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 相変わらずジーパンにTシャツにスニーカーに黒の大きなリュックの私とは対照的で、いつもきれいな服装をしている。今日は淡い水色のブラウスに、からし色のフレアスカート。足元は赤いヒールが高めのサンダル。

 うん、雑誌から抜け出たようなオシャレスタイル。

「こんにちは、菜々さん」

「うん、こんにちは。あーよかった」

「よかったって?」

「会えてよかった。連絡先も知らないし、職員って言ってもどこで何してるかわかんないから……話がしたくてもどうしていいのか」

「私に用事があったの?」

 菜々さんがうんうんと大きくうなずく。

 今日もきれいにまかれた髪の先がふわりふわりと揺れた。

「もう一度、飲み会に参加してほしいんだ。頼まれちゃって。結梨絵ちゃんを連れて来てって」

 え?

「私を?えっと……なんで?」

 なんでって聞くのも変な話ですね。

 合コン参加メンバーがもう一度連れて来てっていうのは、誰かが私のことを気に入って会いたいと思っているという話……以外、ないですよね?

 うぬぼれでもなんでもなくって、そういうこと?ですよね?

 でも、目の前に座っていた、菜々さんの元カレらしき人以外とまともに話をした記憶がないんですけど。それで気に入られるも何もないですよね?

 まさか、元カレが元カノに女紹介しろなんて言うわけないですし。

「なんか、嬉しかったらしく……」

「嬉しかった?何がでしょう?」

 菜々さんがはーっと小さくため息をつく。

「自分が選んだ店の料理を楽しんでくれたのが嬉しかったって本人は言ってた。また今度いい店見つけたから、結梨絵さんにも教えてあげたいんだって」

 この間の店を選んだのは……菜々さんの元カレ。

「店を教えたいから、また来てほしいっていうことですか?」

「そう。ほかの人は、クジラの刺身が出たこともアーティチョークが出たことも記憶にないって。まぁ、合コンだしねぇ。むしろ、料理の記憶しかないほうがダメだとは思うんだけど……」

「あ、それ、私ですね……」

 眼鏡をかけてなくて人の顔がよく見えなかったというのもあるけど。料理の記憶と、料理のことを話をした人の記憶しかない。

「あはは、結梨絵ちゃんは、合コン目的じゃなかったもんね。私がメンバー足りなくて引っ張っていっただけだから。っていうか、帰り際、酔っぱらっちゃって話もできなくて、お礼も言えなくてごめんね。助かったよ、本当に。っていうか、そうか。料理の記憶しかないのかぁ。気になる人はいなかった?」

「気になるといえば……」

 菜々さんが心もち身を乗り出しました。

「初夏さんと丸山君はどうなったんですか?」

 菜々さんががくっと膝を落とした。

 あれ?私変なこと言ったかな?気になりますよね?そのための合コンだって言ってましたし。

「なんとか連絡先交換にこぎつけたので、そこから先は本人次第かなー。とはいえ、初夏から連絡とるのはむつかしそうなんで、次の飲み会の幹事を二人に頼んだの。いつどこでとか連絡取り合ううちに仲良くなればいいなぁと……」

「飲み会?合コンじゃなくて?何が違うの?」

「あー、世間ではどう言うか知らないけど、合コンは男女の出会いの場。今度は、知らない人間なし。知ったメンバーばかりが合うから、飲み会。出会いはないんだよね。結梨絵ちゃん、来てくれないかな?」

「合コンじゃなくて、飲み会ですか……」

 それなら、私が参加しても失礼じゃないですよね?

 いや、でも……。

「学生じゃないのに……」

 おごってもらったんですよね。そう、何度も学生のふりしておごってもらうなんて良心が痛みます……。

 この間は急にメンバーがいなくなって困っている菜々さんのためにと思ったけれど。あ、もちろん少しは夕飯代が浮くからっていう気持ちもありましたけど……。

 今回は、学生じゃない私が参加すること前提なのですよね……。

「あー。いいよ、その辺は特に説明しなくて。向こうが勝手に勘違いしてるだけで、こっちが嘘ついたわけじゃないし。偽学生だとか言われることもないから大丈夫だよ」

 に、偽学生……。

「偽学生とかを心配してるんのではなくて、社会人だから学生にお金を使わせないっておごってもらったでしょう?私も社会人だから、その心苦しいというか……」

 バンバンバンバン。

 痛たた。菜々さんが勢いよく私の背中をリュックの上から何度も叩きます。

「いい人!結梨絵ちゃんいい人だねぇ!男におごらせて当たり前って思ってる女も多いっていうのに!」

 いや、多くないですよね?え?

「うん、分かった。いつもおごってもらってばかりで申し訳ないから、学生でも支払いしやすい価格帯の店を探すように頼んでおくということでいいかな?」

 はい?

 私、行くことになってます?

「また日程の打ち合わせとか連絡するから、連絡先教えて」

 すちゃっとスワロフスキーでデコられた女の子らしいスマホを菜々さんが取り出しました。

 つられて、ポケットからスマホを取り出す。

 時間を見ると、残業時間が34分。

 おしゃべりで6分使ってしまいました!このまま45分を超えると、仕事をしてないのに残業代をもらうということになってしまう……。

 残業時間は15分単位で計算されるのです。

「ラインでいいかな?」

 焦って、言われるままにラインのQRコード取り込み、連絡先を交換する。

「これで、あいつに貸し一つ」

 菜々さんがニヤッと楽しそうに笑いました。

 え?誰に何をなんですか?

「じゃあ、またね!」

 あ、はい。

 私も急がなければ。

 学生相談室に紙を入れて何とか40分でタイムカードをカチャリ。

 危なかったです。


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