第六話 見えぬ敵
『愚かな純人共よ…消え去るがいい…!!』
ビルが崩れ行き、地面は地割れを起こし、人々が次々と倒れていく。
『はぁ……はぁ……』
少年は、ただ一人、必死に町を駆ける。
『なんとしても……なんと……しても……!!』
ただ…一人。
『ああっ……痛い……脚が……』
少年は瓦礫に躓き、脚を強打してしまう。
『くそ……もう……だめかよ……』
動けなくなった少年に、ビルが倒壊し、襲いかかった。
『………みんな…………ごめん』
『諦めるのか?少年。』
「………!?」
壊れた町も、倒れている人々もいない。
夢だ。
予定よりも三時間も早く起きてしまった。
来矢は、再び眠りに付こうとするが、携帯電話の通知に気づく。
短いメッセージが1つ、送られていた。
詩音からだ。
電話番号を交換したものの、これまで一度も連絡をしあったことはなかった。
来矢はそのメッセージの意味をすぐに理解すると
「…ダメだったか」
と一言呟く。
寝間着から私服に着替えると、鍵をかわずにマンションを飛び出していく。
案の定、詩音の家の前にはパトカーが止まっていた。
やはり、殺された様だ。
警察の話を盗み聞きすると、どうやら数時間前にも弥斗大学生が殺されていたらしい。
しかし妙なことに、数時間前の事件も、今の殺人事件も、防犯カメラに人は映ってなかったらしい。
当然家族が疑われるが、動機がなく、事件は謎のままだった。
防犯カメラに見つからず、バレずに人を殺める。そんな事が可能なのは間違いなく
超亜人だ。
来矢は急いで沢見の家に向かう。
すると、沢見の家周辺には「立ち入り禁止」のテープが張り巡されていた。
沢見はすでに自分の家族をも殺していたのだ。
一刻も早く沢見を探さなければ、殺人事件は広がる。
だが、沢見が次にどこに向かうのか、どこにいるのか、検討がつかない。
沢見が今まで殺してきたのは、自分の家族を除くと全て弥斗大生だ。
しかも全員に沢見と接点がある。
沢見と接点がある人間……
「………真島!?」
思わず声を上げる。
真島と沢見には、大きな因縁がある。
真島と沢見は、かつて大がつくほどの親友だった。
放課後もほぼ毎日一緒に遊んでいたり、クラスでも一緒にいることが多かった。
ーーしかし、ある事件が原因で、その友情にヒビが入った。
それ以来、沢見は真島を毛嫌いするようになった。
今、真島は病院にいる。
そのことは恐らく、沢見を含むほとんどの弥斗大生が知っているだろう。
……すぐに行かなければ
来矢は病院に走っていった。
数時間後…
「…フフフ…あと一人だ…アイツを消せば…っ!!」
「よう…沢見。やけに楽しそうだな。」
病院の前の駐車場で待ち伏せていた来矢が、沢見に声をかける。
「き…君は…岸野くんか…な、何の用事だ?」
慌てて言葉を出す。
「…ちょっと色々あってな。
にしてもお前の右目…
真面目なお前がカラーコンタクトを始めるなんてな…」
来矢が沢見にしかける。
「え…え??」
思わず苦笑いをする。
「ポケットに入れているのは何だ?
不自然な形だな…
ちょっと見せてくれないか?」
「え…ごめん…ちょっと急いでて…」
沢見はこの場を逃げ出そうとする。
だが、来矢はさらに追い詰める。
「疚しい物じゃないなら…見せてくれるよな?
なあ…"まじめな"沢見哲くん…」
ついに沢見が黙った。
しかしその数秒後、ニヤリとしてこちらを向くと、
ポケットに隠していたナイフを取り出す。
「ほら…見せてあげるよ…
でもなあ…こいつを見られちゃ…
しかたないよね…
君には…いや、お前には…黙っててもらおうか!!」
口調や目付きが変わり、ナイフを持って来矢に襲いかかる。
「…」
来矢はナイフの攻撃を避けると、反撃の蹴りを沢見に食らわす。
蹴りは見事に腹部に直撃した。
「ぐっ…ぐあっ…」
沢見は声をあげ、後退りをする。
「や…やるじゃねえか…でも…これはどうかなッ!」
なんということだろうか。
沢見の姿が…
一瞬にして消えたのだ。
「…何ッ!?」
いや…奴は消えていない。
"見えなくなった"だけだ。
どこからくるか分からない攻撃を来矢は身構える。
「死ねッ!!」
来矢の後ろから姿を見せた沢見が、ナイフで切りかかる。
しかし、その攻撃は命中しなかった。
「やはりな…後ろを狙ってくると思ったぞ。」
「チッ…」
攻撃が見透かされ、苛立ちの表情を見せる。
「なら…こいつでどうだ…!!」
沢見はナイフを数本取り出すと、それを透明にし投げつける。
「ぐっ…なんだと…」
見えない攻撃は流石に回避が難しい。
一本のナイフが頬を通り抜ける。
「くっ…」
頬から流れた血を拭き取ると、再び臨戦態勢に入る。
「どうだ?俺の【透明化】は…触れた物や自分の姿を見えなくする…
俺はこいつを使ってバレずに人を殺してきたのさ…」
ニヤリと笑う沢見。
「クソみてぇな人間どもに…ゴミみてぇな世界!!全部…消してやるぜ…こいつでな…!!」
「させるか…お前なんかに…」
来矢は右手の黒いゴム手袋を捨て、【雷撃】の力を解放する。
「【雷拳】ッ!!!」
「【不可視障壁】ッ!!!」
電気を帯びた拳は沢見には命中せず、透明な壁にぶつかってしまう。
「く…しぶといな…」
「やっぱお前も亜能力を持ってたんだなぁ…その眼で気づいたぜ…フフフ…
でもそんなもん俺には効かねえよ!!」
苦戦する来矢を嘲笑う。
「…お前の亜能力とは一緒にされたくはないな。」
今度は足に電気を纏うと、蹴りを入れる。
「【雷脚】ッ!!!」
「無駄ダァ!【不可視障壁】!」
「チッ…またか!」
再び攻撃が塞がれようとしたその時だった。
「「「【反能力】。」」」
謎の男の声と共に見えぬ壁が消え去り、来矢の蹴りが命中する。
「ぐぁあああああ…ああああ…」
「ようよう…透明人間さんよ…あんたの亜眼、貰いにきたぜ…」