DJアイドル
毎週土曜の夜、
JOMR ━ 「東京放送」━ をキーステーションに、
全国36局ネットでオンエアされている、
『笹森汐のラジオ哉カナ☆』は、
ラジオドラマに支えられる形で、
リスナーの心をつかみ、上昇気流に乗って行った。
汐のトークも、
回を重ねるにつれ、
・・サマになってきていた。
番組は、
━『哉カナ☆』━
の愛称で呼ばれるようになった。
ラジオドラマのクオリティーは、
高いまま維持され、
コアとなるヘビーリスナーを増やしていった。
ラジオドラマの原作は、
乙骨プロデューサーの趣味もあって、
コミックに依らずに、
小説からセレクトした。
当初は、
短編小説主体であったが、
レイティング(聴取率調査週間)のある、
偶数月には、
長編も、
手ぎわよく脚色されドラマ化されるようになった。
そして・・
番組開始半年後の、
レイティングに放送された、
名作ミステリーのドラマ化。
『幻影の女』が決定打となった!
ドラマ枠を、
九十分へと、拡大して、
特別ヴァージョンとして製作された。
□あらすじ□
舞台は、
1940年代のニューヨーク。
妻と激しい口論をして、
家を飛び出した中年の男が、
派手な、
(オレンジ色の帽子)をかぶった女性と、
バーで知り合い、
つかの間のデートをする。
家に帰ると、
妻は、
絞殺されていた。
男は逮捕され、
『死刑判決』が下される。
無罪を証明するためには、
派手な帽子の女性のアリバイ証言が、
ぜひとも必要だった。
若い恋人や、
友人に協力をあおぎ、
帽子の女性を探してもらう。
しかし・・
捜しても・・捜しても、
彼女の行方は、
杳として知れない。
事件のカギを握るであろう、
重要な目撃者は・・なぜか?
次々と殺されてゆく!
死刑執行の日が、
刻々と迫ってくる。
男の運命や・・いかに!
□ □
サスペンス色濃厚で、
驚嘆すべき意外性を持つ「原作」を、
力業で、
音声ドラマへ移しかえることに成功した。
汐はナレーションと、
若い恋人の役を担当した。
このドラマは、
大きな反響を呼び、
年輩のリスナーから、
(スマートフォンやPCの扱いの不得手な層から)
再放送の要望が殺到した。
日を置かずして、
再放送が組まれ、
ふたたび・・
反響を巻き起こした。
━「近頃のラジオ界では珍しい出来事である」━
ネットのニュースサイトやスポーツ新聞の芸能欄に、
記事が載った。
してやったりの乙骨プロデューサー!
「ドラマを楽しみたいという人の本能は、
いつの時代も変わらない・・普遍なのだ!」
ポッドキャストのダウンロード数が、
うなぎ昇りに増え、
動画サイトにアップされた『音声ドラマ』の、
各視聴回数が、
10万ヒットを突破したあたりから、
番組の、
ドライブのかかりぐあいが違ってきた。
『哉カナ☆』
番組スタート以来、
三度目の、
レイティング(聴取率調査)で、
ついに・・
同時間帯首位に躍り出た!
番組の、
快進撃の始まりだった。
スポンサーに、
有名企業がついたことにより、
予算は潤沢になった。
それまでは、
乙骨プロデューサーの、
伝手で、
スポット的に、
企業から、資金を提供してもらっていた。
ドラマの中で、
さりげなく・・
あるいは・・唐突に、
商品名が出てきたのは、そのためである。
ラジオの人気に比例するように、
汐の姿が、
テレビに登場する回数も増していった。
以前とは、うって変わって、
テレビ局側のあつかいも良くなった。
控室は・・大部屋ではなく、
『笹森汐様』と、
貼り紙のされた個室が用意された。
トーク番組などは、
ほかの出演者とは、
バックグランドが違うため、
希少価値が生じた。
ネットや雑誌で特集が組まれ、
インタビューの依頼も増加した。
いつしか汐は、
『DJアイドル』という名で、
呼ばれるようになっていた。
ひな壇に座り、
大物MCとのやり取りも、
物おじせずに、
当意即妙なトークを展開、
番組を盛り上げた。
かつての汐に見られた、
前のめり感は、
すっかり消えていた。
これは・・
彼女の内部に、
自信が生まれた証拠である。
「初めて会うたときから、
この子には、
才能があると思うていたんや」
大物司会者が、のたもうた。
彼は・・
前回・・
「目立ち過ぎる」からと、
汐の出演場面を、
ズタズタにカットさせた張本人であった。
━(世の中こんなもんだ)━
ラジオでの成功を振り出しに、
スマートフォンのCMのヒット、
テレビの単発シリーズ、
そして・・
念願の、
映画デビューにして主演と、
下積み時代がウソのような躍進ぶりであった。




