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第十四話 残酷な真実とハーネイトの危機、そしてその正体

ハルクス龍教団の教祖、セフィラからの依頼でルタイボス山で苦しんでいる龍の治療をすることになった。能力を駆使し龍を治療すると、龍は人の形になり感謝を述べつつ、ハーネイトに残酷な真実の一部を伝える。その後城に戻るハーネイトの体に異変が起きる。


 そして謎の白い男がDGの基地を襲う理由とは、そしてミザイルたちが属する「天神界」とは。そして明かされるハーネイトの正体とは。

ハーネイト遊撃隊 14



ハルクス龍教団の教祖、セフィラからの依頼でルタイボス山で苦しんでいる龍の治療をすることになった。能力を駆使し龍を治療すると、龍は人の形になり感謝を述べつつ、ハーネイトに残酷な真実の一部を伝える。その後城に戻るハーネイトの体に異変が起きる。

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ルタイボス山の麓が見え、其の頂にいる龍に会いに行くためハーネイトら3人は、険しい山肌に沿ってすいすいと飛行しながら頂上に向かうのであった。


「飛行魔法か、久しぶりに使うな。まあ素直に山に登るよりかはましだけど。」

「確かにな、俺様はいつも浮いているが。」


 通常ならばルタイボス山まで頂上に辿りつくには一日半かかるが、その十分の一の速さで上りつつ、互いにこうして山を登ることにおかしさを感じ話をしていた。


「ハーネイトは魔法使いよね?その割りには魔法使いのイメージがないのです。私を一流の魔導師にしてくれたのに。」


 リリーは日頃の疑問を彼にぶつけた。そういう理由は、彼が魔法使いと言う肩書もありながら積極的に攻撃魔法を使う所をリリーはあまり見ていないからである。


「この前も黒蝶矢や極光一宇、混魂光弾とか使った。魔纏剣とか属性付与、大魔法以外に、日常的に火を起こしたり、飲み物冷やしたりするのには魔法は便利だからそういう所でね。」

「日常的なのに使う魔法って地味っぽい。」

「だがそれも大切だ。ジルバッド……大魔法を使うたび、師匠との修行の日々を思い出す。」


 彼はジルバッドの言っていた言葉をふと思い出し、昔師匠と共に暮らし、魔法に明け暮れていた時のことを思い出していた。


「そうか、思い出か。俺は思い出したくないことばかり何でな、前しか見ない。」

「伯爵らしいわね。まあそこはハーネイトも見習ってほしいわ。」

「ああ、そうなんだけどね。」


 伯爵の前向きな姿勢をハーネイトも参考にして欲しいと願うリリーであった。


「しっかし、俺の部下たち今頃何やってるんだかね。」

「部下…。って他にも仲間がいるのか。聞いたことなかった。」


 伯爵の発言にハーネイトはえっと驚く。確かに考えれば、伯爵の他にも同じような存在が来ていてもおかしくはないと考えてはみたものの、そのイメージが思いつかなかったのである。


「あれ、そうか?みんな俺を追いかけにこの世界に来ているが。話したことなかったけな?」


 少しとぼけたようにそういう伯爵に、リリーは会った感想を笑いながら答える。


「ああ、あの人たちね。面白かったわよ。まさに個性の塊よ。」

「あいつらここ最近バンドとかやっているみたいなんだが、なんだそれは。」

「音楽を演奏する集団のことだ。ああ、昔世界一のミュージシャンを目指す男に出会ったが、何してるんだろうか。白銀の髪におしゃれな髭が印象的な男だが。」

「そいつにもまた会えると…ってちょっと待て。」


 今度は伯爵がその発言に驚く。部下たちからの通信によれば、活動中に出会ったとある男と意気投合していると言っていたのを思い出し、その男がハーネイトの言った特徴の男とほとんど合致していたのである。


「たぶん、そのミュージシャンだっけ?俺の部下と一緒にいそうな予感が。」

「ははは、そうかそうか。って何でだ?」


 一旦伯爵の言葉に納得するもすぐに驚き返すように突っ込むハーネイト。世界の広さと狭さをまたも2人は感じたのである。


「この世界は本当に不思議なことだらけだ。広いようで狭く、数年に一度現れる巨大魔獣に時歪門、DGに侵略魔、過酷で刺激のある世界かもしれない。ああ、みんな。そろそろ頂上だ。」


世界の不思議についてハーネイトは話しつつ、いつの間にか頂上に辿りついた3人は開けた、霧の立ち込める山頂に足を下ろして辺りを確認する。


「山にしては、頂上が異常に広い。こんなのは初めてだ。闘技場でも立ててみるか。」

「ここに家建ててみたいぜ。」


 あまりの頂上の広さにハーネイトも伯爵も冗談交じりにそういう。そのとき、霧の奥から呻くような、低く震える声が聞こえてきた。そして、山が激しく動くほどの振動を伝わせながら巨大な龍が霧の中からゆっくりと現れた。


「ぬ、う…貴様らは…誰だ。」

「貴方が霧の龍ですか?」

「そう、だが。」

「私はハーネイト。ハーネイト・ルシルクルフ・レーヴァテインだ!」

「お前が、セフィラから、聞いた名前の男だ、な?何をしに来た。」


 霧の龍、ウルグサス・ミストラス。長年このアクシミデロに住んでいる全長100mは優に超える巨体を持つ魔龍である。しかしその目は弱弱しく、苦しそうに時々呻いていた。彼らに話しかける声もとぎれとぎれであり、相当衰弱しているのが見て取れる。


「セフィラから、貴方の病を治してほしいと依頼されてきました。」

「帰れ…。私は、もう先は長くない。」

「そんなこといわないでくださいな?霧の龍さん、ダメもとで私に任せてはもらえませんか?確実に治す方法があります。」


 明るい営業モードで接しつつ、確実に治すという意思表示をする。龍も彼の言葉に強い意志を感じ、半ば諦めていた龍は彼に話しかけた。


「わた、し、は…。DGというやつらの罠にはまり、南大陸の方にのさばった奴等を追い出したものの、やつらにこれ、を、打たれてな。」


霧の龍は、首を下げて、顎にある謎の装置と、その周囲にある病変を見せた。


「これが、悪さをしているのか。動かないでくださいよ?イメージするは、時、物、形。全てを改変する事象。目標確認、位置把握、範囲指定完了。発動!「領域改変現象コピーリザレクション


ハーネイトが力を纏い、目を変化させ、魔眼を使う。霧の龍の首から腹にかけて、幾つもの出来物があり、これが龍の体力を奪っているようだ。これに対し、龍の体の無事な部分を切り取るようにイメージ、腫れたところにそれを上書きしてペタペタと張り付ける。張り付ける度に、龍の体は綺麗になっていき徐々に険しかった龍の表情も和らいでいく。


「はあ、はあ、これでどうだ。あとは機械を取り除いて、回復魔法だな。」


彼は龍の顎にとりついていた機械を再度目視で確認、ジャンプしつつ足と背中にイジェネートでブースターを形成し飛翔する。そして龍を傷つけないように刀で素早くバラバラに壊す。そしてすっと地面に着地すると水が流れるように魔法詠唱を始め、癒しの魔法風を龍の体にまんべんなくかけていくのであった。


「全てが元に戻る風、癒しは万里を越え世界を満たすだろう。あらゆる傷と病から立ち直れ、大魔法が91の号、万里癒風ヒールリペアウインドはあ、これでもう大丈夫。どうですか?」

「何という力だ、これが願望機の力か。私はもう大丈夫だ。ありがとう、幾多の苦難と力を背負いし者よ。」


 目に見えるように龍の体力は回復し、その青い眼にも光が戻る。この時ハーネイトは龍の放った一言についてすぐさま質問をした。


「願望機、とは?」

「まあ焦るでない。礼に、真の姿をお見せしよう。」


龍は光に包まれ、しばらくたつと、一人の青年の姿に形を変えていた。蒼銀の腰まである長い髪に、燃えるような赤と青の瞳、薄緑色のゆったりした服を着て、時折吹く強い風に服をたなびかせながらも、こちらを優しく見つめていた。


「これが霧の龍の正体、なのか?」

「巨大な龍が、人間に?」


 2人は人間になった龍を見てそれ以上の言葉が出なかった。そもそも伯爵もリリーも異世界から来たものであり、実際に小説や物語であるような光景を自身の目で捉え見ることになるとは思ってはいなかったのだ。


「改めて、私の命を助けてくれてありがとう、ハーネイトよ。」

「は、はあ…。」


 先ほどの威厳のある声から一転し、人の姿になった龍の声は若く透き通るような声であった。


「そうかしこまらずともよい。私の名は、ウルグサス・ミストラス。俗に龍人と呼ばれている。」

「龍人、聞いたことがない。もしかして、ミストラスは山の神様といったものですか?」

「それは、半分は当たりだ。確かに遥か昔から、この南大陸で暮らし長らく生きてきた。私を信仰するものからみれば、神様とも呼べるだろうがな。」


 ウルグサスは丁寧に、ハーネイトの質問に答えた。そして彼はハーネイトの全身をくまなく観察する。


「残りの、半分については?」

「私は天神界というところにかつていた。本来はこの星の生まれではない。それはハーネイトもだ。」


 ウルグサスの突然の発言に声を思わず上げるハーネイト。


「な、な、私が、この星で生まれ育っていないと?そんな冗談を言わないでください。」

「残念ながら、ハーネイトは別の世界からこの星に来たもの、つまり私と同じようなものなのだ。」

「は、はは、そんな馬鹿な話があるか。冗談にもほどがある。私は古代人の力も使えるし、ここの魔法も数多く行使できる。一体何を根拠に。」


 ハーネイトは、霧の龍の言う言葉を信じず、一蹴しつつこの星で育ったことをウルグサスに証明した。


「そうだぜ、ハーネイトの言うとおりだ。」

「そうだな、疑問に思うところは数知れぬ。だが、真実かどうかは調べればわかるだろう。」

「それは、一体…。」

 

 虚言とも取れるそのウルグサスの言葉、しかしハーネイトにはそれは嘘の言葉には聞こえなかった。だからこそ狼狽していた。


「古代文明、ハルフィ・ラフィース。かつて恐るべきほどの力を持つ文明がいた。」

「話には、聞いたことがあります。その文明はある時を境に、突然滅亡したと。」

「確かにそうだ。しかしその滅亡の原因に迫れば、ハーネイトが異世界から来たのに、古代人の力も、そして体の中にある不可思議なその力、そう、全ての疑問に大きく迫れるだろう。そしてそのカギは、天神界の人間たちが持っており、彼らはこの星に来ている。」


 目を閉じて、余裕のある表情をなぜか見せるウルグサス。


「それで、すべてが本当にわかるのですか?その天神界人と言うのに話を聞けばよいのですか?」

「およそといったところかな。ハーネイトは自身の手で答えを得ないと納得いかない性格をしていそうだから。」

「否定は、できませんが少し意地悪、ですね。はあ…。


 ウルグサスの思わせぶりな言葉に振り回され、ため息がふと出る。このウルグサスの話が本当なら、ますます自身に関する謎が深まるだけである。もういっそのこと、残酷な真実を突き付けられればすべてを受け入れて吹っ切れてしまいたいともハーネイトは思っていた。それほどに、憔悴していたのであった。


「それと、体に眠っているある物を起動させなければ、命が危ない、ってどうしたのだ、ハーネイト。」

「いや、本当に自分が何者なのか、さっぱり分からなくなってしまったよ。」

「ならば、真実をその眼で見て納得し、その力をどう使うか考えるといい。しかし1つだけ言えることはある。」

「それは何でしょうか。」

「貴方が願えば、その強大な力はすべて意のままに操れる。呪われた体でさえも乗り越えることもできよう。そしてつまり心を強く持てば、最悪の結末には決して至らないということだ。それが願望機の力である。」


 ウルグサスはハーネイトを困らせてしまったことを詫びるため、一つの既に分かっていることについて話をした。それは彼が最も恐れていた、力の暴走で大好きな人や物が傷つくことについてであった。そしてそれは精神力の強さでどうにでもなると龍は丁寧に説明した。


「心を強く持て、ですか。願望機、そんなものが本当にあるというのか、まあいいか。その言葉、覚えておきます。霧の龍さん、また話ができる機会を望んでいます。」


「分かった。近いうちにまた会うことになる。それとだ、もし私のような格好をし、なおかつ黒髪で紅い眼をした男に出会ったら気を付けるのだ。」

「貴方に似た人がいるのですか。しかも気を付けろとは?」

「その男こそ、ハーネイトのすべてを知っているからだ。そして、天神界人でもある。」


またも思わせぶりなことを口にし、ミストラスは、再度龍の姿になる。


「さあ、背中に乗るとよい。迷霧の霧が晴れるまで少し時間がかかる。」

「本当に、ウルグサス様は人を振り回すのがお好きなようですね。そいつが、天神界と言う世界の人間か。覚えておこう。さあ任務は果たした。さて報告は…。」

「それならば、私が直接セフィラに会おう。送り届けてからな。」

「セフィラさんはあなたのことをすごく心配していました。元気な姿を早く見せてあげてください。私たちはやらなければならないことがあります。」


 リリーのその言葉に、ウルグサスは更にもう一つ言葉をかける。


「ハーネイトよ、早く本当の力を出して今起きている事態を解決するのだ。そう願っているものは多いと考えている。」


 ハーネイトはその言葉の真意が分からず考え込む。


「まあそれを考えながら、日之国に戻ろうぜ。」

「あ、ああ。……そうだな。」

「では早く乗るとよい。」


こうして3人は、ウルグサスの背中に乗り、日之国まで送ってもらうことにした。


「あ、あれ…力が急に。」


 ウルグサスの背中に乗り、空の旅を満喫する3人であったがハーネイトは自身の体に異変を感じる。急激な虚脱感と立ちくらみ。それでも抗おうと彼は足に力を籠める。しかし今にも倒れそうな状況であることは変わりがなかった。


「お、おい。どうしたんだハーネイト。」

「な、何でもないよ。少し疲れた、だけ。」

「でもひどく顔色が悪いわ。」


 ウルグサスもハーネイトの異変を感じ取り更に速度を上げて上空を駆け抜ける。

 ハーネイトの体に異変が起きている頃、日之国にある天日城内部では問題が今にも発生しようとしていた。


「なんでこの城にこいつがいるのだ。」

「やれやれ、あの事件の犯人か。」

「天月御陽:この場で捕らえようか?」


 南雲の顔を見た機士国側の反応がおかしい。それに気づき南雲も立ち上がりルズイークらに突っかかろうとする。


「今この場で争うつもりですか?私たちはマスターであるハーネイト殿の命に従い機士国王の発令した作戦に参加している次第であります。」

「何だと?ハーネイトは何を考えているのだ。何でこんなやつらまで。」

「こんなやつとは失礼ね。貴方たちこそ何ですか。」

「落ち着け風魔。マスターが戻ってくればどうにかなる。」


 風魔も立ち上がり反論しようとするも南雲がそれを止める。険悪な雰囲気を察し、シャムロックが止めようとする。見た目に反し、南雲は大人の対応をとってこの事態を収拾しようと冷静に立ち回ろうとする。


「これは、大変な事態かもしれませぬ。貴方たち、喧嘩をするためにここに来たのですか?違うでしょう。」

「ぐぬぬ、確かにそうだが。」


 その時、八紋堀に連れられて部屋に戻ったリシェルとエレクトリールはルズイークたちの顔を見た。


「る、ルズイーク先輩!まさかこんなところで会えるとは。」

「リシェルか!あれからろくに連絡も寄越さず心配したぞ全く、はははは。」


 先ほどあれだけ怒りに満ちていた表情を見せていたルズイークも、リシェルの顔を見るな否や途端に表情を変える。


「元気にしていて何よりだ。ハーネイトにはちゃんと会えたんだな?」

「はい!おかげさまで今は見習いとしてハーネイト師匠に弟子入りしています。」


 2人の姿を見てアルが声をかける。


「:リシェルか、あれから大きくなったな。」

「お、お爺さん!何で?」

「いろいろあってな。そうだ、吉報があってな、レミングスとレイナはエージェント・カイザルにより救出された。」


 アルは自身の孫たちが、弟子であるカイザルにより救出された旨を伝えた。


「兄貴と姉貴が?はあ、本当に良かった。」

「リシェルさん良かったですね。」

「ああ。これで心置きなく戦えるな。しかし別動隊がいたとはな。」


 リシェルはDGに捕まっていた兄と姉の無事を聞き心から喜んでいた。

 

「エレクトリールか、あれからどうだ?」

「はい、おかげさまで。順調に仲間を集めています。」


 リシェルはアルの報告に大喜びし、ルズイークはエレクトリールに話しかけ何があったのか、詳細を一通り聞いた。


「確かにそれも大切だ、よくやってはくれている。しかし王様はハーネイトのあの伝説をもう一度見たいとも考えておられる。と言っても彼のコンディションは最低の状態だからな…。」

「伝説、ですか?」

「ああそうか、そうだったな、エレクトリールは詳細を知らないだろうが彼の起こした伝説の1つを教えなければならないな。」


 ルズイークはそうして、畳に座ると昔起きたことを思い出しながらエレクトリールに話をする。


 ハーネイトがリンドブルグに事務所を構える3年前に、機士国はとある国の侵略を受けようとしていた。西大陸の資源と覇権をめぐる戦い、ガムランの丘と呼ばれる広大な丘陵地を巡り今は無き軍事国家グランダー国が機士国に、2千万人ともいわれる強大な兵力を持ってして首都に迫ろうとしていた。しかしその戦いはわずか数時間で終わり、二度とそのグランダー国が攻め入ることはなく、その後その国は国内の内乱で国自体が滅亡したのである。

 その原因、いや機士国に勝利をもたらした人物こそが解決屋ハーネイトであった。その当時機士国の先にあるコマト遺跡の存在を知り、足を進めていた彼は偶然その戦場に居合わせた。押し寄せる軍勢に驚く彼は応戦したものの倒しても途切れないその戦力に圧倒されかけていた。その時にギリアムやカイザルと言う男たちに助けられ機士国側にひとまず身を寄せることにした。ハーネイトはこの時にアレクサンドレアル6世と出会い、自身の能力を活かした一発逆転の方策を提案した。王も最初は疑ってはいたものの、彼の噂を聞いていた王はハーネイトを全力で支援する命令を軍に出す。そして目下に迫るグランダー国の兵士たちおよそ2千万人に、忌まわしき魔眼の力を行使したのだ。見たものすべてに、戦闘する気力を失わせ、自動的に本国に帰るように歩かせる呪いの力。ガムランの丘を埋め尽くしていた軍勢はすべて、数時間後には形も影もなくなっていた。こうして双方血を流させずに兵を引かせ、結果的に戦争を終結させた彼の功績を、アレクサンドレアル6世は高く評価し、のちに後まで語り継がれる解決屋の伝説の一つとなったのである。


「は、はあ?確かに遠距離を問答無用で切り裂くあの力はすごいですが、もっとすごいことを、彼は行っていたのですね。と言うか、絶対ハーネイトさん人間の域超えてますよ。」

「かもな。そして国王もすっかり彼のファンとなり、ある条件と引き換えに2年間、ハーネイトを手元に置いておいたのだ。だからこそ、今回の出来事も早く終わるものかと思ったのだが。はあ。」

「ハーネイトさんはああ見えて慎重派ですよ。敵の情報がある程度出揃ってから一気に攻める予定なのでは?」

「彼は人質について懸念していたのだろう。それについては別動隊が既に手を打っている。それを早く伝えなければな。そろそろ国王もしびれを切らしそうだ。」


 エレクトリールは改めて、彼の影響力の高さと恐ろしさ、そしてどれだけ周りから期待されているかを理解した。


「ガムランの丘、か。誰もが知る血が流れなかった戦争。エレクトリールの言う通り、もはや人間の域超えているよ。」

「そんなところにしびれるし、尊敬するわ。ハーネイト様から直接話を聞けた私は幸せ、フフフ。だけど、今のままじゃハーネイト様、いつ倒れても…。」


 忍たちはそれぞれハーネイトに対し思っていることをいう。風魔は忍の里で彼にしてもらった話を思い出しうっとりしている。そして心配もしていた。


「私たちのことは蚊帳の外か?」

「あのなあ、向こうで睨み合っている2人を早く止めてほしいのだが。」


 アレクサンドレアル6世との話の後、全員の話に加われなかった夜之一は、部屋の向こうで睨み合っていたダグニスとミレイシアについて言及し見苦しいから早く止めろと命じる。


「このこそ泥ネズミが。一体何の権利があってこんなところにいるのですか?」

「うるせえなあ!そういうあんたこそ何の権利があってハーネイトの兄貴にあんなひどいことしているんだよ。」

「あれはすべて将来、彼が王様になるために必要な勉強です。」

「兄貴にそんな野望はないって。めんどくさがり屋で無欲なところがあるのは分かっているでしょうに!ロイ首領も前にそうおっしゃっていたではありませんか?」


 2人の言い争いは収まりそうにない。そんな時ミカエルとルシエルが支度を整えて夜之一に会いに来た。


「貴女方は誰ですか、ってきゃあああ!!」

「うわわっ!魔法使い?このっ!」


 ミカエルはミレイシアを、ルシエルはダグニスを魔法で拘束し黙らせる。


「もう、ハーネイトに会えると思ってここまでまた来たのに。うるさい人たちはこうですよ!」

「話は姉から聞きました。私たちも作戦に参加させてください。」


 2人の魔女がそれぞれその場にいる全員にそう伝える。


「ミカエルさん、来てくれたのですね!」

「そうよ、魔女は約束は絶対守るもの。任せなさい!」

「変わった人ばかり集まっている。これもハーネイト様の力?」


 ルシエルの素直な言葉に全員が困った顔をする。あながち否定できないのが何とも言えず、夜之一が高らかに笑う。


「ハッハハハハハ!確かにそうであろうな。本当にハーネイトと言う人物も困ったものだ。」

「どうしてこうもアクの強い連中が集まるのだろうか、誠に不思議だ。」

「まさにその通りですな。これだけの曲者揃いを不思議とまとめ上げてしまう。」

「確かに、やれやれ。否定はできない。本当に面白い男だと私も感じますよ。」


 2人の率直な感想に、2人の王や八紋堀、ルズイークを始めその場にいた人たちは確かにそうだと理解した。そして段々と部屋中に満ちる険悪なムードも和らいでいった。


 その頃霧の龍は3人を連れて日之国の麓まで来ていた。


「くっ、体が動かない。そ、んな。」

「どうしたんだ本当に。なあ、しっかりしろ!」


 伯爵がハーネイトの体を揺さぶりながら気を確かにと声をかけ続ける。しかしその反応はだんだんと弱くなっていくのであった。


「伯爵、城が見えてきたわ。こうなったら私たちだけで城まで彼を。」

「もちろんだ、すまんがドラゴンさんよ。ハーネイトの容体が思わしくない。」

「分かっている。彼は力を使いすぎた。真の力を解放せずに、そう。願望機の力を使わずに異能の力を使ったばかりにな。今の状態では限界があるというのに、それを知らずに使えば、結果はこの通りだ。そこの、伯爵といったな。これを渡しておく。」

 

 ウルグサスは伯爵の手に一枚の鱗のようなものを魔法で渡す。


「こ、これは。」

「一時的に彼の力を回復させるアイテムだ。しかし、根本的解決には伯爵、貴様の力が必要だ。彼の体のすべてを知る男よ。」


「そこまで、お見通しとは参りますね。…とにかくまずはハーネイトを。では一旦失礼する。ハーネイト、しっかり捕まれよ。」

「待ってよ伯爵!」


 すでに返事をする気力のない彼を抱きかかえ、伯爵は龍の背中から飛び降りる。そしてリリーも後を追うように降りて滑空していった。


「しかし、人ではない超生命体が存在するとはな。しかし今は彼に託すほかはない。同じ女神に作り出された、悲劇の超生命体たちよ。」


 そういい、霧の龍は急いでベストラのある町の方角に飛んで行った。 その頃アレクサンドレアルが信頼を置くカイザル・ロギュードは機士国から少し離れた所にいた。

 

「ふうむ、ハーネイトよ。早く事態を収拾しなければ敵が新たな手に打って出る。」


 研究者の中でも特に重要な人物の救出に成功するも、敵の魔獣や機械兵の軍団を相手に大振る舞いをするまでの力は彼にはなく今の現状をもどかしんでいた。


「秘密拠点に研究者たちを避難させてきたが、兵力の数だけでは圧倒的にこちらが不利だ。まだ他に兵の生産拠点があるのか。」


 カイザルはそう考察していた。敵がこうして人以外の兵を利用出来ているのは研究によるものであり、そこさえ潰せば大きく敵の足を遅らせることができると考えていたものの、予想以上に敵側の研究が進んでいたことを彼はまだ把握できていなかった。


「かつてハーネイトと行動を共にした連中も蜂起して戦ってはいるものの、いつ戦況が覆るかわからない。集めた情報によれば白い男と言う存在がDGに拠点に攻撃を仕掛けているというが…。」


 いつ揺れ動くかわからない、不安定な天秤。敵拠点が謎の男に襲撃されている予想外の出来事を踏まえても、どう転ぶか未だわからない戦況をそう例えカイザルは山から遠くに見える機士国の方角をしばらく見続けていた。


 ハーネイトの身に危機が迫る中、DGの幹部でありスパイであるミザイルは、北大陸のとある小拠点で白い男の話を聞き、ある人物を思い出していた。


「単騎であれほどの動きができるやつは、あの男を除いて、私が知る限りでは一人しかいない。


 ミザイルは飲み物を口に含みながら書類を手に取り内容を確認していた。長年DGに密偵として活動していた彼は、DGは自身が本来所属する天神界の活動ですでにまともに機能していなかったことを踏まえ、そろそろことに出ようと画策していた。DGが真にアクシミデロを狙う理由、その目論見を完全に叩き潰すために。一方で白い男の介入。ミザイルは苦笑しつつも文章を目で追っていた。


「天神界には3つの派閥がある。その中でも最も少なく、しかし強大な力を持つ男。」


 ミザイルはその実、その男をよく知っていた。互いに立場は違えども個人的な付き合いは長く、そしてあのNEMO計画のもう一人の実験体。オーダイン・スキャルバドゥ。今は白夜と名乗っているその男こそ、天神界の介入で弱体化したDGに追い打ちをかけている張本人であった。


「穏健派に属し、災厄魔の解放をよしとせず、あの写真の男を探す彼がこの星に来ているとはな。私は災厄魔をもってして人類の文明調節を図る方が効率的と考えてはいるものの…。」


 彼曰く自身が属している天神界には幾つかの派閥があるという。白い男、オーダインと言う男は天神界の目的である人類の人口調節により文明レベルの調整をするということには賛同するも、その手法について主流派に対し異議を唱えていた。ミザイルはその主流派に属し古代より伝承に伝わる者を用いてその目的を果たすことこそ、かつて彼らの先祖が引き起こしたある大事件に対する罪滅ぼしになり、なおかつ彼ら以上に恐ろしい計画を考えているソラに対し意識を逸らすことに繋がるではないかと考えていた。

これはどういうことかと改めて説明すると、オーダインはかつて計画にあった、超位生命体というソラと言う存在から与えられた「願望機(願望無限炉)」と天神界の超技術を用いて作られた神造兵器で目的を達成しつつ、自身もそれに同伴し創造主である人物に力を見せることで災厄魔の復活を阻止しようとしていた。ミザイルが属する解放派は逆に神造兵器の計画に欠陥があり、自身らが結果として同じ過ちを繰り返す可能性に言及、伝承として、また実在するこの世全ての生物を支配する災厄魔を開放することこそ、目的の達成と悲劇、そう。文明が進みすぎ発展した超技術による次元融合崩壊現象を二度と引き起こさせないという覚悟を見せ、生命体ソラによる気まぐれで行われる人理抹消と言う最悪の事態、その介入の阻止を図ろうとしていた。ハーネイトたちの知らないところで、このような事態が起きていたのである。


「今度彼と出会ったときは、刃を交える必要があるかもしれないが。だが、もしその写真の男が本当にあの兵器だとしたら。」


 ミザイルは思う所があり、席を立つと部屋の外に出る。そして会議に向かうためDGの幹部が一人、ヴィぺム星人のオーレフの元に向かうのであった。白夜が来たということは、自身の仕事ももうすぐ終わる。潮時でありそのけりをつけるため内側からDGを破壊しようとし、オーレフを殺そうと考えていた。


「いやあ、かの昔は繁栄を誇り多くの星を滅ぼしてきた宇宙人たちも、見る影も形もないね。」


 北大陸の中央部に存在するコーレノードと言う中規模都市。DGの手に落ち彼らの重要な拠点の一つとなっていたが、その拠点は今、形もない状態であった。

 町の中央部にある時計塔の頂点に立ち、顔に似合わない高い声で自身が行ったことをどこか棚に上げてそう言う白い男、白夜・ノーザンクロノ・フォルカロッセ。本名オーダイン・スキャルバドゥ・フォルカロッセと呼び、この星とは違う次元から来た人物である。


 腰まで伸びる長髪に七色に光る虹彩、顔立ちも体つきも美しく、まさに人形が命を吹き込まれたかのような存在であった。白い外套、白を基調としまとめた服装。神の使いと言われれば納得がいくかのような存在感を周囲に与えるそんな男。その彼が、イジェネート能力を使いDGの軍勢にたびたび襲撃を掛けていた。


「我が弟にして、最強の存在。比類なき力を持つ者。あの時私がしっかりしていれば…。」


 白夜はそっと目を閉じ、昔のことを思い出した。

天神界の裏切り者、Dカイザー。彼がかつて人間を率いて天神界を襲撃した事件があった。その時に白夜の弟にしてNEMO計画の技術の粋と超位生命体の力を組み合わせ作られた彼は生後半年にして行方不明になったのである。その時のことを思い出して、自身の無力さを嘆いていた。


 そう、その弟こそがハーネイトであった。自身も含め、天神界の計画の元生み出された人類に対する制御装置、そしてジョーカーである超兵器、いや神造兵器と呼ばれる存在であった。


「ああ、弟よ。お前はどこで何をしている。」

 

 長年の追跡調査でDカイザーが弟を誘拐したことは分かっている。そして、そのDカイザーがこの星にいること、実は侵略魔であったこと。そしてハーネイトが彼らの本来の故郷、アクシミデロにいたことを。そして白夜には気がかりなことがあった。何も知らずにこの星に連れてこられ、どう成長し何を見てきたのかが。遺伝子改造を徹底的に施され、半ば純粋であることを細胞単位で強制されている彼が残酷な世界をどう捉えて、どう理解しているかを。


 強い北風が時計塔に襲い掛かり、その寒さに外套をしっかり羽織る白夜。


「私に言い渡された任務は弟の捜索、そしてもう一つ。」


 白夜は天神界の総帥であり統治者である父から2つの任務を言い渡されていた。弟であるハーネイトを探すことに加え、そのもう一つである天神界を作り出した全ての元凶を探し出し、それを狙うDGを殲滅することであった。その二つの任務は、そう遠くない未来に同時に達成されることになるとはこのとき彼は予想だにしていなかったのである。


「荒れるな、この先。」

「ポー、主に危機が訪れている。」

「まずいな、英雄伝説もここまでか?」

「そうさせてたまるかホ。こうなったらわれらも日之国まで向かうホ!」


 ハーネイトの事務所にいた4匹の彼の使い魔は、全員が主の危機を感じていた。黒豹の猫又、ニャルゴにワタリクロオオカラスのワニム・フニム、カムドフクロウのウェンドリット、そして花鳥と言う魔界の生き物プロッポー。4匹は決意を固め、全員で日之国まで向かおうと全速力で向かおうとしていた。


 ハーネイトは霧の龍から彼にとって聞きたくなかったことを聞いてしまいました。そして白夜と言う男が語るハーネイトの真実。しかし彼本人はそれを知らず、力の使い過ぎでショック状態に陥ります。彼を治すカギは龍の鱗と伯爵の力。伯爵はどう動くのだろうか?

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