自分しかできない魔法を生みだそう
魔法が使えればどんなによかったか
子供の頃思い描いていた空を飛ぶ魔法や別の場所に一瞬で飛べる魔法。好きな物を呼び寄せる魔法。今までもそしてこれからも使いたい魔法が沢山あった。
「はぁ、仕事辞めようかな」
そうぼやいた声は人気のない夜の町に消えていった。だれに聞かせるわけでもないただの独り言だ。
「よーし。その願い叶えてやろう」
「ん?」
今なにか声が聞こえた?不思議に思い辺りを見回してみる。
だがここは8階建てビルの屋上。ここに自分以外の人間はいないし、周りのビルはすべて電気が消え人の姿は見えない。そもそもこんな時間帯に一人、残業で居残りさせられているなんて自分だけだろう。
時計はちょうど夜の0時を回ろうとしていた。
幻聴。その二文字が頭をよぎる。
(やっぱ頭が参ってるのか)
顔に手を当てて考え込む。
「おほん、よーし。その願い叶えてやろう」
軽く咳払いのようなものが聞こえ、再び先ほどの声が聞こえた。よく聞くとその声はかわいらしい女の子の声だ。女の子が頑張って威厳のある声を出している。そんな声だ
もう一度辺りを見回す。やはりだれもいない。
「こっちだこっち。こっちを向けー」
声のする方向、落下防止用の安全柵の向こうに顔を向ける。するとそこには暗闇の中でもはっきりとした輪郭を描く少女がいた。
風になびく金の髪は腰の位置まで伸びており、目元は伸びた髪の毛で見えなくなっている。顔の上半分は見えなかったが、何となく怒っているように見えた。
だが何よりも驚くことがある。
「う、浮いてる」
その少女?らしき人は宙に浮いていた。ちょうど今いるビルと向かい側のビルの間にいる。
まず足元を見る。しかし何も見つからない。透明のガラスや見えないロープがあれば納得するのだが、ここには昼夜毎日来ているためそんな仕込みに気づかないわけがない。
「ふふふ、さあお前の願いを叶えてやろう」
「は?」
何のことを言っているのかわからずただただ目の前の光景に目が離せない。
すると彼女が右手を上げ、「はぁあー」と振り下ろし手のひらをこちらに向ける。
「はあぁあーあ?」
なにかとんでもないことをやったみたいだが、自分自身に何か起きた様子はない。
しばらくその場に静寂が漂う。
「あの~何かしました?」
恐る恐る右手を挙げて質問する。
「お前の願いをかなえたのだ。さあ体を前に伸ばすのだ」
少女はふんぞり返るようにして左手を腰に当て決めポーズをしている。
願いはかなえた?何のことだ?
言葉の意味は分からなかったが、体が自然と少女の右手に手を伸ばそうとする。柵に左手をかけ、そして体重を乗せ、右手を伸ばす。その直後体がつんのめる形で前に倒れる。
自分がつかんだ柵が根元から折れたのだ。
そしてそのまま暗い闇の中に放り出され、そこで意識が途切れた。