第十話 森の魔女と龍教団、ハーネイトの過去
リシェルと南雲の喧嘩も収まり、城に戻ろうとした一行。しかし今度は街の門から大狼が現れ、ハーネイトと伯爵が応戦する。それが魔女の仕業であるとわかり、その魔女に事情を聴くと迷霧の森の先で、事件が起きていることを知ったのである。それには、全てのドラゴンを崇めるというある教団が事件と関与しているという推測を全員で立てたのである。
ハーネイト遊撃隊10
忍たちを連れ、日之国に戻ったハーネイトたち。しかし、帰還したのもつかの間、町を突然巨大な狼が襲う。ハーネイトはすかさず応戦するも、それは魔女のしかけた罠であった。捕まったハーネイトは、魔女の街につれて行かれそうになったのだが…。
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郷田の呼び掛けに応じ、ハーネイトたちは城に向かう。しかし、突然、町の南門からドスンドスンと、何かが全速力で走る衝撃と音をその場にいた全員は五感で感じ取った。
「何だ一体、おい、後ろからでかい狼がこっちに来てるぜ!」
「あんなでかい狼はみたことがないでござる。¥
南雲と伯爵は振り返りながら、その狼の姿を目で捕らえ、すぐに戦闘態勢に入る。
「あのレベル、恐らく野生の獣ではない。プログラムトレースオン、トリコード!」
彼は遠くからその狼を目で分析していた。XFAプログラム「トリコード(トリコーダー)」は特定の条件を事前にプログラムし、条件に合致するものに更なる分析をかける魔眼系統の技の一つである。そしてその狼の魔力量について瞬時に分析をした。そうすると、どうも彼の見立てでは誰かと契約して呼ばれた獣である可能性が高いと判断した。理由としては、魔力の値、つまり凝縮率と、魔力の質が自然由来のものでなく、獣の中にある魔力と不純物の割合が召喚獣の特徴である9対1であったからである。
「ほう、確かにこのでかさは、野生でもお目にかかれないほど異常ではあるな。」
「確かにそうだがおい、応戦するのか?」
「そうだな、みんなは先に戻って。こいつは俺がどうにかする。本体さえ叩けば問題ない。」
ハーネイトは方向を変えて、刀で体の前面を守る体勢となり、巨大な狼を迎え撃つ。
「すぐに増援を呼んでくる、暫し待たれよ!」
「気を付けてくださいよ?」
「ああ。さあ、早く行くんだ。」
「どうか気を付けてくださいね。」
そうしてハーネイトを除く他全員が、城に向かって猛スピードで走っていった。
「やれやれ、帰って早々これとは、ついてないな。」
巨大な狼は、その場から動かす、ハーネイトだけをその瞳に写していた。
「きれいな魔力が体を満たしているみたいだ。召喚獣の場合、魔力は術者依存、しかも術者の魔力精製度は非常に高い。つまり……。」
彼は、その大狼を召喚したとされる術者のポテンシャルの高さを魔力の質で判断しつつ、近くに術者がいないかどうか目を閉じ、意識を集中させて周辺を警戒する。すると狼は彼の行動を見るな否やいきなりハーネイトに襲いかかる。
「っく、いきなりか。獣らしいな。ぐぬぬぬ、!」
ハーネイトは、狼の鋭い爪を素早く刀の腹で受け止め、押し返して狼を吹き飛ばす。
「この狼をどうにかせねばな。街中で大暴れでもされたら被害は尋常ではない。」
彼に勢いよく吹き飛ばされた狼は、空中で姿勢を建て直し、地面に着地した。そして、再度ハーネイトを睨み付け、威圧する。
「しかし、何だこれは。私の足止めが狙いのような。」
そう考えつつハーネイトが目の前の狼をどうにかしようと考えていたとき、突然狼は吠えて、ハーネイトの足元に突然青白い魔方陣が現れ、動きを封じる。
「魔方陣だと?41番か。防御が間に合わないか。」
突然のことに一瞬驚くも、すぐに冷静になり今使われたのは41番の極点寒陣だと理解した。
「しかし周囲に術者がいない、まさか、こいつらか!」
「ハーネイト!」
大魔法で足元を凍らされ拘束されたハーネイトをすかさず助けようと、伯爵はハーネイトの元に駆け寄る。彼はハーネイトが心配になり指示を聞かずこうして来たのだ。しかしそれをみた巨狼は、ハーネイトの体に噛みつき、瞬時にその場を立ち去る。あっという間の出来事でさすがの伯爵も、一瞬状況の理解に頭がついていかなかった。
「お、おい、ハーネイトを返せや!くそ、敵はかなりの手練れか?おもろいやないか!」
伯爵は興奮し、独特の口調で叫ぶ。そしてハーネイトを捕まえた狼を追いかけるため、体を霧状に変えて超高速で追う。
「何て早さだ、食らいつくで精一杯や。しかも迷霧の森の方角に進んでやがる。」
狼が街の出口に差し掛かる。すると、門の中央に一人、堂々と誰かが立っている。
「離せ、離せ!こうなったら!
「止まりなさい、シルバーファング。」
ハーネイトが掌から魔閃を放ち狼の動きを止めようとした時、門の中央に一人誰かが立っていた。そして向かって来る狼に命令すると、大狼は4本の足すべてでブレーキをかけ、目の前で止まった。その人物の声の高さと容姿から、女性であることがわかった。
「いい子ね、シルバーファング。連れて来てくれてありがとう。もう休んでいいわよ。」
そう言われると、大狼シルバーファングは投げ捨てるようにハーネイトを口から吐き捨てて解放し、女性が持つ金属の試験管のようなものの中に狼が吸い込まれた。それを彼女は服の中に直す。彼女の名はミカエルといい、青いロングドレスを着た、腰に幾つもの試験管や杖が身につけられている、茶髪で赤眼の女性である。
「痛たっ、はあ、いきなりなんてことするんだ。あのさあ、あまり手荒いのはよくないよ?というか、誰だ?」
「あら、そういうときは先にあなたが名乗らないと?まあ分かっているから、こうしてきてもらうのだけどね?」
ハーネイトは立ち上がりながら、目の前に立つ女性に質問する。どうも、彼女はハーネイトのことを知っているようだ。そしてその上で召喚獣を使い、ここまで連れてきたのではないかと推測する。
「それで、こんなことして何のつもりか?ひどいなあ。」
「あれ、あなたあの手紙のこと知らないの?」
「手紙だと?何のことだ。」
彼のその言葉に、女性の表情が青くなる。
「これは不味いことになったわね。てっきり私たちがこの国に送った手紙を見ているかと思って、要求を飲んだのかなと。」
「あのさあ、つけてきていたならわかるんじゃないのか?手紙読む前にこうして連れ去られたんだけど。」
「うっ、済みませんでした。」
ハーネイトはミカエルのことを心の中で、相当うっかりさんなのではないかと思っていた。そしていきなりあのような方法で連れてこられたことに憤り、普段見せないような表情を見せつつ事情を聴こうとする。
「要求ねえ、しかしやり方が荒いしなんか雑だし。」
「なによ、こっちはね、ハーネイトの力をどうしても借りたくてここまでやって来たのよ。」
彼女はやや喧嘩腰になって、彼の力を借りたくてそうしたと説明した。
「依頼か、ならば事務所に連絡してほしいのだが。」
「だーかーら!あなた南の方までほとんど来てないじゃない。事務所の場所も住所もよくわからなかったし、だからどうして頼めばいいか分からなかったのよもう。知り合いに貴方がここ最近このあたりにいるって教えてくれたからこうしてどうにか顔を見ることができたんですからね。」
彼女はそう言い、呆れつつ顔をうなだれる。
「それはどうもすいませんでした。霧のせいでまともに森を抜けられない、つまり南の方に足を運べないのだ。それで結局どうしたいのだ?」
「こっちは、こっちは、グスン、うわーん!」
女性がいきなり泣き出した。ハーネイトは忙しい人だなと思いつつ、どう落ち着かせようか考えていた。その頃、八紋掘たちは城に着き、夜之一のいる部屋まで全速力で駆けあがり夜之一に事の次第を報告していた。
「というわけで、只今ハーネイトがその狼に応戦しております。」
「八紋掘、なぜその場に残らなかった?他の者もだ。伝達は一人で事足りるであろう?」
夜之一は、八紋掘の対応について言及し、それで本当に良かったのかと尋ねる。その言葉に、その場に居合わせた全員の表情が焦る。
「とっさのことで、対応を誤ったとしか言えないです。」
「私も一緒に応戦すれば…。空気に呑まれるとは未熟ですね私。」
「何をしている、悔やむ暇があるなら、すぐにハーネイトの元に行くのだ。大丈夫だとおもうが、もしその狼が魔法使いの手下と考えた場合、先程の手紙と含めても不安だ。」
彼は悔やんでいる暇があるならすぐに加勢しろと伝える。
「早く向かわないとな、では拙者は先に!」
南雲は城の窓から飛び降り、滑空する。
「ちょ、まちなさい!ハーネイト様から単独行動禁止と言われたでしょ!」
南雲の後を風魔が追いかける。南雲は行動力については誰よりも俊敏なところがあるが、これが方向音痴と合わさると問題があるのだ。そうならないために、風魔はハーネイトに南雲の監視を頼んでいた。
「では私らもいくぞ。夜之一様、失礼します。」
「らしくないミスだな。次はそうならないようにな。」
「ハーネイトさん、今向かいます!」
残りの全員も急いで部屋を出て、ハーネイトの元に向かう。その少し前、ハーネイトは泣いているミカエルと話をしていた。
「ど、どうしたのだ。いきなり泣き出して。」
涙を流しつづけるミカエルに対し、どう対応すればいいのか判断を迷っている彼。そしてミカエルは細々と話し始める。
「妹とお母さんが変なやつらに捕まって、身動きがとれないの。助けようにも結界が…。」
「何、誘拐案件か。私の他に他に助けを求めているのか?」
ミカエルの言葉を聞き、真顔で話を聞くハーネイト。事実なら、早く救出に向かわなければ取り返しのない事態が起こりかねないだろう。そう考え、さらに詳しい話を聞く。
「助けを求めようにも力を貸してくれる人が他にいないし、その結界は魔法ぶつけても壊せないの、ぐすん。どうすればいいのか分からなくなって、その時あなたの事と友人の話を思い出したのよ。
事情を聴きながら、ハーネイトは見た目に反して幼く見えるその女性の頭を無意識に、軽く撫でて落ち着かせようとする。そのとき、サルモネラ伯爵と、さらにその後ろにリリーが来て、ようやくハーネイトに追い付いた。
「はあ、何て早い獣だ。あれ、獣のかわりにかわいい女の子がいるな。」
「伯爵いきなりスピード出しすぎよ。あとあまり色目使わない。」
伯爵はリリーに、頬をつねられた。
「つつ、わかったよ。フッ、無事のようだな。」
「伯爵、リリー!ああ、どうにかな。」
彼はやれやれだといった感じで伯爵に無事であることを証明した。
「ハーネイトらしくねえな。普通ならあの程度避けられるだろ?」
「術者が直接目の前で詠唱していれば余裕だったが、そうじゃないケースだと防ぎづらい。誰だって調子の悪いときはある。」
「それもそうだな、まあそういうことにしとくさ。しかし、おいおい。何女の子泣かせてるんだ?ハーネイト。
伯爵が少々意地悪なことを言いハーネイトは軽くからかう。
「ち、ちがうって。話してたらいきなり泣き出してさ。俺が泣かせるわけないだろ?」
「そうね、泣かされるなら前にあったみたいだけど。」
「それは言わないでよリリー。何でもこの女の人、妹と母親を何者かに誘拐されたみたいなんだ。」
彼は伯爵とリリーにも事件の概要を説明する。
「本当に?それは、ひどいことをするものね。場所は分かっているのね?」
「そうだな。それとすまないがお嬢さん、名前と職業は?」
「ひぐっ、私は、ミカエル・ドロシー・ステア。魔法使いよ。魔女の街ルーフェに住んでるの。」
改めて名前と職業を3人は確認し、ルーフェという言葉を聞いた伯爵はそれに関してあることを思い出した。それは今から約一月前、伯爵の腹心であり連絡係のリステリア広報官からとある報告が挙がっていたことである。内容は、魔法使い、しかも治癒魔法の使い手が多い魔女を中心に謎の失踪事件が起きていること。そしてその裏に、DGとは違う組織が暗躍してる可能性があるというものであった。そのうえ、その組織がルーフェの近くの町にある可能性を、報告書は示唆していた。
「ルーフェ、もしかすると。教団の仕業かもしれないな。」
「ハルクス龍教団、か。あの龍ばかり信仰している集団だな。」
ハーネイトも風の噂で聞き、独自に調査を進めていたため伯爵の言葉をすぐに理解する。約4年前にできたとされる信仰集団「ハルクス龍教団」は、すべての生きとし生けるあらゆる種類のドラゴンをひたすら崇め、なおかつ他の神々の存在も否定をしない多神・ドラゴン教の集団である。
「部下からの報告で気になったことがあってな。最近魔法使いが行方不明になる案件があったという。そしてその地域がルーフェ付近らしい。」
リステリアたちからの報告と地理的な状況を合わせて分析し、伯爵が早速一つの答えを出す。しかし接点についてまだ考えがまとまっていなかったハーネイトは伯爵の言葉に驚く。何よりも、ハルクス龍教団は非好戦的であり、慈善事業はすれどおとなしい集団であったため、周囲の国家や街も特段注意を払ってはいないのである。
「唐突だな。しかし報告が来ているのなら事実なのだろう。藍之進が話した霧の龍の存在と教団の関係と行方不明になる魔法使いたち、何か繋がりがあるかもしれない。」
「ああ。霧の龍はここ最近具合が悪いみたいだと、あのおっさんから話を聞いた。ハーネイトも聞いたはずだろ?」
藍之進から以前聞いた会話の内容の中には、迷霧の森が周辺に住み着いた霧の龍の仕業によるもので、霧の濃度から何らかの異変が龍に起きているのではないかと考えており、余裕があれば確認してほしいと言われていたのだ。
「霧の龍の産み出す霧の濃度が上がって、有害な状態まで上がっている。その龍に異変が起きている。そして。」
「龍の異変は、奴らにとっては一大事。神様が病気になったものみたいだからな。」
龍教団の崇めるシンボルが病気になれば、そこに属しているものならば誰もがその存在を治そうとするだろう、そう伯爵は指摘した。
「そこで、龍の異変を治せそうな魔法使いとかを見つけては、さらって脅迫でもして治してもらおうと考えてると?治癒魔法使い自体が珍しい存在ではあるが。
「そう考えると、捕まった魔法使いたちも普通に元気にしてそうね。殺す目的ではなさそう。」
彼らの推測を聞き、ミカエルも冷静さを取り戻し、話をする。
「どこでその情報を手に入れたかはともかく、そういう状態なのよ。ルーフェの南西方向にさらに街があるんだけど、そこにハルクス教団の建物があるの。私は薬草の採集をして町の外にいた際に、友達から妹と母が何故かその街にいると聞いて向かったのよ。少し前から2、3人行方不明にはなっていたからもし貸し手とは思っていたの。」
「こうなると、大体証拠は出揃ったかな。もう伯爵一人でいいんじゃないのかこれ。なんか自信なくす。」
彼は改めて、伯爵の情報網の広さと能力に驚愕する。ハーネイトがやや不本意ながらも危険な存在である伯爵をそばに置いているか。それは伯爵の手綱を握っておきたいのに加え、全世界を網羅するほどの情報の広さを持つからである。そのため今回起きている事件も伯爵自身はよくわかっており、その気になれば伯爵だけでも問題解決はできる。しかし彼の性格がそうさせず、今の状況を楽しんでいる節があるためハーネイトも心のどこかでやきもきしていた。しかし実際は、この能力にも制約があり伯爵も多用はできないし、あまり目立つと伯爵本人が怪しまれて動きづらくなるという辛い状況でもあった。
「へっ、こちらも伊達にハーネイトのやってきたこと見ている訳じゃねえよ。情報収集ならば、俺の方が上だからな。部下に街の様子は見張らせている。」
「伯爵の力については、否定は、できないな。さて、その街までいって、ミカエルの妹と母親を助け出さないとな。」
「しかし、相手は並みの魔法使いなら捕らえる術がありそうな相手みたい。大丈夫なの?」
「確かにな、先程のだとハーネイトが捕まりそうだわな。」
先ほどのミスについて2人はハーネイトにそう言う。それに対し彼はこういい、作戦があると説明する。
「言ってくれるね、こうなったら外側からあれ使って結界吹き飛ばす。それならリスクも低いからな。」
「あれって?」
「それは、結界吹き飛ばすときに見せる。とりあえず、夜之一領主に報告しないとな。」
ハーネイトが肩の力を抜き、城の方をみる。すると城の方から八紋堀や南雲たちがやって来る。
「ハーネイトさんは無事だな。」
「伯爵さんもいる。いないと思ったらそこにいたなんて。」
リシェルはハーネイトが無事であることを確認し、風魔が姿を見せていなかった伯爵の姿を捉える。
「それと、青い服を着た女性もいますね。」
「用心せよ。あやつ只ものではない。」
エレクトリールはミカエルを確認し、八紋堀は警戒せよと全員に伝える。そして全員がようやくハーネイトたちのもとにたどり着いた。
「はあ、はあ、ハーネイト殿、ご無事ですか?」
「はい。それと街の被害もないですよ。しかしびっくりですよね。」
彼は八紋堀に被害の状況を説明する。道路に獣の足跡はあれど、すぐに整備できる。建物などへの被害を出さないように気を付けていた彼は辺りを見回してホッとする。
「もしかしてハーネイトさんが食べられちゃうのではないかと心配でした。」
「はは、それは大丈夫だって。それよりも、仕事の依頼が入った。この人を連れて、城に戻りたい。」
「ハーネイト殿、まさかとは言いたいが、そやつ手紙を送った魔女か?」
その言葉に八紋堀の表情が厳しいものになる。それを見てハーネイトが彼女が置かれている状況を説明する。
「確かにそうですが、八紋堀さん、少し落ち着いて。このミカエルさんは、私に誘拐された家族を助けてほしいとここまで来たのです。粗っぽいし雑な手口ですが。」
「申し訳、ありませんでした。ご迷惑をお掛けしてしまって。」
ミカエルはその場で深く反省の礼をした。
「一度報告するため、城に戻りたいが、ミカエル、城で暴れるとかしないでね?さっきの話から見て、殺すために誘拐したとは思えないし、まだ猶予はある。」
「はい。ルシエルとビルダーお母様は無事なのは分かっています。」
「やれやれ、今回はハーネイトに免じてやるか。しかし、妙な真似をするなよ?彼の信用に傷をつけることはするな。」
「はい、わかりました。」
その後、ハーネイトたちはミカエルをつれ、城の中に入る。いつもの大広間の部屋で、夜之一が待っていた。
「只今、帰還しました。夜之一領主様。」
その言葉に、夜之一は突然立ち上がり、ハーネイトの前に来るとこう言った。
「遅いぞ!てっきり迷霧の森から帰って来れなくなったと心配したぞ、この大馬鹿者っ、無事で何よりじゃ。」
ダグニスのレーダーで位置を把握していたものの、それでもよほど心配したのか、ハーネイトの体に夜之一が抱きついた。
「領主様。私は大丈夫です。何があっても絶対に戻りますから。」
「約束してくれ、この先の戦いに絶対勝って、またこの国を訪れてくれることを。あまり無茶をしてくれるな、ハーネイトが居なくなるのは死ぬほど寂しいぞ。」
夜之一はいつになく彼のことを心配していた。昔から暗殺の危機に何度も晒され、信用できる者が少なかった夜之一。だからこそ心置きなく話せて、信頼できるハーネイトのことを心配していたのだ。気持ちを伝え、落ち着いた夜之一はまたもとの席に戻る。
「ふう、さて。お主がこの手紙を送った本人か?」
夜之一は手紙をミカエルの方に見せながら言う。
「はい、その通りです。」
「いきなりこのような文章が来て驚いた。本来ならば、逮捕して場合によって懲罰もありうるのだが、何か理由があるのだろう。ハーネイト絡みなら仕方ない。話してみるといい。」
「は、はい。どうしても彼の力を借りたくて。」
「ふうむ、事情を一から話してくれ。」
ミカエルは、ハーネイトや伯爵以外にも、家族が誘拐された件と教団に関する話をした。
「やれやれだ。ハーネイトも罪深いよのう。」
夜之一も先ほど伯爵がそうしたように、嬉しそうに軽く意地悪なことをいう。人気者だなと遠回しに言っていたのである。
「人の悪いことを言いますね、あの霧の先にはまだ行ったことがないのですから。」
ハーネイトは、彼が意外なことを言ってきたことに苦笑いしていた。最初に出会ったときは冗談などとても言いそうにはなく、常に人を疑っているような表情を見せていた夜之一が、いつの間にか表情を豊かにして話していることに安心していた。そして改めて森の先には行けていないことを伝える。
「しかしハルクス龍教団か、以前この国に関係者が来たときは、過激な集団には見えなかった。」
八紋堀は、数年前に教団の使者が日之国に来たことを覚えており、それについての印象を話した。使者が来たのは、支部を置きたいので許可を頂きたいという内容であった。結果として、日之国が管理している周囲の街での支部の設置を許可し、無事にその場を収めたという。
「しかし、そんな奴らが今では魔法使いをさらっている。目的がさっき言った通りならば、まだましなんだろうが。」
「しかし、ミカエルの家族が心配ですね。」
南雲と風魔がそれぞれ教団について思ったことを口に出す。
「ここは、行ってみる方がいいと私は考えます。」
エレクトリールは、早くミカエルの家族たちの救出に向かうことを提案する。
「しかし、これが罠であることは否定できないと考えている。もしもハーネイトまで捕らわれたらどうしようもないぞ。」
「いや、それはすでに対策を考えました。捕まるような真似はしませんよ。それと、霧の龍とやらに会ってみたいし、森の先を抜けてどうなっているか少しだけ調査をしたいです。奴らがどこまで南側に来ているかをね。」
彼は救出のついでに龍とDGに関する調査を提案する。それにより行動について許可をもらいやすくしようと考えていた。
「エレクトリール: 私も気になります。その龍の調子がおかしいのでしたら、ついでに治したほうが、今後の仲間集めや拠点作りに有益に働くと考えます。
ハーネイトとエレクトリールは作戦における見返りについて説明を行った。機士国奪還作戦の時もそうだが、エレクトリールも戦闘に作戦考案と、戦うことにおいては多種な方面に優秀であることを彼は認めていた。
「うむ、確かに一理ある。よかろう、ハーネイト。解決屋としてしっかり仕事をしてくるといい。褒美は梓屋の団子全種類3本ずつでいいか?」
夜之一は2人の説明を聞き、その行動を承認する。そして報酬は日之国で有名な和菓子屋の団子でいいかと聞いてみた。
「現物支給とは、はは。終わったらみんなで食べましょう。」
夜之一がまさかの現物支給を提案することに思わず笑うハーネイト。確かにいくら調査と言えども、そこまで日之国本体に有益な話ではないし、それでも何か褒美を挙げたかった夜之一の考えを察したのである。
「しかし、エレクトリールは軍師みたいだ。あいつの考えたシステムさえあればなあ。部隊を複数同時運用して敵の拠点を効率よくつぶせるのだが。」
「システムとはな。機士国辺りの技術か?」
「そうです。昔機士国にいた際に知り合った研究者の考案した、地図の情報をリアルタイムに伝え作戦指揮や支援ができるシステム「RTMGIS(リアルタイム地理情報システム)」と言います。これさえあれば死鬼隊や私の教え子たちなどとの連携でド派手に動けるのですがね。」
ハーネイトは研究者ボルナレロの技術を詳しく知っており、今回の作戦においてボルナレロを確保でき次第大規模攻勢に移る予定であったと全員に伝える。それができれば、あの伝説の力を見せてあげられるとも伝えた。そう、ハーネイトは慎重に動きつつ、着実に作戦の準備をしていたのである。3から4部隊を結成し、それを分散させつつ、北大陸の北端まで戦線を押し込み、集まったところを一網打尽にしたいと夜之一たちに説明する。
「お主の狙いはそれか。道理で今までらしくない慎重な進軍をしていたわけか。確かに戦略に地図は欠かせない。しかも話によれば広範囲の指揮も可能ではないか。ハーネイトの移動力を考えれば全部隊の戦線維持は容易だ。中々ぶっ飛んだ作戦ではあるが、私好みだ。」
「ふええ、ハーネイトさんの方が地味に恐ろしいと言いますか、考えていますね。」
「問題はそのボルナレロの居所がよく分からんと言うことだ。他にも研究者がいるかもしれないし、できるだけこっち側に引き込めれば事実上勝ちです。」
夜之一の言葉に現在足りない要素について説明をする。
「分かった、至急その男や研究者たちについて情報をかき集めよう。」
「お願いします。南雲と風魔も他の忍者たちと会った時にそれを伝えてくれ。こっちもアレクサンドレアル6世と協力して捜索や調査に当たっている。仲間たちの方はある程度めどはついているから問題ない。」
ハーネイトは改めて忍たちに指示をし、実際に作戦を行うメンバーについては目処がある程度ついたと説明する。
「おおう、例えば?」
八紋堀が興味津々に、ハーネイトのかつての仲間たち、と言うか成り行きで親密な関係になった人たちについて聞こうとする。
「私の教え子が今23名、バイザーカーニアから120名、そのうち魔法使いが45名。更に死鬼隊12人と騎士之国レイフォンから5名、ゴッテスシティから12名のブラッドラーと一人のオカマ、さらに個人個人で凶悪な力を持つものが28名と、今はそんな感じです。少ないとお思いでしょうが、正直全員たちの悪さは私と同レベルです。全員DGを潰そうとうずうずしています。」
ハーネイトは嬉しそうにそう言い説明した。その妙な戦力の構成に夜之一が大笑いする。
「ハッハッハハハハ、なんだそれは。節操無しと言われても知らないぞ。というか死鬼隊は暴走族だしバイザーカーニアは魔法使いの支援組織、ハーネイトの交友関係がますます気になるではないか。最高だ。私らも総員出撃せねばな。八紋堀と郷田、田所、そして3万の兵を出そうではないか。」
以前彼から聞いたそのメンバーの実態に触れつつ、上機嫌になった夜之一は軍を約3万人預けると約束する。
「気持ちはありがたいですが、剣豪3人だけで今回はいいと思います。他の人たちは防衛ラインを作ってほしいですね。」
「そうきたか。うむ。ではそうしよう。と言うことは、次の行動は任務達成後ボルナレロと言う男の行方を捜索するということだな。」
「その通りです、夜之一様。」
2人はお互いにこれからやることを再確認しつつ、兵力の配置についてハーネイトの意見に従うことを夜之一は意思表示した。
「な、なんだかすごいわね。あの、それとDGって昔この星に来た宇宙人たちのことですか?」
ミカエルの質問に、ハーネイトは今起きていることを丁寧に説明した
「あの、もしよかったらその戦い、私たちも加わりたいです。」
ミカエルはそう伝える。ミカエルの父が昔その時に戦っており、敵に寝返った昔破門した弟子の罠にはまり殺されたことと、それがDGと言う連中によるものであることを別ルートで話を聞いていたのだ。
「魔法使いの人たちが仲間に入るか、ハーネイトさんも一応魔法使いですし、目的のためなら。よろしくお願いします。」
「ハーネイト様のお考え、理解いたしました。ミカエルさん、事が終わったらよろしくお願いします。」
リシェルと風魔がミカエルを歓迎する。
「私たちは、あのジルバッドの魔法の教えを守りながら引き継いできました。「魔法は、人のためにあれ。世のためにあれ。」こうして星に迫る脅威を退けるのは世のため。だから、私も戦うわ。」
ミカエルの放った、ジルバッドのキーワードにハーネイトが反応した。
「ジルバッドだと?私も、幼い頃に魔法を教えてもらったが、他にもいたのか、親父に魔法を教えてもらった人は。」
「わわ、いきなりでびっくりです。」
ハーネイトがいきなり大声をだし、隣にいるエレクトリールはビックリした。
「すまない、エレクトリール。」
「風の噂で聞いたわ、私と妹、お母さんの前から突然父のジルバッドは消えて行方知れずに、その後幼い子供に魔法を教えていたと話を聞いたけど、まさかあなただったのね、ハーネイト。その言い方からしてね。」
「何だって?ミカエルやルシエルってジルバッドの娘だと!ジルの親父はその事は言ってくれなかった。」
ハーネイトとミカエルは、互いに互いの発言に驚いていた。
「私も驚きよ。目の前にいる、依頼を引き受けてくれた人がその人だなんて。と言うことは大魔法はすべて使える?」
「勿論だ。それに加え112番目もすでに身につけた。大魔法には秘密があったみたいでな。」
「はあ、後でその話聞かせてね?ねえ、ジルバッドの最期について何か知っている?」
ハーネイトは、その言葉に、少し間を置いて話す。
「ジルバッドは、私がおよそ6歳のときに、昔戦った敵の残党と壮絶に戦って、死んだと。友達と言っていたDカイザーという男がそう言っていた。」
「そう、なのね。薄々そうかなとは思ったわ。最期まで、父は誇りと信念を胸に戦い続けたのかしら。魔法の概念や在り方に触れた偉大な魔法使い。魔法革命を起こしたハーネイトの話を聞いて、もしかしてとは思ったんだけどね。大魔法の研究をしてくれていて私はすごくうれしかったわ。」
「あ、ああ。ジルバッドから、すべての魔法を習得したんだが、死んだと聞いて、幼いながらも学んだことは忘れないと誓ったよ。魔法を使う際の、魔法使いの心得も。」
彼は、幼いころにジルバッドと共にいた頃のことを思い出す。彼の口癖、しぐさ、最後の後ろ姿。それは決して忘れることのできない大切な思い出である。
「信念は熱き鋼、心は穏やかな清流、魔を導くもの、柔堅な構えで魔を使え。人のため、世のために魔法は在るか、私も魔法とはそうあるものであると信じてきた。」
固く熱い信念を持ちながら、その心は清流のように清らかで優しくあれ。魔法を使うものは自身の欲よりも、誰かを、世界を救うためにまずは動く。ハーネイトも、ミカエルもよくジルバッドから聞かされた言葉である。
「ハーネイトさんの在り方と言う感じが、その言葉から伝わりますね。しかしあなたの過去に、そういうことがあったのですね。」
「これは、不思議な巡り合わせと言うものか。ジルバッド、この星でもっとも勇敢で、頭のよい魔法使いだったと亡くなった父上からよく話を聞いた。それと八紋堀の父も、ジルバッドの戦友でな。」
「我が父将宗も、ジルバッドの偉業は素晴らしいといっておりました。若干不思議な人でしたが、人のために魔法を研究するその姿は、今のハーネイト殿にも重なるところがありますぞ。」
ジルバッドの話は、日之国の人間にも伝わっており、またその中にはかつて戦友であった者もいたという。
「なんかもう、話を聞くだけですごい以外の言葉がでないっす。」
「そういうハーネイトの過去は、初めて聞いたな。しかしよ、そうなるとハーネイト、本当の親は?」
「えっ……。」
ハーネイトの話を聞いた全員が、話の流れの中で実は聞きたかったことについて、伯爵が質問する。ミカエルいわく、ジルバッドはミカエルにとっての実の父親であり、ハーネイトは弟子であるとすれば、彼の親はどういう人物だったのか、おのずと疑問がわいてくるのであった。
しかし伯爵の質問に、ハーネイトは突然はっとし、目の焦点が合わずにいた。
「言いたくないのならば、無理に言わなくてもよい。誰だって秘密や辛さの一つや二つ、持ち合わせているものだからの。」
夜之一の言葉を聞き、ハーネイトはようやく口を開ける。
一方で少しさかのぼり、ハーネイトが大狼に捕まった時、シャムロックたちは日之国の周辺まで車を進めていた。途中道が荒れているところもあったが、ベイリックスの機能を用いて、難なく走破をしていた。
「ははは、しかし今のところ特に問題はないですな。」
「ずっとそうだといいのだがな。と言いたいところだが、前方をよく見てくれ。」
助手席に座っているルズイークは、運転しているシャムロックに前方をよく確認するように指示をする。
「ほう、これはデカい。そして道をふさぐように体を置いている。
「うぬぬ、これは大きいぞ。蛇か。しかし…。」
シャムロックと助手席にいた国王が目で確認したもの、それは全長が20mにも及びそうな鈍い褐色の大蛇であった。
「しかし、蛇にしてはでかいし、立派な脚が。ってこれおかしいだろ!」
「そうね、蛇足とはこのことかしら?」
ルズイークは自身でボケて突っ込みながら、シャムロックに停車を指示し車を降りる。それに続きアンジェルもつづく。ルズイークは愛用の大剣「マスターブレード」を手に持ち、構えつつ大蛇ににじり寄る。その後ろでアンジェルも腰に身につけた「リボンブレイド」を手に持ち構えた。
「シャアアアアア!!」
4本の脚が生えた大蛇は、道を塞ぐように存在し、首を持ちあげてルズイークたちを威嚇する。
「さっさとくたばれ!」
彼は大剣に魔力を込めて、下から上へ剣を勢いよく振り上げる。すると同時に、剣先から巨大な衝撃波が複数発射され、赤、青、黄色、緑の順番で素早く大蛇の方に飛んでいき、直撃とともに魔法による爆発を引き起こした。さらに追い打ちをかけて、ルズイークは集中し、体に焔を纏い、そのまま突進しつつ大剣で蛇を突き殺そうとする。
「魔纏剣・アグニドライブ!」
ルズイークは、機械、蒸気文明が発達した機士国の出身でありながら、魔法の行使が可能な珍しい人物であった。これも過去にハーネイトが、妹のアンジェル共々魔法が使えるように鍛え上げたからである。魔法を覚えようとした理由自体は実に単純で、師匠であるハーネイトの戦い方、魔法剣術に純粋に憧れたからというものであるが。そして今では使用者がほとんどいない「魔纏剣」の使い手であった。魔法に身を包み、武器を構え突撃し多くの対象を攻撃するこの技はハーネイトも使用できるが、安定性にやや欠けている欠点があった。しかしルズイークは大層この系統の技がお気に入りであり、こうして大蛇にも火属性の魔纏剣・アグニドライブをぶちかますのであった。
「ぐっ、これでどうだ。ちっ、思ったよりダメージが届いていない。」
渾身の一撃を放ったにもかかわらず、大蛇に大したダメージが通っていないことを確認し、一歩引きさがる。
「次は私よ。」
アンジェルはリボンブレイドを展開する。この剣は俗にいう関節剣であり、鞭のように自在に刀身を動かせる特殊剣であった。新体操の名手でもあった彼女らしい、使えば美しい舞を披露できる彼女らしい武器である。それを大蛇の首に巻き付け、凍結させようとする。しかし大蛇が大暴れしそれを振りほどく。
「なんて力なのよ。っ!」
「これは魔獣ヴァリドラ。しかしなぜティスニタの脚がついている。」
ミロクは大蛇を見て2種類の生物が合体していることに違和感を覚える。ヴァリドラと言う大蛇に、ティスニタと言う昆虫の巨大な足がついていることを確認した。それはとても奇怪な生物であった。
「これは面白いわね、合成でもしたのかしら。まあ別に、人形兵で片付けますが。」
「ふむ、久しぶりに、我が刀に血を吸わせますかのう。」
騒ぎを聞きつけ、トレーラーのユニット内にいたミロクとミレイシアも車を降り駆けつけ、戦闘態勢に入る。
「ギジャアアアアアア!ガアアアア!」
大蛇は先ほどとは違ううなり声を上げて、いきなり車の方に突撃してきた。象1頭に匹敵するほどの重量を持つ蛇の猛烈な突進。攻撃をぶつけても止まらない突進にルズイークたちは大ダメージを覚悟した。その時、数発の銃声とバシッと肉をたたく音が聞こえ、目を思わずつぶっていた彼らは、開いたとき目の前の光景に驚いていた。
「間に合ったようだな。」
「ようやく見つけた。ご無事ですかな、ルズイーク近衛隊長。」
ルズイークは、その聞き覚えのある声の方向の体を向ける。するとそこには二人の男が立っていた。
「孫が世話になったな。ルズイーク。」
「覚えていますか、機士国警備局の天月です。国王はご無事ですよね?」
彼らの窮地を救った男の一人はアル・ポカネロス・アーテンアイフェルト。通称アルポカネと呼ばれ、もう一人は天月御陽という男と言う。
「あ、ああ。お久しぶりです。天月まで来てくれたとはな、無事で何よりだ。」
「アルポカネに天月か、元気にしておったか。」
「ええ、おかげさまで。」
「ああ、元気にしとったぞ。」
国王も外に出て、アルポカネと天月の顔を確認しながら無事を確認した。そしてアルの、やや着崩した灰色のスーツとズボン、黒の帽子と中年太りした体形、天月の着ている緑褐色のロングコートと、頭についている謎の部品。以前あった時とほとんど変わらないその姿に、ルズイークは安堵の表情を浮かべていた。
「ほっほっほ、無事なら問題ない。」
「今はほとんどいない、伝説の魔銃使いアルポカネ。頼もしい増援だ。」
アルポカネはリシェルの父方の祖父であり、魔弾と魔銃を巧みに使い、多くの任務をこなしてきたワイルドなエージェントである。年は50を過ぎ、それでも衰えを知らないこの男は、機士国内で生きる伝説とも言われていた。
「そうかそうか、全員無事で何よりだ。そして後ろにいる巨大な男が目を引くな。」
「あのお方はハーネイトの雇っているメイドたちです。」
「はっはっは、個性的だのう。」
「なんて闘気を放っているのだ。まさかマッスルニアの古代人じゃ……。」
アルポカネの質問に国王が答え、さらに天月がミレイシアたちの方を見る。そしてミレイシアたちを見た感想を簡潔に述べる天月。確かに、一見壮年の、白銀の髪が美しいが至って執事の格好をしているミロクはともかく、他の2人は話しかけることすら躊躇してしまうほどの気をまとっている。
「実はな、わしら機士国に騒乱を招いた者どもを極秘裏に調査していての、その過程で幾つか情報を仕入れたのだ。それと手紙も確認した。ハーネイト殿も面白いことを考えますな。生きててよかったと思えますな。」
アルはルズイークに幾つか敵に関する情報を手に入れたといい、他にも話をしたいという。
「私もアル様に協力し、独自の情報網も利用しつつ諜報活動を極秘裏に進めています。先輩が無事で本当によかったですよ。ハーネイト殿の英雄伝説を間近でみられるとか永久保存物ですな。」
「うむ、全員ご苦労であった。では続きを後で聞かせてもらおう。」
「話しているところ悪いのですが、この大蛇の死骸を解体したい。そのあとで車内で話をするといいでしょう。」
シャムロックは絶命した大蛇の解剖を全員にお願いし、有用な資源を回収した後改めてゆっくり話の場を設けると提案し、全員が承諾した。
「しっかし、何で蛇に足が。」
「これは、わしが手に入れた悪い情報と関連がありそうだ。」
その言葉にルズイークは目の色を変える。
「後で、詳しく説明をお願いします。ミロクさん、シャムロックさん。解体の手順とやらを教えてほしいのだが。」
「ああ。勿論だ。」
「まずは血抜きして、皮をすべて剥ぐのですぞ。」
そうして全員が、死んでも道を物理的に通行止めにしていた大蛇の解体作業に入るのであった。
いよいよ魔女と、そしてDGとは違う謎の教団が登場します。そしてハーネイトを追いかけているシャムロックたちの前にも、強力な助っ人が現れます。そしてハーネイトに過去について、その一部が明かされますが、彼にはある事情があったのです。