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第四話 日之国王暗殺未遂事件

「すべてを支配できる、そう予感はしていたものの、使う気にはあまりなれない。1人がそう決めていいものではない、世界の在り方というものは。(ハーネイト)」 


リシェルを仲間に加えたハーネイトは、日之国に向かう際魔物の群れを見つける。エレクトリールとリシェルに嬉しいことを言われ心を開いたハーネイトは忌まわしき、チートと呼ばれるほどの力を解放し、魔獣の群れを見ただけで切り裂いた。

 そして、日之国にたどり着くと、久しぶりに会う人たちに挨拶をしながら、街を歩いていた。すると、日之国の王様が帰ってくるのが見えた。しかし、町衆の中から感じる不穏な気を感じたハーネイトは、戦闘態勢に入るのであった。

ハーネイト遊撃隊 4

 

 ハーネイトとエレクトリールは、ルズイークからリシェルという男の捜索を頼まれ、別の街に移動する際、魔物に襲われた商人と、男を助けた。その男がリシェルであり、目的地で起きた盗賊団による襲撃から街を助けた。そして更なる情報収集をするため、日乃国へと向かうことにした。


----------------------------------

 

 フラフムを離れ、街道をバイクで走りながら、次の目的地、日之国まで向かっていた。ガイン荒野をバイクで駆け抜け、1時間ほどで開けた平野に辿り着く。草地や湿地帯が多く存在し、土を固めてできた道幅の広い道が、青々とした草原の中を通り抜けるように存在している。

 

 緑風平野と呼ばれるこの平野は、オルティネブ東大陸の中で最大を誇る国家「日之国」の領地である。豊かな生態系を構築しており、現住生物の楽園ともいわれる。そのため、このエリアでは魔物、魔獣というよりは星に元々住んでいた現住生物に注意が必要とな


「いい乗り物ですね。風が気持ちいいです。それに緑鮮やかなこの景色。私もフィンドライドで風を浴びながら、自然を満喫したいです。」


 エレクトリールが、平野を見ながらリシェルのバイクと豊かな自然について感想を述べる。フィンドライドとは彼が所持している一人乗りのエアバイクだという。彼の年相応な笑顔が気を張っているハーネイトの表情を少し緩めさせる。しかし、彼の表情は時折苦しそうにも見える。


「だろ?旅に出るときに買ったバイクだが、こいつの馬力は半端ねえぜ!独自にチューンも施したからな。機械いじりは大好きだぜ。あ、あれ、ハーネイトさん?大丈夫ですか?」


 リシェルがバイクの自慢をしながら、ハーネイトの顔色を確認する。どうも、搭乗しているバイクのスピードについて行けず酔っているようだ。いつもは澄ました余裕のある表情も、今はいかにも寄っていますというような、気分が悪そうな表情に変わっていた。それは出発前にリシェルが青ざめていた時よりもひどい状態であり震えも来ていた。


「う、リシェル…すまない、少し速度を落としてくれ。何故か気分が悪いのだ。」

「もしかして、ハーネイトさん乗り物酔いですか?」

「かもしれない。このような乗り物には乗り慣れてないからな…魔法で移動するのならこんなことにはならないのだが。」


 ハーネイトが苦しそうに理由を説明する。魔法での移動はスピードとかを無視して肉体ごと瞬時に転送するため、猛スピードで何時間も移動するという経験が彼には少なく、それに体が若干追いついていない状態であったという。


「ハーネイトさん、乗り物とか苦手ですか?」

「すべてがそうというわけではないんだがな。私の教え子たちなんかは車や機械に魔法を組み合わせて乗り回したり利用しているのだが、あれは乗りたくないかな。」


 ハーネイトは少し辛そうに説明しながら、風を浴びて気分を良くしようとする。


「魔法使いと機械って、何か関係があるのですか?」


 エレクトリールの素朴な質問に、ハーネイトはこの世界の魔法使いの特徴を説明する。


 この世界に存在する魔法使いのうち、高齢の魔法使いは、機械を理解できず、魔法こそ至上の力と認識しているのに対し、若い世代の魔法使いは、機械と魔法を合わせて人形や兵器を作り出したり、魔法では限界の合った技術を、機械の補助により、その分のリソースを更にプラスして新技術の開発をするのが主流で、乗り物も機械もガンガン使いこなすという。ハーネイトはその中間に存在する。


「だからか、ルズイーク隊長が言っていたよ。ハーネイトさんがもう少し機械を使えたならいいのだが、と。」


 リシェルは遥か前方を見て運転しながら、ルズイークがいつも口癖にしていた言葉を言った。


「誰だって、得意不得意の1つはあるし、前よりは使える機械や道具は増えている。魔法じゃ燃費が悪い行動を機械で代わりにやったり、機械の力と魔法の力を融合させたりするのは理解できる。それに先ほども言ったがかつて魔法学の先生をしていたことがあってな。その時にいろいろね。」


 リシェルが言っていた、ルズイークのぼやきともいえる言葉に対し、機械の力の良さも、魔法の力の良さも理解しており、それでかつ昔先生をしていたと取れることを言う。


「ハーネイトさん、学校の先生もしてたのですか?」


 ハーネイトの言葉に食いつき、すぐに質問する。


「かなり前の話だよ。ある魔法使いの当主に頼まれてな、密かに一年間そういうことをしていただけだ。」


 ハーネイトは、昔のことを思い出していた。誰かに物を教えることの楽しさと難しさ、そしてハーネイトに依頼をし、その後も旅に関して力を貸してくれたある人物の顔を思い出すと、かすかに笑みが、顔から溢れてくる。


 解決屋として徐々に有名になる中で、ハーネイトはある少年、いや少女と出会った。

 ロイ・レイフォードというその人物は有名な魔法使いの家系の一つ、レイフォード家の現当主であった。彼女は彼に魔法学の先生になってほしいという依頼を申し込む。最初は戸惑ったものの、結果的に彼女からの金銭面や情報面などの支援を受ける代わりに、ロイを含め32人に一年間魔法学の先生を行っていたのだ。その中で彼は生徒らの魔法に対する考え方や手法に感心した。そして32人は優秀な魔法使いになったのである。


 「1年間だけだったが、あれはあれで楽しかった。旅を続ける予定がなければ、魔法学会で新魔法について発表したり、生徒たちと切磋琢磨したりしていただろうな。」

「そういう過去もあったわけですね?ハーネイトさんのお話、本当に興味を引くことばかりです。」


 エレクトリールは、ハーネイトの過去の一片について、真剣に聞いていた。この人が、どのように今まで生きてきたのかが、彼にとっては知りたくてたまらなかったのだ。


「その経験も、解決屋の仕事に活かされていますか?」


 リシェルは、今の仕事も、昔の経験があったから成功しているのかと聞く。


「確かにそうだな。その経験も、直接ではないが活かされているとは思う。」

「そうなのですか。多様な経験も、解決屋にとって重要な要素となるのですね。」

「そうだな。解決屋は幅広い仕事に対する対応力が求められる。経験の質、量が他の職よりも求められやすいとは感じている。だからリシェルも、多くの場所を旅して、人と関わり、積極的に物事に挑戦することが、自身を大きく成長させることにも、解決屋として成功するカギにもなる。」


 ハーネイトは、リシェルに経験の大切さを教え、解決屋になるための秘訣やアドバイスを教える。その言葉1つ1つが、リシェルの心に響き染み渡る。普段はやや年相応の、生意気な態度が出やすいリシェルも、ハーネイトの前では彼を、尊敬できる大先輩として、自然と敬語になるのだった。


「こうして話を聞くと、まだまだ自身が至らないことを自覚しますよ。尊敬できる大先輩から、直接教えを頂けることに、本当に感謝しています。」


 リシェルはハーネイトに感謝の意を改めて伝える。ルズイークから聞かされた、数々の伝説や偉業を成し遂げた、人生の師匠ともいえるハーネイトと出会えたこと、そして貴重な言葉を頂けた彼の表情は、普段はクールで表情を変えることのないものではなくしっかりとした笑みを浮かべていたのだった。


「そうか、私の言葉が参考になるのならばそれは嬉しい。リシェルも肩の力を抜いて、戦友感覚で接していいぞ。あまり堅苦しいのは苦手なんだ。」


 彼はリシェルに堅苦しい関係はやめて、少し砕けてもいいという。


「いえいえ、ですがそうでしたら、少しずつそうさせて頂きます。」

「リシェルさんがそうなるのもわかります。ハーネイトさんには、そうさせてしまう不思議な魅力がありますからね。」


 エレクトリールが、リシェルのいうことを理解できるという。しかしハーネイトにはそのような自覚はさっぱりなかった。


「そう、なのか?私は、もっと友達感覚で接してほしいと思うのだが。年もさほど変わらんし年が下だろうと、威張ることはない。悩む人に道を指し示すことはあってもね。」


 彼の在り方を聞き、2人は少し驚く。そしてリシェルは、ルズイークのことを、エレクトリールは故郷にいた大王様のことをそれぞれ思い出した。この2人も、ハーネイトに似て上下関係にさほど興味も意識もなく、そして上だからと威張ることのない良い上司や主君であった。その人とハーネイトが重なって見えることがあるのは、あり方に共通項があったからかもしれない。つまりハーネイトは優しく、そして頼れるリーダーであるということになる。感性は若干他の人とはずれているところが見受けれられるがそんなことは2人とも気にしてはいなかったのである。


「2人ともどうした?」


 沈黙する2人に声をかけたハーネイト。少しして、2人は顔を合わせハーネイトの方を見る。

 

「私たちは、理想的な上司に恵まれて幸せだ!」


 2人が同時に、同じことを大声で言う。事前に打ち合わせしたように1つのずれもなく同じことを言ったことに、ハーネイトは思わず声を出して笑った。


「ハハハ、2人して同じことを。そうか、そうだな。みんなの模範になれるような人であり続けたいな。」


こうして、3人は楽しく話ながら若干ぬかるんでいる開けた道を、バイクで進んでいた。しかしハーネイトは直感で先に何かがいるのを感じて、リシェルに停止するように指示する。


「リシェル、バイクを止めろ!」


 いきなりそう言われ、リシェルは急ブレーキをかけてバイクを静止させる。


「ハーネイトさん!いきなりどうしたんですか?」


 リシェルはバイクを止めさせた理由を聞こうとする。


「 ああ。リシェル、銃のスコープで、道の前方約3キロ地点を見てもらえるか?」

「了解しました。」


リシェルはライフル銃をサイドカーから取り出すと、スコープ越しに遠くを確認する。倍率を調整し、遥か先に飛んでいる何かを見つけた。それはドラゴン、いやワイバーンとよく呼ばれる翼竜が街道の上空をぐるぐると飛んでいる光景であった。


「何かありますか?」

「う、うわっ。これはトカゲ?ドラゴン?、羽が生えている。しかも数は、12、いや15はいる。こちらの進行を邪魔するかのように、街道の上を飛んでやがる。」


 リシェルがスコープ越しに翼竜を見た後、その翼竜についてハーネイトが説明する。リュジスの言っていた、翼竜とはこのことを指していた。


「リュジス爺さんの言ったとおりだ。恐らくゲルニグとその亜種だな。」


 ハーネイトが言うゲルニグというこの翼竜は、全長10m程度、重量600㎏の比較的大型の現住生物である。単体だけならば銃弾を数発打ち込めば倒せるのだが、このゲルニグは集団で連携して狩りをする特徴があり、一体をおとりに背後から数匹で音を立てず襲い掛かり、その鋭い足の爪でずたずたにする。 今回発見したのは兎に角数が多い上に、ハーネイトが能力を用いて遠くから現場を確認するに、地上を通るものすべてに襲い掛かろうとする独特の飛行をしていた。下手に進めば、全員が食料コース直行になりうるだろうと彼はすぐに判断した。


「私も見たいです。さて、すごく、多いですね。故郷の星にはこんな生物いませんでしたね。この星の生態系は不思議な感じがします。」


 エレクトリールは、リシェルから銃を貸してもらいスコープを除く。故郷の星では見たことのない生物を目で見て興奮していた。


「流石ですね、言われなければ、直前まで気づかなかったっす。しかしこのままだと進めませんね。撃ち落としますか?」


 リシェルは、ハーネイトの能力に感謝しながら、突破するために狙撃で撃ち落とすことを提案する。しかしこれに、ハーネイトはこう提案する。 


「そうだな、だがなリシェル。ゲルニグの肉や翼は実は需要がある。」


 並の戦士ならば、ゲルニグの前に成す術もなく、鎧すら貫く爪のひじき、いや餌食になるだろう。しかし彼は魔獣殺しの異名を持つ、対魔獣戦のプロフェッショナルである。そして彼の偉業の1つに、素材の有効利用がある。


 魔獣、現住生物の被害が広がる中、ハーネイトは魔獣退治の中で、倒した個体から既存のものよりも丈夫な素材、効果の高い薬用成分などを次々と発見し、それについて一つの図鑑を作成している。次第にその話は広まり、いつからかそういった素材を積極的に買い取る業者や、加工業者も現れるようになる。 それが結果として経済の活性化と、魔獣被害を間接的に減らすという功績になり、さらに風の噂で話題となって現在では1つの伝説となっている。

 

 ハーネイトはゲルニグの特徴をよく知っており、群れの中のボスを先に倒すと他の個体が激昂するし、かといって周りから倒そうとすればボスが一目散にこちらに向かってくるという習性を把握していた。これが問題である。


「私一人だけならば、突撃してもいいのだが。」

「私もやりますよ。」

「ゲルニグは雷に強い、というか雷雲の中に住んでいるぐらいに耐性がある。それと、素材を狩るんだ。ここは二人にファンサービス、特別にしようかなと思う。任せな。」


 瞬時に解決屋の表情に切り替わり、そうしてハーネイトはバイクの前に立つと目を閉じ、精神を集中させる。


「ファンサービス、一体何を?」


 狙撃しようとしていたリシェルも、ハーネイトの姿を見て動きを止めた。あの程度の数ならば狙撃で1つずつ片付ければよいのにと思った彼は師匠の行動に疑問を抱く。


「これを使うのは久しぶりだ。あまり使いたくはないが、見せてあげよう。」


すると一旦ハーネイトの目が開き、目の色が変化する。右目は虹彩が7色に光り、左目は瞳孔が開いたままになり、青・赤・緑の3つの円を頂点に、3角形を構成したものが瞳に浮かび上がる。そう、彼が持つ忌まわしく恐怖を覚える力を解放する。


「イメージするは、時、物、形。全てを裂く事象。目標確認、位置把握、範囲指定完了。発動!「斬界の魔眼・スクリーン・ブレイク!」


ハーネイトは一瞬瞳を閉じた後、カッと開き、同時に先にいた複数のゲルニグを翼と胴体にきれいに分けつつ、空間ごと断ち斬った。そう、彼の能力は見ただけでその対象、そして世界に対して干渉し、思うがままに書き換える、または何かの変化を与えるものである。他にも違った能力を複数行使できるが、最も恐ろしいのがこれである。まだ完全ではないものの、本来人間ではとてもこの域まで達することはできず、神すらも軽く凌駕する力である。(正確には、目で見た世界を一枚のキャンバスとしてイメージ、脳内で自在に絵を描いたり、切り裂いたりするなど、加工してからそれを現実に反映させる)


「はっ、ん…久しぶりに使ってみたが、燃費はあまりよくないね。」


ハーネイトは地面に膝をつくと、座り込む。能力を久しぶりに開放したはいいものの、燃費の悪さからか少しふらつく。使い続けることでイメージ力がさらに磨かれ消費も減るのだが、この力自体の圧倒的かつあり得ない力に恐怖を覚えているハーネイトは、どこかこれを受け入れられず、使いたがらない。それでも今回使用したのは彼の力を見ても動じず、感動する2人に心を開いたのと、仲間を守りたいがためという事情があったという。


「ハーネイトさん、一体何を?翼竜が空中でバラバラになったのですが?」


 リシェルはその光景をスコープ越しからよく見ていた。確かに、空中を弧を描くように飛行していたワイバーンたちが突然空中でバラバラになったのを。


「ふう、向こうのゲルニグを空間ごとバラバラにした。綺麗に分けたから直ぐに回収だ、急げ。売りさばいて、豪華なご馳走食べようぜ!」

「空間ごと斬っちゃうって。どう言うこと?どんな魔法ですか?」

「それは今度詳しく説明する。バイクを動かせ、素材を回収しにいくぞ2人とも!」

「あいわかった!飛ばすぜ!振り落とされんな!」



リシェルはハーネイトが後ろに乗ったのを確認し、バイクのアクセルを踏むと、バイクをかっ飛ばしてゲルニグがいた辺りまで進ませる。


 ゲルニグがいた辺りまで来ると、ハーネイトが心の中でイメージした通り、ゲルニグたちは地面に落ちてバラバラになっていた。不思議なのは血が全く出ていないことである。ハーネイトはバイクから飛び降りて、バラバラになったゲルニグの羽を集めた。そして羽から先に魔法で小さくし、肉は素早く綺麗に解体していく。


「中々上質だな、期待できそうだ。」


 ハーネイトは上機嫌で、ペン型投げナイフを手に持ちながら、刃先を延ばし、鮮やかに解体する。鮮度を保つため、血抜きも欠かさない。その光景は、マグロやイノシシの解体ショーに通ずるものがある。問題はその光景について、耐性を持たないものが一人いたことであるが。


「ちょ、リシェルさん!何かグロいんですけど!?ハーネイトさん解体早すぎです。吐きそう…。」


 解体の光景を見たエレクトリールは、あまりのグロさに吐きそうになる。それに対し、ハーネイトの爛々とした表情は全く対照的であった。


「お、おう。しかしハーネイトさん、そのゲルニグ、ですか?集めてどうするんですか?」


ハーネイトが肉を処理して、骨と肉をきれいに分けたり、部位ごとにまとめながら袋に詰め込みつつ説明する。


「ああ、ゲルニグは昔から羽を加工して、屋根やテントの材料とかに使われてるんだ。肉は栄養価が高く歩留まりがいいから人気が高いんだ。ただこのゲルニグは東大陸しかいないから、リシェルは知らないだろうけどな。」


 ハーネイトがこうして、無駄のない解体を行えたり、部位ごとに使う用途について詳しいのも、幾多の魔獣を狩り続けてよく研究してきた証である。


「知らなかった。しかし高値で売れるなら、資金についてはなんとかなりますか?」

「まあ多少はね。だけど仲間を引き込んだりするには不安がある。またハントでもして稼がないと。」

「そうですね。この先色々とお金が必要でしょうし。」

「一応俺も金はあるけど、稼げるときに稼いどかないとな。」

「確かに、それにしても大量ですね。バイクに乗りますか?その袋とか。羽の束とか。」


 綺麗に袋に小分けしても、どう見てもバイクに乗りそうにはない量、リシェルはこれをどうするのだと思っていた。


「大丈夫だ、問題ない。」


彼は肉や羽を魔法で圧縮して、小さくまとめたあと、袋に手を触れる。そうすると、次々に袋が瞬時に消滅する。


「あれ、あれだけあった袋が、全部なくなりました。あの、どこに?」


 エレクトリールの疑問に、ハーネイトが答える。


「大丈夫だって、心配そうな目で見るな。いつでも取り出せる。昔から物に触れてイメージすると、それが消えたり現れたりするんだ。」


 実は、この能力もハーネイトの能力の1つでもあるが、元を辿ればエレクトリールも同じ事ができる。「次元力」と言われるもので、世界と世界を行き来するための空間を認識できる人だけが行使できる力である。極めれば次元の狭間に物を直したり召喚したり、自らを底に飛ばし転移や攻撃回避などを行える万能型の能力である。彼が説明した物の収納術について、本人自身が頻繁に違和感を覚えている。何故ならば、一旦収納した物品や武器がどこに保管されているのか、本人ですら把握していないからだ。このことから、現在の状態ではハーネイトはまだ次元の存在について認識ができていない状態と推測される。


「はあ、そうですか…。ハーネイトさんが大丈夫というのでしたら、わかりました。(ああ、ハーネイトさんは私と同じ力を持っている可能性が高そうですね。しかし、次元を理解し、自在に何かを保管、召喚する能力は私たちテコテコ星人だけ。一体何者なんですかハーネイトさん。)」


「考え事か、エレクトリール。」

「いえ、大丈夫です。ねえ、早く日之国に向かいましょうよ!」

「ああ、早く日之国に向かうぞ。」

「了解です。では。」


ハーネイトたちは日が暮れる前には、日之国の近くまで来ていた。平野を抜けると、1つ山を越えて、その先に広がる巨大な都市を3人は見ていた。

 

 その都市の名前は日之国。周囲を小高い山で囲われた盆地に存在する、東大陸の中でも1、2を争う巨大な都市である。他の世界、とりわけ地球から流れてきた人間が集まり、巨大な都市圏を形成している。町並みは基本的に日本の江戸時代のような木造の建物が多く見えるが、中には工場のような施設や、ビルが点在していたりと、独特な様相を呈している。ヨーロポリス連合とは協力関係にあるが、日之国自体で1つの国家となっており、周囲に対する影響は計り知れない。


「規模がすごいですね!今まで見た所とは全然規模が違います。」


 エレクトリールは、異国の情緒漂う日乃国の建物や街並みを見て、声色を変えて嬉しそうにする。


「この日乃国は、伝承によると異世界からの住人たちが作り上げた国の中でもかなり独特な文化を持っているみたいだ。町並みや雰囲気を見れば分かるだろう。」

「た、確かに町並みは今まで見たこと無いものだ。まさかこんな異文化の影響であれはああなったのか。」


 リシェルは街並みや雰囲気に圧倒されつつ、例の忍者について独特な環境があのような奇行に走らせたのではないかと考える。


「さすがに違うのでは?でも用心はした方がいいかもですね。」

「あ、ああ。用心はな。」


3人は日の国の入り口まで来て、巨大な門を見上げる。日之国は4つの門があり、毎日人や物を検査し警備している。それ以外は高さが20mはある巨大な防壁に囲まれており、守りは強固なものとなっている。


「大きいですね…威圧感あります。」

「本当に独特だな。しかし悪くない。守りは大切だからな」

「ん、おい!そこの兄ちゃんたち、日の国へ入るのかい?」


門の近くにいる槍を持った兵士らしき人がハーネイトらに声をかける。東門の門番をしている飛倉といい、長年門の警備や検問を任されている。かつてハーネイトが事務所を構える前、日之国に入ろうとした彼は飛倉に捕まりそうになったことがある。


「はい、そうですが。」

「ん、そうか。……いいだろう。入ってくれや。お久しぶりですハーネイト殿。」

「ははは、今気づいたか?」

「いやいや。お連れさんがいるとは珍しいですな。」

「事情があってね。暫く日乃国に滞在する予定だ。」


 ハーネイトと飛倉の関係は、初めての出会いこそよくなかったが、かつて日之国に迫った危機、巨獣バイドラストから国を救ってくれたハーネイトのことを、飛倉は地上に降りた神様と認識している。軽い調子で話をしている2人は、仲がよさそうな雰囲気である。


「そうですか、どうぞ何度でも満喫していってください。それと、そろそろ門を一旦閉じるから連れの兄ちゃんたちも早く来な。」


 飛倉は、エレクトリールとリシェルを呼ぶ。


「わかった。では、行きますかね。

「ではいきましょう!」


防壁や門のつくりについて2人は観察していたが、声を掛けられるとリシェルが一目散に日之国の中に入り、ハーネイトとエレクトリールも続けて入る。



3人が日の国に入るとそこはまるで別世界のような、しかしどこかで奥ゆかしい雰囲気の町並みが続いていた。国の中央には小高い山、そしてその上には巨大な建物がそびえ立っていた。


「ここはすげえな!町が活気に溢れてるぜ。行き交う人もかなり多いし、情報収集はいいかもな。」

「すごいですね!改めて町の中に入ると、この国が豊かなのが、しっかりと伝わってきますよ!」


二人は他の国や街とはまた違った町並みや人の活気に興奮していた。一方でハーネイトは何かを探していた。


「ん…どこかなどこかな?あ、あった。」


ハーネイトが町中を見渡しながら、何かを探していた。そうしてすぐに、ある一軒の店を見つけ、店の暖簾を潜る。


「ま、待ってください!」

「ハーネイトさん、そのお店は?」


二人もハーネイトに続いて店の中にはいる。


二人が入った店、そこは世界各地の魔物や獣の体の一部や瓶に入った得体の知れないものがずらっと並んでいる、不気味な店であった。耐性のない人ならば、入った瞬間に気絶してもおかしくはない。


「ちょ、ここはなにをとり扱っているんだ、不気味なものばかりだ。」


リシェルが店の商品を1つ1つ見て、時折たじろぎながらハーネイトに店のことを質問する。


「ここは「蔵圏屋」といって、魔物や獣の肉や羽根とかを買い取ってくれるお店なんだ。それと肉や爪など、様々な部位を加工して販売もしている。魔獣から取れる材料は、結構役に立つんだ。私が本を出して以降、こういったお店も増えている。」


ハーネイトがリシェルに説明すると、店の奥から怪しい雰囲気を醸し出している老人が現れる。


「ほっほっほ、これまた若い奴が来たの、ハーネイトよ。」

「ええ、旅の仲間ですよ。」

「そうじゃったか。それで、今日は何の用じゃ?」


この老人は佐倉蔵圏といい、この店の店主である。佐倉がそういうと、ハーネイトは先ほど消滅させた袋を地面に召喚する。ハーネイトはその袋の中から、ゲルニグの肉や羽を数体分取り出して、佐倉に見せる。


「ほう、ゲルニグか。久しぶりに見たぞ。狩るのが難しい影響か、中々入荷できなかったのじゃが。流石ですな、しかも綺麗に解体しておる。1計(1キロ)あたり12万、それが12体分で144万で買い取りたいがどうじゃ?」

「ああ、しかし割りと高く買い取ってくれるのだな、佐倉のじいさん。やはり供給不足で値が上がってるのか?」

「そうじゃな、お主の言うとおりじゃ。ここ数年魔物や獣の類の入荷量が落ち込んでいてのう。だから半年前の倍の値段で買い取らせてもらう。値段はこれでよいか?」

「わかりました。ではお願いします。」


佐倉は肉と羽を確認すると、ハーネイトに144万メリスを支払う。


「毎度ありじゃ、また貴重な素材を手に入れたら回してくれや。」

「了解です。ではこれで失礼する。佐倉の爺さんも無茶しないでくれよ?」

「分かっとるわい。お主も旅の道中気を付けてくれや。」

「はい。ではまたよろしくです。2人とも、行くよ。」

「は、はい。」


ハーネイトは二人を連れて店の外に出る。


「ふええ、なんかすごいもの見ちゃいました。内臓、うっ、慣れてないのはきますね。」

「悪かったな。ああいう買い取り屋があるから、解決屋も儲かるんだ。そして格安で魔獣退治もできる。うまく回ってるね。」

「はい。ああいう店、私の住んでいたところにはなかった。それにしても様々な肉や薬がありますね。」

「そうだね。リシェルのいたところではあまり魔物が現れないからこういう店は馴染みがないだろうが、この大陸の各地に買い取り屋が存在している。リシェルも小金稼ぐならハントもいいぞ?」

「た、確かにそうだな。そんときはお世話になろうか、あはは。」


話ながら宿探しをしていると、いつの間にか日がほとんど沈み、設置された街灯に明かりが灯っていく。ハーネイトらは人通りの多い通りを歩く。


「しっかし、どこに泊まろうかね。」

「そうですよね。思ったより宿がないですよね。」

「根気よく探すしかないっすかね。」


3人が話していると、ある和服姿の女性がこちらに駆け寄り話しかけてきた。


「そこのお方は、ここに来るのは初めてですか?」

「私は何回も来ているが、連れが初めてでね、案内でもしてくれるのか?」

「そうですね、お話をしながら、そこの2人さんにこの国の説明でもしましょうね、ハーネイトさん?」

「やれやれ、お蝶さんは相変わらずですね。私のこと分かっていてそういうのですか?」

「フフフ、少し言ってみたかっただけですよ。それにあれからここに来ていなくて、私寂しかったのです。」


 彼女は、お蝶という日乃国の住民であり、諜報員として現在は活動している。また不審な人物がいないか見回りも行っている。昔魔物に襲われていたところをハーネイトに助けられている。諜報員になったのも、昔の事件の後、悩んでいるハーネイトを少しでも助けたいと思うようになり自ら諜報員として志願している。彼の人となりや振る舞いに、彼女は好意を抱いている。


「しばらくここにいるから、また話すこともできる。しかし相変わらず不思議な人ですね。そういや城が暗いが、夜乃一王は外出中か?」


 そういうとハーネイトは城の方を見る。普段明かりが灯っているはずの部屋が暗いのを確認しお蝶に尋ねる。


「ええ、ここ最近の情勢を踏まえて、他国と会談を行っています。今日辺り帰国するのですが、あっ、噂をすればほらっ。」


お蝶が指差すと、およそ100人前後の兵が、中央の機械のような4足歩行の物体を守るように、こちら側へ向かってくるのが見える。」


「確かに、一行が帰ってきているな。見に行ってみるか?」

「いいんですかね?失礼にならないようにしないと。」

「そうですね、失礼のないように。ハーネイトのお仲間さん?」

「了解です。」


4人は城に向かっている王の一行の近くまで向かう。そのときハーネイトは人混みのなかに殺気を感じ、走りながらも警戒する。


「明らかに、殺意を感じるな。私相手ではないとして、足取りと人の数からして、もしかすると…。戦闘準備だ。こっそりとついてきてくれ。」


ハーネイトがみんなに小声で呼び掛ける。それに応じ、お蝶も含めた3人は呼び掛けに頷き、それぞれ武器を用意する。その頃、町民の中に隠れて不穏な動きを見せようとする者がいた。


「へへへ、今日であの夜乃一の天下も終わりだぜ。」

「いつまでもデカイ顔させるかってな。ドグマなんたらの支援を取り付けるにはこうするしかないってな。」


何やら話している3人組がいた。どうやら夜乃一王の命を狙う輩のようだ。夜乃一の乗る、四足歩行のカラクリが近づくのを待っている。そして数分後、彼らは人混みの中から飛び出し、からくりめがけて突撃を仕掛ける。


「っと!ハーネイトさんの読みが的中か。そうはさせねえ!トリニティブレッドショット!」


リシェルは1番前を走る侍に、素早く愛用のシングルアクションリボルバーをホルスターから抜くと、目にもとまらぬ速さで3連射し、武士の足に全弾命中させ転倒させる。


「いってえええ!な、っ。何が起きた!」

「逃しはしません、はあああ!」


エレクトリールが、籠に駆け寄る2人目の侍に、掌から発した電撃を放ち、感電させて動けなくする。


「ぐおあああああああ!ビリビリするっ!ああああんっ!」

「こ、この!せめて刺し違えてでも!」


 倒れる2人を見て、最後の1人が決死の覚悟で刀を構え、何としても籠に迫ろうとする。

その瞬間、ハーネイトはコートに隠していたペン型投げナイフ2本を素早く投擲、武士の首と右足のふくらはぎに命中させる。


「なんだと、うっ、さ、作戦は失敗、か。畜生…!」


ナイフがあたり、武士が苦しみ出す。ハーネイトが使うペン型投げナイフは数十種類あり、中には麻痺や毒など追加効果を与えるものも存在する。武士はペンの内部に仕込まれた麻痺毒により手足の自由が効かなかった。


「フッ、大したことはない。夜乃一王も無事みたいだし、良かった。」

「お見事です。流石ですね。」

「御用だ!貴様らよくも殿を、現時刻、貴様らを逮捕する。覚悟せい!」

「おのれおのれ!離せ貴様ら!」


騒ぎを聞きつけ、駆けつけた日の国の警備隊数人が、暗殺を実行しようとした侍3人を次々と拘束し、本部のある建物まで連行する。


「あの方たちのことは御用警察に任せましょう。ありがとうございました。ハーネイト様とお連れの方。名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「俺はリシェルだ。リシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルトだ。」

「私はエレクトリールです。エレクトリール・フリッド・フラッガと申します。」


 2人はそれぞれ自己紹介をする。


「ええ、ありがとうございました、リシェル様、エレクトリール様。」

「へへ、こんなの朝飯前だぜ。」

「はい、未然に防げてよかったです。ハーネイトさんはよく気づきましたね。」

「ああ、殺気とか気配とか、少し見ればよくわかるんだ。まあとにかくよかった。」


ハーネイトらが話していると、からくりの中から、背丈は160㎝ほどの、紺色の袴と漆黒の羽織を着た青年が向かってきた。側にはお付きの侍数人がおり、少年を守るように付き添う。


「ハーネイトさん、誰かがこちらに向かっていますよ?」

「夜乃一王だな。失礼のないように。」


王とお付きの侍は、ハーネイトらの前で立ち止まる。すると侍たちは全員その場に座り、深く一礼をする。それに対し、ハーネイトもすぐに地面に膝をつき、頭を下げた。


「まさかとは思ったが、またそなたに助けられたな。ハーネイトよ。頭を上げてくれ。」

「お久しぶりです。元気になされているようですね、夜乃一王。お怪我はありませんか?」

「うむ、私は大丈夫だ。しかし、私には硬くならなくていいぞ、昔からの仲ではないかハーネイト、それとお蝶らのお陰で助かった。」


 安須野夜乃一青嵐、彼は機士国で建国当初から、長年にわたり統治をしている安須野家7代目領主である。年は18で、普段は落ち着いた雰囲気を出している。数々の政策を実行し民を安心させている君主であり。家臣らからの評価も歴代で最高だと称されている。そして戦いとなれば自ら出陣し、国民を全力で守る一面を持つ表情からは捉えることのできない、熱い心を秘めた青年である。この世界においてよく発展しているところは、領主は特定の一族が代々引き継ぎ、国を管理しているということである。この夜之一も7代目であり、この過酷な世界において長らく国を維持できているのも彼の手腕によるものが大きい。


「そなたらにも礼を言わなければな。名を何と申すか?」

「私は、エレクトリール・フリッド・フラッガです。エレクトリールと呼んでください。ハーネイトさんと共に旅をしています。」

「俺はリシェル・トラヴァコス・アーテンアイフェルトといいます。長いからリシェルと呼んで欲しいです。」


 2人は、夜乃一王に深く礼をする。夜乃一王も、2人に握手を求め2人ともそれに答える。


「そうか、リシェルとエレクトリールか。ハーネイトと共に旅をしているとはな。何があった。明日は大雪でも降りそうだなハハハ。」


 夜乃一は、ハーネイトに対し、再度旅を初めた理由を聞く。ハーネイトは、DGや機士国王のクーデター事件、そして機士国王の保護について話をした。


「うむ、実は私も同じ案件で他の国や街の領主と、情報交換や今後の対策について会談をしていたのだが、やはりか。機士国王は無事だと聞いて、ほっとした。流石英雄王だ。」

「そんな英雄王だなんて。はい、私らが見つけ、今は私の事務所にいます。近衛兵含め無事ですよ。」

「それは良かった。心配したぞ。さすがハーネイトだ。そうだ、今から私の城へ来てくれぬか?続きを聞きたいからな。それと助けてくれた礼だ、3人ともいくらでも泊まってゆくとよい。」


 夜乃一は、ハーネイトの話を聞き、にこやかな表情でそう問いかける。久しぶりに再会したのを祝いたく、そして話を詳しく聞きたい夜乃一の計らいでもある。


「そうですね。ではお言葉に甘えさせて頂きます。」

「私は、先程のやつらから情報を引き出してきますので一旦失礼します。また会った時は、時間を取って旅のお話を聞かせてくださいね?」

「約束しよう。」

「ありがとうございます。では失礼いたします。」


お蝶はそういい、その場から立ち去ると、喧噪が絶えない人混みの中に消えていった 。


「 宿の心配がなくなって、この国の王様も無事で、本当に良かった。」

「そうですね。それにしてもハーネイトさんは顔が広いですよね。」

「ハーネイトは長年世界各地で活動しているから、それで自然と顔や名前を覚えられるのだろうな。彼には、不思議と人を引き付ける魅力があると感じる。ささ、城へ向かおうかね。八紋堀も心配しておるだろう。」


夜乃一と付き人、侍らに案内され、ハーネイトたちは小高い丘の上にある城に向かう。2人は道中も、城下町の景色を見ながら、今まで見てきた町とは違う雰囲気を感じていた。そして城の城門が見えたとき、門の方から一人の男が走りながら向かってくる。ハーネイトらは構えるが、彼の姿がはっきりわかる距離まで来るとハーネイトは刀を納めた。


「ご無事ですか!夜乃一王!賊に襲撃されたと聞いて駆けつけようとしましたが、無事だったようで何よりです。」


 男は、王の前に来ると、息を切らしながら体を曲げて呼吸を整えようとする。彼は、八紋堀影宗といい、日乃国に仕える侍であり、王様の腹心でもある。特殊な剣術『文斬流』の使い手であり、かつてハーネイトと勝負した際にも、ハーネイトとほぼ互角の力で名勝負を繰り広げた。厳格な風貌だが、中身は意外と緩いところがあり、また異常な味覚の持ち主である。夜之一からも注意されるほど、唐辛子を食品にかけて食べるという辛党である。


「ああ、この通り無事であるぞ。しかし慌て過ぎだ、八紋堀。」

「はあ、すみません…な、隣にいるのはハーネイト殿ではないか!ははは、もしやハーネイトが助けてくれたのか?」


 八紋堀はハーネイトに気付き、興奮して声を上げる。


「うむ、ハーネイトと隣にいる彼らが私を助けてくれたのだ。危なかったところだった。」

「誠に申し訳ありません、ハーネイト殿。またも殿を助けてくださるとは、頭が上がらないですな。おお、お主らも済まなかったな。名を何と申すか。」

「リシェルと言います。ハーネイトさんのもとで修行しています。」

「私はエレクトリールと申します。ハーネイトさんの旅に同行している者です。」

「八紋堀影宗: そうかそうか、リシェルとエレクトリールか。改めて感謝いたす。」


八紋掘は深々と礼をする。


「はは、とにかくこの国の王様が無事で何よりっすよ。しかしこの様な事件はよくあるのですか?」

「実は過去に2回あった。以前も、たまたまこの国を訪れていたハーネイト殿に救われておるのだ。」


「ハーネイトさんはやはりすごいですね。」

「あれから親交が深くなって、たまに夜乃一王から依頼を引き受けたり、こちらも支援を受けたりしているんだ。しかし夜乃一王、先ほどあなたを襲った奴らは、同じく日乃国の出身のように見えたが、新たな勢力が現れたのか?」

「ああ、そうなのだ。しかも、あれに関わることかもしれん。」


 夜乃一は最近起きている事態を説明する。夜乃一は親交の深い機士国王の意見に賛同し、軍縮を行おうとした矢先、反対派が手を組始めたのだ。それは半年ほど前に起きたことであるという。そして、その集団は一つの組織を作り、八頭ノ葉と名乗るようになったという。


「八頭ノ葉と名乗ったやつらは、代々この国の防衛に関わってきた武人が中心となって組織を作り上げているようだ。軍縮で利益が減るのを怖れたのだろう。謎の勢力と最近は手を組んでいるとかな。」

「まさかその勢力もドグマ・ジェネレーションズとかじゃ、ないですよね?」

「な、お主らも知っておるのか?」


 八紋堀の表情が変わる。機士国の異変が、ただの内乱ではないことはすでに把握済みであった。そして、18年前に起きたDG来襲事件についても話をする。


「ハーネイトさん、またドグマ・ジェネレーションズの名を聞きましたね。てか奴ら昔からいたのか。」

「まさか、師匠は……。ああ、奴らは知らぬ間にかなり影響力を持っているようだ。」

「お主らも知っておるとはな。それだけ有名と言うことだな、悪い意味で。」

「幾つもの星を滅ぼしている以上、その危険度は言葉では言い表せないですね。」

「恐ろしい奴らだ。速やかに退去してほしいな。さてと、もう城につく。話の続きは後でだ。入ったら案内の者に従い動いてくれ。旅の疲れをとるとよい。」


一行は巨大な城の門を通り、坂道が続く城内へ入るのだった。


 ハーネイトが城に入ったころ、日之国から500㎞以上離れた、DGの拠点の一つではボルナレロが、もう一人の白衣の男と口論になっていた。


「だから、人間を魔獣化させなくとも、この私の技術で魔物を操れば計画に支障はないだろう。貴様のやることは危険すぎる。」

「それならば、貴様のやることも危ないのではないのか?人が魔獣になれば、それに対抗することはできる。リスクも、研究の進歩でなくなるだろう。」


 二人は、拠点内にある会議室で話をしていた。もう一人の男の発言に、ボルナレロは言葉を重ねる。


「しかし、それで戻らなくなった場合はどうするのだ?そもそも、この星の人間ではない貴様に、この星の何が分かるか!」

「そういうお前らも星を食い尽くそうとして、破壊しようとしてきたではないか。」

 二人は意味深な発言をしながら口論を繰り返す。


「ふん、とにかく、貴様の蛮行は私が阻止する。」


 そういい、ボルナレロは会議室のドアを勢いよく開いて外に出た。ボルナレロは、ハーネイトと会った後悩んでいた。機士国にいたころ、ハーネイトが研究に関心を持ってくれたこと、そして研究のヒントを与えてくれたことを思い出し、自身が行っていることに罪悪感を持っていた。


「フフ、私も、非情に徹しきらんようだ。できる事ならば、彼の元に行きたい。あの機士国王を助けた男とはいえ、私のことも認めてくれた。こうなったら、あの男の研究データと、DGの構成員リスト、戦力詳細について彼に渡そう。何でも密かにエージェントたちも動き回っているというが、こうして内部に潜り込めた私の活躍も認めてほしいものだな。」


 ボルナレロは今まで、研究を否定されたことに憤り、狂っていた。初心も見失い、悪魔となっていた彼は、ハーネイトの優しさを思い出し、元の理性的な、人のために研究する男に戻っていた。この1人の心境の変化が、DGの作戦を狂わせていくことになるとは、誰もが予想だにしないことであった。同時に、ハーネイトのやや異常とも取れる器の広さや優しさが如何に恐ろしく、敵にとって脅威となるということも。











 リシェルを仲間に加え、ハーネイトの能力の一部が判明するこの第4話。そして独特の文化を持つ日之国と、そこに迫る脅威。彼らはそのすべてを打ち払い、敵の正体に迫ることはできるだろうか。そしてボルナレロの心境の変化にも期待が寄せられる。

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