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「乾かないということは、洗うことはできる。つまり洗濯機は持っているということ」

 黒崎さんは何をいまさらという顔をする。

「そうだ。だから買い替えたらどうかと」

「干す場所がないということはどういうことか。日の当たらない場所に住んでいても干す場所はあるはずです。それなのに干す場所がない。洗濯ものが多いわけではなければ、ワンルームマンションに住んでいても干す場所位ありますよね?」

「そうだろうな。学生用ワンルームマンションでも2間、つまり3m程度のベランダが付いていることは多いはずだからな」

 人差し指を折り曲げる。

「つまりは、何らかの事情でそのベランダに洗濯が干せない、1階や2階の部屋で下着泥棒などの被害が多いといった理由が考えられます。もしくは、排気ガスなど外に干すことで洗濯物が汚れるか、室内に干す必要があるということが分かります」

 黒崎さんがまた何か言いたそうです。乾燥機を使えばいいとまた言う気なのでしょうか。

「室内に干すにしても、ある程度の広さがあれば室内干し用の鉄棒みたいな形のものを購入すれば干せます」

「ああ、そういえば、室内干し用の折りたたみ式のものをホームセンターで見たことがあるような」

 ホームセンターには行ったことがあるのですか。

「そうか、乾燥機の前にそれを進めればよかったということか?」

 黒崎さん、小さくうなづく。

「いいえ、違いますよ」

 指の3つ目を折りたたむ。

「室内干し用物干しは広げて使えば畳2畳はスペースが必要になります。乾くまで広げっぱなし、それが毎日続くとしたらどうです?」

 黒崎さんが黙り込んだ。

「使ってない部屋に置いておけばいいんじゃないか?なんて言いませんよね?」

「ああ、分かった。というか、そこまで言われなければ分からなかった。相談者は一人暮らしの女性で1Kか1DKほどの広さのアパートに住んでいる可能性が高いということだな」

 ……。分かったとは言っていますが……。

 たぶん、その先のことは分かってないのではないでしょうか……。

 ちょっとため息が漏れます。

 仕方がないですね。生活レベルが違うから想像力が働かないというよりも、単に想像力が働かない種類の人間なのでしょう……。

 理論的に考えることは得意で、情報を整理することも得意だけれど、想像したり何かを生み出したりということが苦手な人はいますから……。

 結婚した友達が嘆いているのを聞いたことがあります。

 つわりで辛いのに、記念日にレストランを予約した旦那。おまけに花束を買ってきたと。

 花の匂いが臭くてただでさえもひどいつわりがよるつらくなって、花は捨てるしかなかったし、レストランも高いお金を出して食べに行ってもろくに食べられない上に全部吐いた。……そうです。

 旦那は記念日だからって私のことを思ってくれたとは思うけれど、想像力が欠如しすぎてイラっとしたと言っていました。

 男は気が付かない生き物だと聞いてはいたけれど……と、大きくため息をついていました。

 そういえば、そろそろ予定日じゃなかったでしょうか。出産祝いの品を考えないといけませんね。ちょうど今月は残業でいつもよりも収入がありますから、予定よりもちょっと豪華にお祝いできそうです。

 おっと、このまま出産祝いは何にしようと考えだすところでした。

 黒崎さんが一緒ですし、仕事中です。仕事中。

「これ、なんだと思います?」

 手にしたのはプラスチック製のハンガー。

「ハンガーだよな?」

 ハンガーはハンガーだけれど、山形になっている部分に渡された横棒部分に、穴が5つ開いている。

「このハンガーの穴の部分に、ハンガーををかけることができます」

 ほかのハンガーを手に、一つ穴にかけてみせた。

「これで、干すためのスペースを増やすことができます」

「なるほど、1つハンガーをかけた場所に5つ干せるというわけか。そうだ。干す場所がないと言っていたんだ。これなら狭い場所にもたくさん洗濯が干せるようになるな」

 単純に喜ぶ黒崎さんに首を横に振って見せた。

「賃貸マンションでは、部屋の中にそもそも洗濯を干せるような場所がないことも多いって知っていますか?」

 カーテンレールに洗濯物をかけたら、カーテンレールが壊れたという話も聞いたことがあります。

 突っ張り棒を使うのが一番なのですが、これもまた強力なものでなければ濡れた洗濯の重みで落ちてくることもありますし、強力すぎて壁がへこむなんて話もあるのでむつかしいんです。

 相談者がどのような物件に住んでいるかもによりますが……。

「ドアに引っ掛けると洗濯が干せるものがあれば、ドアを利用して洗濯が干せます」

 そういう場合はドアを活用するしかないのです。キッチンと部屋を仕切るドアがある物件ならいいですね。

 もしなかったとしてもトイレのドアくらいはあるはずです。クローゼットもあるでしょうか。

「荒業になりますが、クローゼットのドアにこれを引っ掛け、ドアにも引っ掛け、その二つに洗濯ロープを渡すという手もあります。建付けの問題で重たいものを引っ掛けすぎると壊れてしまう場合もあるのでどのようなタイプのものか確認が必要ですが。あと、配置によっては生活の邪魔になるのでむつかしいですね」

 一人暮らしであれば、こまめに洗濯すれば一日の洗濯物の量はそれほど多くはないだろう。

「ここにはないので、あとは室内用物干しの、小さなものを探すのも手ですね。キッチンにおいて置き、キッチンを使うときは部屋に移動するというように工夫すれば生活空間も確保しつつ干しておけると思います」

「あ、ああ、そうか。うん、ありがとう」

 黒崎さんは真剣に洗濯干のグッズを見ていた。

「これ、すごいなぁ」

 横に並べて洗濯を干した後、取り込んだあとはハンガーが下に垂れ下がりスペースが5分の1となってそのままクローゼットに入れられるグッズを手にしています。

「これなら、洗濯を取り込んでそのままクローゼットにしまえるし、クローゼットのスペースも節約になる。こんなすごいアイデアグッズがほんとうに百円なのか?」

「黒崎さん、洗濯するんですか?」

 なんとなく、生活感がないから、家事なんてしたことないと思ってたのですが。

「まぁ、その、一人暮らしをしているから、時々は……」

「え?一人暮らしなのに、時々なんですか?」

 首を傾げる。

「ハウスキーパーが家事はしてくれるから」

 ハウスキーパー……?!

 いや、まじめに、ボンボン様でしたか。

 あれ?

「大学職員ってそこまで給料よくないですよね?それで一人暮らししてハウスキーパー雇って、お金大丈夫ですか?」

「え?知らないの?」

 もしかして、大学職員寮には掃除洗濯食事の世話をしてくれる寮母さんみたいな人がいるんでしょうか?

「知らないって、何がです?」

 黒崎さんがほっとした顔をする。


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