有る羊の話
※ボーイズラブ要素は薄らとだけありますが、十分ご注意ください
ざぁ、と風の良く通る、見晴らしのいい丘。
そこに、一人…背の大きな者がいた。
静かに座って、風を浴びながら、ぼんやりと空を見つめていた。
ざぁざぁと風が吹き続けている。
頭の羊の頭蓋骨を抑えて、飛ばないように抑えながら。
一人、少年が近寄る。
見上げながら口を開こうとした。
だが、すぐに口を閉じる。
目が、合ったのだ。
見上げるほどの高さから、威圧感のある目で。
すぐにすくみ上った。
だが、相手は威圧感をふっとやわらげた。
「アンタ…なんで、こっちへきたの?そんなに怖がってまで」
明らかに男の低い声。
それでいて優しい口調だった。
それでも少年は動かなかった。
“彼”は困ったように笑って言う。
「…まぁいいわ、ちょっと聞いていきなさいな。退屈しのぎにはちょうどいいわよ」
そう言って、話を始めた。
アタシね、ずっと待ってる人がいるのよ。
会えないかもしれないけど。
…ふふ、その人はね、いつも笑ってるの。
あんまり泣かないの。
でも、泣かせる方法は知ってるの。
たまに泣かせないと、ストレスで死んじゃうもの。
…それで、えっと…どうして待ってるか、だったわね?
ふふ、今ね、自分の地元に帰ってるのよ、彼。
…?ええ、彼よ?アタシの彼氏。
不思議そうな顔してるのね?
っふふ、愛…に性別は関係ないのよ?
…えーっと、それで…アタシはここで、彼を待ってるの。
帰ってくるまで、ね。
そして、彼は黙ってしまった。
また、ずっと空を見つめている。
少年は何も言わず、そのまま去っていった。
心地の良い風が、羊の男の背を撫でていった。
羊の男は待ち続けている。
帰ってくるのを。
ずっと。
ずっと。