雲の切れ目から
スタジオ内に、
偉容を放つ、
人物が現れた。
彼は・・
主演女優の目の前を、
ワイプさせるように、
あるものを・・差し出した。
冷ンやりした空気が、汐の頬を撫でる。
心地よい冷気が、
内宇宙を彷徨っていた彼女の魂を、現実世界へ・・サルベージした。
パチクリまばたきをし、
冷気の源にピント合わせを行う!
それは・・
汐お気に入りのビールから発せられていた。
缶ビールを握っている・・大きな手の主。
主から・・
バトン・パスよろしく、
無意識に、
差しだされた缶を、
(小さな手で)受け取める。
「ギド!?」
「飲みなよ!
根を詰めすぎると・・参っちまうゾ。
冷え冷えを持ってきた!」
「でも・・いま・・禊ぎの最中だから」
「飲みなって!」
ギドは、
汐の真横にどっかと座り、
プルトップを引くと、
『ジョーズ』(‘74)のクイント船長ばりに、
グビグビっと飲み干し!
大きな手でグシャリ!と缶をつぶした。
そして・・
ニュアンスたっぷりに目を動かし、
得意顔を・・してみせる。
役者魂スイッチON!
負けじと、張り合う・・アクトレス。
ビールを屋台に、そっと、置く。
すかさず・・
そばにあった、
蛇腹式ペットの、
ミネラルウォーターを取り上げ、一気飲みを敢行!
続く動作で、
両手を使い、
ペットボトルを上下に縦グシャリ!
一秒半で畳んでみせた。
そんでもって・・
「どんなもんだい?」とばかりに、
片眉をクイクイっと上下させる。
汐のポップ♪なリアクトに、
ギドの・・鉄顔面が・・溶解した!
マッド・フーパー子の頭をゴシゴシ撫で、
「ワッハッハハハ」
豪快に笑った。
いつしか、
汐の表情にも、
晴れ間が・・のぞいていた。
「すまなかったな・・汐 坊・・
仁義も切らずに、
『続編』を 降りちまって」
「すんだことはいいよ!
私の方だって・・
黒いレッテル貼られてペンディング状態だし、
続編は流れるって・・もっぱらの噂。
サバサバしてるんだ・・正直・・『小さな太陽』に続編はいらないっしょ!」
「オレも同意見だ!」
汐の肩をたたくと、
ゆったり腰を上げ、
「あばよ!」と言い、去って行った。
汐は、
缶ビールを両手で握りしめ、
怪獣のような監督のうしろ姿を見つめる。
「(ギド、ありがとう!)
(ちょっと・・振っ切れた・・気分!)」
心拍数 安定!
汐に、
アルファー波の虹がかかる。
アクトレスは、
副調整室へ、
穏やかな顔を向け、
台本を高く・・掲げた。
センター・マイクまでゆっくり歩いていく。
共演者はサーッと波のように動き、
花道を作った。
左右から囲んで、主演女優を迎える。
スタッフはその光景に拍手を送った。
「まるで、ヒーロー扱いじゃないか!」
乙骨Pは、
ボヤきまじりにつぶやいた。
そばにいる、
ディレクターから声がかかった。
「プロデューサー、
リハーサルのキュー出し、お願いします!」
「うむ」
乙骨は、
つかの間・・
サングラス内の目を閉じ、スーツの胸に手を当てた。
目を開き・・声を発する。
「それでは、リハ再開!
トップシーンから。
・・よーい、スタート!」




