ゴブリンの巣
道中、不気味なほどに、敵と遭遇しなかった。まるで、この先へと誘い込まれているみたいに。でもまあ、そんなはずは、ないか。
たどり着いた、巣穴と思わしき洞窟の前。そこからする臭いにリネが顔をしかめている。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。それに、私たちは絶対にこのクエストを成功できるんだから!」
なんの根拠もないことを言ってはいるけれど、気持ちとしては俺も同じだ。ただ――
「声が大きい。さっきも言ったけど、向こうに気がつかれたらどうするんだ?」
「あ、ごめんなさい」
注意もそこそこに、忍び足で洞窟の中へと入る。リネにはいつでも魔法が撃てるように準備をさせて、俺もダガーを手に持つ。
俺たちの戦闘技能は、まだ未熟な冒険者であるだけに、拙い部分もあるけれど、連携においては負ける気がしない。
小さな頃から一緒にいた俺たちは、一緒に戦う時、息が合う。まさに阿吽の呼吸と自画自賛したくなるほどだ。
リネと目を合わせてうなずきあい、一歩、二歩、三歩……
強烈な臭いに誘われて少しずつ進んでいくと、通路の先の開けた、薄汚れた空間でゴブリンが大量にいた。
ゴブリンは緑色で、造形の悪い、見ているだけで吐き気のする顔をしていた。よく見ると、こんな場所であるというのに、腰を振って繁殖行動をしている。
いつもならこういうことを目にしたら顔を真っ赤にするはずのリネが、顔を真っ青にして、涙目でゴブリンを見ている。緑色の化け物の交尾なんて、見ていても気持ち悪くしか感じられないのだろう。
「な、なにあれ。こんな狂ってるところ、早く出ていきたいよお。ワイス、どうにかしてえ」
「達成しなきゃ昇格できないんだから、我慢しようよ」
しばらく見つめていると、ゴブリンの集団が急に動き始めた。洞窟の奥へと進むらしい。さっきまで、動き出す気配は微塵も感じられなかったのに、何故。
「え? あっ――――」
「リネ?」
声がしたので振り向くと、そこには胸から腕を生やしたリネがいて――俺の目の前にゴブリンが迫っていた。そして、俺の胸へとその手は伸びていた。
――何かが胸を貫いた。
死にたくない。リネを死なせたくない。こんなところで、終わってたまるか。
時よ、戻ってくれ――
『意識を保持するんだ。失ってはいけない』
どこかから、声がした気がした。
たどり着いた、巣穴の洞窟の前。そこからする臭いにリネが顔をしかめている。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫。私たちは絶対にこのクエストを成功できるんだから!」
なんの根拠もないことを言ってはいるけれど、気持ちとしては俺も同じだ。ただ――
「声が大きい。さっきも言ったけど、向こうに気がつかれたらどうするんだ?」
「あ、ごめんなさい」
注意もそこそこに、忍び足で洞窟の中へと入る。リネにはいつでも魔法が撃てるように準備をさせて、俺もダガーを手に持つ。
一歩、二歩、三歩……
強烈な臭いに誘われて少しずつ進んでいくと、通路の先の空間でゴブリンが大量にいた。
ゴブリンは緑色で、造形の悪い見ているだけで吐き気のする顔をしていた。よく見ると、こんな場所であるというのに、腰を振って繁殖行動をしている。
いつもならこういうことを目にしたら顔を真っ赤にするはずのリネが、顔を真っ青にして、涙目でゴブリンを見ている。緑色の化け物の交尾なんて、見ていても気持ち悪くしか感じられないのだろう。
「な、なにあれ。こんな狂ってるところ、早く出ていきたいよお。ワイス、どうにかしてえ」
「達成しなきゃ昇格できないんだから、我慢しようよ」
少し時間が経ち、ゴブリンの動きに、違和感が出てきた。
何か、嫌な予感がする。死がすぐそこに迫っているような、そんな。
ゴブリンの群れが、さらに奥へと進んでいった。
「リネ?」
声をかけたけれど、返事はなかった。
「な、あっ――――」
「リネ?」
やっと声がしたので振り向くと、そこには胸から腕を生やしたリネがいて――俺の目の前にゴブリンが迫っていた。そして、俺の胸へとその手は伸びていた。
直感で突き出される手を避けた。指先が肌を掠め、傷つけるが、そんな痛みにかまっている暇はない。ダガーに魔力を纏わせ、リネの胸を貫いている腕を切断する。
治療魔法を、と思った瞬間――視界がブレ始め、全身が動かなくなった。まさか、麻痺毒を爪に……
為す術もなく倒れ込んだ俺のことを、ゴブリンが気色の悪い笑いを上げながら蹴飛ばした。
転がった先でも、そいつはニヤニヤと、その人を虚仮にしたような顔をして俺のことを覗き込んできた。
そしてそいつの腕はゆっくりと俺の胸へと伸びていって――
死にたくない。リネを死なせたくない。こんなところで、終わってたまるか。
時よ、戻ってくれ――
『まだ諦めちゃあいけない。何度でもやり直せる。最善を求め続けるんだ』
声は、俺を安心させる。