無駄な復讐
私のいる世界は崩壊してる。
本当ならば学生として謳歌した人生。
それこそ平凡で平坦であろう人生。
私は楽しく綺麗な青春を過ごすはずだった。
だが、突如として世界均衡のバランスが崩れた。
軍事力の崩壊、無差別攻撃。
国の経済ももちろん無くなった。
大量殺戮兵器の使用によってか、いつの間にか空は曇天模様からは変わらなくなった。
街はもう何年も見ていない。
見えるのは瓦礫と化した建物の一部だけだ。
私の住んでいた家もなくなり、親も親戚もみんな死んだ。
友達も最初の爆撃の際に全員死んだ。
五体満足で生き残ったのは私くらいだった。
地獄だった。
生きるのも嫌だった。
それでも、私は生にしがみつく。
このまま死ぬのが許せなくて。
私は世界を変えた奴らに復讐を誓った。
それを終えてから死ぬつもりだった。
反抗勢力のレジスタンスに入り武器を手に入れ、多くの苦渋を舐めながら何年も頑張った。
頑張って、泣いて、多くの仲間を一度に失い、それでも私は奴らを下す事を夢に見ていた。
夢は叶う。
世界中にいた多くのレジスタンスを結集させ、いつの間にかリーダーとなっていた私が奴ら本拠地を攻め落し、最高指導者を跪かせながら銃を頭に当てていた。
引き金を引く、その前にそいつは語る。
「世界は変わった、つまらん停滞も消えこれから大いに発展するだろう。いずれは誰かがやっていた事だ、これが私の目的なのだから」
「多くの人間の犠牲で発展する未来に何の意味がある。それこそ停滞だ」
「俺はお前のような奴が出てくるのをずっと待っていたのだ、お前が人類の旗手となり導くのだ」
「…私はお前達を殺す事だけに生きてきた、そんな私に旗手は務まらない」
私がそう言うと最高指導者は柔らかく笑う。
屈強で冷血と謳われ、攻め入った際にも狼狽ることも眉ひとつ変えることもなかった男が笑う。
私はゾクりとした。
男が言ったその言葉に。
「では、滅ぼすといい」
私はプレッシャーに耐え切れずにいつの間にか指に力が入って引き金を引いていた。
男の頭は果実のように引き飛び、中身を撒き散らしてドサリと倒れる。
静まり返る室内だが瞬間、私に付き従っていた兵士たちが歓喜の雄叫びをあげた。
彼らは銃やヘルメットを掲げて勝利を讃えた。
私はそいつの亡骸をずっと眺めていた。
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「ボス!ここを開けてください!!」
背後から声が聞こえた。
それは私の側近の声だろうか、それとも私を讃える同胞のものだろうか。
私は鍵をもっていた。
目の前には鍵を指す鍵穴。
私はそれに鍵を指し、グルンと回す。
すると鍵穴の下にあったボタンに指を添えた。
人類の旗手。
憎しみと憎悪で生きてきた平凡な女子高生だった者がそんなものにはなれない。
世界から一時的に争いがなくなり、インフラも整いつつある。
私は恋い焦がれてきたそんなものを、今から全て破壊しようとしている。
多くの犠牲の上で発展する。
誰かがやる必要があった。
これらは全て奴のシナリオ通りだ。
私は最初から操り人形だった。
そう考えるだけでもこの行動が正しいと思えた。
憎い敵のシナリオ通りにはならない。
全てを奪っておいて人類の発展?
ふざけるな。
そんなものクソ喰らえだ。
私は覚悟を決め、スイッチを押した。
アラーム音と同時に轟音が響く。
奴らが人類の大半を死滅させ崩壊させた核。
その保有していた最後の数十発が今射出された。
背後から銃撃と悲鳴が聞こえてきた。
対核の扉を破壊しようと必死だ。
「あはははははははは!!!あははははははははは!!! 」
涙を流しながら笑い、人類の終わりを見届けた。
それ以降の記憶はない。
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ここは崩壊した世界。
死と鉄の匂いがそこいらに撒き散らされ、死の粉で充満したせかい。
私はその世界を歩き回ったが、誰1人とも遭遇しない。
あるのは骸のみだ。
ここにも彼はいない。
そう思って私は切符を使う。
世界を繋ぐ魔法の切符。
私が愛しい人を探す為にとある魔王から貰ったその魔法道具は淡く光りだすと次の世界への道を作り出す。
私はその道を進もうとする。
その直前、突風が吹き出したのでとっさに顔を隠す。
砂埃が目に入ると面倒だったのもあったが、それ以前にこの世界の死の粉をあまり浴びたくないのもあった。
だが飛んできたものは粉ではなかった。
バサリ。
腕に当たって落ちたそれはアルバムだ。
何もかもが燃えて消えた世界。
特にこの辺りは殆ど死体ばかりで物質などなかったはずだ。
不思議に思いながらも私はアルバムを拾い上げるとページをめくる。
写真はたくさん挟まっていた。
色褪せボロボロとなったそれら。
しかし、在りし日の思い出が込められていた。
お母さんらしき人物と仲良く遊ぶ少女。
お父さんらしき人物の仕事を眺める少女。
少女の顔にあるその笑顔はずっと続いていた。
ずっと…何枚も同じように楽しそうな笑顔だ。
様々な人達に囲まれ、笑顔に曇りなどなかった。
最後の一枚は成長した少女が学生服を着て両親と写る家族写真だ。
凛々しい表情の少女。
その傍にいた両親に、私は羨ましいとすら思えた。
「…これがこの世界の悲哀なのかな」
私が呟く声に返答はなかった。
アルバムを閉じるとそれを背負っていたバックにしまい、私は次の世界に向かう。
たとえ無駄な旅でも、この想いが無駄だと思いたくなくて。