負の連鎖
急ぎ足で歩きながら、
写真週刊誌のページをめくる・・乙骨P。
トップ記事は、
◆ 『笹森汐と ━ 殺人容疑者の某氏』 ◆
DJアイドルと、
某氏(設楽 涼)との、
ツーショット写真が、
見開きページいっぱいに、
でかでかと掲載されていた。
『小さな太陽』の、
プレミア試写会の時に撮影されたものだ。
涼の顔には、
塗りたくったような墨が乱雑に入れられ、
その横に、
微笑む汐の可憐な姿があった。
可憐であるがゆえに・・
(こいつ!)
(かわいい顔して)
(陰で相当悪いことしてンな!)・・想像を、
読者は容易に抱くコトになる。
イメージ操作 ⇒ 負の連鎖のスタートである。
記事は、
刺殺事件の容疑者・・「○○ ○氏」。
(涼のフルネームは 匿名扱い)
との関係を前菜に、
メインディッシュには、
分厚いステーキ・・
プロダクションの力で封印されていた、
汐の生い立ちを、書き綴った。
◆ 『DJアイドル笹森汐の、ひた隠しにされた過去を暴く!』 ◆
父親の顔を知らない・・十七歳。
ホテルのシングルルームに母娘二人、
長いあいだ、
息をひそめるように暮らしていた。
母親は、
おでんの屋台を引いて、生計を立てていた。
屋台を切り盛りする、
当時の、
母親の写真(セピア色に加工されたもの)も、載っていた。
その他に、
プレミア試写会の夜。
U駅界隈で、
『殺人容疑者・設楽 涼』と、
二人で並んで歩き、
酔ってはしゃいでいる汐の、
粗い粒子の写真も、
(ケータイで撮った画像を引き伸ばしたもの)
掲載されていた。
笹森汐を、
よく知る、
関係者の談話として。
A━ 「彼女の生い立ちは、
だいたい推測できましたね。
どことなく・・
品性に欠けるというか。
映画会社の主催した、
フルコースの食事会の時に・・
食べる順序が分からずに、
終始とまどい、恥ずかしそうにしていましたもの」 ━
別人物の談話。
B━ 「アルコールですか?
打ち上げの時など、
本当にウマそうに、
ビールを飲んでいましたねえ。
えっ? 未成年?
ハハハ・・この業界、
一般社会とは違いますしねえ。
杓子定規な野暮を言っちゃいけませんや」 ━
さらに、
別の人物による談話。
C━ 「笹森嬢ですか?
ここだけの話ですが・・
彼女、
マレに、
手がつけられなくなることがありましたわ。
映画の撮影の合間に、
炭酸 飲料の入ったビンを、
眉を吊り上げて、
まるで、般若のような形相で、
悪態を吐き散らしながら、
撮影所の外壁に、叩きつけて、割っていました。
それは、それは、恐ろしい光景で、
わたくし、震えてしまいました。
そのとき、
汐坊は『元ヤン』だなって!ピンときましたね!」 ━
怒気をみなぎらせた、乙骨は
写真週刊誌を、
通路の床に叩きつけると、
何度も、何度も、踏みつけた。
「クソッたれめ!
なにが、関係者の談話だ!
寄生虫どもが!
吐き気がしやがるぜ!」




