レセプション
着替えとメイクを済ませて、二階へ降りる・・汐。
フロントの南平は、
さっと、立ち上がると・・
左手で、喫茶室を、さし示した。
「今晩は、汐さん。
皆さん・・先ほどから、
首を長くして、主賓のご到着を、お待ちですよ」
「汐坊と呼んでほしいな・・オーケイ?」
「はい、
・・汐坊・・さん」
納得したように・・うなづくと、
キラめくような笑顔を奏で、
喫茶室へ歩いて行く・・DJアイドル。
「ヒュー♪」
それを、口笛で称える南平。
一同、
あたたかい笑顔と拍手で、主賓を迎え入れた。
歓迎会には、オーナー夫妻、
涼と婚約者の冴子、
従業員代表として、フロント係の鈴木サユリ。
給仕は阿久津さん・・(住み込みの年輩女性)。
涼と冴子の仲むつまじい姿を見た瞬間、
汐は不自然な雰囲気が出るのを抑えこむべく・・目線を下に落とした。
心拍数が落ち着きを示すのを待って・・顔を上げた。
汐の目に、
最新のファッションを着こなした、冴子の姿がズームアップされた。
高速で、値踏みを・・開始。
認めたくないけど・・キレイだった。
ファッションセンスも、上等だ。
その上・・ナイスバディ。
少年っぽい汐には、
求めても叶わない、
女のプレゼンスが備わっていた。
(この女・・なんか・・好きになれなさそう!)
(あー・・ヤだ!ヤだ!)
冴子は、汐をひと目みると、
顔を輝かせて・・席を立ち・・抱きついてきた。
汐より・・少しばかり背が高い・・涼のフィアンセ。
彼女の肉体のボリュームときたら・・。
DJアイドルとは・・それこそ・・オトナとコドモくらいの・・差があった。
「あんたが・・汐坊か?
うち・・中邑 冴子・・いいます。
ほんま・・赤ちゃんみたいに・・可愛いなァ。
スターはんや・・ええなァ。
お近づきになれて光栄や。
あんたは・・ほんまに・・スゴイ!
どうして・・あんなに上手く・・演じられるン?
不思議でたまらん。
うちも学生時代、演劇に打ちこんどったんやけど、
才能なくて見切りつけたんや。
心理表現て、ほんまに難しいやろ。
それを、いとも簡単にやりよる、信じられへん!
神様みたいや!」
「(会ったとたんに・・もう・・ 汐坊・・ 呼ばわりかよ!
・・ムギュー苦しい・・!)」
冴子のボリュームに・・
華奢な身体が・・窒息しそうになる。
「まあまあ、冴子さん。
ひとりで、汐ちゃんを独占しないで。
まずは、カンパイといこうじゃないかね」
オーナーがとりなした。
涼は・・笑顔半分で・・汐のコトを見ている。
だしぬけの展開にビックリしながらも、
席に着く・・・主賓の汐。
テーブルには、美しい花々が、飾られていた。
照明に彩が栄える。
メインの・・ローストポークを中央に、
ネギトロの軍艦巻きや、
白身フライのマリネ、
アスパラとブロッコリーとセロリをあしらったサラダ、
ひと口大に切り分けられた、
トーストサンドまで並んでいる。
どれもみな・・
汐の大好物ばかりである。
胸いっぱい!
奥さんの心づかいに・・感謝! 感謝!
「涼にいちゃん、ステキな婚約者さんね。
いい家庭を・・築けそうじゃない?」
メインの席に腰かけた汐は、
斜め左側の涼に・・お世辞をいった。
「はは、家内安全と行きたいもんだ。
ところで、汐坊・・
『小さな太陽』を、また見てきたぞ。
プレミア試写を含めると、計三回見たことになる。
やっぱり面白い!
内容はもちろんのこと・・画面構成・・それと音がいい!
銃声や爆破音・・燃え盛る炎。
いまだかつて・・聴いたことのないような・・SEだ」
「ありがとう。
さすがは・・涼にいちゃん。
そこに・・気づいた人は・・少ない。
そうなの・・
料理でいえば・・・隠し味が・・利いているワケ!
音響設計には・・
『哉カナ』のサウンドクリエーターが、
一枚噛んでくれているんだから(匿名でね)。
そりゃあ・・並じゃない・・音になる。
あの人を説得するのは、大変だったけれど・・
その甲斐は充分に、あったと思う」
「うちは、8回見たでェ」・・さらっと冴子。
「へっ、ほんと?
オレより・・多い!」
涼は横を向き・・婚約者を見た。
口に運ぼうとしたネギトロを、
ポロっ!と落としそうになった・・汐。
「うち・・汐坊オタクや!
ラジオも欠かさず聴いとるよ。
録音してパソコンに保存してあるで」
ちょっと、ようすが違ってきた。
あっけにとられる・・涼。
汐の目が、点になる。
「はあ・・
涼にいちゃんから・・私のことを聞いて・・?」
「ちゃうよ!
涼さんから、あんたのことを聞いたのは、
ごくごく最近や。
うちは・・その前から・・ファンやった!」
「それは、ありがとうございます」
「あんた、超能力者やろう?」
冴子が、
キャッチしにくいボールを・・投げてきた。
「はァあ??」
思わず聞き返してしまう・・汐。
「超能力者やろう?」
有無を言わせぬ、ブレスの強さ!
「?・・・?」
汐は、
テーブル上のスプーンを手に取って、
ジーッと見つめ・・念を送る!
「ワッハッハハハ!
この子、天然や!」
豪快に笑う。
「そやない・・よく言うやろ。
『名を成す人は、天の声を聴く』と。
あんたの生き方は、ありきたりと違う。
アイドルらしゅうない。
つな渡りのような芸当や。
きっと、天の声を聴いているに違いない。
つまりは、超能力者いうことや。
うちの言うこと、なにか間違とるか?・・汐坊?」
「(なんか・・調子狂っちゃうな・・)」
しかし・・冴子の言う事には・・一理ある。
ふり返ってみれば、天の助けがあったとしか・・思えない。
ミラクルがついて回っている・・芸能活動では・・ある。
それにしても、冴子の持つ雰囲気は、
(肉感あふれるボディーを含めて)
汐が、
どんなに求めても、
手の届かないたぐいのものだった。




