回転ずし
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汐の手紙を読みながら・・
涼の中で、
さまざまな想い出が蘇り・・展開されていく。
映画の帰りは、
決まって、
地元のU駅近くの、
回転ずし店に寄った。
回転といえども、
行きつけの店というのはあるもので、
いつも、そこで食べた。
席に着くと、
小さなバディはお茶を飲み、
キラキラしたまなざしで、
回転してくる皿の上のお寿司を、
ジッとみつめる。
握ってまだ間もない、
光沢のあるイカやエビの乗ったお皿を、
嬉しそうに、
自分の前に取り置いては、
無邪気にパクつくのだった。
そのようすは・・なんというか、
も━う、
目の中に入れちゃいたくなるような、
かわいらしさなのであった。
笑ってしまいそうになるのは、
汐が手を出すのは、
例外なく無地皿で、
値段の張る絵皿はすべてパスすることだ。
ネギトロが、
彼女の大好物なのを知っている涼は、
プライドを傷つけることなく、
汐に、
食べさせてあげたいと思った。
絵皿をつかみ取った涼は、
一貫だけネギトロを食べる。
(汐坊の横目線を感じる)
残り一貫が乗った皿を、
バディの前に置く。
「悪いけど、手伝ってくれない?
きのうの晩・・呑み過ぎちまってね」
大好物を目の前にして、
ためらいを見せる汐。
涼の目をうかがい、
次にネギトロを見る。
ゴクリ!と、
のどを鳴らす。
表情に逡巡をにじませ、
迷うこと一分半。
「もーう、しょうがないんだから。
お酒は、ほどほどにしないとダメよ!」
と言い、
箸をつけた。
もぐもぐ食べる。
ムリをして、
無表情を装うバディに、
美味しいなァ♪笑顔がうっすら、にじみ出る。
空になった絵皿を
ひょい!と、
つかみ取った涼は
自分の空皿の山の上へ重ねた。
汐は、
そのようすを、
これまた横目でチラッと確認。
安堵の表情を浮かべた。
同様の手口や、
無地皿と絵皿の、
物々交換、
なる新手を交えて、
好物の軍艦巻きを、たらふくバディに食べさせた。
『ひとの気持を汲み取って、
迅速に行動を起こす』
・・優秀なホテルマンの条件なのです。
会計は、それぞれが、
自分の食べた分を支払い、
店を後にする。
たとえ、
年は離れていても、
こうして、
貸し借りのなしの関係は維持された。




