ウィークポイント
(よしよし!)
(ここは、思い切って)
(㊙ 療法を、施すことにしようゾよ)
(ウッシシシ!)
ニンマリしながらの、ひとり言。
涼は、
シーツの下のほうを、
そーっと、
まくり上げると、
プリティな足の裏をジーッと見つめた。
中心部に、
照準を定める。
慎重に、
自身の指先を誘導し、
二本の指を這わせると、足の裏をコチョコチョとくすぐった。
「 キャーッハハハハハハハハハハハハ! 」
一拍半遅れて、
けたたましい、
悲鳴まがいの、笑い声が、
部屋中に響きわたった!
笹森マニアも知らない、
ほんの一部の、
近しい者のみが知る、DJアイドルの『ウイークポイント』。
汐坊は、
信じ難いほど敏感な、
足の裏の、持ち主なのであった。
悶絶しながら、
モー烈に脚をバタバタさせ、
涼の指を振り払うと、
シーツをガバッ!と下ろし、
噛みつきそうな顔をさらして、イタズラの主を叱りつける!
「コラッ!
設楽 涼!
人が苦しんでいるときに・・悪ふざけはヤメなさい!」
怒った顔の残像も鮮やかに、
いま一度、
シーツを同じように被り直すと、
怒鳴り主は・・プンプン(`O´*)・・ふて寝してしまった。
ショック療法は、
とんだ、
やぶ蛇に終わった。
いい年をして、
叱られてしまった涼にいちゃんは、
少しく肩を落とし、考えをめぐらせた。
怒るくらいの気力があれば、
立ち直りも、早いに違いない・・と、
自分を慰めるのであった。
涼は、
噛みつかれないように、
おそるおそる・・小さな頭をなで、
「おやすみ」と声をかけた。
その間・・ 約30分。
軽い寝息が、聞こえてきたので、
703号室を出て、フロントに戻った。
━○━○━
「申し訳ありませんが、
その質問に関しては、
黙秘権を行使させていただきます」
居ずまいを正して、
涼は、
刑事に、
きっぱりと言った。
「ふーん、
そういう態度か。
まあ、それも良かろう。
ところで・・
なんといったかなあ?
そうだ!
そうそう!
中邑 冴子!
彼女もあわれよなあ。
婚約者が、
鉄格子の中だもんなあ。
お前の冴子は、
男好きのする、
すこぶるつきの高級車らしいじゃないか。
夜な夜な、
蠱惑に満ちた、身体を持て余して、
ガス欠 起こしているんじゃないのか?
それとも、
別の男を引っ張り込んで、
火照った豊満な体に、乗車させているかもな?
設楽よ!
早く自白して楽になれや!
臭い飯喰らって、
辛抱強くお務めすれば、
10年くらいで、
娑婆に出られるかもしれん。
そうしたら、
また、
懐かしのの高級車に乗るがいいさ! グフフフフフフ」
「・・ ・・」
涼は、
両手を固く握りしめた。
血が噴き出るほどに、
歯を食いしばって、
暴言と屈辱に・・どうにか・・耐えた。
早朝。
二日酔いの重い頭を抱えた、
乙骨プロデューサーが、
ポルシェを地下駐車場に滑らせ、
ラジオ局へ出社した。
レイティングに、
放送予定の生ドラマ。
そのリハーサル時間を巡り・・
汐のスケジュール調整が、
錯綜し、難航していたのだ。
とぐろを巻くように、
溜ったストレスを、
夜ごと、多量のアルコールで紛らわせていた。
今朝は、
睡眠時間ゼロで、
出社したのであった。
自分のデスクの前へ腰をおろし、
近くのマーメイド・カフェで買い求めた。
ノッポ・サイズのコーヒーを、
ブラックで、
のどへ流しこむ。
せき立てるように鳴る、
固定電話や、
スマートフォンを無視して、
デスクの上に置かれた、
早刷りの朝刊をめくる。
乙骨の目は、
下段に載っていた、
写真週刊誌の、広告記事にズーム・アップした。
新聞を強く握りしめる。
紙面に、大きく、シワが寄った。
◆「DJアイドルの黒い素顔!」◆
◆「殺人容疑者とのツーショット!」◆
はじかれたように立ち上がり、
局内にあるコンビニへ、
猛ダッシュする、乙骨プロデューサー。
Pの発する、
ヘクトパスカルに、ぶったまげる!
若い店員。
まるで、
突進する暴風雨である。
暴風圏から遠巻きにしている店員を、
尻目に、
かっさらうようにして、
写真週刊誌を買い求めた。




