サクセス
女優であり、
DJであり、
バラエティーもこなせる・・いわゆるマルチタレント。
はにかんだような笑顔と、
白い歯が・・チャームポイントの十七歳。
トレードマークのヘアスタイル、
「汐坊カット」(黒髪のショートカット)は、
多くのフォロワー生んでいた。
とりたてて美形でもなく、
セクシーなボディーラインの持ち主でもない、
笹森汐の強みとは?
有識者によって、
さまざまな分析が試みられた。
ひと言に集約すれば、
━〈見飽きのしない〉━
これに、
尽きるということ・・らしい。
CMなどでリピートされても、
アレルギー反応は起こらなかった。
不思議なことに、
何度でも「その姿」を見たくなるのだ。
短期間で、
人気者になったタレントにありがちな、
・・落とし穴・・
「飽きられる」とか「拒絶される」こともなかった。
ある評論家が、
いみじくも言った、
「まるで・・浸透圧のようなパワー」
どうやら、
稀な特質が、
汐には、
備わっているらしかった。
ネット上には、
早い時期からスレッドが立ち。
汐坊は、
「オナペット向きではない」派
VS
「充分抜ける」派
による・・論争が、
勃発し、
今なお続いている。
この論争は、
見方によっては、
とても示唆に富んでおり、
彼女の、
主演映画が、
公開される以前についてだけ言えば、
否定派の意見の方が、
「汐坊」というニックネームを持つ、
笹森汐の本質に・・より迫っていた。
彼女の主演する、
テレビの二時間ドラマ、
『お手伝いさんは見た!』シリーズは、
サスペンスの老舗、
日曜ワイド劇場を支える人気のコンテンツ。
平均視聴率14パーセント代を稼ぎ出していた。
現在まで、
三本が制作されており、
次回作である、
『お手伝いさんは見た4/避暑地で起きたナゾの連続殺人!
お手伝いさんの華麗な推理が冴える!』
長ったらしい副題のついた脚本は、
すでに完成していたけれど、
主演女優の、
映画撮影(かけもち不可)のためペンディングされていた。
事務所内でのランクも上がった。
ギャラも、
ウソのように急上昇した。
特にCMのギャラ・・
白ネコの「お母さん」キャラで有名なスマホ (ほか2社)が、
・・莫大であった。
デビュー三年目。
笹森汐は、
わずか十七歳にして、
成功を手に入れたのだった。
自分の成功もさることながら、
汐にとって、
大変喜ばしかったのは、
左近さんが、
聖林プロダクション・マネージメント部門の、
副責任者『係長』に昇進したことだ。
当分マネージャー業も、
汐の専属で継続されるらしく、
二重に目出たかった。
さっそく、
左近係長を誘い、
甘味処で、
二人だけの祝杯を挙げた。
クリームみつ豆から始まって、
メニューの八割を、
フルコースのように食べつくした。
お代は、
もちろん汐持ち。
帰り際に、
ブランド物のネクタイをプレゼントした。
ときどき・・
汐は・・
人のめぐり合わせの神秘というものを、
真剣に考えてしまう。
できるスタッフや、
良き人達に恵まれた私は、
なんてラッキーなんだろうと。
タレントの力など・・ちっぽけなものだ。
能力を発揮する場を作り出してくれるマネージャー。
優秀なプロデューサー。
有能なスタッフのバックアップがなくては、どうしょうもない。
(事務所の力も「3パーセント位はあるかも」と思う
オトナの努力は・・「不精不精するコトには」していた)
運命なんて、
本当に紙一重。
(もし、涼にいちゃんと出会っていなかったら?)
(左近さんが担当マネージャーじゃなかったら?)
(乙骨さん以外の人がプロデューサーだったら?)
なんと・・きわどいタイトロープ。
偶然の連続であろうか。
ボタンのかけ違いが、
ひとつでも起こっていたら、
現在の私は・・たぶん・・ない。
ふり返ると・・なんだかゾーっ!としてしまう。




