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汐坊の『哉カナ』   作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
91/103

里見からの報告


 里見さとみは、

 コップをくと・・開口かいこう一番いちばん


事件じけん解決かいけつしました!」


 しおりは、

 椅子いすから、

 60センチあまりがった。


「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ、本当ほんとうに?」


「もちろんです。

弓削ゆげ 敦子あつこ刺殺しさつ門脇かどわき 陽一よういち変死へんし

両方りょうほう事件じけんなぞは・・ほぼ解明かいめいできました」


りょうにいちゃんは・・犯人はんにんなのですか?」


ちがいます。かれ無実むじつです」


証拠しょうこは・・ありますか?」


当然とうぜんです。

それがわたし仕事しごとですから」


しん犯人はんにん目星めぼしはついたのですね?」


 里見さとみは、

 依頼人いらいにんっすぐにつめる。

 そして、

 おだやかな口調くちょうった。

意外いがいちかくにいました」


「どういう意味いみでしょうか?」


「いまは、もうげられません」


 しおりは、

 すこかんがえこんだあと、質問しつもんつづけた。

里見さとみさんは、

ふたつの事件じけんとおっしゃいました。

こだわりをおちの・・

予備校よびこうせいほうは、

たしか・・病死びょうしで、

事件性じけんせいはなかったと記憶きおくしていますが?」


警察けいさつ発表はっぴょうではそうでした。

しかし・・真相しんそうちがったのです」


自殺じさつもしくは、

他殺たさつということですか?」


わたし他殺たさつ だとかんがえております。

明日みょうにち、ある実験じっけんおこないます。

それで最終さいしゅう結果けっかるでしょう。

()一番いちばんで、

あなたへ御報告ごほうこくいたします」


承知しょうちしました。

もう、経費けいひのことはとやかくいいません。

実験じっけんなり検証けんしょうなり、

きなようにやってください」


「ありがとうございます」


「もう一度いちど、おきします。

りょうにいちゃんは、

殺人犯さつじんはんではないのですね」


「はい。

設楽したら りょう無実むじつです。

じき、釈放しゃくほうされるでしょう」


 里見さとみ表情ひょうじょう態度たいどは、

 るぎなかった。


 しおりは、

 ふかいきをつくと、

 椅子いすにもたれかかった。

 

 


 睡魔すいま仲良なかよって、

 たっぷり熟睡じゅくすいしたしおりは、

 久方ひさかたぶりにさわやかなあさむかえた。


 フロントにタクシーの手配てはい依頼いらい

 乙骨おっこつPあてにメールを送信そうしん

 用事ようじをすませると、わきもふらず、バスルームへダッシュ!


 ゆったりあさ風呂ぶろつかる ♨


 α(アルファ)

 ときおり・・θ(シータ)を・・ホワホワ放射ほうしゃしながら、

 『déjà-vu』(’70) をかえしハミングする。


 りょうにいちゃん経由けいゆで、おちかづきになったきょくだ。


 ミステリアスなメロディーと複雑ふくざつぎるハーモニーは、

 しおりのハートを とりこ にした。

 以来いらい

 おりのきょくとなっている。


 湯気ゆげちのぼるピンクいろ素肌すはだを、

 ローブにつつみ、

 えたオレンジジュースをむ。


「ああ、美味おいしい!」


 しおりは、

 迎車げいしゃ表示ひょうじのタクシーにりこんだ。

 

 途中とちゅうでマーメイド・カフェにり、

 れのコーヒーやパンをどっさりった。


 タクシーは、

 地下ちか駐車場ちゅうしゃじょいへ、

 すべりこんでいく。


 黒山くろやまのようなマスコミ軍団ぐんだんをかきけ、

 むかえにたADとびと防波堤ぼうはていとなってもらい、

 専用せんようエレベーターでスタジオりした。

 

 午前九時をまわったところで、

 スタジオり。

 

 乙骨おっこつ以下(いか)

 スタッフ、共演者キャストかおをそろえ、

 主演しゅえん女優じょゆう到着とうちゃくっていた。

 そのなかに・・

 禁煙きんえんであるはずのふく調整室ちょうせいしつで、

 タバコのけむりをモクモクさせている人物じんぶつがいた。


「おじょうちゃん、おはよう!」


 『お手伝てつだいさんはた!』

  のろう監督かんとくが、

  ニコやかなかおむかえてくれた。


「おはようございます。

わざわざ、

陣中じんちゅう見舞みまいにていただいて。

ありがとうございます。とってもうれしいです」


 しおりは、

 コーヒーとパンをろう監督かんとくす。

 のこりはADにまかせた。


 ADは、

 キャストとスタッフに、

 もれなくコーヒーとパンをくばってあるいた。


「きょうはね、おじょうちゃん。

プロデューサーさんにたのまれて、

演出えんしゅつすけたのじゃよ」


 しおりあたまなかに、

 「?」マークが浮遊ふゆうする・・

 視線しせんを、

 乙骨おっこつPのほうけた。


汐坊しおりぼうなやんでいる・・

演技えんぎめんでのご指導しどうを、

大先輩だいせんぱいにおねがいしたというわけだ」

 恬淡てんたんと、

 乙骨おっこつPはかたった。

 

 Pの背後はいごで、

 ゆずがピースサインをつくっていた。

 

 (プライドのたかい・・あの乙骨おっこつさんが・・わざわざ!)

 しおりは、

 なにやら、

 もうわけなくおもった。


 全員ぜんいん

 超特急ちょうとっきゅう朝食ちょうしょくをすませ、

 Gスタへ、

 いそあしりてく。


 台本ホンちスタンバる出演者キャスト


 スタッフは さっと った。


本日ほんじつのファースト・リハいきます。

いいか、汐坊しおりぼう

あゆム先輩せんぱいからみのシーンからだ」

 乙骨おっこつPのこえが、

 スタジオないひびわたる。

「よーい、スタート!」


 先輩せんぱいとモーレツに ばいきそいながら、

 同時どうじかれてもいく、微妙びみょう乙女おとめごころ

 めとまもり・・摩擦まさつ狭隘きょうあいからまれる・・こい

 それをこえだけで表現ひょうげんする・・やっぱりムズカシイ。


 かなしいかな、

 恋愛れんあいかんする 「し」 を、

 (あこがれ・・以外いがい

 しおりは、

 ほとんどわせていなかった。


 いままで・・

 恋心こいごころ表現ひょうげんするさいには、

 りょうにいちゃんのことをおもかべれば、

 なんとかなった。


 しかし・・

 今度こんどはそうはいかない。

 脚本家きゃくほんかチームが、

 追加ついか執筆しっぴつしてよこしたこい模様もようは、

 一筋縄ひとすじなわではいかない代物しろものだったからだ。

 したりいたりの応酬おうしゅう 合戦がっせん

 意地悪いじわるかとおもえば・・やさしさをのぞかせたり・・

 きの 「け」 はなんなくえんじられた。

 けれど・・

 おもいをせる異性いせいたいする、

 「め」 のほうは、お手上てあ状態じょうたい

 とっかかりになるフック(リアルさ)が、

 内面ないめんのどこをさがしても見当みあたらない・・

 

 台本ホンにしたしおりは、

 マイクのまえで、

 しきりとくびをヒネる。


 それらしくかんじさせるテクニカルな演技えんぎから、

 一歩いっぽでも、

 したかった!


 同期どうき懊悩おうのうを、

 いきころすように、

 つめる・・ゆず

 

 乙骨おっこつPのとなりで、

 そのようすをまもっていたろう監督かんとくは、

 副調ふくちょうし、

 スタジオにはいった。


 しおりまえつ。


「おじょうちゃん、

うまくいかないのはなぜだろう?」


わたしの・・チカラ不足ぶそく・・でしょう」


「いいや。

芝居しばいにはね、

想像力そうぞうりょくとテクニックだけでは、

いかんともしがたいところがある。

たぶん、

じょうちゃんは、

一途いちず相手あいておもつづけるタイプじゃな。

おのれうち存在そんざいしない、

たましいせるにはコツがいる。

ぬすむ〉んじゃよ!

ハリウッド映画えいが王道おうどうである、

ぶつかりいながらかれていくという・・アレを」


「・・ ? ・・」


「いいかい。

ワシのえんじるとおりにやってごらん」

 

 老監督ろうかんとくは、

 グラスホルダーのいた

 つよいメガネをサッとはずし、

 むねまえで ぶらつかせた。

 

 したをペロリとすと、

 おうは、

 ふしくれだったゆびツバをつけ、

 はならし、 

 もどかしそうに、

 台本ホン当該とうがいページをひらいた。


 いで、

 不思議ふしぎいきつぎをはじめ、

 かた上下じょうげどう・・

 脱力だつりょくした瞬間しゅんかんねらいまし、

 阿吽あうん呼吸こきゅう

 集中しゅうちゅうしぼげた。


 ゾーンにはいるや、

 「口立くちだて」方式ほうしきで、演出えんしゅつはじめた。


 乙女おとめのようなしなをつくり、

 シワのったまぶたのおくに、

 ほのかな恋心こいごころを・・ともした。


 親鳥おやどりがヒナにづけするように、

 つむぐがごとくセリフをうたう。


 その所作しょさは、なんとも意地いじらしく、可愛かわいい。

 ときおりのぞかせる、

 伝法でんぽうはだ鉄火てっか口調くちょう

 メリハリの具合ぐあいどうっていた。

 

 とても、

 七十()ぎにはえない。

 芝居しばい夢現むげんりょくにより、

 年齢ねんれいはキレイにっていた。



 しおりの・・

  ときが・・

  び・・

 デフォルメ・・されていった!


 うるみ、

 性的せいてき興奮こうふん内包ないほうしたような、

 表情ひょうじょうかべ、

 くちは、

 うっとり・・はんびらき。


 いくつかの感覚かんかくプロセス・・ 


 (意識いしき縮小しゅくしょう

 (クリアな寝入ねいりりばな)

 (奇妙きみょう快感かいかん

 (意識いしき拡大かくだい


 ・・をて、


 感覚かんかく境界線きょうかいせん溶融ようゆうが、

 開始かいしされた。


 ほどなく、

 トランス状態じょうたいへ。


 演技えんぎ幽体ゆうたいは、

 しだいに・・

 彼女かのじょから離脱りだつ

 老監督ろうかんとくに・・シンクロを開始かいしした。


 勝気かちきでありながらも、

 せつない恋心こいごころが、

 しおりのセリフに、

 みゃくはじめた。


 かえすたびに、

 (やくたましいつかまえたまま)

 しおり主観しゅかん優勢ゆうせいになっていく。

 

「すげえ!」


 ふく調整室ちょうせいしつ乙骨おっこつPや、

 ディレクターはをむいて、

 した。


 共演者きょうえんしゃたちも、

 ろう監督かんとく主演しゅえん女優じょゆう姿すがたに、

 われわすれ、

 ためらした。


 ゆずは、

 ボーぜんと・・

 エスパーとばれる、

 同期どうき力量りきりょうに、

 ・・っていた。


 (うちには・・とうてい・・できない芸当げいとう!)




 本番ほんばん 二日前ふつかまえ

 しおりは、

 ようやく、

 やく全体像ぜんたいぞうを・・

 掌中しょうちゅうおさめた。




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