ユッP・・その続き
「こりゃ! あかんぜよ!」
ゆず季は、
ノートPCのモニターに映し出された、
70年代アメリカ産の刑事ドラマ。
その・・動画を穴のあくほど見ると、
黒髪の方の刑事を指さし・・すっ頓狂な声を上げた。
「汐 坊のスタイルとは全然 相容れないじゃん!
この人の演技スタイルは、
アスリート並の運動神経と、
反射神経をベースとしていると・・うちには映る。
このスタイルをめざすというのは、
B型にA型を輸血するような無謀な行為だ!
・・再考の余地ありだね。
今のまま、
同業者も羨む、
【憑依型 自然体】 演技で、
新陳代謝していけばいいじゃん!
努力を怠らず、
年輪を刻んでゆけば、
いつしか 「求める自分」に、なっているさ!
それが王道だよ・・汐坊にとっての!
焦りは禁物さね」
汐は、
左右に首を振り、
(議論の余地なし)弾丸を込め!
断固・・言い放った。
「私のスタイルは、
ユッPとは・・根本からして・・違う!
年輪を刻めないタイプの演技なの!
このままじゃ・・
先細ってしまう・・
だからこそ、
この黒髪の人の演技を、
め・ざ・す・の・で・は・なく ━ と・り・入・れ・た・い!
この俳優の演技の間と背骨を。
もっと踏みこんで言えば、感覚 そのものを 吸収する!」
怪訝×3=表情のゆず季。
「どのように?」
「それが、
いわゆるひとつの・・『左の感覚』・・よ!」
ひとさし指を、ピッと立てる汐。
「? ? ?」
「論より証拠。
さっそく 『めんちゃも屋』 をランスルーしよう。
悪いんだけど・・ユッP、
私(歩) 以外の役、全部 受け持ってくれるかな?」
「ぜんぜん・・構わないけど・・」
ゆず季は、
自分のバッグから、
カバーのかかった台本を、
慎重に抜き出した。
ユッPの台本をサッとひったくる、汐。
「おい、おい、」
ゆず季は、
あわてて取り返そうと手を伸ばした。
相手をかわしながら、
台本を開いて、
しげしげと覗き込む。
「相変わらず、研究熱心!
音声ドラマなのに、
自分の演ずる人物の服装、
仕種のひとつひとつにいたるまで、こと細かに書きこんである。
さらに、
趣味、星座、
家庭環境、宗教観・・までも。
わァ━あ・・やめてェ━!
キャ━ッハハハハハハハハハハハハハハハ」
汐をくすぐり倒して、
取り返した台本を、
わが子のように抱きしめる・・ゆず季。
「こんど、
断りなしでうちの台本みたら、殺すよ!
それよりさ、
早いトコためしてみようよ、
その・・『左の感覚』・・というヤツを」
汐は、
笑いの余韻を引きずりながら、
ケイレン気味にヒクヒクうなずくと、
自分の台本を取り上げた。
生放送用ラジオドラマ、
『めんちゃも屋』の台本を片手に持った、
二人は、
真剣な眼差しで、
向き合い、
異空間へ・・突入していった。




