エクスペリエンス社
席を立った涼は、
フロントへ通じるドアを、
事務室の側から、
軽くノックして、開ける。
おおかた・・
居眠りでもしているんだろうと思ったが、
・・ハズレた。
真剣なようすで、
手にした〈モノ〉を眺ている、南平。
「なにを、やってるんだい?」
「ああ、主任。
一部で話題になっている、
エクスペリエンス社のDVDです」
差しだされたケースを手に取る・・涼。
真っ黒なパッケージで、
タイトルはない!
立体蛍光色で、
【女子学生編】とだけ、浮きあがっていた。
「AVか?」
「広義の意味では、イエスです。
しかしコレは鑑賞するのではなく、
体験するソフトなんです」
「ああ、3Dね」
「違います!
新しい体験を可能にする、
映像ソフトなんです」
「どんなふうに?」
「ハハハ、
いまのは・・友人の受け売りです。
実は、ぼくも、貸してもらったばかりでして。
友人曰く・・
主演女優のルックスが、
・・アイドルそこのけらしいんですよ。
その、彼女がですね、
かなりの ━○○○━ をヤルそうでして。
そこにエクスペリエンス社独自の、
『体験』というコンセプトが絡んでくる。
仕事明けが、待ちどおしいデス・・はい!」
涼は、ゴクリ!と唾を飲みこんだ。
「そーだ!
ナンペイくん!
ちょうど、事務室に再生デッキもあることだから、
そのDVDを見てみるか?
オレは、全然・・興味は・・ないんだけれど・・
お盆の中日で・・ヒマでもあるしなァ。
つきあってやるよ!」
「けっこでうす!」
と南平。
「友人を拝みたおしてようやく借りた、
買うと、3万円もする代物ですからね。
ひとりでじっくり楽しみますよ・・ウッヒッヒ!」
「おーい・・
ちょっとだけ・・
見てみようぜ。
なぁ・・・ナンペイくん」
「ダメです!」
「そーう、言わずにさあ・・」
「NO!」
「わかった!もう頼まん!
ケチ!
ケチんボ!!
後輩のくせして、心の狭いやつ。
そんなモノばかり見てるから、彼女と長続きしないんじゃないのか?
そもそも・・お前という人間はだな、
どこか自閉気味で・・
むっつりスケ・・」
南平が、
ニヤニヤと聞き流していると、
お客のゆったりした声が、
・・割りこんできた。
「お取り込み中のところ・・失敬。
部屋代を支払いたいのだが、」
南平は、
すっと立ち上がり、対応に入る。
「今晩は、里見さん。
お待たせして、申し訳ございません」
南平は、ヒジで・・
主任をつついた。
「どうも、失礼いたしました。
お見苦しいところを・・
マネージャーの、設楽でございます」
パイプをくわえた里見はニコニコしている。
スーツの内ポケットから、
革財布をとりだして。
「追ン出されないうちに、
部屋代を払っておこうと思ってね。
一か月分ばかり、入れとこうか」
「はーい、一カ月分でございますね」
トーンを上げて、
復唱する南平。
居場所を失った感の・・涼。
一礼すると、
事務室へ・・退避した。




