サークル仲間
「この曲、ノリいいワ♪」
フロント内・・
ヘッドフォン・ステレオで曲を聴いている、
Yシャツ姿の南平氏。
リズムに合わせて首を振っていた。
ネクタイが左右に揺れる。
きょうは・・日曜日。
ビジネスマンは、ほとんどいない・・つまりホテルはヒマなのです。
「さっきから、なにを聴いているんだい?」
喫茶室から出て来た涼は、たずねた。
「笹森 汐の曲ですよ。
彼女、ようやく・・歌でもブレイクしましたね」
「ああ、映画の主題歌ね。
どれ・・聴かせてみなよ」
涼は、ヘッドフォンを耳にかけた。
元セミプロの感想を待つ・・南平。
「まあまあかな。
演技ほどでは、ないな」
面白くなさそうな表情で言った。
「メロディアスだし、
中盤のラップの決めは、
さすが・・だと思いますけど」
不服そうな顔のナンペイ氏。
「低いレヴェルではそうだろうな。
要は・・
風の問題なのさ。
汐坊の演技からは、
新鮮な風が吹いてくる。
しかし・・
この曲には、それがない。
良くできた、パッケージ商品というべきだろうな」
「ふーん・・
そんなものですかね?」
こと、
音楽と部屋代には、
厳しい基準を持つ主任であった。
そのとき、
複数の人が、
階段をのぼってくる足音が聞こえてきた。
すわ!?
団体客か?・・とばかりに、
フロント内の二人は、身構えた。
「主任、南平さん、今晩は。
ゴキゲンいかかですか?」
「サユリちゃん!」と、
虚をつかれたような表情の南平。
サユリとその仲間たちであった。
全員女性だ。
「サークルの飲み会が退けたので、
仲良しグループ五人で、
二次会をやろうということになって。
押しかけて来たというワケです」
「ひょっとしてカンパ?」
気をまわす、南平。
一瞬、ポカン!とするサユリ。
彼女は・・
(悟られないように)
・・素早く、方向転換した。
「主任、南平さん、
カンパ・・
・・お願いしまーす!ペコリ」
他の四人も、サユリに続き、
頭を下げる・・「ペコリ!」
「オーケイ。サユリちゃんの頼みじゃあ、断れないないな」
涼がサイフから、お札を抜いた。
南平も、その半額を進呈した。
お札を回収するサユリ。
「さすがは主任、話がわかる。
南平さんもありがとう」
「そうだサユリちゃん!」
涼は、
指を鳴らして言った。
「きょう、シングルルーム全室に、ドアガードがついたよ」
「それは嬉しい、ありがとうございます。
これでクレームの数は、確実に減ります」
若い女性が五人そろうと、さすがに華やかである。
みんな色気より知性が、まさっている感じだ。
類は友を呼ぶ。
サユリも、そういうタイプである。
グループの中の一名が、
つかつかとフロントに歩み寄り、
カウンターの向こうへ、
大胆に、上半身を乗り出した。
人間シーソーのような格好で、
身体を上下にギッタンバッコンさせながら、言った。
「初めまして。
あなたが南平さん?
へーえ、けっこうイケメンじゃん。
女性と長続きしないタイプなんですってねえ?
可哀そーう!
現在は、
車いすの彼女と、いい関係だとか?
そうだよねー、サユリー?
そうでしょーう?
・・キャハハハ・・むぐ、むぐ、」
サユリは、
女友達の口を、ふさいだ。
「この、おしゃべり!
酔っぱらっちやって、もーう。
南平さんゴメンなさいね、失礼なこと言って」
双葉という名の友人の口を押さえ、
赤面しているサユリ。
ぶ然とした表情の南平。
「(オレはガールズトークのネタにされていたのか。
調理法が・・ヒドいぜ!)」
不思議に思って、たずねる涼。
「ところで君たち、どんなサークル活動をしてるんだい?」
「わたしたちは、ミステリー研究会に所属しています。
評論活動を中心に、
創作や、
未解決事件の調査なんかもしています。
サークルの中には、
プロのミステリー作家を親にもつ者もいるんですよ。
こんど・・会報をお持ちしますね」
ロングヘアー・美形タイプのサユリの友人が答える。
「へぇー、そいつはちょっと・・意外だ」
腕を組んで、涼。
「そろそろ、二次会を始めたいと思います。
容認してくれますよね・・主任?」
落ち着きを取り戻して、サユリが言った。
「どーゆー意味?」
相手の真意を、はかりかねる・・涼。
サユリは、喫茶室を、指さした。
「えーっ?
あそこで二次会をやるつもりか?」
「安上がりですしネ」・・ちゃっかりと。
「さっきのカンパが有るでしょう?カンパが?」と涼。
「あれは、三次会に使わせていただきますーす」とサユリ。
「よろしくおねがいしまーす」
女子大生五人は、
声をそろえて、おじぎした・・「ペコリ!」
「しょうがないなあ・・
日曜日でも・・あることだし。
今夜だけだぞ!
あそこは、お客様の、やすらぎの場なのだから」
「いよー、太っ腹!
設楽主任!大統領!」
サユリを先頭に女子大生たちは、
喫茶室へ入って行った。
「儲かった!儲かった!」という連呼といっしょに。




