ユッP
場面を終えた。
エアポケットのような ・・ 間。
たがいの・・目が・・合った。
どちらともなく・・笑い出す。
「やるねえ!
さすがは、汐 坊!
すでにセリフが頭に入ってるんだ」
(潤んだ瞳を向け)
「駆け出しの頃・・
お茶しながら、
お互い、
必死で、
一行・二行しかないセリフを、
ダメ出し、
アドバイスしあいながら、
練習してた当時を・・想い出したよ」
「うん、うん、」
(汐の瞳も潤んでいた)
「情熱だけが拠りどころだった・・あの頃・・」
「それと・・『負けん気!』」
相手をグイと指さす、ユッP。
「そっちこそ!
うちの方に、
セリフが多く振り当てられた時は、よそよそしかったくせして」
ユッPそっくりの口調、
指さし仕種で応酬(汐の十八番がさく裂)
これには、もう、たいがいの人がKOされてしまう。
ゆず季も例外ではなかった。
一瞬、キョトンとしたのち、大笑い!
「ギャーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
お腹を激しく上下させ、
笑い上戸の子が生まれる、
胎教になるほどの・・笑いっぷりであった。
二人はソファに腰を落ち着け、
向き合うと、
同時に、
口を開いた。
言葉と言葉がバッティングする!
クスクス笑いながら、
ゆず季は相手に手を差し伸べ、
発言の機会を譲った。
バトンを受けた汐は、
感心を(屈折させずに)口にした。
「ユッP、
一段と腕を上げたねえ。
<上手い!>
素直にそう思うよ」
「ありがとう。
汐坊にそう言ってもらえるなんて・・光栄だ!
ウレしいね」
「劇団の子役から、声優、
そして・・主役ときて、
いずれは・・
テレビドラマなんかも視野に入れてるワケ?」
「イエス!と言いたいところだけれど、
(自身の顔を指さして)
このルックスだからねえ。
ブスではないと自負してる。
ただ・・決定的なものに欠けている。
うちには┃ 華 ┃がない!
悔しいけど・・汐坊とは違う。
哀しき現実さ。
声一本で行くよ、うちは!」
ゆず季の自己分析はプロフェッショナルであった。
ルックスは(可もなく不可もなく)ビジュアル向きとは言い難い。
しかし・・
その目は、
非常に生き生きとしており、
肯定的な光を、
━ いつかは、頭角をあらわしてくる ━
そのような予感をさせるに足る、揺るぎない光を放っていた。
ルームサービスされた、
豪華な昼食を目のあたりにして、
ゆず季の声は1オクターブ上がった。
「凄いね!
お昼からしてリッチなんだ。
スターは違うね。
喫茶で、
お財布と相談しながら、
ケーキのお代わりを『どーしよーか?』と、
悩んでいた頃がウソみたい」
「うれしいお世辞ね。
いまや、スターダストだけど」
頬づえをつき、
ホーギー・カーマイケルの名曲を、
小声でハミングする、汐。
ゆず季は、
小気味よいリズムでランチを口へ運ぶ。
パクパク、もぐもぐ、ツルツル、ごくごく、ぺったらポ♪
未来の母の食べっぷりに、
驚き、感心、口ポカン!の汐であった。
「う━ん、美味しかった! ごちそうさま!」
汐のぶんのランチもたいらげた・・ゆず季。
満ち足りた表情の彼女は、
ナプキンで口をぬぐうと、
お腹をポンポンと叩いた。
「おそまつさまでした」
母なる者の栄養補給活動に、
畏敬を込めて、汐は言った。
ゆず季は、
いま一度 お腹を叩いた。
「空腹は、じゅうぶん満たされた。
そろそろ本題に入ろうか・・汐坊」
ユッPの眼光が鋭くなる。
「左近マネージャーから聞いたけど、
新しい演技スタイルを模索してるんだって?」
汐は無言でうなずくと、
ノートPCを立ち上げた。




