オーラⅠ
店を後にした、ふたりは、
ひさしぶりに肩を並べて、
U駅界隈の繁華街を歩いた。
ふらりとコンビニへ入る。
涼は、無濾過のびんビール、
汐は、ファンタオレンジを買った。
そろそろ・・夕刻から、
夜へ・・差しかかろうとしていた。
街のそこかしこにネオンが灯り、
雑踏の音にまぎれて、
セミの声が聞こえてくる。
このあたりは、街路樹が豊富であった。
DJアイドルの姿を、
涼は、
シヤッターでも切るようにまばたきして、
何度も見た。
「昼間とは、ずいぶん違う。
オーラを感じない。
なんか・・
普通の人と、歩いてるみたいだ」
「訓練しだいで、ある程度はコントロールできるのよ。
ラジオメインの頃は、そうでもなかったけれど、
テレビのCMが流れるようになってから、
周りの反応が違ってきちゃった。
有名になるというのは、
こういう事なのかと・・思いしらされた感じ。
街なかやコンビニでもファンに囲まれる、
サインをねだられる、
おかまいなしに、スマホやケータイを向けられる。
読み切れないほどのファンメール。
贈り物も届く。
最初の頃は嬉しかったけど・・さすがに・・ね」
汐は、ため息を、
ひとつ、つくと話を続けた。
「自分なりにプライバシーを守ろうと、
頭をひねったの、
どーしよう?どーしよう?って。
行き過ぎた変装やメイクは・・ノーサンキュー!
不自然なことは、長続きしないでしょう?
幸いなことに、私は、女優なわけだから、
演技によって、別人になれるわけ。
学校帰りの女学生や、
OL一年生といった役柄を演じるの。
・・あとね・・
・・オーラって微妙・・
私だけの意見を、
言わせてもらえば、
後光が差すという意味でなら、
『そんなものは、ない!』と思っているの。
ヒトはホタルと違うもん(笑)
他者が、
『わっ、芸能人だ!』という目で・・見るからだと思うな。
私たちは、
スポットライトを浴びることが多いから、
見せ方のポイントを学習して、
その部分を拡大していく。
それを・・便宜的に、
オーラと呼んでいるんじゃないか・・と。
また、そうならなければ・・
できない職業ではある・・哉」
「語るねぇ。さすがは、人気DJ」
腕時計をのぞきこむ。
「涼にいちゃん、もうちょいつきあってくれる?」
上目づかいで、先回りする、汐。
「大丈夫なのかい?
パブリシティーの仕事が、詰まっているのでは?
マネージャーさんが、探しまわっているってことは・・ない?」
「オーケイ、オーケイ。
まだ・・平気。
今夜は、オフな気分なの。
撮影はダイハードだったし、
少しくらいノンビリしたって、バチは当たらないって!」
ヒョイと、夜空に顔を向け・・・話しかける、汐。
「━━ねえ、神様・・そうですよね!━━」
疑いの表情が消えない、
・・涼兄イ。
すると、
天から〈エコーのかかった〉声が降ってきた。
━ ━ ━「よきに、はからえ!」
虚をつかれた、
涼の思考は・・一時停止した。
声の出所は、
汐の・・腹話術であった!
腹話術師の、
『文明堂』が、
ラジオ番組のゲストに来てくれたときに、
手ほどきして、くれたものだ。
当代一の腹話術師に、
「筋がいい」と褒められたときは・・正直嬉しかった。
その際に、教えてくれたのが、
腹話術の高等戦術のひとつ、
・・エコーのかけ方であった。
「腹話ボイス」にエコーをかけるのは・・けっこうムズカシイのだ!
相変わらず、
見事なタイミングでの・・「つかみ」。
芸達者なバディーを見て、
涼の頬は、ゆるんだ。




