レトロな自販機パートⅡ
ビジネスホテル『設楽』ならではの、
━小さな工夫━
レトロ感ただよう
◆自販機コーナー◆は、
『設楽』の売りであった。
二階の喫茶室では、
7台の自動販売機が、
稼働していた。
いまでは懐かしい自販機が3台。
①蕎麦・うどん販売機。
②ラーメンの販売機。
③トーストサンド(ピザトースト)販売機。
プラスすること4台は、
④紙コップ・オンリーのソフトドリンク販売機。
⑤缶ビール、缶チューハイ、ウヰスキーのハイボール缶、販売機。
(ただし・・ホッピーのみ瓶入り)
⑥ワンカップの日本酒専用販売機。
⑦タバコの自販機。
夜間の巡回に歩くとき、
南平が、
喫茶室で、ときおり目にする情景。
暗い照明のもと、
夜の街をながめながら、
あるいは、
スマートフォンPCやのモニターに目をやりながら、
ビールやワンカップを呑み、
ソバやラーメンをすすっているお客の姿からは、
なんともいえない風情が漂っていた。
「自販機のトーストサンドが、
わがホテルの手作りだとは、
誰も思わないでしょうね」
クスクス笑う南平。
「うむ。
お袋が精魂こめて こしらえている。
150円のプライスは良心的だろう?」
「お世辞ぬきに旨いです。
いまどき、内臓ヒーターを使って、
焼いているってのがスゴい。
ニキシー管ってのもグッとくる!
ほんとに熱々。
アルミ箔包装されたトーストが、
素手で持てないくらいですから」
「アハハハ・・
確かにアレは熱過ぎる。
機械が古くて、
ヒーターの微調整がきかないのさ。
それで、レンジ用の手袋を置くようになった」
「あのトーストサンドは、
笹森汐のお気に入りだったらしいですね」
「そういえば・・
ハフハフしながらよく食べていたなあ。
どうして、南平がそんなこと知ってるんだい?」
「この間、ラジオで想い出トークしてました。
ホテル名はボカしていましたが、ピンときました。
ときどき、ポツリと『設楽』の話が出てくるんですよ。
ネットでは、ファンがホテルの特定に躍起です。
ヒートアップしてますよ」
「特定して、どーする?」
「デビュー以前に、
笹森汐の、
過ごしたホテルの見物、
そして、
同じ部屋への宿泊でしょう。
ここが、名所になる日も遠くないかも」
「そうか、そうか、そういうことなら、
彼女の泊まっていた、
『703号室』は、
特別料金にしなけりゃな」
気のなさそうな口ぶりで言うと、
涼は、
事務室へ入っていった。
南平は、
主任の言葉に、
なにやら、
引っかかるものを感じた。
フロント正面の小さなロビーには、
パイプをふかしている人物がいた。
三十代半ばの、
エレガントな雰囲気を持つ男性であった。
ひとりで、
椅子に腰かけ、
プカプカ煙をくゆらせて、新聞を読んでいる。
彼の耳に、
主任と若いフロント係の会話が、
自然と入ってきた。
「ほーう、お薦めは、
自販機のトーストサンドか?
なるほどねぇ・・(プカプカ)」
彼は・・名を、
里見恭平といった。




