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なんでしょう、このライバルシリーズ。
あ!
もしかして、学内に別のところにもこうしたご意見掲示板みたいなものが設置されてますか?
本家は生協の白石さんだ。生協にもあるりましたっけ?いや、なかったはずです。
……学内じゃなくて、学外?
別の大学のご意見ボックス返信係が様子を見に来て……って、毎日来るわけ。
すぐ隣に別の大学があるわけじゃないですし。
いったい何なのでしょう?
返信
【失格してしまいましたか。新しいライバルが見つかるといいですね】
ちょっと突き放した言い方になってしまったでしょうか?
でも、いつまでもわけのわからない意見をもらっても正直気持ち悪いですし。
1枚返信をかくだけでも時間を取らます。残業代は大学側が支払うことになりますし、掲示板のスペースも占領してしまいます。
はい。ちょっと冷たい返信になっても仕方がないと思います。
大学への申し送りもなし。怪文書にしか思えないですし。必要ないですよね。
さてと。6枚でしたけれど、内容的にはそんなに大変なものもなかったので、残業時間30分で済みました。
いつものように、掲示して荷物を持ってから学生相談室に向かいます。
ノックしてみるけれど、いつものように部屋から返事はないので、相談ボックスへ投函。
ノックは必要でしょうか?
この時間は、無人だとはっきりすればいいのですが。誰かに聞いてみましょうか。学生相談室が何時から何時にやってるか。
菜々さんがいれば話しかけやすいんですけど。確か学生相談室のことも何やら知っている風な感じでしたし。
って、そんなに偶然何度も会うわけありませんか。
「偶然なわけはないよな」
え?
振り返ると、あの人に声の似ているイケメンがたっていた。
「偶然、何度もこんなところで会うわけはないよな?何の用かな?」
不機嫌そうに眉を寄せている。
態度悪。っていうか、なんで自分に用があると思い込んでるのでしょう?
偶然何度もって、この時間にこの場所にいるのは学生相談室に大学への申し送りを提出しにきてるので避けるわけにはいきません。
イケメンさんもこのあたりのこの時間によく来るならこれからもきっと偶然は続くはずです。というより、偶然ではなくて必然というものでは?。
「何を聞いたのかは知らないが、私は特定の学生と特別仲良くするつもりはない」
はい?
スーツを着ている20代後半に見えるイケメン。
大学職員か、講師でしょうか。
まぁ、学生に手を出さないっていう宣言は立派です。というか、当たり前のことなのです。
でも、ちょっとイケメンだからって……。いきなりすぎやしませんか?
自分に言い寄るために私がこのあたりをうろうろしていると誤解していますよね?
「昨日、顔をじろじろ見たことは謝ります。知り合いに似ていたので……」
似てるのは声だけですだけどね!
「昨日も今日も、どこの誰かも分からない人にわざわざ偶然を装ってこんなところで待ち伏せするような趣味はありません」
イケメンは眼鏡の奥の目を少しだけ細めた。
「どこの誰かも分からない?なるほど。それは失礼した。すでに学内中に噂が流れていると思っていた。で、教室もない3号棟の階に何の用だ?」
噂?
なんだろう。
顔はいいけど性格の悪い職員がいるって噂でしょうか?
はー、もうなんか疲れました。
言葉を添えず、学生相談室のドアを指します。
「ふんっ。結局そういうことだろう。相談事があれば紙に書いて箱に入れておくことだな。すべての相談に乗れるほど暇じゃないからな。相談内容を見て直接話す必要がないものは紙に返答を書いて返されるだけだ」
ああ、そういうことか。
学生相談室は、いつも留守なのではなく、留守にしてあるということですか。
相談内容を見て会って話すか、文書で返答するか決める……か。
紙に書いたほうが言いやすいこともあります。口には出しにくい相談もありますし。
……だけど、逆に紙に書きにくい相談。直接じゃないと伝わらない相談もあるんじゃないでしょうか。
そもそも、この人が言うように、3号棟の2階には相談室のほかには会議室だとか大学の歴史を展示した資料室とか学生が用がなければ近づくようなところではありません。
わざわざ相談しに行こうというからには、それなりに思い詰めていたりするんじゃないかなぁ?いいのでしょうか、それなのに、まずは紙で出せみたいなシステムで。
真剣に相談したいのに、文書で返答されるなら、必要ない気もします。
「メール相談か、電話相談で十分ですね。わざわざ学生相談室なんて必要ないじゃないですか……」
ふと思ったことが口をついて出る。
「なっ、なんだと?必要ない?」
イケメンがイライラしていた表情から一転、驚きの顔になった。
相談者と会うつもりがない相談室なんて必要ないですよね?電話番号大きく書いておいたほうがいいんじゃないでしょうか?
「私の用は済みましたので、失礼いたします。あの、また偶然このあたりで会うことがあっても、無視してください。あなたに用事はありませんので」
ぺこりと頭を下げて立ち去る。
タイムカードを押しながら、ふとイケメンへの言い方がきつかったかなぁと反省。
嫌な感じの男でしたけれど、もしかして嫌な感じにならざるを得ない事情があったのかもしれません。
女学生も多い大学です。若くて、アイドル並みに顔の良いイケメン職員がいたら……。
言い寄られますね。きっと。
学生に手を出す気はないのに、五月の蠅のように、周りをぶんぶん飛び回られたら……。
下手に愛想よく接して、学生が勘違いして「付き合ってる」なんて妄想を吹聴されただけでも、それを信じて正義感振り回して糾弾する人間が現れる可能性だってあるわけですし。
自衛すればいいのに。イケメンさらさずにさ。髪の毛もじゃもじゃにして汚らしい髭はやして、曇った分厚いレンズの眼鏡かけて……って、それは社会人としてダメですね……。
じゃぁ、太るとか?健康に悪いですね。
マスク……そしても、イケメンは隠せないか。
……結局、ああして性格悪く近寄りがたい感じにふるまうのが最善なのでしょうか……。