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汐坊の『哉カナ』   作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
51/103

ミスター・トランキライザー

「おかえり、りょうにいちゃん」

 ハッ!とする南平なんぺい


 いつのまにか、

 かれ真横まよこに、

 しおりが・・っていたからだ!


「やあ、しおりぼう

ちょうどかった。

はなしがあったんだ。

部屋へやをたずてゆく手間てまはぶけた」


「なに?・・はなしって?」

 

 りょうは、

 フロントの背後はいごゆびさした。


なかはなそうや、事務所じむしつへどうぞ」

 ドアマンよろしく、

 フロントカウンター外側そとがわとびらひらいて、

 ・・DJアイドルをみちびきいれる。


 しおりきなミルクティーを、

 喫茶室きっさしつもとめ、

 事務室じむしつはいっていく・・主任しゅにん


 南平なんぺいは、シヤットアウトされたかんで・・いっぱいだ!

 背後はいごとびらに、みみを・・てる。


 ソファーにこしける、しおり


 かいこしかける二人ふたり


 りょうは、テーブルのうえに、

 湯気ゆげちのぼる、かみコップをくと、

 上体じょうたいをスイとちかづけて、

 しおりを・・のぞきこむ。


 アゴにかるゆびをかけ、

 ちいさなかおを・・クイと・・げた。


「きょう・・大泣おおなきしたね。

なにがあったのか・・はなしてごらん」


 しおりかおが、変化へんかした。

 表情ひょうじょうのバリアがり、

 かなしみがかびがる。


 ・・ベソをかき・・

 ・・大粒おおつぶなみだをこぼして・・

 ・・しゃくりあげる・・


 むかしと、

 すこしもわっていない。

 りょうは、

 自分のハンカチでなみだぬぐってやる。


乙骨おっこつプロデューサーと衝突しょうとつしちゃって・・」

 ヒクヒクしながら、

「『接吻せっぷん』の数字すうじがイマイチだったから・・

今度こんどのレイティングでは、

ラジオドラマを・・生放送なまほうそうで・・オンエアするというわけ。


スケジュールがぎっしりで・・とても・・ムリだもん。

はつライブのリハもあるし、

テレビの単発たんぱつドラマの収録しゅうろくともダブる。


現状げんじょうでは、

台本ホンあたまれるのでせいいっぱい!

なおしの・・きかない・・ぶっつけは、

いまのわたしには・・到底とうてい・・不可能ふかのう

だから・・

強硬きょうこう反対はんたいしたの!

そうしたら・・

モノすご剣幕けんまくで・・『おまえなんかヤメちまえ!』って。


カチンとて・・

しおりも・・台本ホンげつけて・・ってやったの、

『こんな番組ばんぐみなんか、りてやる!』って。


スタッフはボーぜんとしてた。


わたし・・ワケわかんなくなちゃって・・スタジオをびだしたの。


マネージャーはさおになって、

関係かんけい修復しゅうふく躍起やっきになってる。

もーう・・最悪さいあく・・どうにもならない」


 ちいさなかおを、左右さゆうり、きじゃくる。


 りょうは、

 なやめるアイドルのよこにポジショニングをうつし、

 背中せなかをさすってやる。


「うん、うん」 と、うなずき、

かっているさ」 と、あいづちをつ。


 どしゃぶりきから・・普通ふつうきへ。

 雨量うりょうが・・きをしめしてきた。


乙骨おっこつさんのことだから、

どんなリスクをっても、

生放送なまほうそう敢行かんこうするだろうし、

また・・そういうひとでなければ、

とても・・

かなカナ』という番組ばんぐみげ、

軌道きどうせることは・・できなかった!


いぬまれたぐらいにおもってるよ・・きっと。

あのひと・・わたしのこと・・

所有物しょゆうぶつぐらいに・・おもってるから。


有能ゆうのうなチームと・・

はなばなれになってしまうのは、本当ほんとうにツライ!

もうすこし、

仕事しごとりょうを、

おさえられたら、

ラジオに・・ちからそそげるのに・・」


「いっそ、

入院にゅういん休暇きゅうかでもとっちまったら、どーだい?

バディ?」


「・・ ・・」曇天どんてん


経験けいけんそくわせてもらうよ。

困難こんなん状況じょうきょうにあるときこそ、

前向まえむきに、ぶつかっていくべきだな。

予期よきしない方角ほうがくから、みちひらけてくるものだ。


いまの・・しおりぼうに、

感情かんじょうてろ!

というのは・・こくかもしれん。

しかし、

限界げんかいえようと尽力じんりょくして、

それでたおれたら名誉めいよ負傷ふしょうさ。

だれ文句もんくは、わない。


ほら・・

題名だいめいは・・ドわすれしたけど、

先週せんしゅう・・放送ほうそうされた・・ラジオドラマ」


 ━○━○━

 (あらすじ)


 ある好天こうてん・・

 小型こがたせんで、単身たんしん りょうた・・船乗ふなのり(=しおりやく)。


 ここのところオケラつづきだったので、

 射幸しゃこうしんこし、

 いちばちかのけにて・・禁漁きんりょう海域かいいきかう。

 

 思惑おもわくどおりの大漁たいりょうで・・ほくそむ・・ふなり。


 悠々(ゆうゆう)・・帰船きせん途中とちゅう


 不意ふいに!

 ツバメ突風とっぷうおそいかかり!

 マストをぷたつに・・った!

 

 またたに、つきくもかくれた。 漆黒しっこくやみ


 ボーぜんとする・・ふなり!


 天候てんこうが・・に・・激変げきへん!!

 

 小型こがたせん強風きょうふうながされるように・・

 ざまじいスピードで、

 黒檀こくたん漏斗じょうご想起そうきさせる、

 巨大きょだい渦巻うずまきへ・・直進ちょくしんしてゆく。

 

 あらがすべは、ない!


 おおうずきへ・・まともに・・突入とつにゅうする・・小型こがたせん


 怒号どごうげる、

 おお渦巻うずまきから、

 生還せいかんしたものは、

 かつて・・一人ひとりもいない!


 恐怖きょうふのあまり・・

 正気しょうきうしない・・

 慟哭どうこくする・・主人公しゅじんこう

 (この場面ばめんでの、しおり演技えんぎは、圧巻あっかん!)

 (素晴すばらしい想像そうぞうりょく発揮はっきしてみせた!)


 ふねは、

 ざまじい速度そくど回転かいてんし、

 遠心力えんしんりょくたもちながら、

 船体せんたいかたむけ、

 漏斗じょうごそこへ(奈落ならくそこへ)、

 ・・滑落かつらく・・降下こうかしてゆく!


 ━ 背中せなかわせ ━

    そのとき!!

 ━ 潜在せんざいりょく発動はつどうされた ━


 主人公しゅじんこうは、

 いまわのきわに・・あきらめること・・をめる!


 勇気ゆうきふるこし、

 じていたマブタをひらき、

 おお渦巻うずまきの性質せいしつを、

 コンマ単位たんい秒数びょうすうで、

 冷静れいせい観察かんさつして・・きわめてゆく。


 極限きょくげん状態じょうたいなか

 冷静れいせい判断はんだんくだし、

 いざ・・行動こうどう・・開始かいし


 自分じぶんの身体を、たるしばりつけ、

 小型こがたせんて・・うみへ・・とびむ!


 直後ちょくご

 小型船こがたせんは、

 船体せんたいはげしくかたむけ、

 おお渦巻うずまきの漏斗じょうごそこみこまれ、

 ・・うみ藻屑もくずとなった。


 おお渦巻うずまきは・・んだ。


 広大こうだいうみ


 つきあかり。


 そして・・静寂せいじゃく


 小型こがたせん残骸ざんがいが・・

 そこかしこに・・かんでいる。


 たるともに、

 おお海原うなばらに、

 プカリとかんでいる・・主人公ゆじんこう


 黒々(くろぐろ)とした、船乗ふなのりのかみは、

 しろに・・わって・・いた。


 ━○━○━


絶対ぜったい絶命ぜつめいのピンチに、

じるか・・ひらくかで、 結果けっかは・・てんほどもちがった。

正念しょうねんを・・えるという行為こうい・・

そいつは・・ある意味いみ・・紙一重かみひとえなのでは?」


 りょうは、一息ひといきつき、

 おやゆびをグイとてると・・くちひらいた。

「バディ!

先週せんしゅうのラジオドラマは、こころさった!

演技えんぎやサウンド、

すべてが・・迫真性はくしんせいんでいた」


「うん!

『モスケン・シュトレームにまれて!』の収録しゅうろくはノッたな!

サウンドクリエイターが、

びっりのおとを、つくってくれたの!

ファースト視聴会(リスニング)のとき・・

スタッフ一同いちどうとバンザイしちやった!」


 なみだは・・まり、

 しおりの・・かおに、

 すこしばかりの・・が・・のぞいた。


「エヘヘ。

なんか・・りょうにいちゃんと・・はなしたら、

いちゃった。

ありがとう! ミスター・トランキライザー◎」


 めたミルクティーを、コクコクむ。


「ようやく、おもしたよ!」

 ふかくうなずいて、りょう


「なにを?」


以前いぜんどこかで、

乙骨おっこつさんを、

みたおぼえがあると・・ったろう?

そう、あれは、

しおりぼうのオーディションのときだ。

審査員しんさいん一人ひとりに、

サングラスをかけた、かんじのわるおとこがいた。

かれは、公開こうかい審査しんさで、

ボーダーすれすれの・・『笹森ささもり しおり』・・とかいう名前なまえを、

強引ごういんに・・推薦すいせんしていたっけな」





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