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汐坊の『哉カナ』   作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
62/103

取調べ室パートⅢ


 調しら担当たんとう刑事けいじは、

 りょうを・・一瞥いちべつすると、

 尋問じんもん再開さいかいした。


「いいか・・設楽したら

もう一度いちどくぞ。

事件じけん当夜とうや

被害者ガイシャ弓削ゆげ 敦子あつこ(26)が、

刺殺しさつされたと推定すいていされる・・『午後ごご10()まえ

まえは、

べつのおきゃくに、

内線ないせん電話でんわされ、

そのルームで、

30分ほどかけて、

空調くうちょう修理しゅうりをしていたんだよな。

ここまでは、間違まちがいないか?」


「はい、

そのとおりです」


くだんの703号室。

シングルルームだがな、

調しらべてみたら、

宿泊しゅくはくカードにかれた氏名しめい偽名ぎめい

住所じゅうしょ電話でんわ番号ばんごうはデタラメだった。

つまり、

まえのアリバイを証明しょうめいできる人物じんぶつは、

まぼろし』のような存在そんざいなわけだ」


「・・ ・・」


人相にんそう風体ふうていを、くわしくってみろ!

おとこか? 女か? 年齢トシは?」


先般せんぱんもうげましたとおり、女性じょせいでした。

つかれていたようすで、

こちらにけるかたちでベッドによこたわっていました。

照明しょうめいとされており、

まくらもとのスタンドが点灯てんとうしているだけでした。

わたし懐中かいちゅう電灯でんとう使用しようし、修理しゅうりおこないました」


女性じょせい年齢トシは?

わかかったか? 中年ちゅうねん? 

それとも老人ろうじんか?

おおまかでいいから、ってみろ。

まさか、

あかぼうってことはないだろう?」


「さあ?

なにぶん、照明しょうめい充分じゅうぶんでなかったうえに、

わたしのほうへけていましたもので。

としりやあかぼうでなかったことは、たしかです。

こたえられるのは、ここまでです。

憶測おくそく証言しょうげんすることは、ひかえさせていただきます」


専門せんもん依頼いらいして、

部屋へや調しらべさせてもらった。

空調くうちょう設備せつび修理しゅうりしたらしい形跡けいせきは、

なかったという報告ほうこくがってきているんだがなァ」


「ええ。

修理しゅうりというよりは、

調整ちょうせいたぐいでしたから。

いかんせん、

うちのホテルは設備せつび老朽ろうきゅうしているもので」


「チッ!」

 刑事けいじは、

 ちいさくしたちした。


 ここのところ、

 調しらべのようすが変化へんかしてきていた。

 刑事けいじのいらだちが、

 どこか、シンプルしているのだ。


 りょうほうも、

 すこしばかり、やりやすくなった。

 余計よけい思考しこうをひねくりまわさずにすむ。

 たぶん、

 事件じけん構成こうせいする複雑ふくざつ要素ようそ夾雑きょうざつぶつ)が、

 ふるいにかけられ、

 全体ぜんたいぞうがクリアになってきたのだろう。

 『かんち』させるのだけが目的もくてきになってきている。

 これはこれで・・ 

 ・・すこぶるやっかいなのだが。


「おい、設楽したらよ!

なにを、かくしてる?

まえの、

そのかたくなな態度たいどは、

アリ地獄じごくつうずる一本いっぽんみちだぞ!

事実じじつ関係かんけいはなしてみろ。

悪いようにはしないから・・なあ。

はやいとこ、はなすことが、

まえ自身じしんのためでもあり、

妙齢みょうれいくなられた、

ホトケの女性じょせい供養くようにもなるんだから」


 ━○━○━


 事件じけん当夜とうやは、

 くすのき 南平なんぺいが、

 公休こうきゅうのため、

 フロント業務ぎょうむいていたのは、

 りょうであった。


 チェックイン状況じょうきょうはスムース。

 良好りょうこうおもわれた。


 りょうが、

 最初さいしょ内線ないせん電話でんわけたのは、


 ━ 午後8時23分 ━

 

 フロント専用せにょう電話でんわの、

 液晶えきしょうモニターには、

 常時じょうじ

 日付ひづけ時刻じこく表示ひょうじされている。

 着信ちゃくしんには、

 その時刻じこく点滅てんめつする仕組しくみみだ。


 みだしたこえの、

 弓削ゆげさんからされ、

 オーナーにフロントをあずけ、701号室にかった。


 いつもの ストーカー・パラノイア を発症はっしょうしており、

 極度きょくど興奮こうふんしめしていた。


 苦慮くりょしながらも、

 彼女かのじょはなし真摯しんしき、

 ややきをもどしたところで、

 処方しょほうやくの、

 「安定あんていざい」をあたえ、

 ベッドへ、

 彼女かのじょよこたわらせ、

 安静あんせい状態じょうたいはいったのを、とどけてから退室たいしつした。


 午後9時27分。

 疲労ひろうおぼえながら、フロント業務ぎょうむもどった。


 今度こんど

 ━ 午後9時54分 ━

 703号室から内線ないせん電話でんわはいった。


 受話じゅわまえに、

 習慣しゅうかん客室きゃくしつパネルにをやり、

 宿泊しゅくはくカードを確認かくにんする。


 『高木たかぎ ゆう』 ━ 東京とうきょう在住ざいじゅう


 はじめて名前なまえで、

 常連じょうれんさんではなかった。


「はい、フロントでございます」


 電話でんわ相手あいては、

 うかがうような気配けはいで、

 少しのあいだ・・

 こえはっしなかった。


 かさねてりょう・・「もしもし、フロントでございますが?」


 703号のおきゃくは、

 小声こごえった。

りょうにいちゃん?                

わたし・・しおり ぼう

ロケの合間あいまに、

ラジオのリハがあって、

東京とうきょうもどってきたの。

ちょっと精神せいしんてきがっちやって。

ねがい、かおせて。

ミスター・トランキライザー!」


「しょうがないなあ・・

いまくから、っといで」


「703号室の空調くうちょうに、

具合ぐあいしょうじましたので」

 

 りょうは、

 オーナーにつたえ、

 懐中かいちゅう電灯でんとう工具こうぐばこをたずさえ、

 エレベーターにった。


 [703] 

 と表示ひょうじされた、

 臙脂えんじいろ鉄扉てっぴをノックする。


「フロントのものでございます」


 返事へんじがない。

 今度こんどつよめにノック!


 すると、

 パタパタっとかろやかな足音あしおとがして、

 とびらひらいた。

 

 上目うわめ使づかいの、

 ちいさなかおのぞく。


 りょうは、

 つつみこむようなみをかべた。

 視線しせんを、なにげなく、した移動いどうさせる。


 彼女かのじょは、

 うすいベージュのキャミソール姿すがたであった。

 その内側うちがわに、

 ピンクのブラと同色どうしょくのショーツがけてえた。


 はやいまばたきを、かえす・・りょう


「キャッ!」

 

 キャミソールが、

 小声こごえ悲鳴ひめいげる。

 

 キャミじょうは、

 すかさず、

 うしろをいて、

 相手あいて視線しせん切断せつだん

 照明しょうめいスイッチをパチンととした。

 

 りょうは、

 バツがわるそうに、

 工具こうぐばこったまま、まわれみぎする。


 背中せなか背中せなかで・・ご対面たいめん


 以前いぜんより、

 ふっくらした彼女かのじょむねが、

 りょう脳裏のうりにチラついて、

 なかなか・・はなれてくれなかった。


 ・・ズイブン・・

 ・・大人おとなに・・

 ・・なったもんだ・・  


「ゴメンなさい!

つかれちゃって・・

ベッドでやすんでいたものだから。

遠慮えんりょしないではいってちょうだい」


 そううと、

 すばしっこいうごきで、ベッドにもぐりこんだ。

 それから、

 スタンドを点灯てんとうさせる。

 

 シーツをすっぽりかぶっている。

 小刻こきざみにふるえるシーツ。

 ぬの一枚いちまいとおして、

 ころしたようなごえれてきた。


「 ・・こわくて・・こわくて・・

  ・・とっても・・・とっても・・不安ふあんなの!

  ・・むねが・・

  ・・めつけられるみたいに・・くるしい!!」


「そうだよなあ・・

ラジオドラマのリハと、

テレビドラマを両立りょうりつさせるというのは、

たしかにキツイわな。

しかも、

ハードスケジュールをってだものな。

ひかえし、

ラジオドラマは(ライブ)放送ほうそう

二重にじゅう三重さんじゅうのバイアスとプレスだ!」


「ゴメンね!

ほかひとまえには、

こんなみっともない姿すがたさらけせないから。

これでもいちおう・・主演しゅえん女優じょゆうだから。

ねえ、りょうにいちゃん、

ちょっとのあいだ

なにか おはなし してくれる」

 

 懐中かいちゅう電灯でんとうと、

 工具こうぐばこを、テーブルにくと・・りょうかたをすくめた。


こまった、しおり ぼうだ!」


 そうつぶやくと、

 シーツからはみしている黒髪くろかみを、

 やさしくなでてやる。


 高級こうきゅうリンスのとてもかおりがした。

 芸能げいのうかいはいまえに、

 使用しようしていた、

 市販しはんのリンスとは、

 かおりのしつ格段かくだんちがっていた。


 ちょっとした・・

 ときうつろいをかんじてしまう。


 バディに、

 むかしばなしを ひとくさりして、

 つかれたこころのマッサージをはかるが、

 反応はんのうは、

 かんばしいとはいえなかった。



 突如とつじょとして、

 りょう脳内のうないへ、

 どーゆーわけか、

 辺鄙へんぴ方向ほうこうから、

 アイディアがってきた。


 こうしがたい、

 アイディアであった!! 


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