第一話 闇に蠢く亜眼
ここは普通の町、弥斗町。都会でもなく田舎でもない。特別いい観光地があるわけでもないが、全く人が来ない訳でもない、そんな町である。都会の若者はこの町を「微妙に刺激が足りない町」と呼んでいるらしい。
だが、この町は今宵、絶望に染まることになる。
「はあ、今日も疲れたな~岸野。コンビニよってこうぜ。」
真島淳。来矢の友達だ。中学校時代、片隅で本ばかり読んでいた来矢に初めて話しかけたのが彼である。それ以来、来矢はすこしだけアクティブになった。
「ああ。でも俺…全然持ってないぞ。」
「なんなら、俺がはんぺんサンドおごってやるぞ!」
「すまんな…」
淳は2つ分のはんぺんサンドを購入すると、来矢
に1つを差し出す。
「そういえばずっと気になってたんだけどさ…来矢って変わった"眼"してるよな…」
来矢の左眼は、黒眼の部分が黄色く透き通っており、模様が描かれている。だが、決してカラーコンタクトなどではないのだ。
「ああ。というかかなり今更だな…。これは生まれつきだ。怖いって言う人もいるが、お前はどう思う?」
「俺か?むしろカッケーと思うぜ」
「そうなのか…?」
「岸野、お前顔は良いんだからさ、もっと明るくしろよな?絶対モテるから!ファンクラブの1つ2つはできるから!」
「ふーん…」
なんだか微妙な反応である。
「おい、岸野。なんかあっち騒がしくないか?」
夜の7時ながらワーワーと人が騒ぐ音がする。
だがその声は…喜びや楽しみの声ではなかった。
絶望の声だ。
だがそこに1つ。混じる歓喜の声があった。
「この亜能力…最っ高にたぎるぜぇ…
これで…俺は…誰にも…囚われねえ…!!
全部ぶっ壊してやる…この!世界をなぁ!!ヒャヒヒヒハハハハハハ!!」
男の亜眼と、返り血が、闇夜に輝く。