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汐坊の『哉カナ』   作者: カレーライスと福神漬(ふくじんづけ)
2/103

ホワイトラビット

  ━○━○━

 

 かつて、笹森ささもりしおりは、

 おでんの屋台やたいいている、

 母親ははおやとふたり、

 ビジネスホテル『設楽しがらき』のシングルルームに、

 数年間すうねんかんの、

 ながきにわたって滞在たいざいしていた。


 ひかでありながらも、

 生来せいらい魅力みりょくでもって、

 ホテルの従業員じゅうぎょういんたちに、

 このまれていた・・しおり


 ひとなつっこいタイプではない彼女かのじょは、

 どこか・・遠慮えんりょがちに、

 アプローチしてきては、

 いつのにかひとこころをとらえてしまう。


 しゃばらず、

 ひかえめすぎず、

 絶妙ぜつみょう対人たいじんバランスは、

 天性てんせいのものであった。


 当初とうしょ

 従業員じゅうぎょういんのあいだでは、

 「みず商売しょうばいの子」という、

 ありがたくないかげが、

 大勢たいせいめていたが、

 いつのにか、

 親愛しんあい敬意けいいのこもった、

 「しおりぼう」へと、

 変化へんかしていった。


 学校がっこうわり、

 ホテルにかえってくると、

 しおりは、

 清掃せいそうのおばちゃんの仕事を、

 ベッドメイクや客室きゃくしつ清掃せいそう

 (ときには トイレも)手伝てつだった。


 朝食ちょうしょくサービスの、

 時間じかんたいには、

 登校とうこう時間じかんギリギリまで、

 喫茶きっさしつで、

 おくさん(りょうはは)をヘルプ。

 ちいさなウエイトレスとして活躍かつやくした。


 そのあたま回転かいてんはやさと、

 ツボをさえたはたらきぶりは、

 ものを、

 感心かんしんさせずには おかなかった。

 

 なによりも、

 しおりはたらきぶりには、

 一生いっしょう懸命けんめいさがあふれていた。

 その光芒こうぼうが、

 テクニックの部分ぶぶんおおかくしてしまう。


 おちゃ時間じかんに、

 休憩きゅうけいしつで、

 清掃せいそうのおばちゃんたちにまじり、

 和気わきあいあい、

 お菓子かしやケーキを、

 美味おいしそうにべる姿すがたは、

 わすれようにも・・わすれられない。


 フロント主任しゅにんの、

 脳裏のうりつよきついていた。



 そんなしおりが、

 あついまなざしを、

 そそ対象たいしょうが、

 家業かぎょうぐために、

 フロントではたらきだした、わかりょうであった。


 当時とうじはまだ、

 大学だいがくを(二度にど留年りゅうねんして)たばかり。

 長髪ちょうはつで、

 クールな印象いんしょう若者わかものだった。


 フロントに、

 りょうはいは、

 ウレしくて、

 自分じぶんをおさえきれない しおりであった。


 ━「なんとか、笹森汐(わたし)印象いんしょうづけたい」━

 

 まれてはじめて、

 積極せっきょくてきなアプローチを仕掛しかけた。


 ・・子供こどもなりに・・

 あたましぼって作戦さくせんった。


 作戦さくせんコード・・『ホワイトラビット』


 極秘ごくひ内容ないようは、

 以下いかとおり。


『フロント業務ぎょうむ手伝てつだうべし! 

 ただし・・しおり流儀りゅうぎで』

 いたって、

 いたって、

 シンプルであった。


 ビジネスホテル『設楽しがらき』・・

 フロント上陸じょうりく作戦さくせん準備じゅんび開始かいし


 たった一人ひとりで、

 戦闘せんとう配備はいびにつく、しおり


 PM8:00━作戦さくせん敢行かんこう


 フロント正面しょうめんち、

 かる会釈えしゃくして、

 ちょこまかと、フロントよこまわり、スイングドアをとおり、

 フロントの内側うちがわ潜入せんにゅう


 邪魔じゃまにならないところに、

 自分じぶん居場所いばしょ確保かくほ

 真横まよこから・・

 上目うわめ使づかいに・・

 設楽したらりょうを・・見上みあげる。


 彼のほうは、

 となりにいる、

 しおり存在そんざいを、

 とくににしているふうはない


 とはいえ・・

 (微量びりょうではあるが)、

 警戒けいかいオーラをはっしていた。


 かる会釈えしゃくを、

 初対面しょたいめんしおりにくれると、

 椅子いすこしかけ、

 むずかしそうな内容ないようの、

 文庫本ぶんこぼんを読みはじめた。


 チェックインきゃくが、階段かいだんをのぼって来た。


 しおりは、

 集中しゅうちゅうたかめ、

 ・・同時どうじに・・

 かたちからく。


 りょううごきを・・真剣しんけんむ。


 チェックイン手続てつづきの、

 効率こうりつたかめるべく、

 あたまをフル回転かいてんさせて、

 ヘルプにうごいた。


 りょうが、

 チェックインシートと記入用きにゅうようのペンを、

 おきゃくせば、

 しおりは、

 背後はいごのハチの

 (コゲ茶色ちゃいろのキーボックス)から、

 ルームキーをサッとって・・用意ようい


 りょうが、

失礼しつれいいたします」とって、

 接客中せっきゃくちゅうに、

 電話でんわ応対おうたいはいれば、

 しおりは、

 すぐさまバトンタッチ!

 接客せっきゃくった。

 ・・そのさい・・

 レジや現金げんきんには一切いっさい手をれない。


 しおり行動こうどう的確てきかくなうえ、

 テンポがはやく、

 なおかつ、

 不快ふかいかんじをあたえなかった。

 

 いきったコンビネーションで、

 二人は、

 リズミカルにおきゃくをさばいていった。


 りょう雰囲気ふんいきから、

 警戒けいかいかんうすれ、

 幾分いくぶんかの、

 親密しんみつオーラがはっせられるのを、

 見逃みのがしおりでは・・なかった。


 間髪かんぱつれず、

 相手あいてとびらをこじけようと、

 ダメをした。


 りょうが、

 チェクイン手続てつづきのときに、

 せる動作どうさを、

 コピーし、

 相似形そうじけいのロボット調ちょうで、

 コミカルかつシャープにしてみせたのだ。


 対象者たいしょうしゃ特徴とくちょうを、

 見事みごとにつかんでおり、

 デフォルメのサジ加減かげんもうしぶんなかった。


 しおりつ、

 生来せいらいのタレントぶりが、

 いかんなく、

 発揮はっきされた瞬間しゅんかんであった。


 思わず、

 りょうが、

 てんになる。


 ふだん・・

 クールなりょう表情ひょうじょうに、

 亀裂きれつはしった。


 両手りょうてひらで、

 自分じぶんかおさえこむと、

 こらえきれずに・・してしまった。


 わらごえが、

 どんどん大きくなっていく。

 どうにも・・まらない。


 そのようすを見ていた、

 チェックインきゃくも、

 つられてしまい・・爆笑ばくしょうした。


 しおりおもいきった、

 アプローチは、

 こうそうしたようだ。


 その証拠しょうこに、

 りょうは、

 フロントないに、

 しおり専用せんようの、

 新品しんぴん椅子いすを、

 (パイプ椅子ではない)

 用意よういしてくれたのだから。

 

 作戦さくせん完了かんりょう

 『ホワイトラビット』成功せいこう

 戦果せんか上々(じょうじょう)

 歓喜かんき



「なるほど・・うわさどおりのだなあ」

  

 ファーストコンタクトを、

 たしたりょうの、

 率直そっちょく感想かんそうであった。

 

 このをさかいに

りょうにいちゃん」と ━ しおりが呼び。

 

 小さな相棒バディを ━ 「汐坊しおりぼう」と、

 りょうぶ、

 関係かんけいが、

 確立かくりつされたのであった。



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