姫君のお出迎え
「お帰りなさい、デイジー!」
赤銅の鎧を纏う騎士団員たちを出迎えたのは、先月誕生日を迎えたばかりの十二歳の姫君・アンジェリカだった。金色の艶やかな髪を揺らしながら、名を呼んだ女騎士へと飛びついていく。その様はまるで蛙のようで、華美なドレスを着ている愛らしい容姿には実に不釣り合いな行動だった。
一方、自分に抱き付いてきた少女に対してデイジーは動揺していた。自身を包む鎧はすでに乾いているとはいえ、血で汚れているからだ。
「殿下! おやめください。お召しになっている美しいドレスが汚れてしまいます」
アンジェリカはデイジーの言葉を聞くなり、眉をひそめて頬を風船のように膨らませた。
「ドレスなんかどうでもいいわ。デイジーに会えたことの方が大事よ。だって、二週間も会えなかったんだから!」
素直に不満を吐露してしまう子供らしさにデイジーは苦笑した。同時に、どんなに高等な教育を施されようとも年相応の少女らしさを失わない姫君に対して、安らぎに似た感情を覚える。
「騎士が戦場へ赴くは宿命にございます。ですが私も、殿下にお会いできない間は寂しさを禁じ得ませんでした」
それは嘘ではなかった。
最初こそ、王国で唯一の女騎士という物珍しさからデイジーに接触してきたアンジェリカ。彼女に懐かれるようになってからずいぶんと経った。いつも城の内外で自分の名を呼び、笑顔を見せてくれる幼き姫君は、騎士として厳しい鍛練を続ける日々の中での癒やしとなっているのだ。
「本当!? 嬉しい! デイジー大好き!」
大輪の花のような笑顔を浮かべながら、冷たい鎧に小さな身体を押し付けてくるアンジェリカ。デイジーは名の通りの天使のように愛らしい姿に慈愛の念を抱きながら、あえてされるがままとなった。
その一方でデイジー以外の騎士たちは完全に蚊帳の外だ。
貴人に対して無礼な発言をすることなど出来るはずもなく、男たちはお姫様の気が済むまで待機するほかに選択肢がなかった。