いんですよね。


「白井ちゃん、今日は帰るんだったね?ご意見用紙はファイルに挟んでおくよ」

「あ、はい。ありがとうございますチーフ」

「おや?今日はずいぶんとかわいい恰好してるね?デートかい?」

「残念ながら違いますよ。ただの飲み会です」

 これが男性上司から言われていればセクハラだと騒ぐべきなのだろうか。

 私を自分の子供かなにかのようにかわいがってくれているおばちゃん上司に言われた場合はなんというのでしょう?

 不快ではありません。

 だって、そこには押し付けや、探りの雰囲気はないですからね……。

 一人暮らしをしていると、こうして私のことを心配して声をかけてくれるのはありがたいことだと感じるのです。

「なんでかねぇ。白井ちゃんみたいにいい子に彼氏ができないのは……」

「別に欲しがってないからでしょうか?」

 私のように、おばちゃんたちに囲まれて学食で働いて、仕事の行き帰りに寄るところがスーパーという生活してると、よほど頑張って動かないと出会いすらないのです。

「あー、草食女子っていうのかねぇ?最近は男が草食が多くなったから、女子が肉食にならないとなかなかむつかしいんだっけ?ああ、そうだ、学生相談室の黒崎さんはどうだった?昨日会ったろ?」

「え?」

 会うには会いましたけど……。

「ずいぶん、その、顔はいいけれど残念な人だと思いましたけれど……。悪い人ではないのかな……と」

 彼氏にどうかという話であれば、まぁ、全く考えられません。むしろ、向こうも迷惑な話でしょうが……。

 チーフがふぅと小さくため息をついた。

「それはよかった。あんまりいい噂聞かないからね。何か昨日はご意見用紙持って突進していったから。衝突して嫌な目にあったんじゃないかと……」

「あ、そういう心配をしてくださったんですね……」

 ひゃー。私ったら、何を彼氏にどうかとかそういうことだと勘違いしてるんでしょう。

「心配というか、ほら、これ」

 A4サイズに印字されたメールです。

 社内メールのようです。

 食堂責任者へ?

 学生相談室の黒崎より?

「時間があるときにご意見返信係の白井さんを借りたい。この間の話の続きを聞かせてもらいと白井さんに伝えてほしい。事前に連絡をいただけば時間はそちらにできるだけ合わせる」

 声に出して読み上げる。

 そういえば、話が途中でチャイムの音が鳴ったんでしたっけ……。

「白井ちゃんが黒崎さんに会うのが苦痛じゃなければ、昨日と同じ時間帯なら食堂は問題ないけど、どうする?」

「あ、はい。大丈夫です」

「じゃぁ、月曜の午前の時間に伺うと返信しておくよ」

「はいすいません、ありがとうございます。では、失礼いたします」

 ぺこりとチーフに頭を下げて部屋を出ます。


 そのまま菜々さんとの待ち合わせ場所、前回メイクしてもらったロッカールームに足を運びます。

「ああ、来た!結梨絵ちゃん!こっちだよ!今日はかわいい服着てる!メイクのし甲斐がある!」

「ありがとうございます。お願いしま……あっ」

 しまった……。

 口を押える。

「どうしたの?」

「いえ、服は忘れずに持ってきたのに、コンタクトを忘れました……」

「ああそうか、眼鏡はずすと顔とかよく見えないんだったよね?別にいいんじゃない?この間も大丈夫だったし」

 菜々さんが私の髪にスプレーしながら言葉を続けます。

「それに、見えないほうがいいこともある……」

「見えないほうがいいこと?」

「あ、何でもない。っていうか、うん、今日はせっかくデコルテがかわいく見える服着てるから、髪の毛を少し後ろで束ねようかな?」


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