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神聖ゾンビ  作者: ワンフラット
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神聖ゾンビゼロ

※この作品は「神聖ゾンビ」を見てからの方がより楽しめます。


「神聖ゾンビゼロ」は「神聖ゾンビ」に至るまでの物語です。


登場人物


藤崎かおり・・・本作主人公、どこにでもいる普通の小学一年生。

         日本人とアメリカ人のハーフであり金髪ヘアー。


ジャック・・・アメリカ出身の十一最、温和で優しい性格だが感情的になると怖い一面も・・・

        かおりと共に行動し彼女をサポートする


ヴァンパイアガール・・・オカッパ頭で、カオリと年が一緒ぐらいの少女。ヴァンパイアである点は

             メリットにもデメリットにもなる。通称ヴァンちゃん


マミーガール・・・呪いの力が使える、包帯ぐるぐる巻き少女。見た目は中学生ぐらいで

         ジャックより年上(マミーとは日本語でミイラのこと)通称マミ


ヘルガール・・・地獄の門番、見た目は高校生ぐらいでガール達の中では一番年上



クレイジーピエロ・・・アメリカで有名な連続殺人鬼、かなりの肥満体であり

           常にピエロの恰好をしている。


クレイジースマイル・・・???


ゾンビガール・・・???


                   一階 謎の場所

「私は何故ここにいるのだろう」

少女が目を覚ますとそこは見覚えのない場所だった。見たところどこかの建物の中のようだ。すでに外は暗く辺りを照らすのは月明かりのみ、それでも周囲を見渡すには十分な明るさがあった。

「なんでこんなところに・・・思い出せない」

上半身を起こし、額に手をあてながら思考をめぐらしても何も思い出すことは出来なかった。

「・・・とりあえず、ここを出よう」

いつまでもここにいる訳にはいかない、早く外に出て家に帰らなければ・・・。見たところここは建物の一階、玄関はすぐ傍だ。足早やにその場を離れ玄関に向かった少女だったが、玄関についたとたん彼女は絶句した。

「え!なにこれ」

 そこには銀行の金庫を守るような、巨大な鉄製の扉があった。到底抜けられそうにない。

「なんでこんなものがここに・・・なにこれ?」

鉄製扉の隣には長机があり、その上に半透明の円柱型をした容器が五つ綺麗に横列に並べられている。しかもそれぞれ容器に赤い文字で何か書かれている。

「それがこの扉を開く鍵さ」

「誰!?」

少女が後ろを振り向くとそこには金髪で青い目をした少年が立っていた。見た目は小学校中学年から高学年ぐらい、少女より少し年上だ。

「その仕掛けを解くことにより、この扉は開かれる。まぁ今はどう頑張っても仕掛けを解くことはできないけどね」

そう言いながら、少年は少女の前を通り過ぎ半透明の容器をじっと見つめた。

「あの・・・あなたは?」

「ああっ失礼レディ、自己紹介がまだだったね。僕はジャックといいます、以後お見知りおきを」

「私はかおり、藤崎かおりっていいます。」

「かおりちゃんかいい名前だね。」

屈託のない笑顔でジャックはかおりに話かけた。初めて会う人、しかも少し年上の異性であるが、優しそうでおっとりした雰囲気の少年に、警戒心や恐怖を感じることはなかった。

「ありがとう、えっと・・・ジャックさん」

「ジャックでいいよ」

「ええっとジャック、仕掛けって何?」

かおりは先ほど見た、円柱の仕掛けに指を指した。

「この容器の外側に書かれているものを、この中に入れれば扉は開かれる。だがここに書かれているものは今手に入れることはできない、だからここから出ることは出来ないのさ。」

「なんて書いてあるの?」

「ええっとね・・・」


右腕

左腕

右足

左足


「ひっ!!」

五つの容器に書かれている言葉を聞いたかおりは、一気に全身から鳥肌が立った。無意識のうちに呼吸が早くなる。

「や、やだなにそれ・・・気持ち悪いよぉ」

「かおりちゃん、落ち着いてくれ本物を入れる訳ないだろう」

「え?そうなの」

「こういう類の仕掛けは必ず代用品がある。本物の体の一部を入れる、なんてことはないはずだ。今回のケースだと、たぶんマネキンや人形の腕や足で代用できるはずだ。」

だがどちらにせよ趣味の悪い仕掛けであることには違いない。

「かおりちゃん、君はここから出たいかい?」

「はい、もちろんです。」

「僕もそうなんだ、目的が同じなら僕と一緒に行動しようよ」

「はい」

 たった一人でこの建物内を捜索するのは心細い、見たところ悪そうな人ではなさそうなので、かおりは喜んでジャックと共に行動することを選んだ。

「さてと、まずどこに行こうかな」

「ジャック、あれ」

「ん?」

かおりが指を指した方向に、建物の見取り図が貼り付けてあった。

「おっ丁度いいね、ありがと・・・えっと理科室・・・職員室、ここは学校か」

「学校・・・」

 学校というワードを聞いた時、かおりの頭にキンと電流が走った。

「はっ!そうだ、この場所私の通っている学校だ。」

「本当かい?」

 夜になり雰囲気が変わっているため気付かなかったが、確かにこの場所はかおりがいつも通っている学校そのものだ、この玄関も見覚えがある。だがおかしい、かおりが通っていた頃にはこんな巨大な鉄の扉はなかったはずだが・・・。

「いつの間にこんなものを・・・」

今考えても仕方のないことだ、頭を軽く振り現在に集中する。

「学校で人形やマネキンがありそうなところ・・・理科室の人体模型とかかな?かおりちゃんどこか人形がありそうな場所はないかい?」

「んー・・・」

人形やマネキンなど、なかなかありそうでない。学校にそんなものを持ち込む人もまぁいない、でももしかしたら見逃しているだけかもしれない。

「ごめんなさい、わからない」

「謝る必要はないよ、意識して見てないと覚えてないもんね。とりあえず理科室に行ってみよう、理科室は三階だ」

 手に持っている見取り図を指さしながらジャックは言った。



玄関を抜け廊下に出た二人は階段に向かうために歩き出した、小学校の一階。 ここはかおりも知っている。いつも通っている教室1―1を丁度過ぎたところに・・・

「ひゃっ!」

 かおりは突然大きな声をあげた。至る所に半透明な人影がうようよと廊下を彷徨っていたからだ。これは俗にいう幽霊というやつだろうか。

「なぁにこれ怖い・・・」

「大丈夫怖くないよかおりちゃん、やつらは彷徨ってるだけで、僕達に危害を加えることは絶対にしない。」

「ほんと・・・?」

「ほんとだよ、僕が一緒についててあげるから、ね?」

「うん」

 かおりの肩に手を置きジャックは優しく語りかけた。ジャックの余裕のある態度にかおりも徐々に落ち着いていった。これは危険じゃない、そう十分伝わったようだ。

「幽霊なんて初めて見た、本当にいたんだ」

「あぁいるさ。でも実際のやつらはテレビドラマでやっているような特殊能力なんてのは持っていない、ただ歩き回ることしかできない」

 よく見れば半透明で体が透けていることを除けば、普通の人間である。

「さぁ急ごう」

ジャックに手を引かれ、かおりは二階へと続く階段に向かっていった。幽霊達は本当に何もしなかった、というか二人にはまるで興味がないようでずっとそっぽを向いて、ただただ歩き回っていた。


「ん?おかしいな、見取り図ではここのはずなんだが」

 階段前に来たはずの二人だったが、そこにあるのはただの壁だった。だがよく見るとこの壁だけ微妙に他の壁と色が異なっている。そして壁の真ん中に大きな目玉が一つ・・・


「なに?お前ら」

「!?」

 目しかなく口がないくせに喋るその不気味な目は、大きな目玉をぎょろりと二人に向けて話しかけた。当然ながら、かおりが学校に通っていた頃にはなかったものだ。

「おまえかここを塞いでいるのは、通してくれ」

「ダメだ、マスターからの命令。通せない」

「時間がねぇんだ!通せ」

「むりだ」

「通せって言ってんだよ、その目潰すぞ」

 今までの温和な雰囲気から一転、相手を見下すようにジャックは目玉を軽蔑の目で睨み付ける。そして胸ポケットにさしてあるボールペンを抜き取った。

「目玉なんて柔いからな、ペンでも突き刺せば簡単に潰れる」

ジャックが目玉にペンを向ける。

「やめてジャック!かわいそうだよ」

「!」

 ジャックの行動に彼女は反射的に声を上げていた。彼のやろうとしていることは間違っている、そう感じたからだ。かおりはジャックの前に立ちはだかり両手で彼のお腹に触れた。

「・・・そうだね、かおりちゃんの言う通りだ。感情的になってごめんね」

 かおりの行動にジャックはすぐに我を取り戻した。温和な彼がなぜこうも感情的になってしまったのだろうか。

「ねぇ目玉さん、どうしたらここを通してくれるの?」

「ここは絶対に通せない」

なにか条件を提示してくれれば良かったが、目玉は通せないの一点張り。

「仕方ない、かおりちゃん一階で人形を探そう」

「うん」

二階に行けないのなら一階を探すしかない、幸い一階の構造はかおりがよく知っている。

「1―1の教室、ここが私の教室だよ」

「それじゃ、ここから調べようか」

かおりが案内した1―1から二人は捜索を始めた、望みは薄いが誰か人形を持ってきているかもしれない。でもやっぱり・・・

「ジャックないみたい・・・」

「じゃあ次の教室に行ってみよう」

 そうして二人が別の部屋に移動しようとした時だった。


ドス・・・ドス・・・


 廊下の方から大きな足音が聞こえてきた。音の大きさからして、かなり大柄な体格だ。

「かおりちゃん、伏せて」

「へ?う、うん」

 ジャックが足音の主に気づかれぬように、小さな声でかおりに警鐘を鳴らす。その声にかおりは急いで机の影に身を潜めた。


ドス・・・ドス・・・


 足音は徐々に大きくなり、ついに教室の窓ごしに正体を見ることができた。

「・・・っ!」

容姿を一言でいうならば道化師、ピエロだ。だがかなりの肥満体のため、腹が異常に膨れてあがっている。動きも太っているため、ぎこちなく簡単にこけてしまいそうだ。あんなに太っていて、どんな芸が見せられるというのだろうか。


ドス・・・ドス・・・


太ったピエロは教室内にいるジャックとかおりに気づくことなく、そのまま教室を通り過ぎてしまった。足音が聞こえなくなったと同時にジャックがその場に立ち上がる。

「行ったか・・・」

「ねぇジャック、あれはなんなの?」

「クレイジーピエロ、アメリカで有名な連続殺人鬼。やつはとても危険だ」

「れ、連続殺人鬼!?」

 連続殺人鬼がなぜ、かおり達の通うこの学校にいるのだろうか。

「僕はやつがまだ近くにいないか見てくる、かおりちゃんはしばらくここで待っていて」

「うんわかった」

 かおりが頷いたことを確認すると、ジャックは音をたてないように慎重に扉を開き外へと出て行った。

「・・・」

その場の流れに押されジャックと別れてしまったが、一人になったとたんに彼女の心には不安と恐怖が瞬く間に広がった。今までの彼の存在はとても大きかったようだ。

「ジャック早く帰ってきて・・・」

 机の影に隠れ、かおりは祈るように手を握りしてた。


「ここにいたか」

「!」

 一瞬ジャックが帰ってきたと思ったが違った、女性の声だ。振り向くとそこには赤いショートヘアで高校生ぐらいの少女が立っていた。

「確かおまえは・・・かおりだな」

 赤髪の少女が近づくにつれ、かおりの顔は引きつっていった。恰好だけでみれば高校の制服のようなものを着ており、そこは普通なのだが問題は外見。異常に肌の色が白い、白人というレベルではない、血が一滴も流れていないのではと思わせるほどの白さ、さらに瞳は黄色く、目元には大きなくまができていた。そしてかおりの顔が引きつった原因は手にもっている有刺鉄線が巻きつけられた金属バット。

「あなたは誰?」

「ん?まぁ名乗るほどの者ではないけど一様言っていっておく。私の名はヘルガール、

地獄の門番。生死の境であるこの空間を管理するのが役目。」

 地獄?生死の境?何を言っているんだこの人は

「痛いかもしれないけど我慢してね。」

 ヘルガールがかおりに向けて有刺鉄線バットを振り上げる。

「ちょっ、何するのやめて!私何も悪いことしてないよ」

「ああそうだね、君は何にも悪いことはしてない、だけどそんなの関係ない。この生死の境で実体を持つことはルール違反なの、本来ならばあなたも廊下にいたゴーストと同じ運命を辿るはずだった。」

 さっきから何を言っているこの人は、まるで意味がわからない。

「じゃあね、かおりちゃん」

「やめ・・・やめて」


グチャ!


気持ち悪い衝撃音と共に無慈悲にもバットがかおりに振り下ろされる。突然の恐怖で足がすくんだかおりに逃げることなどできなかった。飛び散る自分の血を眺めながら彼女の意識は途絶えた。


・・・・・・

「あ、あれ?」

 彼女は再び目を覚ました。場所も変わらず一階の教室の1―1だ、先ほどの出来事からどれだけ時間が立ったのだろうか。

「あれ?全然痛くない」

あんなトゲだらけのバットで殴られたはずなのに、全く痛みを感じないどころか、体には傷一つついていない。

「夢だったのかなぁ・・・ひゃっ!」

 夢だと思いたいところだったが、かおりの服は血で汚れており、倒れていた場所にも血痕が飛び散っていた。だがかおりは無傷、ということは別の誰かの血ということか?

「やだ、なによこれ」

 急いでハンカチで汚れを拭くが血のしみが簡単に取れるはずもなく、ただ汚れが広がるばかりだ。


ヒック・・・ヒック


「何?次から次へと」

 今度は教室の隅に幼い女の子が屈みながら泣いている、もちろんさっきまではいなかった。かおりから見て後ろを向いているため顔を確認することはできない。

「ねぇ大丈夫あなた?」

 放っておく訳にもいかず、かおりは近づき声をかけた。

「のど乾いた・・・」

「あぁ、ごめんなさい私今飲みものは持ってない」

「あるじゃない・・・あなたの体の中に」

「え・・・」

「血が・・・血が足りない」

屈み泣いていた少女が突然立ち上がり、振り返ってかおりを見つめる。

「・・・っ!」

黒装束に身を包んだ長めのオカッパヘアーの少女、年はかおりと変わらないぐらい。ただ瞳は真っ赤で両頬に十字型の傷、さらに犬歯が常人より長く鋭い。

「ちょうだい・・・あなたの・・・」

かおりは異様な雰囲気に後ずさりをしたが、赤目の少女はそれに合わせ少しずつ距離を詰めてくる。

「どうして・・・どうしてみんなで私を・・・」

かおりの目に涙が浮かぶ、さっきから体がガクガク震えっぱなしだ、もうダメかもしれない・・・赤目の少女の両手がかおりの両肩をつかんだ。

「おーいヴァンちゃん、持ってきたよ。」

「!!」

この声は聞き覚えがある、ジャックだ。

「はう?わあーい血だ、血だー」

赤目の少女は、ジャックの持っていたものを奪い取るように取りゴクゴクと飲み始めた。よく見るとそれは血ではなく、トマトジュースだった

「驚かしてごめんね、こいつはヴァンパイアガール。危険はないから安心して」

 と言われてもさっき襲われそうになったため信用できない。

「血を吸われちゃうよ」

「大丈夫だよ、こいつは子供だから血は飲めない。今僕が持ってきたトマトジュースが大好きなのさ。喉がかわくと理性を失ったりすることもあるけど、血は大人の味だからね。この子はその味がまだ理解できないみたい。」

 ジャックはかおりに近づき優しく頭をなでた、ジャックが来た安心感からかおりの目から涙がポロポロを零れ落ちる。

「うわーーん!」

「ああっ、ごめんねかおりちゃん。ここまでびっくりするとは思わなかったから」

 予想以上にかおりが泣きじゃくるため、ジャックもあたふたして、どうしていいかわからなくなってしまった、そんな時

「ごめんなさい驚かして、わざとじゃないの」

「ひっ!!」

理性を取り戻したヴァンパイアガールがかおりの近くに寄り話しかけてきた、先ほどの恐怖心からかおりはとっさに一定の距離をとる。

「ほんとにごめんなさい」

ヴァンパイアガールは先ほどの血走り獲物を狙う表情からうって変わって、申し訳なさそうな情けない表情になっていた。さっきと雰囲気が全く違う。

「ヴァンちゃん、脅かしてしまったお詫びをしないと。そうだ今かおりちゃんの服が汚れているから、ヴァンちゃんの貸してあげたら?」

「うん、わかった☆」

「さぁ、おいでかおりちゃんヴァンちゃんが服を貸してくれるってさ」

 差し出されたジャックの手をつかみ、かおりは立ち上がった。かおりが連れていかれたのは隣の1―2教室だ。

「見てかおりちゃん、ここが私の部屋なの」

「?」

 私の部屋と言っているが、どう見ても教室の入り口にしか見えないが・・・。

ガラララ

1―2教室の扉が開かれる。

「え!!」

開かれた教室はかおりが想像したものとは全く別のものだった。

「さぁどうぞ☆」

ヴァンに手招きされ入ってみると、中はピンクをベースにした可愛らしい部屋だった。机にベット本棚など、部屋に必要なものに加え、いろいろな場所にハートのクッションやおおきなくまのぬいぐるみなどが置いてある。広さは五畳ほどで、とても教室ほどの広さはない。

「なんでここは教室じゃないの?」

「そりゃね、ここの空間は何もかおりちゃんの記憶のみで作られている訳じゃないからね。」

「???」

ジャックが意味のわからないことを言い出した。先ほどのヘルガールといい一体なんなのか。

「ねぇジャック、もしかしてかおりちゃんは自分が死んだってことに気づいてないのでは」

「え、そうなのかい。自分が死んだことに気づかないって小説とかではよくあるけど、  まさかね。」

「・・・は?」

 二人の言っていることが最初耳に入ってこなかった。本当になにを言って・・・

「私が・・・死んだ?」

「ほらやっぱり気付いてなかったよジャック」

 あまりに突拍子のない話にかおりは頭を傾げた。死んだと言っているが、だとすれば今ここにいる自分はなんなのか、ちゃんと生きているではないか。

「かおりちゃん、ここはね生死の狭間なんだ。だから完全に死んだとは言えないかもしれないけど、ほぼ死んだと言っていい」

「・・・私もう話についていけない」

 ジャックの言うことにかおりは頭を抱え、顔をうつ向かせた。入ってくる情報量が多すぎて、頭で処理しきれない、一体なにから消化すればいいのか。

「とにかくこれだけは説明しておくよ、この空間はここに訪れる死者達の生前の記憶によって作られる。だからかおりちゃんの学校が記憶から作られたということだ。だがここには当然かおりちゃん以外の記憶から作られた空間も存在する、その例がここさ。」

 いきなり全部を理解することは無理なので、とにかくこのことだけを頭に入れた。死んだ死んでない、はこの際どうでもいい。なぜなら死んだということを実感できないのだから、どうしようもない。


「えっと・・・これなんかどうかな?」

ヴァンがクローゼットから代えの服を取り出した。体格は、ほぼかおりと同じなのでサイズで困ることはない。

「ええっと、ありがとう」

 血で汚れた服を脱ぎ、新しく用意された服に着替える。着替えたことによりむず痒い感覚から解放され、かなりすっきりした。

「うんうん、とても可愛いよ☆」

 ヴァンが近づきかおりの襟元を直す。親切にされたことが原因か、彼女に対する恐怖心はかなり薄くなっていた。見た目こそやや常人離れしているが、話してみると意外と普通の女の子である。

「そうだかおりちゃん、ヴァンちゃんに頼んで、あの階段の目玉をなんとかしてもおう。」

「え?ダメだよ!いじめたりしたら」

「大丈夫だよ、まぁ見てて」


ジャックに言われるまま、ヴァンと共に再びあの階段前へと足を踏み入れる。そこにはさっきと全く変わらない光景が広がっていた。

「何度来てもここは通さんぞ」

「ヴァンちゃん、頼んだ」

「まかせて☆」

ヴァンが目玉と目線を合わせ、じっとを見つめる。

「ん・・・あばばば」

 突然目玉が変な声を上げながら目を回し始めた。そしてあれよあれよと間に全体が縮小しダンボールほどの大きさになってしまった。目玉壁が小さくなったおかげで隠されていた後ろの階段が目視できるようになり、通れるようになった。

「すごい、一体なにをしたの?」

「これがヴァンパイアの能力、相手と目を合わせることにより催眠をかける。」

「すごいでしょ☆」

「さぁ行こう、目的地は三階の理科室だ。」

 三人で階段を登ろうとした時だった。

「こ・・・怖い・・・」

 突然ヴァンが立ち止まり動かなくなってしまった。ヴァンは怖がっているようだが、階段には三人以外に誰もいない。あるのは丁度階段の折り返す場所を照らしている大きなライトぐらいしか・・・。

「強い光が怖いんだよ、ヴァンパイアだからね。」

 確かに、その場を照らすにしてはかなり強めの光がその部分のみを照らしている。

「人工的な光でヴァンパイアが死ぬことはないけど、光に対する恐怖心は拭えないみたい。」

 ヴァンの体はガクガク震え恐怖に怯えている。なんとか光を消したいところだが、ライトは手が届かないほど高い位置にあり、スイッチらしきものも見当たらない。かおりが学校にいた頃はこんなライトは存在せず、少なくとも学校のものではない。

「仕方ない、ヴァンちゃんとはここで別れよう。」

「うん、しょうがないね。ええっと・・・どうもありがとうヴァンちゃん、助かったよ」

「こちらこそ、また協力できることがあったら言ってね☆」

ヴァンはにっこりと微笑んで手を振った。最初はあんなに怖がっていたかおりも、もうすっかり馴染んだようだ。


「さぁ行こう、かおりちゃん。ここからの脱出するために」

かおりとジャックは階段を上り二階へと向かった。


                   二階 呪い

 二階へと着いた二人は、三階へと足を踏み入れようとするが、二階から三階へと続く階段には黒い霧というか、もやみたいなものがかかっており、少し不気味な雰囲気が漂っている。

「何これ?」

「かおりちゃん、それに触れちゃダメだ!」

「え?」

 ジャックの声に気づいた時はすでに手が黒いもやに触れていた。


なにあいつ

この世から消えればいいのに

黙って死ね

キモいよ

絶対逃がすな

追いつめて苦しめろ

僕達が苦しんだ分以上に


「ああああ!」

かおりの体が反射的に、そのもやから手を離させる。戻った勢いが強かったせいでかおりはその場に尻もちをついた。

「大丈夫かおりちゃん!」

ジャックがすぐに駆け寄り、かおりの体を起こす。もやに触れたとたん、かおりの頭の中に罵声や暴言、さらに体に電流が流れたようなピリピリした痛みに襲われた。

「なんなのこれ・・・」

「わからない。だけど触れたらダメ、それだけはわかる」

 呼吸を整え冷静にそのもやを眺める。よく耳をすませると小さな悲鳴のような掠れ声が聞こえてくる。これは普通の黒いもやではない。

「三階には行けないみたいだね、一度二階を探そう。」

 一階の時と同様に、各教室を回り人形を探すことにした。


「あのジャック、さっきの話なんだけど」

「なに?」

「私たちは死んでいるって本当?」

「本当さ、実感がわかないかもしれないけど」

かおりの当初の目的は単純に家に帰るため、この建物から脱出することだった。だがここが現実世界ではないことは、今までの不可思議な現象を見れば明らかだ。だとすれば今、なんのために彼と行動を共にするのだろうか。

「安心してかおりちゃん。一階の鉄扉を抜けた向こう側に、僕達の救いがある」

「救い?」

「そう救いさ、この絶望的な状況下を抜けるための奇跡の扉、僕達はそれを目指している」

この生死の境という場所での救いと聞けばあれしかない。どちらにせよ、かおりはこの空間に留まるつもりはない。一人で抜け出すこともおそらくできない。

「行こうジャック」

「うん」

かおりはジャックの手を引き廊下へと駆け出した。またあの平穏な日常を取り戻すために、たった一人の家族である父親に再び出会うために・・・。


廊下に出た二人はさっそく捜索を始めるが、廊下の奥の方にも先ほどの階段にあったものと同じ黒いもやが発生していた。

「二階は探せる範囲が限られるね、とにかく一番近くにあるこの2―1から行こう」

 かおりは促されるまま教室に入った。2―1は他の教室と同じく、教卓や机など教室に必要最低限のもの以外は見たところ何も置いていない。それでも探せる場所が限られているのだから探すしかない。

「僕は窓側の机から調べるよ、かおりちゃんは廊下側からお願い」

「うんわかった。」

 パッと見ただけではわからない、机の中や、荷物置き場などの死角を徹底して調べる。

「んー、やっぱりないなぁ・・・」

念入りに廊下側に並ぶ机の中や、死角となる机の下を見ていた、その時だった。


ヒタ・・ヒタ・・・


「・・・」

廊下側から聞こえてくる足音にかおりは凍り付き、なにも言葉が出なくなった。足音の大きさからしてクレイジーピエロではない、であればヘルガールか?だが教室扉のモザイクガラスに映るシルエットはヘルガールよりも背が低い。

「誰だろう・・・」

 危険因子の二人ではないとわかったことで恐怖心が少し和らぎ、誰だろうという興味心が彼女の中を駆け巡った。

「・・・」

 恐る恐る教室扉をゆっくり開ける。

「お?誰おまえ」

扉を開けると、そこには全身に包帯を巻いた銀髪の少女の姿があった。ヘルガールと同じような制服を着、手足は包帯によって地肌が見えない。顔は頭から頬にかけ斜めに包帯が巻かれており片目が隠れている。見た目の年齢はジャックより上でヘルガールより下といったところか。

「見ねえ顔だな、おまえもクソピエロの被害者か?」

「・・・?」

 包帯女の言葉にかおりは首をかしげる。

「まぁいいや、おまえ名前は?」

「・・・藤崎かおりです。あなたは」

「俺はマミーガールだ、こんなとこに閉じ込められるとか、おまえも運ねぇな」

 一人称は俺でヤンキー口調の少女、少し近寄りがたいが今まで何度となく不可思議な現象を経験したかおりは、恐怖心を抱くことはなく、怖気づくことはなかった。

「ねぇ、マミーガールさん」

「マミでいいぜ、マミーガールだと長い」

「んっと、マミはどうして体中包帯を巻いているの?ケガしているの?」

「違うよ、俺はマミーだから包帯を巻いているのは当然だろう」

マミは包帯が巻かれている左手首を軽く叩く、痛みはなくケガではないことを証明する。

「マミーって何ですか?」

「マミーとはミイラのこと、そしてマミーといえば呪い。墓荒らしに来た人間に呪いをかけるとされている。呪いをかけられた人間は二度と帰れず同じミイラとなる。」

「ええっ!」

「なんてな、ミイラ取りがミイラって聞いたことあるだろ?あれは呪いが原因ではなく、迷宮に迷い脱出できずにその場で死んだり、衛生状態が良くない場所なもんで、病気やウイルスに感染したりが本当の原因らしい。」

「へぇーそうなんだ」

「だがしかし、俺は本物の呪いが使える」

「!!」

マミが廊下の奥にある黒いもやに向けて指をさす。

「あれがそうさ、人間が持つ負の感情の集合体。あれが呪いの空間」

「あれは、マミが作り出したものだったの?」

「違う違う俺じゃない、かつてこの生死の空間に訪れたものが作り出した」

「なんでそんなの作ったの?」

「嫉妬、妬み、独占欲。自分だけが救われたい。あいつばっかり良いことが起こる、あいつも俺と同じ目に合えばいい。こういった気持ちわかるか?人間は恨みなんてなくても、相手を貶めたいという気持ちが働く。その結果がこれ、他のものを救わせないため、妨害するために、この呪い空間が存在する。」

「そんなぁ、ひどいよぉ」

「ひどいもなにも誰しもが当たり前に持つ感情、他人事じゃないぜ」

「・・・」


他者を貶めるための呪いの空間、これをなんとかしなければ捜索範囲はかなり限られる。

呪いに関係する能力をもつマミ、彼女ならもしかしたら・・・

「ねぇ、マミは呪いの力が使えるんだよね?この呪い、なんとかすることできない?」

「できないことはないが条件がある。」

「呪いを浄化するための条件ね」

「浄化?違うね呪いは削るものだ」

「削る?」

「おまえ、こんな悪意に満ちた呪い空間を浄化できると思うか?こいつらは浄化されることなんざ望んでいない。そもそも赤の他人が、その人の持つ負の感情を抑え浄化させるなんてできるはずがない。削るしかない」

「でも削るってどういうこと?」

「世界一硬い鉱物であるダイヤモンドは同じダイヤモンドでしか削れない。呪いも同じ、つまり呪いは呪いで削ることができる。そうして強引に道を作る。」

「呪いは呪いで・・・」

「少しじっとしてろよ」

マミはかおりに近づき、かおりの頬に両手で触れ、かおりとおでこを合わせた。突然のことに、かおりは少し困惑したが、言われたとおりじっと動かずに待った。

「幸せだなお前、呪いとも言えるべきものが見当たらない、十分愛されている。」

 どうやら先ほどの行為は呪いを測るためのものだったらしい。

「かおり、お前では全くダメだ。呪いを削れない、他のやつを連れてこい」

他のやつと言われてもいるのはジャックとヴァンしかいない。しかもヴァンはここに来ることができない。となれば選択肢は一つ。


「ちょっと待ってて、おーいジャック」

かおりが教室の中にいるジャックを呼ぶ。

「どうしたの?」

教室内で人形を探していたジャックが、かおりの元に訪れる。

「おや、マミちゃんじゃないか」

「・・・ジャックおめぇか、おめぇならたぶん」

マミがジャックに近づく。

「待ってマミ私も協力する」

「ふぇ?・・・まぁスズメの涙ほどだが、ないよりはましか。」

 三人で輪になり、おでこを合わせて目を閉じる。かおりの頭の中に何かが・・・




母は僕が物心つく前に事故で亡くなり、家族は父と兄と僕の三人。生活は可もなく不可もなく別に苦しくはなかった。父はよく遅くまで帰ってこなかった、おそらく仕事だろう。


 僕はあまり社交的な性格でなく、友達はそんなに多くはなかった。だいたいいつも家で兄と遊んでいた。仕事だとはわかっていても、父にはもっと僕に構って欲しかった。


父と接する時間は少なかったが、それでも空いた時間は僕達に芸を見せてくれた。父はサーカスで働いているため、こういうことはお安い御用なのだ。たまにしかこういう機会がないため、兄も僕もとても楽しかった。


ある日夜中にトイレに行った時、丁度父が帰ってきた。

・・・

何か変な匂いがする、鉄くさい・・・。でも眠かったし、その時はそれだけで終わった。


父が仕事着ピエロの恰好でまだ幼い少女と手を繋ぎ歩いていた。学校の帰り道、偶然見かけた。あの子は誰だ?親戚であんな子いたかなぁ?


ある日を境に、家の周りに怪しい人を見かけるようになった。隠れているつもりだろうが僕は見逃さなかった。ずっと僕の家を見張っている。なんだか気味が悪い。 


・・・父が変な人たちに連れていかれた。なんで・・・なんでなんで


学校で、僕に対するみんなの目が変わった。前まで親しかった友達もなぜか話さなくなった。・・・なに?あいつの近くにいると殺される・・・血を受け継いでいる・・・なんのこと?なんで僕が罵倒される、僕は何も悪いことはしてない。


最近兄の様子が変だ、仕事を辞めたらしい。いや厳密に言えば辞めざるをえない状況に追い込まれた。なぜ兄まで・・・。


あいつらあの殺人鬼の子供なんだってよ

本当なの、あまり近づかない方がいいんじゃない

距離をおきましょ、何されるかわかったもんじゃない

ある日兄が僕に銃を向けた、あんなに仲が良かったのになんで。え?僕を苦しませないためだって・・・何言ってるんだよ、気味の悪い仮面なんか被って、ほんとどうしちゃったのさ!


やっぱりね、あそこの子ならやっちゃうと思ったわ

違う

まだ逃げてるんだって、怖いはねぇ

違う

早く捕まって、死刑にしろ。社会のごみ、町の公害


違う違う違う!

おまえらが追いつめたんだ兄さんを!おまえらさえいなければおまえらさえいなければ

おまえらさえいなければ!


「おまえを大事に思うからこそだ、みんな俺たちを受け入れない。この世にもう場所はない、だからせめて、あの世で幸せになってくれ」

バン!

・・・僕は死にました。





 かおりの頭の中に映像がフラッシュバックした。今のは一体なんだったのか。


「よし十分だ」

マミが二人から頭を離し、呪いの黒いもやに向けて手を伸ばし、広げた。マミの手が黒いオーラのようなものをまといはじめる。

「これから呪いを削りながら進む、俺の後についてこい。」

「うん」


ギリギリギリギリ


 黒板を爪でひっかくような嫌な音が辺りに響く。マミの黒くなった手が触れたところから、もやが消滅し通れるようになっていく。あくまで呪い空間に人が通れるほどの道を作っているので、うっかりもやに触れないように注意が必要である。


「丁度呪いが切れた」

「え、もう切れちゃったの?」

「なにせこれは何人もの呪いの集合体、一人の呪いで削れるのはこの程度さ。」

「階段にも、その呪いが・・・」

「階段?あれは確か足場にしか呪いのもやが、かかってないからヴァンに頼めばいい。おまえぐらいなら、担いで飛ぶことぐらいできるだろう。」

「でもヴァンちゃんは、光が怖くてここに来れないの。」

「なんか光を遮る道具が必要だな」

とはいえ、ここまで捜索している間そんなものは一切なかった。つまりマミが呪いを削り通れるようになった新しい場所になければ、もう三階に行くのは絶望的だ。

「ありがとうマミ、助かったよ」

「かおり、礼を言うのはまだ早いぜ、それはここから出れてから言うもんだ。」

「うん、ありがとう」

「・・・はぁ、まぁいいか」

マミと別れジャックと二人で先に進む。呪い空間が通れたことにより、二階の八割ほどのエリアが解放され、行けるようになった。



「はぁ・・・」

捜索を続けかなりの時間が立ったが、これといった収獲はなくため息が零れる。

「残りは職員室か、ここに何かあればいいんだが」

「うん」

若干諦め気味に職員室の扉を開ける。

「「!!」」

職員室の扉を開けたその先は、職員室ではなかった。そこには四畳半ほどの部屋があった。勉強机や本棚、ベットなどがある至って普通の部屋。

「ここは僕の部屋だ」

「そうなの?」

どうやらここはジャックの部屋らしい、先ほどのヴァンの時と同様、ジャックの記憶によって作られた空間、それがこの部屋である。

「僕の部屋に人形はおいてなかった気がするなぁ」

「でも一様探そうよ」

「うんそうだね」

部屋の中を二人で手分けして探す。

「ん?」

かおりは机の引き出しに入っていたある週刊誌に目が止まった。


凶悪殺人鬼クレイジーピエロ特集

 近年突然出没した殺人鬼クレイジーピエロ。彼による被害者は今年で十人に達した。被害者はすべて十五歳未満少女達。ピエロの恰好をしているのは子どもを安心させ連れ去りやすくするため、本職もサーカスでピエロをしているため芸はお手の物らしい。

ロリータコンプレックス(ロリコン)及び傷フェチであり、連れ去った少女の体にナイフなどで傷をつけ、抵抗は激しいようならその場で殺してしまう。彼は少女の体にできたかさぶたに性的興奮を覚えるらしく、それが多ければ多いほど彼の感情を高ぶらせる。

彼はまたハロウィンが大好きである、ハロウィンは子どもがゾンビやヴァンパイアなどの仮想を行う。そのため少女の死体のいたるところに傷をつけ、目玉をくり抜きゾンビを作ったり、歯をペンチで抜き犬の犬歯を貼り付けヴァンパイアを作ったり。とにかく常軌を逸脱している。彼の人形と化した少女達は、後に彼の家の小屋から発見されることとなる。その光景は言うまでもなく凄惨だったそうだ。

そんな彼だが意外な特技があった。それは機械いじり、小さい時から機械をいじるのが好きで機械に関して彼の右に出るものはいなかったんだとか。

20XX年X月X日 クレイジーピエロ逮捕

20XX年Y月Y日 クレイジーピエロ死刑宣告

20XX年Z月Z日 クレイジーピエロ死刑執行


次ページ 新たなる恐怖 クレイジースマイル


クレイジーピエロの一件が終息したのもつかの間、新たなる殺人鬼が現れる。やつは頬まで裂けた不気味な笑顔の仮面を被っている。我々は彼をクレイジースマイルと名付けた。ピエロと違い被害者は少女に限らず子供から老人まで様々。無差別だと思われたが、被害者は過去にクレイジースマイルと何らかの縁があるものであることが判明、彼らに相当なうらみがあった模様。しかし近年は見境がなくなり無差別に殺人を行うようになった。

今だ逮捕されておらず非常に危険な存在。



・・・

「お!いいものがあった。」

ジャックがベッドの影に隠れていた、アウトドア用のビーチパラソルを取り出した。

「ハワイに旅行に行った時のやつだ、ライト程度なら防げる。」

「やった、やっと進展があった。」

 人形こそなかったが、日よけのアイテムを手にいれた。これで三階にいける。


二人は急いで一階へと向かった。





                三階 ゾンビガール

一階にいたヴァンにビーチパラソルを渡した。彼女は少し怖がっていたがビーチパラソルの存在は大きな安心感を与え、無事、二階の階段にヴァンを誘導することができた。

「ヴァンちゃん、三階まで私を送り届けてほしいの」

「うんいいよ、でもジャックは無理。体が大きいもの」

ヴァンはかおりの重さが限界らしい、つまり三階にいけるのはヴァンとかおりの二人のみ、ジャックとは別行動を余儀なくされる。

「かおりちゃん大丈夫?」

「・・・大丈夫じゃないけど、私しか行けないから頑張る。」

「わかった。危険を感じたらすぐ逃げるんだよ」

「うん」

 ヴァンがかおりを後ろから抱きしめ、背中からコウモリの羽を出現させる。

「いくよかおりちゃん、じっとしててね」

体と同じぐらいの大きな羽をはばたかせ、足元も呪いのもやに触れないように宙を舞う。


・・・

「はい到着したよ」

「ありがとうヴァンちゃん」

 三階に到着した、とりあえず廊下に出て周囲を見渡す、パッと見た感じ三階は二階のような呪い空間はなく、行動を制限されることはない。

「確か理科室よね」

 ジャックに言われた通り理科室を目指し慎重に歩き出す。場所は案外近くにあり、表札に「りかしつ」と大きな字で書いてある。

ガラララ


 理科室の扉を開ける。

「・・・・・・」

 理科室だけあって様々な実験器具が置かれているが何かおかしい。実験器具があまりにも高度すぎる、こんな機械見たことがない。

「おやおや、誰かね」

 部屋に響く野太い声、それに見過ごすはずのない巨大な体。あいつは・・・

「おおっ君かね、ようこそ私の部屋へ」

かおりは後ずさりした、そこにはジャックから危険だと忠告されたイカレタピエロの姿があった。

「何を突っ立っているのかね?入るなら早くお入り」

「いやだ、あなた危険だもの」

「随分な言われようだな、おまえを助けてやったというのに」

「え?」

ピエロの言っていることが理解できない、こんな知らない人に助けられた覚えはない。

「わからないのかい?じゃあ説明しよう。この生死の境の空間、本来であれば実体が滅び魂のみがこの空間に漂うはずだった。だが私はおまえの体、実体を作りそこに魂を入れた。そこの機械を使ってね。」

ピエロが指さした方向に何やら難しそうな機械が置いてある。これは一体。

「それはプリンターだよ、3Dプリンター。ニュースとかで見たことないかい?普通のプリンターは平面に印刷するけど、3Dプリンターは立体的に物を造形することができる代物。これで銃だろうが心臓だろうがありとあらゆるものを作り出すことができる。ちなみにこの機械は3Dプリンターを元にして作り上げた私のオリジナルプリンター。だから現実にある3Dプリンターとは異なる、その点は注意ね。」

難しい話をかおりは理解できなかったが、この機械によって体が作られた。そのことは理解することができた。

「これで体が作られたなんて信じられないかい?じゃあ一回試してみるかね。そこに紙と鉛筆があるだろ?それでなにか絵を描いてみなさい、それが立体で現れるから」

 今そんなことしている場合ではないが、自身の内から湧き出る好奇心に誘惑され、かおりは気付けば鉛筆を手に取っていた。

「何を書いているのかね?」

「ガオタロウ、見た目は怖いけどかおりのことを守ってくれるやさしい怪物」

「ほぅ、かわいい怪物だね」

 かおりは怖く書いたつもりなのだが、どうしても単純な絵になってしまう。かわいい怪物と言われ少し残念そうにしながら。その機械に紙を入れた。


ガタガタガタ、ピーーー

 絵を機械に入れると、しばらく振動した後、機械内でみるみる体が作られていく。

わずか一分ほどしか経っていないというのに、かおりの描いたガオタロウが完成した。

「ガオオオ!」

 大きな声を上げ、二メートルほどのある巨大な体が動き出す。

「すごい」

「すごいだろそうだろ、でも注意点がひとつ。この3Dプリンターの素材は非常に可燃性が高く、少しでも火に当たると瞬く間に燃えて消滅してしまう、火器厳禁だ。」

「あなたはどうして実体を持っているの?」

「私もおまえと同じだよ。私がこの生死の境に初めて来たとき、私の記憶によって作られたこの私の部屋に偶然、以前試験的に作った自分の体のコピーが残っていたのさ。」

「この空間にいる人は?ヴァンちゃんやマミとか」

「この空間で実体を持つものはすべて私の作品だよ。ただしヘルガールは例外、やつは元々この空間が乱れないよう監視するのが役目の門番。例外的に実体を持つことが許されている。」

「じゃあなんで、ヴァンパイアやマミーなんて形で実体を作ったの?普通の人間の体を作ればよかったじゃない。」 

「どこにでもいる普通の人間なんて面白くもなんともない、完璧な人間より少しぐらい傷の入った少女の方が魅力的だよ、守ってあげたくなるもの」

「・・・」

かおりは無言のまま反射的にピエロと距離をとっていた、気付けば腕に鳥肌が立っていた。

「そんなに自分の体に不満かね、残念だなぁ・・・ゾンビガール」

「ゾンビ・・・え?」

「なんだ自分の今の姿に気づいてないのか?まさか自分だけ人間の姿で作られたとでも?」

ピエロは部屋にある大きな鏡を指さした。

「さあ、自分の姿を見てごらん」


かおりは恐る恐る、鏡の前にゆっくり・・・ゆっくりと

「・・・っ」

 左目の眼球が・・・ない、しかも眼球が抜けたくぼみから血か流れた後がある、時間が経過しているため色が黒くなり固まっている。さらに右目からも大量に血が流れた後が・・・


「あああああああああああああああああ!」


耳をつんざくような悲鳴が辺りに響く、この時かおりはすべてを思い出した。家への帰り道、突進してきたトラックに衝突され死んだことを、あの時のトラックのタイヤ音が脳内で勝手に再生される。


「あああっ!うあああ!」


 かおりの目から血だか涙かわからないものが流れ出し、たまらずその場に崩れ落ちる。

「うるさいやつだな、不愉快」

あまりの声の大きさにピエロは外へと出ていってしまった。

「あああっ、ああっ」

 死んだことを理解したとたん、様々な感情が彼女を襲った。今までに死んだという事実をジャックから聞いていたが実感できず半信半疑だった。でも今は違う、思い出してしまった、身をもって実感してしまった。

・・・

あれからどのくらいの時が過ぎただろう、大声で泣いていたため、段々と声は掠れ出なくなってきた。見間違えではないかと何度も鏡を見直すが結果は変わらず、片目がなく血が噴き出している醜い自分が写るだけだった。

「うぅ・・・もうどうでもいい、どうでも」

死を実感し、醜くなった自分の姿を見せられたかおりは、完全に心が折れ自暴自棄になっていた。もう心の中にあるのは絶望、そして虚無。


「なにやってんだ、おまえ」

「!」

 かおりが顔を上げると、そこに赤髪の少女ヘルガールの姿があった。

「早く起きろ、人形を探すんだろ」

「人形なんて、もうどうでもいいよ。」

「どうでもいいことあるか、それがないと出られない」

「もういいよ救われなくたって・・・もうどうなったって・・・うっ!」

ヘルガールはかおりの胸倉を強くつかみ自分に引き寄せる

「おまえが死にたいなら死ねばいい、絶望したいなら絶望すればいい!だが他のみんなは、おまえが行動しなければ救われない!おまえが動かなかったばっかりにジャック、マミ、ヴァン全員を貶めることになる。おまえのせいでな」

「!・・・それはダメ、私だけならいいけど・・・みんなは・・・」

「じゃあ、さっさと動け、悲しんでいる暇はない」

「うっ・・ううっ」

袖で涙を拭き、かおりは立ち上がった。そしてみんなのことを思い出す、かおりは最初から醜いゾンビだった。それでもみんな嫌な顔一つせず優しくしてくれた。この服だってヴァンが貸してくれた。マミがいたから呪いの空間を通ることができた。ジャックがいたから、ここまで恐怖に怯えることなく進んでこれた。

「おまえは役目を果たす大きな責任がある。それが終わったら好きなだけウジウジメソメソしていい。だが今は動け、忙しいんだ」

 ヘルガールはかおりの手をつかみ廊下へと足を進めた。



その頃二階の階段前では、ヴァン、マミ、ジャックがかおりの帰りを待っていた。

「かおりちゃん遅いなぁ。どうしたんだろう?」

「ヴァン、そんなに心配ならおめぇ見に行けばいいじゃねぇか、飛べるんだろ?」

「いやだ、あのピエロさんがいるところ嫌!」


「マミちゃん、ヴァンちゃんはクレイジーピエロに殺された被害者の一人なんだ、彼のいる場所に行くなんて、とても無理な話だよ。」

「まぁそりゃそうか、俺だって自分を殺した相手のとこなんざ行きたかねぇ。でもなんで被害者じゃねぇ俺やかおりの実体なんか作ったんだ?」

「偶然だよ、ピエロは実験するためなら少女なら誰でも良かったのさ」

「薄気味わりぃやつだな、ヘヘッ・・・おっとワリィ、おまえの父親だったな」

「別にいいよ、あいつのことはもう父親とは思ってない。」


彼らは先に進むことができない、彼らの頼りは藤崎かおりただ一人。

そのかおりはようやく身を起こし行動を始めところだった。

「かおり、君に言っておかなければならないことがある。」

「はいなんですかヘルガールさん・・・な、なに!」

ヘルガールはかおりに向けて頭を地面につけ土下座をした。

「非常に申し訳ないことをした。私は最初、この場で魂は実体を持ってはいけないという規則に基づき、実体を消すため君を攻撃した。だが結局それは何の問題の解決にもならず、結果として君を傷つけるだけになってしまった。この場を借りて深くお詫び申し上げます。」

「そ、そんないいですよ、別に痛くなかったし。頭を上げてください。」

 そう言ったが、ヘルガールはしばらく頭を下げたままだった。

「頭を上げてください」

かおりはヘルガールの頭を両手でつかみ半ば強引に頭をあげさせた。

「本当に痛くなかったですから」

「痛くなかった?それは本当か」

「はい本当です。」

ここまで来てようやくヘルガールは立ち上がった。

「痛くなかった、痛みを君は感じないということか。しかも私が負わせた傷もすでに回復している。つまりはこれが君の能力、ゾンビの力ということか。」

 物理的な攻撃の痛みを感じない、この力がなければ、かおりはもっと苦しんだことだろう、不幸中の幸いといったところか。


「クレイジーピエロはどこに?」

「おそらく理科準備室、知っているとは思うがこの学校の準備室は、教室とほぼ同じぐらいの広さがある。やつはそこを制作した機械なんかの物置場に利用している。理科室(ピエロの部屋)からも近いしうってつけというわけだ。」

「じゃあここから・・・」

「そう、目と鼻の先というわけだ、準備はいいか?」

「はい!」

バタン!


理科準備室の扉が勢いよく開かれる。

「おやおや、これはヘルガールちゃんにゾンビガールちゃん」

予想通りそこにはクレイジーピエロの姿があった。

「要件はわかっているなピエロ、この生死の境を荒らした罪は重いぞ。」

「待ってくださいな、これには理由があるのです。」

「理由?」

「私は息子を助けたいのです、息子の実体を作ったのはそのためです。」

「一階の生死の門に鉄扉の設置、通行を妨害。ゾンビ、マミー、ヴァンパイアの異形少女の作成。呪い空間における呪いの増幅、エリア拡大。これらすべてが息子のためにやったと言うのか?笑わせるな、おまえにとっての最重要事項は自己の欲求を満たすこと、息子の救済は副次的な理由でしかない。」

「ほう、言ってくれますなぁ」

「本当に息子のためを思っているなら、ここにある機械を息子のために捧げられるか?」

「なに」

ピエロが初めて感情的な声をあげ、表情を歪めた。

「今現在、私には特別な権限が与えられており、魂をもった実体を現世に送ることができる。だか、そのためにお前の大事にしている機械を捧げてもらう。さっきの口ぶりからすると、すべて息子のためにやったとお前は言った、息子のためなら機械なんて安いもんだろ」


バコッ!

「ぬ!貴様!」

 近くに置いてある、ピエロ作の機械に有刺鉄線バットが勢いよくヒットする。

バコッ!

バコッ!

「やめろ!やめろと言っている!」

 機械の形が徐々に変形し火花が飛ぶ。ピエロは今までにないくらい大声で叫び取り乱す。

「このやろー」

 鬼の形相をしたピエロがドスドスと大きな体を揺らしながら、ヘルガールに突進する。

「ふっ、もらった」

グシャ!

「ぬぼっ!」

近づいてきたピエロの顔面に有刺鉄線が食い込み、血しぶきがあがる。 大柄な体型のため動きも大振り、動きを読みやすい。

「・・・!?」

「んー、効かなーい」

 穴ぼこだらけのピエロの顔が凄まじい勢いで治っていく。

「ゾンビガールちゃんの能力を、私の体に付随させているのです。痛みもないし、傷は瞬時に治る。素晴らしい能力、しかもデメリットは特にない。」

「ぐっ・・・」

 呆気にとられているヘルガールの首にピエロの太い手が入り込み、締め付ける。

「〝ああっ・・ぐっ・・」

「ヘルガールとはいえ所詮は小娘。腕力では負けません。」

ヘルガールは抵抗を試みるが思ったよりピエロは力が強く、体は屈強なため、あまり意味を成さなかった。


「ガオオオ!」

ガブッ!

「おや?こいつは先ほどの」

「やった、ガオタロウだ」

 先ほどかおりがプリンターで作り出した怪物だ。ガオタロウの鋭い歯がピエロの

胴体に食い込む。

「残念ですねぇ、全く痛くありませんよぉ」

ピエロは片手でヘルガールの首を絞めながら、もう片方の手でガオタロウの目に勢いよく指をさしこんだ。

「ガアアアオオ!」

 片目を潰されたガオタロウは苦痛のあまり口を離し、その場に転げ痛みに転げまわる。


「ガオタロウ・・・くっ」

 素手ではとても勝ち目はない、かおりは何か武器になるものを探した。

「!」

 かおりはピエロが作ったであろう機械の一つに目をやり、ピエロにその機械を向ける。

見た目はバズーカのような形をしており地面に固定できるように三脚がついている。

「いけっ!」

 かおりはその機械についているスイッチらしきものを押した。

ピカッ! 


 その機械から目を覆いたくなるほどの強い光がピエロに向かい注がれる。そのあまりの眩しさにピエロは目を腕で隠し光を遮り、それによってヘルガールの首を絞めていた手を放してしまった。

「げほっ・・・げほっ」

 ピエロの剛腕から解放されたヘルガールは酷くせき込み、その場にうずくまる。

「それは私が開発した対ヴァンパイア用、太陽と同等の光を出せる機械ですね。階段に設置したものとは威力は比べ物にならないぐらい強い、だが私はヴァンパイアではない。」

「太陽と同等・・・」

その言葉を聞いたかおりは理科実験室においてある、虫眼鏡をその光にかざした。

「・・・!」

ピエロはすぐ、かおりのやろうとしていることに気づいた。かおりはピエロの服の黒い模様に向かって光を一点に集める。

「冗談じゃありませんよ」

「ガオオオ」

再び後ろから噛みつくガオタロウ。今度は動ごけないように上からのしかかる。

「離せバガモノ!」

ガオタロウは巨体故、かなりの重さ。上に乗られ抑えられれば簡単に動けない。


ボッ!


 光が集中した箇所から煙が出始める、思った以上にライトの威力が強くあっという間に火種が完成する。

「うおおお!」

「ガオッ」

ピエロは火事場の馬鹿力でガオタロウを投げ飛ばし、火種ができた腹部を慌てて手ではたき消火を試みる。だが、今彼の体は全身が燃えやすい可燃性物質。火を消そうとした手に火が燃え移り、そこから瞬く間に全身に火が回る。

「うああああ!あ、˝あづいいいい」

 ピエロはかおりに向かって数歩、歩を進めたところで地面に倒れこみ動かなくなった。

理科準備室の真ん中で火がボウボウと燃え上がり、彼の実体はもう跡形もなくなった。





                   四話 終息

ヘルガールにより、理科室及び理科準備室にあったピエロの機械、および作成された実体はすべて破壊された。これによりピエロが再び実体を取り戻すことはできなくなった。

理科室には彼専用の隠し通路が見つかった、呪いの空間を通らずに、どこにでも行けるようにするためだろう。

 クレイジーピエロは非常に用意周到な男だった。自分が作った実験体に返り討ちにあわないよう、様々な対機械を作り出していた。もちろん自分が仕掛けを解除できるように

人形も用意していた。それは理科室(ピエロの部屋)の中から見つかった。


「ヘルガールさん、大丈夫なの?」

「呪いに翻弄されては仕事にならないからな」

かおりはヘルガールに肩車をされながら、三階から二階への呪い空間を降りて行く。

どうやらヘルガールは呪いに耐性があるらしい。

「やつはどうして機械の詳細をペラペラ話たんだろうな?そうしなければ・・・」

「きっと自分が作ったものを、みんなに見てもらいたかった、すごいねって言われたかったんじゃないかな?その気持ちはわかる気がする。」

「なるほど、やつは一人孤独で誰も自慢できるやつがいなかった。誰からも自分の作品を評価してもらえなかった。その反動が来たんだな。」


 一階まで降りると、ジャック、マミ、ヴァンが二人を出迎えた。

「ヘルガール、まさかあなたが協力してくれるとは、感謝します」

ジャックが深々と頭を下げる。

「私じゃない、かおりが助けてくれた。この子のおかげだ」

「そうなんですか、かおりちゃん、ありがとう君のおかげで救われる」

「ありがとうかおりちゃん☆」

「サンキューかおり」

「///」

かおりは頭を俯き、頬を赤くした。


「さぁ、生死の境に彷徨えるもの達を誘導します。みなさん私についてきてください」

ヘルガールが一階玄関前に四人を誘導し、手にいれた人形を引きちぎり、それぞれに対応した容器に入れる。

 ガチャ ゴゴゴゴ

仕掛けが解除され、鉄扉が大きな音をたて開かれる。

扉の向こう側に見えたのは、色彩豊かなまるで芸術のような世界だった。

「やった、これでようやく救われる、ようやく死ねる」

「・・・え?死ねるって」

 ジャックの発言にかおりが反応する。

「ジャック待って、死ねるってどういうこと?救いがあるってあなた言ったじゃない」

「これが救いだよ、今まで生死が曖昧なままだった、この門が解放されたことで、確実に死ぬことができる。」

「この門を通ったら生き返るんじゃないの?」

「逆だよかおりちゃん、この門は生死の門。生から死へと向かうための門、通れば死ぬ・・・僕はもう疲れたよ、眠らして」

「待ってジャック」


「かおり!よせ」

かおりの行動にヘルガールが声をかける。

「今まで私はいろんな人を見てきたが、大概死にたい死にたいと言っているやつも、死の間際には死を受け入れられない。だがジャックは受け入れている。自分の運命、死をな。だから好きにさせてやってくれ。」

「・・・ジャック」

 かおりの目からポタポタと涙が零れる。感情を抑えることができない。

 そんなかおりをジャックは優しく抱きしめた。

「ありがとう僕のために泣いてくれて、とても嬉しいよ」

 他者が自分のために涙を流してくれる、ジャックにとって初めての経験だった。

 何か心の奥底にほんわかと暖かいものを感じた。

「じゃあねかおりちゃん、そしてみんな。僕は一足先に逝くよ。」

そう言ってジャックは扉の向こうに消えていった。


「さぁ、今度はおまえ達の番だ」

「!?私達の番・・・私が死ぬ・・・」

ヘルガールがかおりの腕をつかむ

「待って、まだ私は・・・」

「死にたくないか?勘違いするな、君はもう死んでいる。」

「パパに会いたい」

「・・・?パパ」

「死ぬ前に一度でいいから」

「・・・」

死ぬと自覚したかおりは、唯一の家族である父親に無性に会いたくなった。最後にたった一度でいい、お別れのあいさつをしたい。

「そんなことは無理・・・と言いたいところだが、可能だ」

「え、本当?」

「私には今、特別な権限が与えられている。それは現世にある××小学校へ魂を送ることだ。この学校は五十年も前に廃校になっていてな、現世では死者に数分間だけ会うことができる場所として神聖化されている。君が望めばそこに送れるがどうする?」

「お願いします」

「・・・そうか、今まで実体をもった魂を送った事例はないが、君には大きな恩がある、許可しよう。だか大事なことを言っておく、例え現世に送っても必ず父親に会える保障はない、それでもいいか?」

「うん」

「了解した・・・おっと忘れるとこだった。はいこれ」

「?」

ヘルガールはかおりに義眼を渡した、左目がないかおりに気を使ってのことだろう。

「さっき機械を壊す前にピエロの3Dプリンターで作った。どうだ?」

かおりは空洞になった左目に義眼を入れる。

「うん、うれしい。貰うよ、ありがとう(もう一個はガオタロウにあげよっと)」

「そりゃ良かった、じゃあ始めるぞ」

ヘルガールはかおりの両肩に優しく手を添える。

「この魂、現世へと送り届けます。」

「!」

かおりの体が光に包まれ、眩しさで周囲が見えなくなるのと同時に意識が途絶えた。





                  ヘルガールの日記

私は実体をもった魂を現世へと送り届けました。実体ごと現世へ魂を送るのは異例中の異例であるため。私はその子の行く先を監視する役目を与えられました。

通常であれば数分程度で現世の魂は消滅し、ここに戻ってくるのですが、かおりちゃんの場合は実体に魂がしっかりと固定されているため、長い間現世に留まることができました。とはいえ、3Dプリンターによって作られた体は本物の体ほど丈夫ではなく、限度は三ヶ月ほど(ピエロのメモを参考)らしい。

父親の場所がわからないため、父親に会うには、彼女の父親がこの場所のことを知り、訪れるのを待つしかありません。正直祈るしかないのです。


現世へ送って数日。さっそく問題がおきました。彼女の姿を見て驚いた男が彼女を暴行、ガオタロウが彼女を守るため、その男に噛みつき負傷させました。そのことがきっかけでゾンビがいるといううわさが現世で流行。遊び半分で彼女を探しにくる輩が出てきました。


遊び半分で訪れたもの達は、護身用なのか撃退するためなのか、金属バットや催涙スプレーなどを所持。そのことが彼女の恐怖心をより増幅させることになりました。向こうが遊びのつもりでも、こっちは真剣なのです。彼女は自分の身を守るため、襲ってきた輩が落とした護身用ナイフを持つようになりました。


かおりとガオタロウによる負傷者は日に日に増していき、ついにその場所は立ち入り禁止区域に指定されました。訪れるものは極端に減り、もはや父親に会うのは絶望的です。

彼女は孤独と苦痛にさらされ、表情が無くなり、訪れたものを自己防衛のために襲うマシーンと化しました・・・すでに自我が崩壊しているようでした。

私は何のために彼女を・・・


現世に送って二か月、立ち入り禁止区域のはずの場所に一人の男が現れました。名はアキラ、彼は今まで訪れた輩とは違い丸腰だった。武器を持たないのは、まるで彼女を信用しているようだった。そして信じられないことに彼は彼女の境遇を理解し慰め、そして父親と再会を果たさせた、奇跡だ。まさかこんなことがおきるなんて。

彼女の安心し屈託のない笑顔を久しぶりにみた。

これでこそ送ったかいがあったというものだ。


父親と再会し一ヶ月、いよいよ彼女の体は限界を迎えていた。この一ヶ月、彼女にとってかけがえのない時間になったことだろう。なぜなら不安や恐怖と言った負の感情をもう感じない、常に彼女は笑顔だった。

その反面、父親に対しては申し訳ない気持ちになった。娘が死んだ時の悲しみを再び思い起こさせるようで心が痛んだ。だが以前は最後の言葉もかけられず死んでいったのだ。そういう意味では少しは救われたと思う。


哲学的なことを言うが・・・救いってなんだろ




                   三ヶ月後

「おかえり、かおりちゃん」

「ただいま・・・ヘルガールさん」

本日、藤崎かおりの仮の肉体が滅び、再びこの生死の境へと彼女はやってきた。

久しぶりの再会に彼女は私におんぶをせがみ甘えてきた、かわいいやつだ。


私は彼女をおんぶし再びあの生死の門へと足を踏み入れた。

「あっ、かおりちゃんだ☆」

「おっす、おひさー」

「あっ、ヴァンちゃんにマミ」

そこには、まだ生死の門を潜れず立ち往生しているヴァンとマミの姿があった。ジャックのように死を受け入れ、躊躇なく通ることができる人間はごく少数だ。

「ねぇ、ヘルガールさん。死んだ後の世界には何があるの?やっぱり天国と地獄?」

「さぁね、私もこの先の世界には行ったことがない。ヘルガールって名前だけど、私の地獄というのはあくまで、私が所属している機関の名前であって、死後世界の地獄という意味ではない。あくまで生死の狭間の管轄だ。」


「天国と地獄なんて生きている人間の勝手な妄想だぜ、死んだ後にあるのは無。なんにもない真っ暗な世界だ」

「残念だなマミ、それも生きている人間の勝手な妄想だ。死んだ後が無なんて、死んだことないやつがなぜわかる?それも天国と地獄と同じレベルだよ」

「・・・そうだな、おっしゃるとおり」

「死後に何があるか、それは誰にもわからない。それはこの門を通ってからのお楽しみだ。」

「お楽しみっておめぇ・・・フハハハ、そんなポジティブな発想なかったな。」

かおりが門の前に足を進めヴァンとマミの手を握った。

「行こう、みんなで行けば怖くない」

「そうだな、いずれは誰しもが通る道、別に寂しかねぇ」

「かおりちゃんと一緒なら安心だよ☆」

 三人は目の前に広がる大きな門に目をやる。肩の力を抜き一度深呼吸をして、三人は手を繋いだまま、一緒に生死の門をくぐった。





END

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。



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