第八話 忍の里と実情、採用試験
迷霧の森でハーネイトは旧友と忍者に出会い、案内の元忍の里、霧隠里に到着した。実は彼を呼んでいる男がいるといい、ハーネイトはその男に会いに行くのであった。
ハーネイト遊撃隊8
迷霧の森に入ったハーネイトは、かつての仲間、サルモネラ伯爵とティンキー・リリーに再会した。そして目的である忍者と接触、彼らは忍の里に向かった。そこには藍之進という男がいた。彼の依頼内容とは、そして忍の苦境と抱えている問題とは、解決屋ハーネイトはこの問題をどう解決するのだろうか。
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ハーネイトたちは、忍者たちの案内で迷霧の森の中を高速で駆け抜けた。忍たちにしかわからない道。険しい岩や絡みつくような草木をよけながら、夜明けの森を5人は駆け抜ける、
「あと五分ほどでつきます。このままついてきてください。」
風魔が手で行き先を指示しながら先行する。
「しかし助かったぜ。風魔が来てくれてよ?」
「ふん、藍之進様から頼まれていっただけ。方向音痴癖が治らないわね南雲は。」
「しかたねえだろ、誰だって一つや二つ苦手なものがある。」
風魔の言葉に彼はやや諦めたようにそう言い放つ。その方向音痴に関して、ハーネイトが気になった点を2人に確認する。
「方向音痴が酷いみたいだが、単独行動させなければ良いのではないか?風魔は方向音痴ではないのだろ?」
ハーネイトの指摘に二人ともハッとする。方向音痴でない人をつけておけば、そのような問題は別に生じない。しかしそれを2人は長年気づくことができなかった。と言うのもこの世界の忍者たちは、単独行動が基本となるため、ペアを組ませようとかという考えには至りにくかったという背景はあるが。
「確かに、道に迷うときはいつも一人だったな。」
「そうか、一人にならないよう意識するのがいいかもな。」
「もう問題の一つを解決するなんて、よかったわね南雲。ハーネイト様からアドバイスが頂けるなんてね。ハーネイト様、里に到着しました。」
ハーネイトらが風魔の元に追い付くと、そこには巨大な建物や集落が存在していた。そこにいる人たちは荷物を運んだり会話をしていたりと、魔力の濃い霧の中でも平然と生活を営んでいた。
「こんなところにも街があるのね。驚いたわ。」
「これが隠れ里ってものか。確かに中々見つからないものだな。伯爵の能力でもない限り探し出すのは難しい。」
「確かにそうだが、それでもこうして来てみると、違った雰囲気を感じるぜ。」
「ここは長年忍者を輩出、派遣してきた唯一の拠点、霧隠里ですよ。あの中央にある建物がハーネイト殿の宿です。」
二人は先ほどから気になっていた建造物に改めて視線を向ける。
「巨大かつ、この地域にそぐわない建造物、なんだあれは。」
「あれは、忍育成専門学校、通称「シノセン」です。」
「あれが学校とはな。しかも周りは木造屋敷が立ち並ぶのに、コンクラト(コンクリート)で出来てるな。」
伯爵の指摘する通り、里のやや南側にある巨大な建築物は里の中にある、他の木造の建築物とは大分作りが異なっている。どのように資材を集めたのかも不思議だが、藍之進という人物も、大概な人物だということも分かる。
「そうです。この学校は、今回ハーネイトを呼んだ依頼主の藍之進様がお建てになられました。」
「そうか、しかし霧がなければ目立つな、この建物は。風魔よ、案内してほしい。その人のところに。」
「かしこまりました、ハーネイト様。」
風魔がハーネイトらを案内し、数分歩くと建物の入り口についた。
「こう近くで見ても、立派な施設だ。」
「ここなら安心して休めそうね。」
「ハーネイト様?今から案内しますので藍之進様のところまで来ていただけますか?
「分かった。向かおうか。」
ハーネイトは風魔の後ろについていく。施設内をゆっくり見ながら、風魔と話をする。
「それじゃそこのお二人さんは此方へ。ゆっくりしていってくれよ。」
「おう。頼むぜ。んじゃ後でなハーネイト。」
「ああ。」
ハーネイトと伯爵は別行動を取り、ハーネイトは建物の4階まで風魔と足を運んだ。そして、大きな木製の扉の前に来ると、風魔は扉をノックする。
「藍之進様、風魔です。ハーネイト様をお連れしました。」
「うむ。通してよいぞ。」
中年の男の声と同時に、部屋の扉がギギギと音を立てながら、ゆっくりと開き部屋の中が見えてくる。
ハーネイトは風魔に案内され部屋に入るとそこにあった大きなソファーに座り待たされる。すると部屋の奥から、威圧感のある雰囲気を醸し出す、大柄で白髪白髭の男性が現れた。年は40代後半のように見え、よく手入れされた髪や髭、黒地に金のラインが目立つ和服を着た男である。
「お主が噂に聞く解決屋、ハーネイトか。」
「はい、確かにそうですが。」
目の前に立つ大男は握手を求めた。それに答えハーネイトは立ち上がり、そっと握手をする。
「わざわざ遠路遥々から来てくださるとは、嬉しい限りですな。」
「は、はあ。しかし話によれば私の他に解決屋が現れてから忍の活動に影響が出ているという話を聞きました。」
こうハーネイトが言葉を返すのは、自身が行っている仕事が、どのくらい似たようなことをしている組織に影響を与えているのかが気になったためであり、できるだけ競合するところがないように、気を使っている面もあったからだ。ハーネイト自身も数多くの幅広い業種の仕事や依頼を引き受けているが、暗殺についてはおこなっていない。魔獣や機械兵と違い、どうも人相手だと思うようにいかないという。これも彼の出生に関わることである。そして実態が今までよくわからなかった彼らの仕事ぶりについて、ハーネイトは関心を寄せている。
「確かにハーネイト殿の仰る通り、という所もありますかなははは。それでも今回そなたの力を借りたいのだ。話だけでもまずは聞いてほしい。」
「分かりました。話を聞きましょう。」
ハーネイトはやや複雑な表情を浮かべながらソファーに座る。そして、風魔が茶を机の上に置く。
「では、本題に入ろう。一つはハーネイト殿に我が里の忍者を雇ってほしいのだ。」
いきなりのその言葉に、ハーネイトはやや呆れた顔をする。開口一番に忍者を雇ってほしいと言われ、何が目的なのか探りを入れようとする。
「はあ、それはどういうことでしょう。」
「解決屋という存在と、今の忍を比較して、こうも違いが生じているということについて話をまずはしよう。」
笑いながらそう言う藍之進の思惑が分からず、ハーネイトは黙って話を聞き続ける。
彼によれば、解決屋という存在は彼や学校の生徒たち、世界中の多くの人の支えになっている事実がある。それに対し忍の世界はそれとは逆のものであり、穢れ仕事も少なくなく、日陰者と揶揄されることも少なくないという実情について、しばらく藍之進は話した。
「そこで、解決屋の原初にして最強と謳われるハーネイト殿に、うちの忍たちを指導していただきたいのだ。」
「もともと私は一匹狼で動いていましたし、どうもそうしてほしい理由と意図がよく分からないのです。」
その言葉に藍之進は忍者たちの事情を説明する。彼もそれを聴いてそれなりに把握した。暗く、評価されづらい裏の仕事よりも、誰かから感謝されやすく、やりがいのある解決屋の仕事に魅力を感じる若者も少なくないということも理解した。
「そうなのですね。周りからはそういう認識をされているということか。」
「どうしたのだ、ハーネイト殿。」
「いや、自身の行ってきたことは正直自己満足の域を出ないと言いますかね、あまり褒められたようなものじゃないのにと思ってます。」
彼は率直に、心の中で思っていたことを藍之進に話す。
「何を言いますか、お主がいなければ7回も世界は崩壊し、戦争で多くの人が失われた。そもそも、人の本質も他の生き物の本質も変わらないと思うがね。」
「それは、はい。」
「誰もが生き延びるたびに毎日必死に動いている。ましてやこの世界は過酷だ。外の世界からいろんな魔物や悪魔などがやってくる。それを撃退し、素材を利用して多くの命を助け、都市や経済の活性化を促したのもハーネイト殿のおかげだ。自己満足と言えども、それで他人を幸せにできるなら好きにやってもわしは構わんと思うが、どうだ?」
藍之進の言葉に、ハーネイトは考え込んでいた。その言葉にすべてがすぐ納得できるようなものではなかったものの、確かに事実は事実であるし、そういう考え方もあるのだなと理解はできた。
「確かに、一理ありますね。」
「まだ納得していない表情であるな?事情はいろいろあるだろうが、わしはお主の活躍を聞いて安心しておる。しかしそれを妬み入らぬことをいう輩も少なくないだろう。」
「確かに、そうですね。」
「そんな時こそ、堂々としてそれが何だ、それがどうしたと開き直ってみるのも一手じゃな。」
藍之進の言葉は深みを感じ、ハーネイトの心に少し響く。
「開き直るか、考えたこともなかった。もう少しいろいろ分かってくれば、そうして吹っ切れることもできるかもしれない。」
「そうか、まあ時間が解決するときもある。焦らないのも大切だろうな。」
藍之進は一通りハーネイトに助言をし、話の話題を切り替えた。彼もハーネイトの感覚のズレに対し違和感を持っていたのである。妙に謙虚と言うか、自身のなさの表れが雰囲気として出ている状態を感じ取り、彼なりにアドバイスをしてみたのだ。
「それとな、もう一つ教え子らを雇ってほしい理由がある。」
「どういうこと、ですか?」
「3か月ほど前だが、機士国へ諜報を行っていた忍たちが惨殺されたのだ。生き残った者の話によれば、同じ忍者にやられたという。」
藍之進の表情が曇る。自らの教え子が、同じ忍者の手にかかり無残な死を遂げたのだ、彼は未来ある若者に、やさしく、時に厳しく指導をしてきた。そして愛情をかけて若者たちを導いてきた。いわば学生らも、藍之進にとっては家族のようなものであり、それを失う辛さは、彼にとって心の中に空白ができるほどであった。
「同士討ちか。」
「詳細は分からぬが、生き残った忍たちが持ち帰った、その者の武器や特徴から、零と呼ばれるこの里出身の忍が手にかけたというのは断定できた。」
零と言う忍、その忍も藍之進がここに学校を建ててすぐに入った第2期生であり、尋常ではない能力の高さから、裏世界では一種の伝説と化しているほどの存在である。それほどの忍がなぜそのような凶行に走るのか、ハーネイトも考えていた。
「もしかして、敵の支配下にあるとか?」
「それは不明だが、やられたのは事実だ。しかもこの里の出身がそのようなことをすれば信用に関わる。もしその零を見つけたら、討伐してほしい。」
「できれば捕獲で済むといいですがね、分かりました。しかしそれと忍たちの雇用について関係性は?」
彼のその質問について、藍之進が説明する。一つは、少しでも多くの若い奴等に経験を積ませたい。この霧の森という世界の外に出て、見聞を広めて欲しいということ。今までのやり方では忍は衰退すると考え、そこで新しい風をこの霧で覆われた里に吹かせることにより、今までの概念を打ち払いたいということ。2つ目は、敵に寝返った裏切り者は、自らの手で討たなければならないからということである。
「しかし、真の目的は逸れにあらず、のような感じもしますがね。2番の理由は里の事情だから置いといても1番のは理由としてはどうでしょうか。各地で情報活動しているものもいるはず、何が狙いか、きっちり説明して頂けます?」
「確かに、そうですな。南雲はともかく、風魔などは森の外での活動もしとるからの、世界を少しは見とるだろう。」
「では、なぜこのような話を?」
いくら話を聞いても、本質が分からずやきもきするハーネイト。それを見て、ようやく彼らの本音が聞こえてきた。
「いや、お主らの活動に興味があるのだ。他にも数名、里の外で活動しているうちの学生がおるがハーネイト殿が何かをしているということはこちらも把握している。確かに一匹狼であるお主がなぜ仲間を加えているかが気になったのだ。」
「ふう、そういうことですか。仕方ないですね。」
ハーネイトは、数時間に渡り、クーデターの話やDGに関する話を藍之進に話した。
「ふうむ、私たちが手に入れた情報よりも深刻だな。奴等を野放しにはできん。一月前に、偵察に出した者から聞いた話よりも悪化している。しかもDGとはな。薄々そうだとはと思っていたが、性懲りもない連中だ。遠慮なく捻り潰して欲しいですなハーネイト殿。」
藍之進は、ハーネイトから聞いた話を含め改めて現状がいかに危険な状態か、口ひげを触りながら確認していた。
「そこまでいいますか。私としても、少しでも強い仲間を集めて敵をこの星から追い出したいのです。」
彼は改めて、機士国王が命じた作戦について話し、少しでも戦う戦力を集めているという意思表示をする。それについて、藍之進はわずかに笑いながらこう言った。
「ならば、益々うちの忍者を雇った方がよいな。いや、言い方があれだ。その戦いに儂らも参加させてほしいのだ。」
ハーネイトは藍之進の顔をじっと見る。
「零の件もあるし、忍の活躍が広まれば以前のように仕事が来るかもしれん。名を挙げれば今までの忍に対するイメージが変わるかもしれん。そなたが新たな風を吹かせた魔法使いのように。」
藍之進がこのようなことをいうのは、過去にハーネイトが起こした魔法革命についての話に例えて、同じように忍の世界にもそのような新しい風を取り入れたいという主張である。
魔法革命とは、ハーネイトが旅を始めて2年と少しを過ぎたころに起きた現象である。当時自身の出生や力について情報を集めていた彼は、旅の道中で魔法を用いて、街や人同士の問題を解決したり、魔法で動く機械を考案し、その効率の良さや機能性の良さについて本にまとめたりと、魔法を今までよりも日常的に取り入れて利用しようとしていた。
昔から、魔法使いにはいいイメージがつかず、陰険で何を考えているかわからない、変人の集団としかこの世界では認識されなかった。その概念や風習を彼はぶち壊した。魔法の神秘がなくなるといい問題視する人も高齢の魔法使いを中心に少なくなかったが、魔法に興味を持った人が弟子入りしたり、独自に研究を始めたりと魔法に関する研究はわずか数年で100年は先に行ったとされ、今まで日の目が当たらなかった魔法使いたちも、周りの人から感謝をされ、考え方を徐々に変えていったとされる。今では、ハーネイトの偉大な功績の一つに挙げられている。それと魔法に関する功績としては他に、ハーネイトは大魔法について、7行あった詠唱文を3行まで圧縮することに成功しており、さらに属性を融合させた大魔法も構築したというものもある。
「そのことも、よくご存じですね。そうですか…。藍之進さんの言いたいことも分かります、が、肝心の学生たちはみんな、そのことに納得しているのですか?戦いに参加することに。」
この男の言いたいことをようやく理解した。しかし下の者がそれに心から従うのかどうか、彼は気になっていた。乗り気ではない人に、無理やり強制させれば事故やミスの元になるからである。解決屋の仕事には危険がつきものである以上、彼は改めて確認をしておきたかった。しかしその質問に、藍之進は屈託のないほどの笑顔で大笑いした。
「はっはっは!それは問題ない。むしろハーネイト殿を慕うものが多すぎてこちらも困っているほどだ。心配など杞憂だ。ハーネイト殿、うちの忍びたちとド派手にあのDGと戦ってくれ。」
その言葉に、どういう意味かと尋ねるハーネイト。
「その通りの言葉だ、お主の活躍が学生の間でも話の種に尽きない程みたいでな。全員、ついていく以上覚悟は決めているだろう。実際に、彼らにも確認をすればよい。そして、思うように生きて周りを従えていけ。ハーネイト殿。」
「そうきます、か。確かにそれもそうですね。確かに使い魔とは違った諜報活動にも、暗殺や妨害にもあなた方の学生さんたちは活躍の機会はこれからあるでしょう。そして、学生たちの功績が世に広まれば、いい結果もおのずとついてくることでしょう。」
彼も、自身が現在作戦立案を進めており、自身の脚や目による調査がしづらいという現状を理解しており、手足の代わりとなる人材は、実は彼自身願ったり叶ったりであった。
「まずは何人か選抜してみますか。」
そういうと、ハーネイトは魔法で財布を取りだし、中から大金を出して藍之進に渡す。協力関係を結んだ以上、資金を用いて装備や人材の育成に力を入れてほしいというメッセージも込めたものである。
「頭金だが、これでどうだ。一応こちらが雇った扱いにはなるだろう。」
「ああ。この金は一旦預かる。しかしこの資金で、ハーネイトとその仲間たちを支援しよう。うちの生徒を、未来の忍たちを、どうか頼む。」
藍之進は席から立ち上がり、一礼をする。
「わかり、ました。では明日、採用試験をして連れていく忍を決めます。必要に応じこちらから追加の忍の派遣をお願いします。」
「分かった。できるだけ望むようにしよう。この問題は、もはや星全体の人間が力を合わせて解決せねばならない案件になりましたな。」
彼らは、多くの人が協力しなければ、この脅威を退けることは難しいということについて共通認識を改めて確認する。
「だからこそ、奴等の脅威を伝え、戦う同士を増やす遊撃隊を今回設立したのです。」
「それも一つの手だな。ああ。先ほどの件はそちらにお任せしよう。今日はゆっくりしていくとよい。」
「出来れば早く仲間のもとに戻りたいですが。」
「それは分かるが、良かったら忍たちにハーネイト殿の話をしてもらいたい。明日には此処を発つのだろう?」
「確かにそうですが。
「それと、この森とその周辺を包み込む霧についてだが、ある生物が産み出しているのはご存じかな?」
藍之進の言った言葉に、反応する。霧を吐く者、あの霧の森を作った要因がいるということは初めて聞いたため、関心を寄せる。
「霧を吐く生物、馴染みがないですね。」
「そなたでも分からないことがあるか。」
「博識とはよく言われますが、この霧の森以南のことだけはこちらも調査ができず知っていることはわずかです。」
「なら仕方ないか、この霧はとある竜が出しているものらしい。そしてこの一帯には他にも人が暮らしているところがある。余裕があればあって調べるのもいいかもしれん。物知りと言うし何か悩みの解決策が見つかるかもしれない。」
藍之進は龍についてしばらく話をしていた。
「そうですか、わかりました。では仲間のところに戻ります。明日の日が上る頃に実技試験を行います。戦闘に向いた仲間を今回は募集しますので。」
「わかった、場所は用意しよう。後で忍らにこちらから伝える。風魔。部屋に案内してあげなさい。」 「はい、藍之進様。」
ハーネイトは一礼して部屋を出る。そして風魔の案内で伯爵らのいる客室にはいる。
一方、藍之進との話を終え、用意された部屋に戻ったハーネイトは、少し疲れたようにため息をし、ゆっくり座ると、伯爵の側で足を伸ばす。
「お疲れさん、どうだったかい?」
「ああ、共闘したいとの申し出だ。それと個々の学生さんたちに経験を積ませてあげたいとさ。明日連れていく忍を決める。南雲と風魔も参加するといい。」
ハーネイトの言葉に、2人は目の色を声色も変える。
「わかりました!これは気合い入れないとな。」
「何としてでも、合格するわ。」
若き忍の、迫力ある意気込みが肌に伝わってきた。
「皆さん気合い、入ってますね。」
彼らの意気込みを見て、リリーが出されたお茶をのみながらそう言う。それに対し南雲と風魔は、ハーネイトがいかにすごいかをその場で力説しながら、今回の試験の重要性を話す。
「各地で名を馳せるハーネイト殿と肩を並べて戦えるとか夢みたいだ。」
「これは里にとっても、忍にとっても重要なこと。有名になれば里も私たちも暮らしがよくなるわ。それに憧れの人と共に戦えるなんて、幸せすぎます。」
風魔は美しくつやつやと光る金髪を軽く指で撫で、普段は鋭くキリっとした顔をでれでれにし顔を赤くする。
「相棒はマジで人気者だな、改めて羨ましいぜ。」
「そうよ。ハーネイト様は誰もが憧れる存在よ。しかしなかなかタイミング掴めなかったけど、貴方は誰ですか?」
その言葉に、伯爵はようやく自身の紹介かと少し傷つきながらも立ち上がり、仁王立ちになり紹介をする。
「俺の名は、サルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウンだ。かつてハーネイトに助けられた男だ。そして一度戦ったこともある。」
「なんと、そうなると伯爵殿はハーネイト殿とどんな関係なのだ?」
伯爵とハーネイトの関係が気になる南雲は興味津々だ。それについて、ハーネイトが片足に腕を組みながら話す。
「ああ、今からおよそ6年前だ、伯爵が町を壊しまくってた所を見つけ、戦ってなぜか仲良くなった、そんなところだ。物好きだなとは思うが、根は素直でいい奴だ。仲良くしてあげてほしい。」
彼はかなり内容を省略して話しながら、なぜあの状態で結果的にこうなったのか、運命というものの恐ろしさを改めて実感していた。
「そういう認識か、まあ悪くはないが。相棒は二度と会えないと思った人を会わせてくれた恩人だ。」
ハーネイトの言葉に対し、それだけでなく感謝しているということを、伯爵は顔と言葉で表現する。
「そうなのですか、もしかして隣のそのリリーさんが大切な人?」
風魔は伯爵のその話に興味を持つ。
「あ、ああ。そうだ。」
「あら、伯爵照れてる?」
「べ、別に照れてねえよ。とにかく、俺はハーネイトに頭が上がらないんだ。」
「あれはたまたまだ。そうまで言われると、なんか困る。」
少し困った表情を浮かべ、素の高い声が出るハーネイト。
「おいおい、今でもあのときのことは忘れてねえ。ハーネイトがリリーを助けてくれていたから、こうしてリリーと一緒にいられる。正直恩を返しきれねえよ。」
「そうよ、私もこの世界に飛ばされてハーネイトに助けられたの。そして彼の過去を聞いて、私も力になりたいなと思うの。」
2人にとって、こうまで彼のことを慕っているか。それは、かつて二人に起きた悲恋の物語、そして離れ離れになった二人を、偶然とはいえ引き合わせてくれた彼に、心から感謝をしているからである。
「そうなのか、やはりハーネイト殿はすごいですな。他の世界の人間まで虜にし仲間にするとは器の違いを思い知らされますな。」
「べ、別に。成り行きでそうなっただけだ。それとなんか…なんか、恥ずかしい。」
伯爵たちにそこまで言われ、ハーネイトは体操座りで、脚に顔を埋めて顔を赤くしているのを隠す。あまりおだてられたり、かっこいいとか言われるのは苦手というか、彼にとってはその行い自体は偶然かつごく自然に行ったものであり、感謝されることはしていないという、周囲との感覚のズレがそうさせていた。優しくて強くて、雰囲気や振る舞いが万人の心を捕らえる一方で、このずれが後々彼を苦しめる要因になるのであった。
「もう、妙に謙虚なんだから。彼の仕事は迅速で確実、しかも良心的な値段で笑顔を絶やさずに人と接する。旅をしてハーネイトの話を各地で聞いて感じた、私が彼に抱くイメージかな。」
「俺も改めてハーネイトがやっている仕事の素晴らしさを理解した。俺も、恥ずかしながらハーネイトのように多くの人から認められて自由に仕事をしてみたいと感じたよ。」
さらに2人はハーネイトについて思っていることをそれぞれ口にする。
「ふう、まあ、いいけどさ。なんかうれしいことを言われると、素が出てしまうから苦手。」
「てことは、結構無理していたってわけじゃないよな?」
「そう、かもしれないね。結構周りからどう思われているか気になってね。」
ハーネイトは4人からそれぞれいい評価を頂いて嬉しい半面、その期待がプレッシャーとなっていた。下手な真似はできない、信用を失えばそれまでだと彼を慎重にさせすぎている要因でもあった。
「私たち、ハーネイト様に色々無理させている?」
「別にハーネイト殿は細かいことなど気にせず、自由に振る舞ってもいいと思います。」
「自由ねえ……。」
2人の言葉にハーネイトは少し考え込む。
「すぐには答えは出せそうにはない。はあ、とにかく南雲と風魔は明日に備えて早く休んだらどうだ?」
「いや、ハーネイト殿からも話をもっと聞きたい。魔獣退治や捜索、探偵の仕事の話とか。」
「ハーネイト様、よろしければいろいろ話を聞かせてください。こうして会えたのです、質問攻めしますよ?」
彼は明日のことを考えて休むことを2人に勧めるが、それに対し南雲は今まで行ってきた仕事の話が聞きたいといい、風魔は彼の腕を抱きしめて、上目遣いで個人的なことについて聞こうとする。このままではらちが明かないというか、話をしないと二人とも休む気はないだろう、そう考えたハーネイトは仕方なく、二人に昔話をしてあげた。トラウマのことは隠しつつ、数々の魔獣や魔物の盗伐から普段何をしているかまでを。
「はあ、何てすごいんだ。魔物退治が如何に危険かよくわかりますね。それを的確に仕留めるその技量はもはや私たちと比べ物にならないほど先に言っていますね。」
「思ったより趣味とか落ち着いている感じなのですね?読書に料理とか家庭的でいいですね。もっと派手にいろいろしているかと思いましたが、こうして話を聞くをそれもハーネイト様らしくて素敵ですね。
「やれやれ、世話の焼ける仲間たちだな。まあ教えられることはいろいろ教えてあげたいが。」
自身のことについて、様々な質問攻めにあい、それにすべて答えたのはこれが初めてであり、少々疲れた表情をする。
「しかし趣味がちと地味すぎじゃないのか?もっと豪遊とか、女はべらせるとか考えたことないのか?英雄色を好むなんて話もあるだろうに。」
伯爵もハーネイトの趣味に関してイメージと違うことを口に出す。あれだけの活躍をしているなら、もっと大きく遊んでもいいだろうし、周りもさほど口出ししないだろう。そう考えていたのに対して意表を突かれ、伯爵は心の中で驚いていた。
「悪いが、どうもそういうのに興味はね。ささやかな日常の幸せと人のやり取りが、私には幸せなんだ。みんなが私の、宝物なんだよ。」
率直な気持ちをハーネイトは4人に話した。少しだけ思っていることを口に出せて、彼の表情は少し和らいだ。
「はあ、中々に優等生な感じの考えだな。まあ嫌い、じゃないけど。」
「趣味なんて人それぞれでしょ?本当に面白いわね。欲があるのかないのかいまいちわからないというか、人としては何か感覚が周りと違う?」
リリーがハーネイトについて、普通の人のように欲望とかがにじみ出ていないように見えることをいう。彼女は彼の雰囲気について以前から、人とは何かが違う、神様か何かのようなものを感じていたのであった。
「そう、かな?昔からなんかおかしいんだよね。なんか嫌になる。」
「そうなの?ごめんなさい、ハーネイト。ねえ、みんなでハーネイトの話をもっと聞きましょ?楽しい話して気分切り替えない?」
「それは、そうだが。明日朝起きれなくても知らないぞ?」
全員の視線に耐え切れなくなったハーネイトは、遅くまでみんなに話しつづけ全員で一夜を共にした。
そのころ、エレクトリールと夜之一は城の窓から、空一面に輝く無数の星を眺めながら話をしていた。
「故郷の星が大変な事態になっている、か。本来ならば早く戻りたいだろう。」
「は、はい…でも帰る手段がないのです。」
エレクトリールは、外の星、そして故郷のテコリトル星をずっと眺めていた。今頃自身が生まれた星はどうなっているのか、気が気でなかった。その姿を偶然見かけた夜之一は声をかけたのだ。
「はは、諦めるのは早いぞ。機士国の技術には、星の外に出る技術もあったそうだ。旅をしているうちに、故郷に帰る手掛かりは見つかるだろう。」
夜之一はエレクトリールの事情を聞いて、彼なりに励まそうとしていた。実際に、そのような技術はあると聞いていたのと、古代遺跡の中には星の外に出たことを匂わせる文章や資料が残っているところもあったので、それも含め夜之一は少しでもエレクトリールに希望を持たせたかったのだ。
「そう、ですか。でも私は、故郷のテコリトル星で起きたことがこの星でも起きるのは嫌です。それにこの星の人たちは私を見ても普通に接してくれます。それに、私はあの人のことが好きになったみたいです。」
エレクトリールは夜之一に、ハーネイトのことが気になっていることを伝える。
「そうか、彼も昔から人をなぜか引き付ける魅力があってな。しかしそれはいい方向にも悪い方向にも働いていた。もしかするとハーネイトの対応にやきもきすることもあるかもしれないが、あまり彼にそれを言わないでやってくれ。人間離れしている割に、誰よりも純粋な心の持ち主みたいだからな。」
夜之一は、以前彼がこの国に来て話したことを思い出しつつ彼の印象を話す。
「そう、なのですね。気を付けます。」
「ああ。それとこの星のこともだが、機会を見つけて元の星に戻れるように考えておくといい。その方法が見つかるまでは、エレクトリールよ、ハーネイトのこと頼むぞ。」
夜之一の言葉に、エレクトリールは驚きつつもにこやかに返事をする。
「はい。わかりました。しかし早くハーネイトさん、戻ってこないかな。」
「気になるか。しかし時には待つのも大切だ。満天の星を眺めながら、気長に待とう。」
「そうですね。」
二人は星を見ながら、互いに話をし続けていた。
その頃、DGの幹部ミザイルは秘密拠点の中にある自身の部屋で考え事をしていた。
「やはり、現在集めた情報がすべて本当ならばあの男こそが行方不明になったあれだ。」
ミザイルは、昨日フューゲルから聞いた情報を頭の中で巡らせていた。もし聞いていた情報が、フューゲルの話した同じ古代人の気を感じるだけと言うならば、ミザイル自身もそう驚いてはいなかっただろう。問題は、悪魔の腕についてである。あのあと、フューゲルに偵察機械兵から収集したデータを秘密裏に見せてもらった彼は、その腕に見覚えがあったのだ。
かつて、古代人・ルフィ・ラフィースは幾多の生命の魂をデータ化する研究を行っていた。通称「魂の電脳化」それは同時に行われていた次元に干渉する研究と同じく、危険なものであり非人道的な実験でもあった。人や悪魔、魔物などの魂、概念を膨大なデータにしたものをそれぞれ種別ごとにサーバーとなる魔本に刻み、特定の能力を持つ人だけが魂のデータを自身のものとして使えるようにするという試みは、とある大事件により研究自体が凍結となった。それとそのデータの変換方法自体が殺人と同じものであり、それを知った人たちにより計画を潰されたという話もある。しかし幾つかの完成した魔本はアクシミデロ星のどこかに散らばっており長年放置されていたという。
ミザイルが確認した悪魔の腕、それはまだハルフィ・ラフィースが発展する前にアクシミデロ星を侵略しに着た悪魔の軍勢が首領、フォレガノと言う凶悪な悪魔のものであった。先祖の話を思い出したミザイルは、ラフィースの研究者集団が、多大な犠牲のもとに悪魔や天使、そして幾多の人間の魂、思念を強引に封印したという伝承を思い出し、かつて研究者であった親から聞かされた魔本の存在を頭の中で再認識した。
「となれば、この写真の男は既に魔本と言うハルフィの遺産を完全に操っている可能性が大きい。フフ、しかし血が騒ぐな。しかしさり気に任務を実行しているということは誉めてやろう。彼が握っているということが分かっているならそれ以上の悪用はありえないだろうしな。」
ミザイルは、写真の男の顔を覚えるように見ながら、先祖の研究した魔本について考え込んでいた。
その頃、シャムロックたちはハーネイトとエレクトリールが辿ったと思われる街道を走り抜け、道中を偵察、監視しながらフラフムを訪れていた。
「おやおや、大きな乗り物に、すごく…大きな男、ですな。」
リュジスら街の住民が車から降りたシャムロックたちを囲うように集まる。リュジスはシャムロックの異様な姿にほぼ絶句していた。
「一体、どうなされました?」
「いや、ここに来る人はそう多くないのでな。あなた方が一体何者か、気になったのですよ。」
「そういう割には、あなた方の表情に警戒の色が見られますが、何かありましたか?」
ミロクは、住民たちから伝わる表情を感じ取り、何か理由があるのかを聞く。
「先日、盗賊団による襲撃がありましてな。」
リュジスは彼らに、先日の襲撃事件についての話と、ハーネイトたちの活躍で被害がなかったことを話す。
「ハーネイト様、流石私の見込んだ主人です。」
「そういうくせに、主人に酷いことをしていないか?」
「あ、あれはご主人さまのことを思って、王にふさわしい教育を施しているだけです。」
「もしや、あなた方はハーネイト殿と何か関係がある人たちですかな?」
リュジスの質問に、シャムロックたちは自身らがハーネイトの下で働くメイドと執事であることと、ルズイークが機士国の近衛兵であることを説明した。
「お、おおおう!そうでしたか、それは失礼をしましたな。」
「あなた方もハーネイト様の仲間だったとは、ぜひ歓迎します。」
「メイドとか執事とかいたのかあの人。」
シャムロックたちがハーネイトの仲間だとわかると、安心した表情を見せ、街の住民たちも一気に歓迎ムードになる。
「これは本当に、たまげたなあとしか言えん。ハーネイト、やはり格が違う。俺が同じようなことやってもここまでならないだろうしな。」
「確かにそうかもしれない。まあそれが面白いところではあるのだがな。」
ルズイークが、住民の変貌ぶりに驚きつつも、ハーネイトがどれだけ多くの人から慕われているかを、彼らの表情や言動から感じ取り、口角を緩めて微笑んだ。それに国王も同じ意見を述べる。
「申し遅れましたが、私はこのフラフムの街長、リュジスと申します。」
「私は、ルズイーク、ルズイーク・ルナ・スターウェインだ。」
「ルズイーク様ですか。遅れましたが、今日はどのような用件でフラフムに?」
リュジスの質問に、ルズイークは宿を探しているという。それに対し、リュジスはハーネイトたちに貸した宿を案内する。
「すまないな、リュジス殿。一泊して周辺の調査を行いたいのでね。」
「どうぞ、ごゆっくりください。ああ、それともし余裕があれば、支援物資の方を持って行って彼に渡してください。そういう約束をしていましたので。」
「分かりました。では明日引き取りましょう。」
「では頼みましたぞ。(しかしなぜ機士国王まで?)
リュジスは機士国王まで同行していることに心の中で違和感を感じつつも、ハーネイトの指示したとおりに物資を集めたことを話し、ミロクがそれに応対した。それを伝え、リュジスはルズイークたちのいる部屋から出た。
「久しぶりの運転で少し疲れた。休むのも必要だ。」
「ご苦労であったな。私は各地から集まった情報を整理して確認する。」
「では私も手伝いましょう。」
「そうか、ではこれから頼む。」
シャムロックはベッドに横になり、国王やミレイシア、アンジェルとルズイークは任務につかせているエージェントたちからの情報を目で確認し、何か有用な情報がないかを調べていた。
こうして彼らはフラフムで一夜を明かし、しばらく周辺で起きている事件や事故がないかを調べていた。
翌朝ハーネイトが部屋を出て、長い廊下の窓から外の景色を見る。霧が昨日よりはわずかに和らいでいるものの、視界の悪さは相変わらずである。そして下の方から声がし、各人すると広場に70人ほどの若者が集まっていた。ハーネイトはまだ寝ていた伯爵とリリーに声をかける。
「ふああ、もう朝か。南雲と風魔はもう外か?」
「そうだ、それでテストに付き合うか?伯爵よ。」
彼は、退屈そうにしていた伯爵に、テストの審査員として参加しないか提案する。
「いや、やめとく。うっかり分解したら不味いしな。」
それに対し、伯爵自身はうっかり生徒を殺しかねないと遠慮する。それに確かにそうだとハーネイトはいい、様子を見るといいと提案する。
「まあそれが無難か。これはハーネイトが品定めする試験だからな。かれらを。」
そういいつつ伯爵はゆっくりと立ち上がり、背伸びをしてから部屋を出る。そして校舎を出てすぐに三人は広場に向かい、藍之進に会う。
「おお、きなすったな。今回、テストを直々に行ってくださるハーネイト殿だ。彼に各人、力を見せるときだ。では、よろしくお願い致すぞ。」
藍之進は、ハーネイトたちの姿を確認し、広場に集まった学生たちに声をかける。
「分かりました。では、私からも説明を行う。」
それに続き、彼も学生たちに試験のルールを説明する。採用試験のルールはいたってシンプルで、今からハーネイトと戦えというものである。どちらかに傷をつけるか、特異な力を見せつけ、。認めたものに、今回の作戦に同行する許可を与えるといった。
「遠慮はいらん、胸を借りるつもりでかかってこい。」
ハーネイトは、力強く叫びながら鞘からゆっくりと刀を抜き、忍らに剣先を向ける。
「はっ、いつになく強気だな。」
「誰だ、あの隣にいる角の生えた男は。」
「あの人とも戦えというのだろうか?」
伯爵の姿を見て生徒たちがざわつき始めた。
「おいおいなんだよ。俺様はハーネイトの相棒だ。それに今回は戦うつもりはない。」
「えー、貴方の力も見てみたいです。」
「なんか強そうなお方だ、ぜひ手合わせを!」
伯爵の言葉に対し、予想外の言葉が飛んできた。そういうならば期待に応えてやろうと、伯爵がハーネイトの隣に来る。そして彼は両手を光らせ、光の剣を作り出す。その剣は眩く電気をバチバチと纏わせている。伯爵は防御不可の菌属性の他に、無数の微生物が作り出す電気を集め、自在に操る雷属性の技にも長ける。今回はそれだけで戦うという。
「やれやれ、仕方ないな。伯爵、南雲と風魔は手を出すな。」
ハーネイトは伯爵に小声で指示をする。
「了解、任せとけ。」
そういい、2人の体からオーラが漂う。力強く、激しいその力に忍たちは気押されている。
「これが、伝説の力。隣の男も、異様な雰囲気だ。しかし認められるには示すしかない。」
「里の未来を変えるためにも、この試験、引けないな。」
「ああ、やはりこの2人は強さの次元が違う。見ただけでわかる、つけ入る隙がない。
「森での戦いでも終始魔物の群れに笑いながら、一方的に戦っていたわね。でも私にだってとっておきがあるんだから。」
忍たちがざわざわしているなか、最初に数人の忍が飛び出し、苦無や手裏剣をハーネイトらに投げながら距離を詰める。
「威勢がいいのは大切だ。しかし敵の能力を測るのも大切だ。手始めにこれに耐えてみろ!
ハーネイトは刀を数回、目にも止まらぬ早さで振り回す。すると突撃する忍たちの足元に亀裂が走り、地面が割れる。そうするとすかさず地面から数十本の大きな剣が突きあがり、彼らは足を掬われる。
「イジェネート剣術「剣裂」」
そうして足をすくわれた忍たちは、彼につかまり、投げ飛ばされた。
「これからだ。」
「今度はこれよ!」
突っ走った忍を見て、我先にハーネイトのもとに詰め寄ろうとする忍たち。彼らは体の一部を武器に変身させ、逃げ場のないように包囲しながら迫る。
「これは、同じ能力か。しかしこっちの方が上だ!」
ハーネイトは首元から赤いマント、紅蓮葬送をはためくように展開し、自身を守るように覆い、そしてマントから無数の棘がジャキンと音を立てて生える。
「ぐあっ!強いっ!」
「ってえ!!!」
無数の棘の直撃を受け、またも吹き飛ばされる忍たち。ここまでで全体の4分の3が脱落した。そして残りの忍もハーネイトらと白兵戦を行っている。
「そらよ!菌電光剣(サルモネラスパークセイバー!)」
「はああああっ、弧月流「満月斬り」!」
「がっは、くっ、桁違い、だ。うぐっ…。」
2人の鮮やかかつ強力な一撃に忍らがまた一人、一人倒される。いくら試験だからと、2人は容赦しない。強くなければ、この先の戦いに生き残ることは難しい。今回は戦力として頭数に入れられる人材を雇いたい、だからこそ剣を華麗に奮い忍たちに試練を与え続ける。そうして残ったのは、南雲と風魔だけであった。
「どうした?」
「おらおらどうした!びびってるのか?」
2人が南雲と風魔に軽く挑発を駆ける。
「残りももういないか。や、やるしかないな。」
南雲は、ハーネイトと伯爵を力強く見て覚悟を決めた。勝てるかどうかわからないが、それでも挑まないといけない。そう考え武器を構えるのであった。
ようやく8話目も投稿できました。仕事が始まってから、思うように執筆できないです。もしこの作品に目を通して、脚本形式のようなこのお話について、何か意見や批評があれば言ってくださると今後の参考になります。そして修正しました。