第九話 大切なもの
最近遅くてごめんね。
静かな時間がながれる。
お互いのハア、ハア、という呼吸の音と、風の音だけが響く。
「さあ…そろそろ…渡してもらうぜッ!!」
「何度言っても分からないな…お前は!
何度でも言ってやるよ…この亜眼は渡さない!」
「「 行 く ぞ っ つ ! ! 」」
先に動いたのは、伶斗だった。
「ヒャハハハハ!!!こいつで、安らかに、あの世に逝きやがれッ!!
【 反 能 力 破 撃 】!!!」
紫のオーラを纏った拳が…来矢の腹を打つ。
その拳はとても莫大なダメージを与えた。
「ぐぁあっ…がぁ…うう…がはっ!」
来矢の口から血が流れる。
「死ね…クソ野郎がぁあああああああ!!!」
伶斗がさらに拳に力を加える。
「ああああっ…がぁああああああ!?!?」
悲痛な叫びと共に、来矢の体が宙に飛んでいき、
数メートル先まで飛ばされる。
来矢の体は、もうほとんど動かなかった。
意識が遠退いていく。
だんだんと、まぶたが降りてくる。
希望が、消えていく。
「………思ったより………楽しかったぜ………」
瀕死の来矢に伶斗の無慈悲な足音が迫る。
「………安らかに眠りな。」
伶斗が来矢の亜眼に手を伸ばす。
俺は…ここで死ぬのか。
こんなところで…死ぬのか。
『君は…まだここに来るべきじゃない。』
!?
『生きるんだ。来矢。
僕達の命の分も……』
バシッ。
「!?な…ば…バカなっ!!」
来矢の右手が、迫る伶斗の腕を掴んだ。
そして、左手に電気がほとばしる。
「そんな…その…闘志は…どこから!?」
「「「【 閃 雷 拳 】!!!!」」」
最後の力を振り絞った渾身の一撃が、伶斗に直撃する。
「ぐっ…効かねえってんだよ……お前の……電気はっ………諦めなぁ!!!」
捕まれていた腕を振りほどき、再び紫のオーラを纏い殴りかかる。
「「「「まだだ……ありっ……たけを………食らいな………!
5 0 0 万 ボ ル ト !!!!!!!」」」」
「な…500万ボルト…!!」
「「「「「 決 め る !!! 」」」」」
伶斗の拳が届く間もなかった。
電撃が伶斗に降りかかる。
その電撃は反能力を破り…伶斗に直撃する。
電撃を食らった伶斗はその場に静かに倒れる。
「………勝った………。」
来矢も共にその場へ倒れた。
気がつくと、もう朝日が昇っていた。
「…おい…いつまで寝てんだよ。起きな、勝者さんよ。」
伶斗の声だった。
「うっ……お前は……くっ……」
来矢が眼をさます。
伶斗がこちらを見ている。その亜眼は黒く戻っていなかった。
「勝者がだらしなく寝てんじゃねえよ。」
「……すまない。」
「負けたぜ。フン。」
「……生きていてよかった……」
「いつまでもジョークが好きだねぇ。岸野さんよ。
「……師匠譲りだ。」
「お前よ……何が…そんなにお前の闘志をかりたたせるんだ?」
「…俺は、大切なものを、何回も無くしてきた。」
来矢は静かに語り始める。
「何度も、何度もだ。」
「無くしたものは、二度と戻ってこない…。
だから…今ある大切なものを…守らなきゃいけない。
俺の大切なものを守れるのは、俺しかいない。
そのために…この亜眼はある。
そう…思ったんだ。」
「ハハハ…フフフ……ハハハハハハハハ!!!」
話を聞いていた伶斗が急に笑いだす。
そして…暗い表情に一転する。
「大切なものは無くしたら戻ってこない……か。
確かに……そうかもな。
フン、完全否定されちまったなあ。
俺はこれから………まあいい。
また会おう、オリジナルの岸野さんよ。
お前も早く戻れよ。
大切なものが、人が、あるんだろ?
いつ…またどこで会えるか…知らねえけどな。」
伶斗は意味深な言葉を残し、廃墟を後にした。
「篠谷…伶斗……か。
あいつにも、大切なものがあるんだろうな…。」
来矢も、帰路についた。




