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もう、悪役令嬢よりも攻略対象目指して下さい



肩透かしを食らった魔法の勉強だったが、エレン様の次の予定は剣術の稽古だ。

時間に余裕はあるがやる事は沢山ある。さっさと気持ちを切り替えなくてはならない。




既にエレン様が剣術で着用する服の準備をしていた先輩の横に立つ。

子供の頃の3歳差と言うのは大きい様で、自分の服と比べるとだいぶ大きめのものを、着る順番に並べた。


――まぁ、大人と比べたらまだまだ小さいんだけれどね。



そんな事を思いながら、着替えを手伝う為に先輩と一緒にエレン様に近寄る。



「失礼します」




一言断りを入れてエレン様に手を伸ばした。

しかし、私の手はエレン様に掴まれて服にたどり着く前に止まってしまった。




「あー、アガサ。着替えの手伝いは一人で十分だから結構よ。ザラ」



戸惑っていると、エレン様が差決まり悪そうにそう言って先輩の名前を呼ぶ。







「カルペパー、後は私がやっておくからあなたは休憩して来なさい」




先輩は私にだけ聞こえる様にそう言ってエレン様に向き直った。

少し早いが、昼食を摂って来いという事だろう。

メイドや他の使用人は主人達とは違い決まった時間に昼食にできるわけではない。

開いた時間でうまく休まなくてはならなかった。




「分かりました。失礼します」





私はエレン様に頭を下げると部屋を出た。


主人の着替えを手伝うなんて、まさに侍女らしい仕事だと、密かに楽しみにしていた私は少しがっかりしながら昼食を済ませるため厨房に向かった。




厨房で食事を受け取り、裏口から出られる部屋に入る。

そこには、エレン様の侍女になったメイドの中で一番私と歳の近いシェリル先輩が食事をしていた。




「先輩も休憩してたんですね」




私は先輩に声をかけ横に座る。




「ええ。剣術の先生がいらしたら休む間がないからってナタリーが。食べたらすぐにナタリーと変わらないと」




先輩はスプーンを動かしたまま答えてくれた。

少し行儀が悪いが、急がなくてはならない為そうも言ってられないのだろう。


私も先輩に倣って急いで昼食を口に運んだ。







食事を終えてエレン様の下に戻ると、既に着替えを済ませたエレン様が椅子に座っていた。



――かっ、可愛いっ!



子供サイズの防具を纏い、いつも下ろしている柔らかそうな髪は高い位置で1つに括られている。

まさに小さな騎士の様なエレン様に私は思わず口元を抑えた。




「よ、よくお似合いでございます」




思わず悶える様にそう言ってしまってから、令嬢に騎士の格好が似合うというのは褒め言葉ではなかったかもしれないと気付いた。


まずい事を言ってしまったかもしれないと、恐る恐るエレン様を見る。

エレン様は頬を赤くして嬉しそうにしていた。



「ありがとう」




そう言って微笑んだエレン様を見て、可憐だ!と叫びそうになった私は悪くないと思う。





「お嬢様、そろそろ参りましょう」




そんな私を見て苦笑いしたザラ先輩がそう言った。


エレン様は頷くと椅子から立ち上がりゆっくりと歩き出す。

その様は小さな子供が兵隊ごっこをしているようで可愛らしかった。







剣術の稽古は中庭で行われる。

中庭には、既に剣術の先生と思われる男性が立っていた。



中庭まで案内してしまえば私にやることはなく、ザラ先輩といつものように端に寄る。

エレン様は男性から、子供用だと思われる小さめの剣を渡されていた。

刃が潰されていたが、それは間違いなく本物の剣だった。


エレン様は軽く準備運動を済ませると、男性と少し言葉を交わし向かい合う。

二人がお辞儀をしたと思うと、次の瞬間には打ち合いが始まっていた。



「えっ!えっ?」



突然の事に、剣術の稽古をすると分かっていだはずなのに声を上げてしまう。

すぐに平静を装ったが、隣にいたザラ先輩には驚いているのがバレバレだった。



「そうよね、驚くわよね。病弱でつい最近まで旦那様たち以外とお会いになられなかった方ですもの。私も旦那様からお嬢様の剣の腕前を聞いていたのに驚いてるわ」



ザラ先輩は、とても驚いている様には見えない様子でそう言う。勿論、声音も平坦で驚いている様には聞こえない。



「驚きですよ。でも大丈夫なんですか?あんなに激しく動いて」



私も既に冷静な猫を被ったので声音だけは落ち着いたままそう聞いた。

いくら運動しても大丈夫だと医師に言われたからと言っても激し過ぎではないのかと心配になる。



「ダメだったら旦那様がやらせないわよ」



旦那様がエレン様を溺愛しているのは周知の事実だ。

先輩の言葉を聞いて成る程と安心する。

確かに、エレン様に危険のある事を旦那様がさせる訳がなかった。


それに気付くと、安心してエレン様の稽古の様子を見ることが出来る。



――私と3つしか違わないのに。



あんなに動けるのか、と剣を振るエレン様を眺めた。

大学生だった記憶がある私からすれば、エレン様はまだまだ子供だ。


そう、子供のはずなのに……。




――カッコイイ。




ポニーテールを揺らしながら懸命に動いている姿は格好良かった。




「そこまで!エレン様、少し休憩しましょう」




エレン様の剣を自分の剣で受け止めた男性が声を上げた。

それを聞いたエレン様は剣を下ろす。大きく肩で息をするエレン様の頬を汗が伝った。



「アガサ!」



惚けてそれを見ていると、隣からザラ先輩が小声で私を呼ぶ。

その声にハッとして、私はタオルを持つとエレン様に駆け寄った。



「エレン様、お使い下さい」


「ありがとう」



私が差し出したタオルをエレン様が笑顔で受け取る。

まるで青春漫画の運動部エースとマネージャーのやり取りのようだ。


そんな事を考えた私はどうやら冷静な猫どころかただの猫も被り忘れていたらしい。



「ぐはっ」



エレン様に水を持ってきたザラ先輩の肘打ちを米神に食らって正気に戻った。



――危ない、頭の中お花畑になりかけてた。



ザラにお礼を言って空のコップを返したエレン様が私を見る。




「アガサ、ありがとう」




エレン様はそう言ってタオルを私に渡すと、ポニーテールをサラリと払ってから剣を握った。



――もういっそ、悪役令嬢じゃなくて攻略対象でいいんじゃないかなっ⁉︎




私の猫が再び何処かに飛んで行った。

しかし、今度は惚けるなんてヘマはしない。すぐに上辺だけは冷静になるとぽつりと呟いた。




「女の子だけど攻略しちゃって良いよねこれ」




中身が乙女ゲームのプレイヤーだったころの私なのであくまで上辺だけだ。


ザラ先輩はそんな私から何かを感じ立ったようで変なものを見るような目で私を見ると、そっと目をそらした。






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