続・チーム里見
里見探偵は、
投宿している、
ビジネスホテル近辺の、
珍しい珈琲がメニューにラインナップされている、
喫茶店 『霞向』 にて、コーヒーを飲み、読書をしていた。
「お待たせしました!」
約束の時間に、
やや遅れて到着した、
サユリと南平は、
探偵に声をかける。
しかし・・ 反応は・・ない。
「里見さん?」
もう一度、
声をかける。
査読スイッチ「ON」モード!
探偵は、
ヘソの緒 一本 残し、
読書の羊水を潜航していた。
彼の周囲から、
静々と、
渦巻き螺旋の空気が描き出されている。
近寄ると・・
吸い込まれてしまいそう・・な・・感じである。
サユリは、
カレシに目配せすると、
やおら、
タバスコの小瓶を取り上げ、
キヤップをはずした。
それを、
探偵の鼻先、
微妙距離まで・・近づけた。
待つこと・・十五秒・・
里見は、
高い鼻をヒクつかせると、
顔をしかめ、
長いマツ毛を揺らし、
まばたきをパチパチ繰り返す。
やがて・・
現実世界へ、
ザブン!と浮上した。
夢から覚めたような、
ぼんやりした目を、
若い二人に・・向ける。
「なにを、そんなに、
熱心に読んでいたんですか?」
サユリの質問に、
里見は、
紐状の栞をはさむと、
本をパタンと閉じ、表紙を見せた。
◆『セラピーにおける、新たな挑戦』◆ 相馬純男著
「相馬セラピー・院長さんの著書ですね」
「うむ。
示唆に富んだ内容だ。
面白い・・スリリングですらある」
助手コンビは、
モーニングサービスを注文した。
運ばれてきたモーニング・セットから、
南平は、
サユリにサラダを進呈する。
お返しに、
ゆで玉子を譲り受けた。
パイプをくわえた、
里見の顔が、ほころぶ。
サラダ用のフォークを置くと、
サユリは、
コーヒーをひと口飲み、
スマートフォンを取り上げた。
口を開くと、
キビキビした口調で、報告開始。
「・・例の件。
大学のデータベースや資料を、
当たって調査してみました。
門脇 陽一氏の、
血液および尿から、
検出された薬物、
MUDE = 通称『三昧 (サマディー)』についてですが」
探偵に報告書を渡す。
「以前、爆発的に流行した、
MDMA = 通称『エクスタシー』
と呼ばれたドラッグの進化系ですね
白い・・ 5ミリ程度の錠剤です。
三昧 (サマディー)の効果として、
多幸感、
共振感覚の増幅、
聴覚の鋭敏化などが・・あげられます。
副作用については、
ごめんなさい・・
現在のところ・・不明です。
覚せい剤とは違って、
催淫剤としての効能は無いようで、
生殖器への働きかけは、ほぼ皆無。
ハグするだけで、
この上ない幸福感を、
得られるんだとか。
どうやら・・肉体よりも、
精神に作用するみたいですね。
まあ、そもそも、
肉体と精神というのは、
相即不離の関係ではありますが。
ネットを検索したら、
ある週刊誌の記事がヒットしました。
ドラッグに精通したライターが寄稿したものです。
そのライター氏 宛てにメールを送ったところ、
条件次第では・・会ってもいいと。
それで、里見さんにメールをしたワケです」
GOサインの(リターン)メールを合図に、交渉開始。
アポを取りました。
明後日の、
午後三時だったらOKだそうです。
謝礼として、
要求してきた額は、
少ないとは・・言えない額で、
なにやら、
吹っかけられような気がしますけれど」
「まあ、いいさ」
里見は、
ひょいと、手を動かし、パイプの煙をくゆらせた。
サユリの表情が、
一転、
お歳暮モードへチェンジした。
上目使いになり、
媚びを含んだ笑顔を、差し出してきたのである。
サイフからから、
名刺を引き抜いて、
おそるおそる、探偵に見せる。
∥里見探偵事務所
調査員・鈴木サユリ∥
「なんだね、コレは?」




