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汐坊の『哉カナ』   作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
56/103

女優魂

 

 乙骨おっこつPは、雪空ゆきぞらの下、 

 タクシーで東京とうきょうへ、とんぼがえり。


 ━○━○━


 今朝けさがた、

 聖林プロダクションの弁護士べんごしから、

 内容ないよう 証明しょうめい 郵便ゆうびんとどいた。

 最後さいご通告つうこく・「事務所じむしゃ決定けってい」・をきつけてたのだ。


 とう事務所じむしょ所属しょぞくタレント、

 笹森ささもり しおりの、

 体調たいちょう維持いじなら管理かんりのため、

 無謀むぼう企画きかく撤回てっかいしないかぎり、

 ラジオ番組ばんぐみ出演しゅつえん本年ほんねん 十月いっぱいで、

 見合みあわせることを決定けっていしたむね通告つうこくする。

 違約金いやくきん契約書けいやくしょどおりり、全額ぜんがく支払しはらわれる云々(うんぬん)・・という内容ないようである。


 聖林プロは、本気ほんきのようだ。

 ラジオから撤退てったいするのもさないはらづもり らしい。

 アジア進出しんしゅつけての会社かいしゃ方針ほうしん転換てんかんか。

 ・・(聖林プロの社長しゃちょう思惑おもわくけてえやがる)。

 ・・交渉こうしょう余地よち最早もはやないようだ。


 それで、あわててポルシェをぶっばして、

 しおりのロケ現場げんばまでやってきたのだ。


 汐 本人ほんにんに、

 きがたい感情かんじょうのしこりや、

 拒絶きょぜつ反応はんのうがあるのなら、

 もはや、あきらめるより仕方しかたのないこと。


 オレもあれこれぎたきらいはある。

 失敗しっぱいしたタレントのツテを、

 彼女かのじょには絶対ぜったいんでしくないゆえ、である。

 しかし、われるほうはウザったかったろう・・(反省はんせいしなければ)

 

 

 女優じょゆうの ━ しおりぼうの、

 潜在力せんざいりょくうわせを、

 めないかぎり、

 なまドラマの成功せいこうなんぞ、ありえない。


 あの子の、

 さきほどの良性りょうせい反応はんのうからさっするに、

 しおりぼうは、

 たぶん、

 脚本ホンんだにちがいない。


 脚本ホンカンどころ ━ 可能性かのうせいを、

 直感ちょっかんで、見抜みぬいたにちがいない。


 自身じしん技量ぎりょうで・・

 さらにゆたかに、

 そしてたかみに、

 ドラマをっていけると、

 判断はんだんしたのだろう。


 多数たすう公募こうぼなかから、

 厳選げんせんしたダイヤモンドの原石げんせきを、

 わがチームが、

 全力ぜんりょく傾注けいちゅうして、カッティングをほどこしたのだ。


 その・キラめきが、

 あのの・女優じょゆうだましいに・とどかないはずはない!


 しおりの・・

 きも部分ぶぶんを、

 乙骨おっこつは、

 るように理解りかいできた。

 

 当人とうにんさえ、

 であれば、

 前進ぜんしん余地よちはある。


 しおりには、

 度胸どきょうがあるし、

 ここぞとめたら、

 テコでもうごかない、

 たのもしい頑固がんこさも、

 っていた。

 

 映画えいが出演しゅつえんのときがそうだった。

 事務所じむしょ徹底てってい抗戦こうせんした、

 意志いしつよさには、

 はたからていた乙骨おっこつも、

 したいたほどだ。

 

 結果かっか・・

 独立どくりつプロの企画きかくに、

 映画えいが会社がいしゃと聖林プロの資本しほんはいり、

 スゴうで監督かんとくが(偶然ぐうぜんとはいえ)くわわり、

 映画えいがだいヒットをばした。

 


 なまドラマのオンエアは、

 こちらが覚悟かくごめれば、いいだけのはなしだ。


 問題もんだいは、どくなくらい、

 密度みつどまったスケジュールを、

 どう、

 調整ちょうせいしてあげられるかに・かかっている。


 本人ほんにん気合きあいや、

 意志いしりょくやだけではどうにもならない。


 しっぺである、オレの手腕しゅわんにかかっている。


 しおりがこなす、大量たいりょう仕事しごとなかで、

 ラジオのギャラが一等いっとうやすい!

 という・・

 左近さこんマネージャーの言葉ことばは、

 みみいたかった。


 ラジオDJディージェー相場そうばとしては、

 けっしてやすくはないのだが・・


 しおりぼうは・・

 いまや・・

 聖林プロでも、

 上位じょういかせである。


 彼女かのじょ年収ねんしゅうは、

 はちけた後半こうはんか、

 きゅうけたに・ちかいはずだ。


 給料きゅうりょうは、

 デビューのときから、

 母親ははおや希望きぼうをいれ、

 歩合制インセンティブだといている。


 契約けいやく選択せんたくは、正解せいかいだったわけだ。


 しかし、まあ、

 この成長せいちょうぶりはどうだろう。


 オーディションのときた、

 あの・・

 たよりないかんじの少女しょうじょが、

 いまや、

 スポットライトの中心ちゅうしんに、位置いちしている。


 あの時点じてんで、

 ほかの審査しんさいん先生せんせいたちが、

 「補欠ほけつ合格ごうかくにも賛成さんせいしかねる・・」

 という、

 意見いけんべたのも、無理むりからぬところはある。

 これは悪意あくいではなく・・

 ひとりの少女しょうじょ人生じんせいとおまわりさせてはいけない・という配慮はいりょからである。


 ルックスに特別とくべつはな☆ があるわけではなく、

 グランプリのおんなとは、

 比較ひかくにすら、ならなかった。


 ただ・・うまくえないが・・

 どことなく、

 きつけられるもの(・・)はあった。

 ちょっとしたのこなし、

 タイミングのかた

 変化へんかする表情ひょうじょう多彩たさいさ、柔軟じゅうなんせい、そして・・れ。


 残念ざんねんながら、

 どれも、輪郭りんかくとぼしく、

 よくよくれば、

 という、

 レベルにぎなかった。


 インパクトはないが・・きもこないという・・

 短所たんしょなのか?

 長所ちょうしょなのか?

 理解りかいくるしむような特徴とくちょう見受みうけられた。


 結果けっかからさかのぼれば、

 おおいなる長所ちょうしょだったワケだが。


 どことなく、

 評価ひょうかも、

 あいまいにならざるをえない。


 ひざをったのは、演技えんぎりょく

 オーディションのときに、

 すでに(未熟みじゅくであったが)サムシングが存在そんざいしており、

 乙骨おっこつ芝居しばいレセプターを刺激しげきしてきた。


 素人しろうとには、わかかりにくい、

 微妙びみょうなものだが・・

 それは、

 たとえてえば、


 Xという人物じんぶつが、

 やくえんじて、

 Xプラスという成果せいかげたとする。

 その役者やくしゃは、

 一見いっけんうまそうにえるけれど、

 たいしてしろはない。

 ってまれた円周えんしゅうないにとどまったまま、

 おおむね、成功せいこうしないでわる。


 成功せいこうしても・・規模きぼだ。


 Xの演技えんぎが→X自身じしんのワクをやぶり、

 すれすれ・Yの領域りょういきに・若干じゃっかんでもとどけば、

 可能性かのうせいりといえる。


 笹森ささもり しおりえんじて、

 いかにも「笹森ささもり しおりでござい」ではダメなのだ。


 そののタイプで、

 有名ゆうめい役者やくしゃも、いないこともないが、

 一風いっぷうわった個性こせいつ・脇役わきやく

 もしくは・・

 人間にんげんばなれしたオーラのぬし

 いわゆる 「だいスター」 という人種じんしゅである。

 十年じゅうねん一人ひとりるかという、

 ほんとうに・・マレな例外れいがいだ。


 役者やくしゃは、

 べつ人格じんかくが、

 (XからYへの跳躍ちょうやく

 表出ひょうしゅつしてくるくらいでないと、

 見込みこみはない。


 このひとがこんなふうになるの?というような、

 なりきりりょく

 トランスりょく

 飛躍ひやく意外いがいせいが・ものをう。


 これが・・

 役者やくしゃ才能さいのうという、

 えない存在そんざい判断はんだん材料ざいりょう

 いわゆる・・

 乙骨おっこつ基準きじゅんである。


 下手へたっピー が、

 莫大ばくだい努力どりょく新陳しんちん代謝たいしゃすえ

 名優めいゆうになるケースもある。

 それは・・また・・べつはなしだ。


 しおりあらけずりながら、

 (XからYをえ→Zくらいの)

 さきっていた。

 だからこそ・・

 ほか審査員しんさいん反対はんたいって、

 推挙すいきょしたのだ。


 たいしてオーラのなかった しおりぼう

 彼女かのじょ場合ばあい

 スターせい(オーラ)は、あとからそだってきた、格好かっこうだ。

 才能さいのうとオーラのバランスがとてもいい。


 (たとえ・・短命たんめいわってもいいではないか!)


 (しおりぼうは・・流星りゅうせいなのだ!)

 

 そのような解釈かいしゃくに、

 乙骨おっこつ思考しこうかたむきつつあった。


 運命うんめいめぐりあわせで、

 笹森ささもり しおりというの、

 新人しんじんまかされることになった。

 

 Pが新人しんじんテストを仕掛しかけたときの、

 (あたまいた)反応はんのうはナイスだった。

 おもすと、わらってしまう


 にらかえしてくるということはガッツ!があるということだ。

 ダメしにいちいち くじけ(・・・) ていたらはなしにならない!

 そのぶん・・

 進歩しんぽおくれてしまうのだから。


 それに・・

 オレのおくから発信はっしんされている、

 信号しんごう感受かんじゅする繊細せんさいさも、ちあわせていた。



 『ラジオドラマ』の企画きかくげたのは、

 オーディションのときの彼女かのじょから、

 インスピレーションをたものだった。


 一般いっぱんには、

 乙骨おっこつPが、ラジオドラマを再生さいせいさせ、

 ひろめたとの認識にんしきが、定着ていちゃくしていた。

 (『かなカナ』の成功せいこうけて、

 他局たきょくでも、こぞってラジオドラマをはじめた)

 しかし・・もとをただせば、

 しおり存在そんざいが、

 みちびせたといえなくもない。

 

 ━○━○━



 しおりは、

 あしをバタバタさせつかれ、

 アクションは、

 自然しぜん停止ていしされた。






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