表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神聖ゾンビ  作者: ワンフラット
1/2

神聖ゾンビ

登場人物


アキラ・・・オカルト部に所属する大学二年生、正義感が強く何事にも前向き 


ハナビ・・・アキラと同じオカルト部に所属する大学二年、女性と見間違うほどの美 

      少年、それが高じてか本人も女装が趣味。さらにそれだけでなく・・・  


シンジ・・・廃校でアキラ達が出会う眼鏡をかけた二十台後半ぐらいの若い男。


エックス・・・廃校に現れるゾンビガールを仕留めることを目的としている元軍人       

       

ワイ・・・エックスのパートナーである金髪の美女。エックスとは恋人関係などではなく、単なる仕事仲間。




キーパーソン


クレイジースマイル・・・狂気的な笑顔の仮面を被る謎の連続殺人鬼。殺害方法に特にこだわりはない。


ゾンビガール・・・廃校に現れる謎の少女の名称。その存在は謎につつまれている。



                 一話 神聖なる場所

俺達が住むこの街にはある神聖な場所が存在する。それは街はずれにあるとある廃校舎。

廃校になったのは五十年も前、廃校後からその廃校には不可解な現象が起こった。死んだはずの人間が現れるいわゆる幽霊や、何もしていないのに物が動くポルターガイスト現象がおこるようになった。だが、だからと言って人に危害を加えるわけでもなんでもない。むしろ亡くなった大切な人に会いにこられる場所として、その場所は神聖化され、街の観光スポットにもなった。だが最近様子が変わってきたようだ。


「神聖なる廃校舎で再び被害、ゾンビガールの仕業か?」

ソファに寝そべりながら新聞記事を見ているのがアキラ、ボサボサの黒髪をしたいたって普通の男子大学生。オカルト研究部に所属している。

「アキラくん、今日の夕刊もって来たよ」

「おう、ありがと」

ドアから入ってきたのは同じオカルト部所属しているハナビだ。外見はどうみても女にしか見えないがれっきとした男、いわゆる男の娘だ。

「ねぇ、アキラくんゾンビガールについての新しい情報は」

「いや、進展なしだ」

 現在オカルト部では、廃校舎に現れるゾンビガールについて情報を集めている。このゾンビガールは二か月ほど前から廃校で目撃されている謎の少女、手にもったナイフで人に襲い掛かる恐ろしい存在。幸いまだ死人は出ていないが、その影響によりこの廃校は現在、立ち入り禁止である。

「あの神聖なる場所に・・・許せない。」

 正義感の強いアキラは怒りの炎に燃えていた。あの場所は本来、亡くなった人に数分間だけ幽霊という形で命を与える場所だ。死に際に会うことが出来ず、最後の言葉をかけられなかった人にとって、この数分間はかけがえのない救いだ。それを穢すなど・・・。

「アキラくん本当に今日の夜、廃校に行くの?」

「おうよ、ゾンビガールに正義の鉄槌を下してやる。」

「危険だよ・・・って言ってもアキラくんは行っちゃうよね。よし、じゃあ私も行く」

「え、おまえも?」

「うん、アキラくんだけじゃ不安だもん、私がついててあげないと。」

「そうか、一人より二人の方がいい。じゃあ夜に廃校近くの公園に集合な」

「うん☆」

 

 ・・・夜


「ふぅ、少し早く来ちまったかな?」

動きやすい服に着替え、アキラが公園で待っていると遠くから手を振る人影を発見した。

「アキラくーん」

「おうハナビか・・・ってえ!?」

ハナビは可愛らしい水玉模様のワンピース姿でアキラの前に現れた。しかも魔法少女が履いてそうな靴までしている。

「おいまたかよ・・・勘弁してくれよ」

「えへへ」

 最近過激になりだしたハナビの趣味、女装だ。友人から見た目を褒められたのが原因で始めたらしい。確かに見た目のクオリティはとても高いし、どうみても美少女だが日常的に女装なんてやるものじゃないだろう。

「どうアキラくん、かわいい?」

「うっ///」

中腰になりアキラの下から上目づかいで見つめるハナビに、不覚にも頬を赤くし顔を背けてしまった。

「ふふっ、うれしい」

「くそっ・・・」

アキラの反応に満足気のハナビに対し、男に一瞬でも心が揺らいでしまったことに屈辱を感じるアキラ。

「さぁ、いこう♪」

「お、おう」

ハナビに手を引かれながら、廃墟前にある立ち入り禁止と書かれた看板の近くまで迫る。

「おい君たち何をしているのかな?」

突然二人に声をかけてきたのは警備員のおじさんだった。

「ダメだよ君たち、ここから先は立ち入り禁止だよ。さぁ帰った帰った。」

「ちぇっ・・・」

運悪く巡回中の警備員に見つかり追い返されてしまった。二人は警備員がいなくなった隙に潜り込もうと思ったが、それは警備員もよんでおり、廃校に通じる入り口付近から一歩も動こうとしない。

「くそう、早くどっかいけよ」

「アキラくん、今日はもうやめよう。あのおじさん離れる気配ないし」

「・・・そうだな、また明日出直すか」

アキラとハナビは渋々その場を離れ、明日出直すことにしたが、どうにもこうにも苛立ちが収まらない。

「ちきしょー、なんでだよ運悪すぎだろ」

「仕方ないよ、こういう日もあるさ」

ハナビがアキラを慰めながら来た道を引き返し始めた時だった。

「っぎゃあああ!」

「「!!」」

 突如として響き渡る大きな男の悲鳴、先ほどの場所からだ。

「なんなんだ」

アキラ達が声のした方に向かうと先ほどの警備員のおじさんが胸から血を流して倒れていた、鋭く尖った凶器で刺されたようだ、出血がひどく意識はもうない。

「大丈夫ですか?しっかりしてください」

 ハナビが必死に出血箇所を抑える。

「ひどい、誰がこんな・・・」

「とにかく俺は警察に連絡するぞ」

アキラは急いでスマホで警察に連絡をとる。

「はいそうです、廃校前で警備員のおじさんが刺されて。すぐに来てください。」

連絡を終えるとアキラは息を吐き一段落した。

「アキラくん、救急車は?」

「必要ない」

「・・・」

ハナビはアキラの言葉の意味をすぐに理解した。警備員の脈はもうなかった。


「うぅ・・・気持ち悪い」

「大丈夫?アキラくん」

目の前の残酷な光景にアキラは口元を手で押さえながら、その場を離れた。そんなアキラを一人にさせまいとアキラの後をハナビは追いかけた。

「少しこの場所離れよう、落ち着ける場所に」

「すまないハナビ」

アキラの背中をさすりながら元来た道を引き返し始めた。


「・・・・・・あれ?おかしいな」

元来た道を戻っているはずなのに、いつまで経っても同じ景色が続く。ここは一本道だ、迷うなんてことはありえない。

「そんな、さっきから同じ道を・・・なんで?」

 いつまで歩けど、周囲の景色は一切変わらない、この場所を抜けたはずなのにまた同じ道が続く。

「無限ループしてる、ここからは抜け出せない」

「うそ・・・」

「おそらく、あの廃校の怪奇現象だろ。」

廃校には度々、科学では解明できないような怪奇現象が起こることが有名であった。だがそれはあくまで脅かし程度の軽いもの。気にしなければどうということはない。

「アキラくん、いつか出られるよね?」

「わからない、一つわかることは俺たちをここから出さないようにしているというのは確かだろう。」

「そんな、どうして」

「たぶん、廃校に向かえっていうメッセージなんだろうな。だから俺たちをこの無限ループに引き込んだ。理由はわからんがな、とにかく廃校へ向かおう。」

 行く道がなくなってしまった二人に残された選択は一つしかない。唯一進める道である廃校へと向かうことのみ。


 二人は廃校前に足を踏み入れた。何十年と経っているため外装はボロボロの三階の建物、おそらく内側も同じだろう。

「テレビや新聞なんかでは見てたけど、生で見るのは初めてだな。思ったより大きいね」

外灯はないため辺りは真っ暗の暗闇。アキラ達は持参してきた懐中電灯をつける。

「ん?あそこに誰かいるぞ」

廃校の入り口に眼鏡をかけた男性の姿が見えた、一体なぜ立ち入り禁止であるこの場所に。

「おや?人が、珍しいね」

 声を懸けようとしたところ、向こうからこちらに声を懸けにきてくれた。

「あなたは?」

「僕?僕はシンジっていいます。お二人は恋人かなにかかな?」

「まぁ・・・なんでもいいよ」

ハナビを女性だと思ったシンジは恋人かといじってきた。違うと否定しようとしたアキラだが、話がややこしくなりそうなので軽く流した。

「俺はアキラ、こちらはハナビです。突然ですがどうしてこの場所に?」

「ここに来たのは偶然なんだ、急に道が無限ループして。ここにしか来れないようになってしまった。」

「俺たちもそうなんです。急に出られなくなってしまって。」

 自分と同じ境遇の人間がいたことにアキラは安堵の表情を浮かべる。問題が解決したわけではないが、人が増えることは心強い。

「とにかく俺たちはこの廃校の中を調べます。この廃校が俺たちを閉じ込めたのは何か理由があるはず、それも俺たちを貶めるためじゃない。なにか解決してほしいことがあるからだ。」

「俺もそう思う、なにか理由があるはずだ」

そう言うと、シンジはポケットから一枚の新聞を取り出した。

「なんですかこれ?」

「あっ、これ知ってる。連続殺人鬼クレイジースマイル」

 その新聞記事にハナビが食いついた。記事は近年新聞を騒がしている連続殺人鬼クレイイジースマイル、狂気的笑顔の不気味な仮面をつけ人々を襲い掛かる。殺害方法や被害者など特に共通するものはなく、正体不明な謎の存在。

「この殺人鬼がどうしたのですか?」

不思議そうにハナビが質問する。

「あくまで可能性の話なんだが、もしかしたらこの廃校に潜んでいるのではないかと思ってね。」

「え!!この廃校に殺人鬼が」

「だからあくまで可能性の話だ。よくある話さ、怪奇現象により人に被害がでると噂をたて人を遠ざける。そうすることにより、この場所は殺人鬼の安心できる潜伏場所となりうる。」

「なるほど、よくある手口ですね。」

腕を組みながら、アキラはうなづいた。

「僕はゾンビガールなんてのも信じちゃいない、そんなものは殺人鬼が作り出した架空の怪物、俺たちをこの廃校から遠ざけるためのな・・・って推理なんだがどう?」

「おもしろいと思いますよ。」

「ありがとう、だがもし本当に殺人鬼の仕業だとすれば厄介だ、命の危険がある。幽霊なんかよりも生きている人間の方がよっぽど恐ろしい。」

「確かに危険ですね、でも可能性は低いと思いますよ、」

 全国的に指名手配されているこの殺人鬼がこんな田舎の廃校に身を隠している可能性はかなり低い、心配する必要はほぼないだろう。

「そうだな、とにかく僕はこの廃校を調査する。良ければ君達もどうだい?」

「はい、一緒に行きましょう。」

 こうして合計三人で廃校の中に足を踏み入れた。中の構造はというと想像通りかなり痛んでおり、所々壁板がはがれ、色も変色していた。元小学校ということもあってか建物の構造自体はわかりやすい。

「あっ!アキラくんあれ!」

「ん?」

建物に入ったとたんハナビは宙を指さした。そこには人魂のような青白い炎が多数浮かんでいた。

「これがこの廃校者の怪奇現象か」

「・・・あれ?あんまりびっくりしないの?」

「こんなこと程度で驚くか、心霊番組とかではよくポルターガイスト現象とかが起こるとタレントやアイドルがバカみたいに騒ぐが、実にバカらしい。物がちょっと動いたからなんだというんだ、別に俺たちに危害があるわけでもないのに。」

「まぁ、そうだけどさ」

「それに、ここでは常識では考えられないことが普通に起こり得える、こんなこと程度で腰を抜かしていては先が思いやられるな」

「うん・・・でも怖いよぉ」

ハナビはアキラの腕に抱き付き顔を近づけた。

「おい!やめろ気持ち悪い」

アキラはハナビを押しのけ一定の距離をおいた。そんな様子をシンジはクスクスと笑みを浮かべながら見ていた。

「こらこらアキラくん、女の子のアプローチは素直に受けてあげないと可哀想だよ」

「いやいや違いますよ、こいつはおと・・・」

バン!!

「ん!?」

 突然響き渡る衝撃音にアキラの声が遮られ、三人に緊張が走った。

「・・・上の階からだ」

 いきなり響いた鈍く大きな音に恐怖の感情を抱いたのと同時に、何があるのだろうという怖いもの見たさの感情の間で気持ちが揺れ動く。

「行ってみよう」

 先陣をきってアキラが動き出す。怖いもの見たさの気持ちが勝ったようだ。

 音のする方に向かうとそこは二階の美術室からだった。

「ここだ」

 ドアを慎重にゆっくりと開ける。

・・・

・・・

誰もいない、だが

「なんだこりゃ」

そこには直径2メートルはあろうかという球体に角と口と爪をつけた怪物の作品が展示してあった。怪物といっても小学生が考え付くような単純な怪物だ、ここは元小学校なのでおかしくはないが、ここまで大きな作品は珍しい。

「この作品、どこかで見たような・・・」

シンジが作品を眺め覗き込んだ時だった。

グルルルル!

怪物作品が急に唸り声を上げる。

「グルル、おなかすいた・・・」

「え?」

「ゴオオオオオオオオオ!」



「逃げろ、二人とも逃げろ!」

シンジが大声をあげたことで反射的に美術室を飛びだすアキラとハナビ。

「ハナビ!ドアを閉めろ」

「わかった」

ガブッ!

「うそだろ」

閉じられた扉を怪物はいとも簡単に噛み砕き二人を追いかける。動くものに反応するのか近くにいたシンジではなく二人を追いかける

「ガオオオオ!」


 後ろから獣のうねり声のような声が響いたがアキラ達は振り向くことなく、夢中で走り続ける。


「・・・はぁ・・はぁ」

 どれだけ走り続けただろうか、気付いた時には建物最上階の三階、三年一組の教室前にいた。「なんであんなやつが、この神聖な場所に」

 ゾンビガール以外に人に危害を加える怪物が存在するとは思いもしなかった。あんなやつは今まで調べた資料にも一切のっていないイレギュラーだ。

「お兄ちゃんたち、だぁれ?」

「!!」

 目の前の教室の中から少女のような声が聞こえる、この声はもしや・・・

「・・・っ」

アキラは初めて目にした、年齢は八歳ぐらいの金髪の少女、眼球は白く目から下に血が流れたような赤黒い痕があり、手には刃物を持っている。間違いない、こいつがゾンビガールだ。

「出やがったなゾンビガール!」

 アキラは大きな声を挙げ立ち上がる、この神聖なる場所を穢す存在にようやく会うことができた。

「・・・お兄ちゃん達も、私をいじめるのね」

 そういうとゾンビガールは徐々に距離を詰めてきた。


ドン!


「うっ!!」

周囲に銃声が響く、初めて生で聞く銃声の音にアキラは耳を塞ぎ反射的にしゃがみこんだ。よくみると銃弾はゾンビガールの頭に命中し、彼女は力なくその場に倒れこむ。

「やった、ついにやったぞ」

アキラ達の近くに男の声がした、声のした方に目をやると、手に銃をもった筋肉質な男と金髪の美女がいた。

「目標達成やったわねエックス」

「おうワイ、あとはこいつを持ち帰るだけだ。」

この二人はエックスとワイというらしい、おそらく本名ではない。

「あら、こんなところに一般人がいるわよエックス」

 ワイがアキラとハナビの存在に気づき近づいてきた。

「あなたたちは一体」

「俺たちか?俺はエックス、んでこっちがワイだ。一般人は引っ込んでろ、こうゆうのはプロにまかせな」

 話を聞いたところ、この二人は元軍人の傭兵らしい、ゾンビガールを仕留めてほしいという依頼を受け、ここにやってきたそうだ。

「しかしあまりに呆気ねぇな、銃一発で終わりか」

エックスが倒れているゾンビガールの元にむかい、しゃがみ込んで様子をうかがうが、動く素振りはまるでない。

「まぁ、簡単に終わるに越したことはないな、じゃあワイ、こいつを連れて」

「エックス後ろ!!」

「!!」

エックスがガールに背を向けた時だった、ガールのもっていた刃物がエックスのふくらはぎに突き刺さる。

「ヴぁああ!」

 いきなりの激痛に声にもならない声をあげ、エックスはその場にひざまづいた。

「あうっ・・・しまった」

痛みのあまりエックスが落としてしまった銃をガールが拾い上げ、

エックスに銃口を向ける。

「シネ」

「バカやめ・・・」

バン!


 一瞬の出来事だった、銃弾はエックスの胸に穴を開けた。生きた人間が一瞬にして只の肉の塊になるのを三人は茫然と立ち尽くしながら見るしかできなかった。

「エックス!」

バン!

 再び響く銃声、幸いワイには当たらなかったが、背後にある窓ガラスに弾が命中しガラスの破片があたりに飛び散る。

「きゃあ!」

「逃げるぞ!」

アキラはハナビの手を引きこの場を急いで立ち去った、ワイは二人とは反対の方向に逃げて行った。


「はぁ・・・はぁ」

 再び廃校内を走り回ることになってしまい、息がすぐに切れてしまった。

「アキラくん、教室に隠れようよ、廊下じゃすぐに見つかる。」

「そうだな」

 ハナビの言葉に誘われて二階にある二年二組の教室に入りこんだ。


「・・・え」

教室に入ったとたんアキラは言葉を失った、二年二組の教室は壁から小物に至るまで新品同様の輝きをしており、廃校の中で唯一電気がついていた。さらに窓の外も昼間のように明るかった。この教室を外から見た時は明かりがついているようには見えず。他の教室と同じように真っ暗に見えていたのだが・・・だが、なにかこの教室には違和感を覚える。

「なにこれ古」

 物は新品なのだが、今では使われていないような筆箱やノート、さらに机や時計までもが一昔前の古い代物だった。現在では販売すらされていないだろう。

「ここすごいね、なんか昔にタイムスリップしたみたいだね」

ハナビの一言にアキラは気付いた。そうだこの光景は、廃校になる前のこの学校の授業写真に写された景色と全く同じだ。この廃校について資料を集めていたアキラはそのことに気がついた。

「この空間だけ時間が止まってる、信じられないことだが」

「え、本当に?信じられない」

「ここでは何が起こっても不思議じゃないが、それにしてもこれは驚きだ。」 

目の前の驚きの光景に目を疑いながら、二年二組を見回る。

「あ、これ丁度いいかも?」

「なにが丁度いいんだ?」

ハナビが見つけたのは火の点いていないたいまつだ、今じゃ滅多に使うことはない。

「それどうするつもりだ?」

「実は逃げてる途中で懐中電灯落としちゃって、代わりになるかなと思って」

「マジか、でも火の元がないだろ?」

「えへへ、そうだよね・・・あっそうだ」

何か思い出したように、教室の外に飛び出そうとするハナビ。

「待て、まだ外にはガールととげ丸がいる、危険だ」

「ここにいれば安全って保障もないよ」

「まぁそうだけどさ」

 二年二組は他の場所とは違い憩いの場所のようで落ち着く。だが、だからといって安全だという確証は持てない。

「じゃあ俺もいく、一人より二人だ」

「ありがとうアキラくん・・・ちなみにとげ丸って何?」

「美術室にいたでかくて丸っこい怪物だよ、なんか名前つけないと呼びづらいだろ」

「ああ、あいつね」


ハナビに導かれるままたどり着いたのは一階の廃校入口。ここには入ってきた時見た人魂がまだ存在していた。

「おいおいまさか・・・」

「えいっ」

ボッ

たいまつの先端を人魂に近づけると狙い通り火をつけることに成功した。

「すげぇな、人魂で火つけられるんだ」

「えへへ☆」

アキラに褒められたのが嬉しかったのか、ハナビは屈託のない笑顔をアキラに見せる。


「さて明かり問題は解説したが問題は山積みだぞ。まずあのゾンビガールはどうやったら倒せるのか」

「銃で撃たれても生きてたもんね、さすがゾンビだよ。」

実体が存在しない幽霊とは違い、ゾンビには実体が存在する。幽霊に物理攻撃は効かないが逆に幽霊からの攻撃も効かない。ゾンビには物理攻撃は効くが驚異的な再生力とタフさを併せ持つ。

「やれるだけやってみるしかないさ」

 そう言いながらアキラは金属バットを構えた。

「いつの間にそんなものを?」

「さっきの教室にあったのさ、丸腰より全然ましだろ」

そう言葉を発した直後だった。


ガッシャーーーン!

「ぎゃあああああ!」


「この声はワイさん」

 アキラはすぐにこの声の主に気づいた、上の階からだ

「行くぞハナビ」

「ま、待ってよアキラくん」

 これ以上死人を出したくない、なんとしても助ける。そういったアキラの心が彼を突き動かす、今の彼には恐怖心はなかった。


くちゃ・・・くちゃ

 二階に着くと、気持ち悪い音が聞こえてきた、なにかを咀嚼する音だ。

くちゃ・・。くちゃ

「おいしいな、おいしいな」

「うっ・・・」

 二階には、あの美術室の怪物トゲ丸がいた。やつの口の周りは真っ赤に染め上がり口をもぐもぐさせながらなにかを食べている。とげ丸の前に落ちている千切れた頭部を見てアキラはすべてを悟った。


「ちくしょう・・・ちくしょうー」

アキラは感情任せに金属バットをトゲ丸に振りかざす。

がぶっ!

 だが振りかざしたバットは簡単に噛み砕かれてしまった。もうこの怪物にうつ手はない。

「くそぅ!」

 悔しいがここは引くしかない。

「アキラくん早く!」

ハナビが懸命にアキラを呼ぶ。

「一度ここ出よう、まだ外の方が逃げ道も隠れる場所も多い」

「わかった」

急いで一階に降り出口にむかう。


「コ・ロ・シ・テ・ヤ・ル」

「ひぃっ」

逃げようとした二人だが、一階の玄関前にはゾンビガールが立っていた。これでは外に出られない。

「お兄ちゃん達かおり殺しにきた、私は死ぬのはイヤ、だから私が殺される前にお兄ちゃん達を殺します。」

 ゾンビガールは先ほどエックスを刺した包丁をアキラに向け、勢いよく走ってきた。

「うわああ!」

「いたっ!」

アキラは迫りくる恐怖から大きな声をあげ、反射的に迫りくるガールを蹴り飛ばした。アキラの方が身長が高いためリーチがある。その為包丁は致命傷となりうる胴体には当たらなかったが足に深い傷を残してしまった。

「次こそ・・とどめを」

「これでもくらえ」

 隣にいたハナビが手に持っていたたいまつをガールに投げつける。

「うわああ!やめて熱い」

 着用している服が乾燥しているためか火は瞬く間に全身に広がっていく。

「あああぁぁぁ・・・」

 徐々にガールの声が弱弱しくなっていき、ついには燃えながらその場に倒れこんだ。

燃えてしまってはもう立ち上がることもできない、傷も治せない。あまりに呆気ない最後だった。


「アキラくんじっとしててね?」

「いてててて」

 ハナビは必死にアキラの足からの出血を抑え応急措置を行う。

「これで良し、しばらくじっとして・・・」

「・・・きたか」

ハナビが途中で言葉につまる、その原因はすぐにわかった。先ほどのトゲ丸がアキラの背後に迫っていたからだ。

「ハナビ、俺を置いてにげろ。せめておまえだけでも」

「・・・嫌だ、そんなの嫌だよ」

「二人とも死ぬことはない」

「死ぬ時は一緒だよ、だって私は・・・アキラくんを愛してるんだもん」

「・・・・・・は?おまえ男だろ」

 予想外の告白に困惑しながらも、急いで外へと出るようアキラは促した。


「ううううう」

「「!?」」

 トゲ丸に襲われると思っていた彼らだが、やつは空気が抜けていく風船のようにしぼみ、そして消滅してしまった。

「なんで」

「ゾンビガールが死んだからだろう。トゲ丸はガールの力によって動いていた。だからガールの死によりこいつは道連れになる。」

「そうだったの?」

「っていう想像さ、あくまで想像。自分を納得させるために思い付いた言い訳さ。」

「なんだ、そうだったの」

 理由は不明だがなにわともあれ、これでガールとトゲ丸の脅威から解放された。これでここも神聖な場所として蘇ることだろう。


「アキラくん、ハナビちゃん」

「あっ、シンジさんだ」

美術室で別れてから会っていなかったシンジと、ここでようやく合流することができた。

「見てくださいシンジさん、ゾンビガールを倒しました。やつは火に弱いみたいで、燃やしてぶち殺してやりましたよ。」

「もう何言ってるのさ、炎をぶつけて倒したのは私でしょ」

「ああそうだったわりぃ、さぁシンジさんも脱出しましょう。もうここの問題は解決した、無限ループともおさらばだ」

 アキラはハナビに肩を貸されながら玄関扉から外に出た。外はまだ暗く夜の闇が辺りを包んでいた。

「アキラくん、ようやく終わったね」

「ああ、ようやくだ。ケガしちまったけど、これっぽっちのこと神聖なる場所を守れたことを思えば安いもんだ。」


そう、やっと終ったんだ、この命がけのバトルが。



「・・・・・・おわり、終わりって何?終わらせねぇよ!」

「えっ?」

アキラが振り向いたその瞬間、彼の顔に鮮血が飛び散った。

「うわっ!」

その血はハナビのものだった。頭を斧でかち割られ大量の血しぶきが辺り一面に飛び散る。

「シンジさん!」

後ろには血のついた斧を持つシンジの姿があった。彼の目に生気はなく、まるで死んだ人間のような目をしていた。

「な・・ぜ」

「終わらせない、みんな死ぬまで。この物語は終わらない。」

シンジが斧を振りかぶる。

「うわっやめろ!」 

アキラは足のケガも構わず全速力でその場から逃げ出した。殺されるという恐怖心が強いためか足の痛みをほとんど感じなかった。

「はぁはぁはぁ」

 激しい息づかいをしながら街へと走る、街へ出なければ、早く街へでなければ。

だが、そんな彼に叩きつけられたのはあまりに非常な現実だった。

「なんで、いつまで経っても街に着かないんだよ!!」

 そう、帰り道の無限ループはまだ残っていたのだ、彼にはもう何も残されていない。

「くそうくそう!なんでこんなことに。誰か・・・助けてくれよ・・・」

 そう思ったとき、彼の脳裏に廃校の二年二組の教室を思い出した。廃校の中で唯一心を落ち着かせることができる場所。

「助けて・・・助けて」

 わらをもすがる思いで廃校舎二年二組の教室にやってきた。


「良かった」

二年二組の教室は変わっていなかったことに安堵の表情を浮かべる。二年二組は相変わらず昼のように明るく、平和だった日常を思い出させてくれる。

「あれなんだこれ」

 なにやら前にある教卓あたりが歪んで見える、疲れからなのかと思ったが実際に近づいてみると空間が歪んだようにねじ曲がっているのをはっきりと肉眼で確認できた。

「なんだよこれ?」

 アキラが歪みに触れたとたん、辺りに光が広がりアキラをのみこんでいった。



                    二話 真実

「アキラくん、アキラくん。目を覚ましてよ」

「ううっ」

 体を揺さぶられアキラは誰かに起こされた。

「この声は・・・ハナビ!ハナビか」

「そうだよ」

 どういうことだ、ハナビはさっき俺の目の前で死んだはず、なぜ生きている。

「おい、一体どうなってるんだ?」

「もう、何言ってるの?警備員のおじさんが刺されて、帰ろうとしたら道がループして帰れなくなっちゃったんじゃないか」

「シンジさんは?」

「シンジって誰?」

「!?」

 ハナビにはシンジの記憶がない、しかもそれだけでなく、アキラの足のケガもきれいさっぱりなくなっていた。どうなってる?

「とにかく廃校に向かうぞハナビ」

「うん、アキラくん、いつか出られるよね?」

「え?あぁたぶんな」

 そう言いながら唯一向かうことができる場所である廃校に向かう。

「テレビや新聞なんかでは見てたけど、生で見るのは初めてだな。思ったより大きいね」

 ハナビが発した言葉にデジャブを感じるアキラ。廃校の玄関にはやっぱりというか案の定というか、眼鏡の男が立っていた。

「おや?人が、珍しいね」

「シンジ!」

「え?なぜ僕の名前を」

「ハナビ行くぞ」


ハナビの手を引き半ば強引に廃校内へと足を踏み入れた。ここに来てようやく自分の中に渦巻いていた違和感の正体に気づいた。

「俺がここに訪れる前に時間が戻っている。」

あの二年二組は時に関係する現象がおこっていた、つまりはそういうことだ。だとすれば先ほどの悪夢の展開をなんとしても回避しなければならない。

「シンジ、極悪非道な殺人鬼め」

 優しそうな雰囲気をかもし出していたシンジだが、先ほどの人を殺した時の目は本物だ。

「ねぇアキラくん、さっきの人シンジって言う人どうして知っていたの?」

 状況がのみ込めないハナビ、当然だ。

「ハナビ、とにかく俺のいう通りに行動してくれ、まずは二年二組の教室に向かう。」

 アキラに再びチャンスを与えてくれた二年二組の教室。そこに向かう理由は、あの教室にある、あるものを取りに行くためだ。


「ここすごいね、なんか昔にタイムスリップしたみたいだね」

「ふっ、またそのセリフか」

「またって?」

「いやなんでもない」

 アキラからするとここはもう三回目、特に驚くことはなく落ちているたいまつをひろう。

「やっぱりあったか」

 一周目のハナビがこの教室で見つけたたいまつだ。後は火を点ければゾンビガールに対抗できる。あとはシンジにどう対抗するか・・・。

「ハナビ、あのシンジって男は危険だ。決して近づくなよ」

「一体だれなの?あの人」

「未来で会った、そしてお前は殺され、俺は命からがら逃げた。」

「言ってる意味わかんないよ、未来であった?未来形なの?過去形なの?」

「・・・」

 信じてもらえるかわからないが、ハナビには打ち明けることにした。時間が戻り自分は未来からきたこと、そして最後にシンジに殺されかけたことを。

「・・・それを信じろっていうの?」

「信じなくてもいい、だが事実を俺は伝えたかった。だから別に信じなくても・・・」

「ううん、信じるよ。私は信じるよ。」

「え」

「だって私はアキラくんのこと・・・」

「それ以上言わなくていい。信じてくれるならそれでいい」

 信じてくれたことは良かったが、信じた要因はアキラに惚れているのが原因らしい。

未来で告白されたアキラはそのことをわかっていた。

「ハナビ、俺はおまえに会った時から女装趣味の変なやつだと思っていた。だが、趣味は人それぞれだし、俺はどうこう言うつもりはない。むしろ俺のことを気にかけてくれて、俺はうれしく思う。おまえは俺の大事な親友であることに変わりはない、一生な・・・恋人にはなれないがそこは勘弁してくれ。」

「・・・うん」

 ハナビは俯きながら残念そうに答えた。ショックを受けているのだろうか?だが、今は落ち込んでいる暇はない。先に進まなければ命が危ない。

「いくぞ!一階の玄関前だ、そこでたいまつに火をつけゾンビガールに備える。」

一階の玄関前に戻り人魂でたいまつに火をつけた、運よくゾンビガールには会うことはなかったが、そこで別の人物に二人は遭遇した。

「おうおう、ダメだな一般人がこんなところにいては」

「そうよ、ボウヤ達は早くお帰り」

 ガールとトゲ丸に殺されたエックスとワイだ、時間が巻き戻っているため、この二人も当然生きている。

「エックスとワイだな」

「ああっ?なんで俺たちの名前を」

「説明すると長くなるので悪いですが割愛させてもらいます。だけどひとつだけお二人に言っておきたいことがある。」

「なんだよ?」

「ゾンビガールに銃は効かない弱点は炎。以上です、それでは急いでますので」

「おい!」

 相手からすればアキラとハナビは初対面、また一から説明しなければならないし、信じてもらえるかどうかわからない。ここで時間を喰うわけにはいかない。まずは一番の障害であるゾンビガールを倒しにいかなければ。

「グルル、おなかすいた・・・」

「!」

丁度階段を登り二階に差しかかった時、聞き覚えのあるうめき声のような声を耳にした。

「なにあれ・・・」

「そういや、おまえがいたなトゲ丸」

二階の美術室の怪物トゲ丸、一周目の時は自然に消滅したが、今回はどうだ?

「グルル!」

「都合よく消滅するだなんて虫のいいことは起きないか・・・」

 人間はどうも自分の都合のいいことは、例えどんなに確立が低くても起こり得ると思ってしまうらしい。全く愚かなものだ。

「もしかしたらこいつも」

 アキラは手に持っていたたいまつをトゲ丸に向ける

「あついーやめろー」

「やはり、こいつも火が弱点だ。よし今だ」

 ある程度トゲ丸と距離を詰め、常時開いている口の中にたいまつを投げ入れる。

「うヴぁああああああ」

 トゲ丸の全身に炎が広がり、二メートルもある体はしぼみ、消し炭となった。

「よっしゃー」

脅威であるトゲ丸も弱点さえわかればたいしたことはない。


「・・・ねぇ、トゲ丸の焼け跡になにか残ってるよ。」

「え」

 ハナビが焼け跡に指を指す、よく見るとトゲ丸の焼け跡から絵日記と新聞が落ちていた。

「これは・・・」

おもむろに絵日記を手にとった。


七がつ 二十五にち フジサキ かおり 一ねん一くみ24ばん


 きょうはパパと二人で、ピクニックにいきました。

おてんきもよく、パパがつくったおべんとうがおいしかったです。


 絵日記は藤崎かおりという名の少女の物。絵には少女と父親と思われる二人の

絵が描かれていた。

「この金髪の少女、もしかして」


七がつ 三十にち フジサキ かおり 一ねん一くみ24ばん


 きょうわたしは、かいぶつのえをかきました。パパはこわいって

いってたけど、かいぶつだからわるいというのはまちがっています

このかいぶつはわたしをまもってくれる、

いいかいぶつなのです。なまえはガオタロウです。


なぜかこのガオタロウのページだけ、絵日記の絵の部分が抜けている。


八がつ 三にち フジサキ かおり 一ねん一くみ24ばん

 きょうはパパといっしょに、かいものやえいがをみにいきました。

 おしごとでいそがしいのに、それでもわたしといっしょにあそんでくれる

 パパがわたしはだいすきです。


 途中からやや飛ばしぎみで見ていたアキラだが、日記は一日も欠かさず描かれていた。かなり几帳面な性格らしい。だが八月十二日のページを開いた途端にアキラに戦慄がはしった。

「八月十二日・・・血まみれだ」

「え!うそ」

八月十二日のページだけ血で汚れ、何も書かれていなかった。さらにその日以降の絵日記は全く書かれていなかった。ここまで書き続ける几帳面な子だ、三日坊主ではない。

「アキラくん、この新聞見て」

ハナビは絵日記と一緒に落ちていた新聞を手にとりアキラに見せた。


 居眠り運転トラックが暴走 女児死亡


八月十二日正午頃、居眠り運転のトラックが歩道に乗り上げ、これに幼い少女が巻き込まれました。彼女は病院に運ばれましたがまもなく死亡しました。死亡したのは藤崎かおりちゃん(7)と判明しました。調べによるとかおりちゃんは小学校の帰り道で事故にあったということです。



トゲ丸の内部から出てきたこれらのもの、これは・・・

「アキラくんこれも見て、絵日記に挟まってた。」

 絵日記に挟まっていたのは、幼い女の子の赤ん坊と男性と女性の三人の写真だ。おそらくかおりちゃんとその両親だろう。母親の方は目が青くきれいな金髪で長髪、おそらく外国人だ、かおりちゃんの金髪は母親からのものだろう。そして父親の方は・・・

「!!この人」

アキラは見覚えがあった、この眼鏡をかけた男性のことを。



場所 三階


「よっしゃーやったぜ」

「ついにやったわねエックス」

三階ではすでにゾンビガールとの決着がついていた。アキラのアドバイスから武器を火炎放射器に変更したことが功を奏しのだ。ガールは全身黒こげでもう動かない。

「一般人のいうことも、たまには当てになるも・・・」

エックスは最後まで言葉を発することができなかった。なぜなら彼の後頭部に根深く斧が突き刺さったからだ。背後からの不意打ちのため、戦闘経験の多いエックスといえど、どうすることもできなかった。

「エックス!」

「よくも・・・よくもかおりを!!」

「きゃあ!」

 エックスを殺した斧が今度はワイを襲う。

「ちょっ、やめなさい」

戦闘慣れしているエックスとは違い、頭脳派のワイは突然の襲撃に戸惑うばかりだ。もちろんそんな隙を彼が見逃すはずもなかった。

「きゃあああ!」

斧は彼女の胴体を斜めに切り裂いた、出血がひどく彼女はしばらくして動かなくなった。


「ごめんな、かおり守ってあげられなくて」

 すでに焼け焦げた娘の頭をなでるが、脆くなっているため触っただけで

簡単に崩れてしまった。そんな様子を見て彼は涙がとまらなくなった。

「一人で寂しかったんだな、ごめんよもっと一緒にいてあげれば・・・でも大丈夫、おまえを一人にはさせないから」

 彼は自分自身の喉に刃をむけた。


「シンジさん!」

「きゃあ」

アキラが三階の教室についた時にはすでにシンジは自身の喉を切り裂いて絶命していた。

いきなり目の前に4体もの死体を見たハナビは悲鳴をあげた。

「シンジさん、なんて早まったことを・・・うっ」


(見てくださいシンジさん、ゾンビガールを倒しました。やつは火に弱いみたいで、燃やしてぶち殺してやりましたよ)


 突然、アキラの頭の中で過去の映像がフラッシュバックした。それは一周目にゾンビガールを倒したときの記憶だ。

「・・・あんなこと言って、ごめんなさい」

アキラはその場で正座をして両手を合わせた、それにつられるようにしてハナビも一緒に手を合わせた。


「・・・・・・行くぞ!」

「えっ、行くってどこに?ちょっと待ってよ」

しばらく手を合わせたあと、アキラは目を大きく見開きある場所へと向かう。

その場所はこの廃校内唯一の憩いの場二年二組

「もう一度時を戻す、せめてあの親子には生きて会ってもらいたい。」

一周目の時と同じく時空が歪んでいる教卓のあたりに足を踏み入れる。だがここでアキラはあることに気づく

「歪んでいる範囲が狭くなっている・・・そうか、何度も時を戻すなんておこがましいよな、たぶんこれが最後のチャンスだ。」

 アキラはハナビと共に白くて大きな光に包まれた。


                 最終話 最後の周回


「・・・うぅ」

気がつくと、以前タイムスリップした場所と同じところに倒れていた。

「すごい、一瞬でテレポートした、もしかして時間も」

「あぁもちろんだハナビ、俺たちが廃校に入る前に戻った。」

 タイムスリップを初めて経験するハナビはこの光景に目を丸くしていた、だが驚いている暇はない。


「さぁ行こう」

急いで廃校まで歩を進めるアキラ達。廃校の玄関前には、これまで通りシンジが立っていた。

「おや?人が、珍しいね・・・君達はアキラくんとハナビちゃん」

「わかるんですか、俺たちのこと」

 アキラは驚いた、タイムスリップしているので、この時点ではシンジと初対面のはず、自分たちのことを覚えているはずがない。

「あぁごめん。君達とは初めて会っているのに、なんか初めてじゃない気がしてね。なんか不思議な感覚だな。」

「初めてじゃありませんよ、名前も合っていますし」

「ほんとに、頭に自然に浮かんだ名前を言っただけなのに」

どうやら、うろおぼえ程度の記憶らしい、だが、一部の記憶を引き継いでいるのは、これまでにない現象だ。

「突然ですが、なぜこんなところに?」

「ここに来たのは偶然なんだ、急に道が無限ループして。ここにしか来れないようになってしまった。」

「本当に偶然ですか?娘さんに会いにきたのではないのですか?」

「なぜそのことを」

「あなたが俺たちのことを知っていたように、俺たちもあなたのことを知っているのですよ。」

「・・・フハハこりゃまいったな」

シンジは額に手を当て、少し俯きながら首を振った。

「そう通りさ、妻はかおりが赤ん坊の時病気で亡くなり、以後僕一人で娘を育ててきた、だがつい二か月前の事故で僕は娘を失ってしまったんだ。そんな時耳に飛び込んだのが神聖なるこの廃校舎。俺も少しだけでいいからカオリに会いたい・・・そう思ってここまで来たのに、ゾンビガールとかが出て立ち入り禁止。まったくついてないよ。だがら警備員の目を盗んでここまで来たんだ。」

「そのゾンビガールがあなたの娘さん、藤崎かおりちゃんですよ。」

「なに・・・」

「急に言われて信じられないのも無理ないと思います。だから実際見に行きましょう。俺がまず彼女にアプローチをかけます。あなたは近くで様子を見ててください。そうすればすべてがわかります。」

「わかった」

彼女がいる場所はだいたい検討がついている、建物最上階三年三組の教室。

今度はたいまつもいらない。戦うことが目的ではないし、なにより彼女の真実を知ってしまった今、とてもそんなものを持てる気持ちにはなれなかった。


一周目の時と同じように三年三組の教室前にアキラは座り込んだ。

「お兄ちゃん、だぁれ?」

教室の中から声が聞こえる、一周目の時と同じ展開だ。

「お兄ちゃんも私をいじめにきたの?」

ガールが手にもった包丁をアキラに向け徐々に近づいてくる。

「私をいじめるならシンで」

刃はすでにアキラの目と鼻の先だ。

「・・・もうやめよう藤崎かおりちゃん」

「え?どうして私の名前」

ガールの動きが止まる。

「ずっと一人で寂しかったんだよな、二か月もこんなところに一人ぼっちで、でももう大丈夫。君は一人じゃないよ」

「え・・・」

かおりがふと横を見ると、そこにはかおりの見慣れた人物が立っていた。まだまだ若くいろいろ不器用な父親ではあるがそれでも彼女にとってみれば・・・。

「・・・うっ・・・うう」

 少女は手に持っていた包丁を地面に落とし、頬からはポタポタと大粒の涙を流れ出した

「パ・・・パ、パパ!」

少女はシンジに抱き付きわんわん泣き始めた。今まで少女の中に溜め込まれていた感情が今一気に吹き出す。

「わあああん、わあああん」

「・・・」

 気の利いた言葉をかけてやりたかったシンジだが、不器用な性格のためか何も言葉が出なかった。しかし、ただ父に抱きしめてくれることだけで、少女にとっては十分だった。

「良かった・・・本当に良かった」

「おい、なんでおまえが泣いている」

ハナビがついもらい泣きをしてしまったようだ、そんな光景を見てアキラも自然に微笑んでしまっていた。


「お取込み中ちょっといいかな?」

 アキラ達の前にある人物が現れた。

「あなたはエックス」

「ほう、俺のこと知っているのか?なんでか知らないが俺もおまえたちのことを知っている。初対面のはずなんだが・・・まぁそんなことはどうでもいい。」

エックスはアキラ達に銃口をむけた。

「俺の目的はゾンビガールの抹殺だ、邪魔するなよ」

「待ってください、あなた見てたでしょこのやりとりを、やっと親子が再開を果たしたんだ!こんな状況でよくも抹殺するだなんて言えるな!」

「だまってろ、確かおまえはアキラだったな、部外者が口を出すな。」

エックスは徐々に距離を詰めてくる。

「父親に問う、その子をこれからどうする気だ?」

「これまで通りの日常を過ごすさ。ただそれだけだ」

「それではダメだ、あんたは娘のことを何も考えちゃいない」

「なんだと」

「よく考えろ、その子はゾンビだぞ。学校ではいじめの対象、社会からも忌み嫌われる存在になることは明らかだ。いずれその子は自ら死を望むようになるだろう。」


「・・・ひどい」

エックスの言葉にハナビが思わず言葉を発した。

「ひどい?ひどいってなんだよ、事実だろ、これは曲げようもない事実だ。現実から目を背けるなよ。」

「・・・」

「だからさ、ここでその子は死んだ方がいいと思うんだよね。無意味に死ぬより、俺が使った方がまだ有意義だろ」

「ふざけるな、カオリは渡さない。ゾンビであろうが僕の娘であることに変わりはない」

シンジはカオリを抱きかかえ、カオリを守るようにエックスに背を向ける。

「まぁいくら嫌って言っても俺はやるけどね」

 エックスの指が引き金に触れる。


「やめなさいエックス」

「ん?」

 エックスの背後から女性の声が、ワイだ

「あんた最低よ、親の目の前で子を殺すなんて」

「何いってんだよワイ、あの子は一度死んだ身だ。それにだ、俺たちがここに来るまでに準備だけでどれだけ金がかかったと思ってる。あいつを殺さないと元がとれない。もう後戻りできないんだよ。」

「確かに元はとれないけど、こんなこと人間として・・・」

バン!

「うっ・・えっくす・・・なぜ・・・」

エックスの放った銃弾がワイの足に命中し、その場にワイは倒れた。

「甘いんだよワイ、助け合いなんて所詮きれいごと。生き物ってのは本来奪い合うようにできてる、生存競争に勝ち残るために他を犠牲にする、それが生き物としての正しい姿だ・・・おまえは生存競争に負けた、じゃあな。」

「待って・・・」

バン!

 今度はワイの頭部に銃弾が命中、致命傷だ。

「けっ、元軍人として情に流されるとは情けない。」


「自分の仲間を・・・なんてやつだ」

顔色一つ変えず、平然と仲間を殺すエックスにアキラは恐怖し、体がガクガクと震えた。

「それじゃあっと、交渉決裂のようなのでそろそろ・・・」

そう言いながら、エックスは懐から仮面を取り出し、その仮面を被った。

「んーーー、いいねこれ被ると、めちゃくちゃ気分乗るし、興奮するしサイコー!!」

「!!」

 エックスが被った仮面にアキラは見覚えがあった。あの狂ったような笑顔の仮面

「クレイジースマイル」


バン!バン!バン!

「「うわあああ!」」

「ひっひゃっひゃっひゃっひゃっ」

 スマイルは不気味な高笑いをしながらアキラ達に向けて銃を乱射、アキラ達は急いで銃の当たらない死角に入り込み、身を縮める。

「あれだけ、撃たれたのに誰も当たってない。運がいいね」

「違うぞハナビ、わざと外しているんだ、俺たちが恐怖におののき逃げる姿を楽しんでるんだ」

「そ、そんなぁ」

スマイルは明らかに違う方向に銃を向けていた。わざとなのは明らかだった。

「ひゃっひゃっ、おまえら殺せば一日で六人新記録達成だ。」

スマイルが少しずつ距離を詰めてくる。

「とにかくここから出よう」

今、スマイルの前に飛び出すのはかなりのリスクを伴うが、ここままではどちらにしろおしまいだ。

「今だ!」

アキラの掛け声によりハナビとシンジが下に続く階段へと飛び込む。

「ほう、別にいいよすぐに殺しちゃうのもつまらないし。」

スマイルは余裕そのもの、まるで今殺さなくても大丈夫といわんばかりに


「はぁ、はぁ」

息を切らしながら、階段を下り二階から一階に降りようとしたときだった。


「うあっ!」

「パパ」「シンジさん!」

銃弾がシンジの足をかすめた、シンジはたまらずその場に倒れこむ。

「パパ!パパしっかりして」

「わおー、絶対絶命のピンチだな。どうするお父さんよ。」

不気味な笑顔を見せながらスマイルがゆっくりと階段を下りてくる。おそらく仮面の内側も不気味に笑っている。

「やめて、パパを殺さないで殺すなら私一人でいい」

「よせカオリ、そいつはどっち道全員殺す気だ。」

「ピンポーン、そうとおりでーす。素顔をさらしちゃったからね・・・おっとそうだゾンビには火が有効だったな。」

 スマイルは火炎放射器を親子に向ける。

「でも不思議だよな、世の中にはゾンビの死体を欲しがる金持ちがいるんだぜ、それってもしかして、俺よりやばくね。へっへっへ」


「もうやめてくれよ」

「あぁ?」

 アキラの口が自然と言葉を放つ。

「やめてって言ってやめると思う?」

「思わないよ、でももういい加減俺にハッピーエンドを見せてくれよ。おまえにとったら一瞬のことだろうが、俺にとっては三周もしているんだ。一度目も二度目も悲惨なさいごだった、そしてようやくここまでたどり着いたっていうのに、なんでこうなっちまうんだよ。どうしてだよ!なんでうまくいかないんだよ!」

「・・・」

 スマイルはアキラの言っていることを理解できなかったが、今までにないくらい声を荒げ、顔をくしゃくしゃにしながら叫ぶアキラに少しばかり動揺した。

「残念ながらアキラ、ハッピーエンドなど存在しない、そんなのはおとぎ話の中だけだ・・・っ」


ガオオオオオ!

「なんだ、こいつは、ぎゃああ!やめろバカヤロー」

突如として、スマイルの背後に怪物が現れ、スマイルにかみついた。そうあの美術室の怪物だ。

ガオガオオオ!

・・・・・・ゴクッ・・・ゲーーー


 怪物はそのまま、スマイルを丸吞みにし大きなゲップをした。

「・・・おまえ」

「ガオ?」

 アキラはゆっくりと怪物に近づき、その怪物の頭にそっと触れた。

「ありがとう・・・ガオタロウ」

「ガオオオッ」

 ガオタロウは挨拶がわりの声を挙げると、そのままカオリの絵日記の中に帰っていった。


「・・・さぁ、ここから出ようみんな」




 その後俺たちは廃校を脱出した。

俺たちを何度となく苦しめたあの無限ループもなくなっており無事外部に出ることができた。そこには俺が呼んだ警察が集まっており、警備員殺害についての調査をしていた。俺たちは長時間に及ぶ事情聴取につき合わされ、調査が続けられたが結局犯人は捕まらなかった。

あの親子とは廃校を脱出して以降会っていない。どこでなにをしているのはわからないが幸せに暮らしていてほしい。そう願うばかりだ。

俺たち二人にはいつもの日常が帰ってきた。日々の繰り返しでつまらない毎日だが、刺激のある大冒険はしばらく勘弁だ。






END

正直、人によってR-15の線引きが違うので年齢制限つけるのか、少し迷いました。

私自身、ホラーが大好きな人間で、今回の神聖ゾンビの描写程度ではなんとも思いません

(感覚が麻痺しているのかも)

ですが、人によっては気分を害される方もいるかもしれないのでR-15にしました。


つたない文章ですが、読んでいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ