第七話 オリジナル
今日は特に残酷な映写が目立つよ。注意してね。
「ぐっ…ガハッ…誰だッ…岸野の…仲間かッ…!?」
「仲間?んなもんじゃねえよ。
俺氏とコイツは今この場で出会った赤の他人同士でねぇ…
たまたま困ってたから人助けしてやった、ってだけの関係って訳だぜ。なぁオマエ?」
男は来矢の方を見ると、ニヤリと笑う。
そして…男の右眼は、オレンジに輝いていた。
だが、来矢はこの男に今までの様な違和感を覚えなかった。
「……助けてもらってすまない。」
来矢は男に感謝の言葉を伝えるが、男は聞く耳をもたずに喋り出す。
「ほう…お前は『オリジナル』か~!運がいいねぇ俺氏は!!
ククク…透明人間さんをブッ殺したら…次はテメエにさせてもらうぜ…」
…『オリジナル』?
どういう意味だろうか。
来矢にはそれが何を意味するのか、分からなかった。
「俺を…殺す、か。」
だが、来矢には1つだけ分かることがあった。
この男は…
今までの奴とは違う。
「さーてと、透明人間さんよぉ…
俺氏と1つゲームをしねえか?
逃げようとしても、全くもって無意味だぜ?」
男の視線は、"姿を隠して"逃げようとしていた沢見の方を見ていた。
「お前、な、なんで俺が分かるんだよ!?」
慌てて能力を解除し、再び姿を現す。
「そんな事はどうでもいいさ。
じゃあゲームのルールを説明しよう。
とても簡単なゲームさ。
お前を俺氏が殺したら…
俺氏の勝ちだ。
お前が俺氏を殺したら…
お前の勝ち。
どうよ?
ものすごくシンプルで分かりやすいだろう?
ククク…」
「フ……ふん…やれるものなら…
やってみやがれっ!!」
沢見がナイフを両手に持ち、男目掛けて走り出した。その瞬間、沢見の姿が【透明化】の力で溶ける様に消えていった。
「さあて…どこかなぁ?」
男が突然に脚を虚無に突き出す。
すると…その脚は消えていた"はず"の沢見の腹部に命中した。
「ぐぅ…ぁああ…」
沢見が苦痛の叫びと共に姿を現す。
「おーっと…そんなとこにいたのか~。
すまんすまん、ちょっと当たっちまったなぁ?」
男は「雑魚め」と言わんばかりに挑発を入れる。
「く…ならばこれだ…【魔術師の刃】!!」
来矢戦の時の様に、数本のナイフを透明にし投げつける。
しかし…そのナイフは男には命中しない。
それどころか、男は投げられたナイフを全てキャッチしたのだ。
「なんだ?これ。ドッヂボールか何かかよ?笑わせんなよ、つまんねえぜ?」
「…何だと…!!」
思わず驚きの声を上げる来矢。
見えるはずのないナイフを全て避け、
それどころか全てキャッチする。
さらにその攻撃を「ドッヂボール」だと嘲笑う。
まるでその男にはー
全て"見えている"ようだった。
「よいしょ…これ、全部返してやるよ。」
男はキャッチしたナイフを逆手に何本か持つと、かなりの速さで走り出す。
その瞬間に沢見は能力を使い、透明になる。
「いくら速くたって当たらなきゃ意味ねえん…だょ…!?」
「当たっちゃった…ククク…」
ナイフが透明になった沢見の腹部に突き刺さる。
その光景はまさに宙にナイフが浮いている様であった。
「な…なんだよ…コイ…ツ。ど、どうしてぇ、俺の能力がぁ…効 か な い ん だ ぁ あ あ ! ?
」
「気づくのがオセエんだよザーコ。テメエの能力は俺氏には効かないっていう事実になぁ。
俺氏は【反能力】の超亜人でね…
お前の能力に対して『有利』な力を使うことができるんだよ。
今の俺には物を熱で判別できる力…
いわば赤外線センサーの様な能力が備わっている。
ナイフも体温で温まってたからねえ…すぐにわかったよ。
バリアーなんてものもあったなぁ。あれは俺の反能力で別の場所に消えてもらったぜ。ただの透明にした大きな鉄板だったな。
お前の技は全部お見通しさ。
つまり…
どんなに足掻こうが…お前は詰みってことよ。」
自分がすでに詰んでいる…
もはや沢見は戦意を喪失し、涙すら流していた。
「どうした?今すぐ命乞いしたら助けてやらんこともねえぜ…
病院もすぐ近くだからそのナイフの傷も治せるしな…
さあどうする?
生きる?
それとも…死ぬ?」
「い………命だけは………助けて…くれっ…
俺は……皆からは……
真面目で……いいやつだと……
思い込まれてるけど……
本……当は……
闇を……抱えて……生きてきたんだ……
だ……だけど……その"闇"を……
知った………やつらが………ガァッ………
俺は………そいつらを………殺さ………なきゃ………
腐ってる………世界を………
だから………俺ぁヴぁ…ぁああ!!生き……ギィ………グァアッ」
無慈悲な拳が、沢見を殺めた。
「バーカ。
嘘に決まってるだろ?
答えは『死』
これしかねえんだよ…」
来矢は…複雑な感情になった。
敵だったとはいえ…
本当に殺してよかったのか…
止めなくて…よかったのだろうか。
『とめて』
あのメッセージが頭を過る。
「さあて、お前の亜眼をもらうぜ。」
死んだ沢見のまぶたを無理矢理開き、持っていたナイフで亜眼をえぐりとる。
しかし、その眼は和人の時の様に黒眼に戻ってしまう。
「チッ…やっぱり偽物かよ。
まあいいや…
なんだかんだでオリジナルと出会えたんだ。
これも何かの縁だよなぁ…
岸野っていったか?
俺氏は篠谷伶斗…
挨拶代わりと言ったところだ。
早速だが…
オマエを殺すぜ。」