第69話 戦後処理
ライムは崩された土塁がある場所へと向かいながら、少し反省をしていた。
やり過ぎたかもしれない。
建物の屋根の上を駆けまわり、『大玉』系でひたすら爆発を起こして回って、ゴブリンをかき集めてると、最終的にはまとめて吹き飛ばした。
周囲を見ると、爆発の影響で地面にいくつも浅いクレータができており、建物や立木には焼け焦げた痕が残っているのが見えた。
延焼自体は『水の大玉』で消火しているが、建物に爆発のダメージが残ってしまったかも知れない。
建物の見た目に一部の焦げ痕がある以外には、構造的な悪影響は無いと思う。
ゴブリンに対する攻撃は正しい行動だったと思っているけれど、後で責任を負わされるのではないかと不安に思う。
そのゴブリンたちは、周囲の所々に、死に切れずに横たわっている姿が見受けられた。
瀕死のゴブリンたちに対して、ルパート率いる村人たちはトドメを刺して回る。数人一組で行動しており、狩りの経験者を主体としているようで、その手際はいい。
ライムは自分が手伝わなくとも問題無いだろうと、頼まれた土塁の修復を優先的することにした。
魔法を使えない村人たちが行うよりも、魔法を使える自分が行った方が早く終わる。魔法使いでなくとも行えるトドメ刺しを行うよりも、いいだろう。
役割分担というものだ。
それに、村人たちも同じ仕事で、ライムの近くに居たくはないだろう。
ライムを見る彼らの目には畏怖の色が濃い。ライムもそんな目に晒されながら気の滅入る仕事はしたくはなかった。
彼らの感情も仕方がない事だと分かっている。あれほどの数のゴブリンを翻弄し、撃滅した魔法使いに恐怖を覚えない方がおかしい。
ライムもやり過ぎた自覚はあり当然のコトだと理解はしている。
しかし、その視線を受けても平気であるかは話は別だ。
少なくともライムはそんな視線を受けて平気では居られない。
その点、一人、土塁の修復を任された事は有り難いことだった。
崩された土塁へとたどり着き、改めてそれらを観察してライムはため息を付く。
せっかく完成した土塁が、一日持たずに壊されているのだ。
アリティアと共同で作り上げたライムとしては悲しみを覚える。
もっとも逆を言えば、土塁を作ったからこそ、ゴブリンたちの流入が土塁を壊されるまでは防がれたと言うことでも有る。
つまり、作ったかいがあったとも言える。そう自分を慰める。
土塁の外に視線を向けるが、土塁の外へと逃げていったゴブリン集団の姿は見えない。
この事は、ここに来る前から判っていた事だが、改めて周囲を見回し、死角にゴブリンが隠れていないかの確認をする。
幸いな事に隠れているゴブリンの姿は無い。ゴブリンの姿があっても、爆発により死に切れない者だけであり、そんなゴブリンは村人たちによって、速やかに止めが刺されている。
そんな中で、人間の死体も見つけてしまった。
ゴブリンに滅多打ちにされたためだろう、顔の判別はつかないほど遺体はボロボロだ。しかし、その損傷の何割かはライムが放った『大玉』系の攻撃の影響であるのだと、周囲の状況が教えてくれた。
ライムは遺体に近づくこともできず、呆然とその遺体を見ていた。
仕方のない事だと思う。
ここはゴブリンが大量に流入してきた場所で、ここに爆発を起こさなければ更に大量のゴブリンが襲いかかってきた。
一応、爆発を起こす前にその遺体が在ったことは認識していた。同時に魂が抜け出ていて、すでに遺体であることも判っていた。
それでも、損傷のいくらかは自分のせいでもある。
上手く、心の整理がつかず呆然としていると、その遺体に数人の村人が集まる。その顔にあるのは悲しみと怒りだ。その感情が向いているのはゴブリンたちのようだが、一瞬だけだがこちらに向けられたようだとライムは思った。
呆然としていた所に彼らに視線を向けられる。怒りがあるようには見えない。
自分の気のせいだったかも知れないと思いながらも、ライムはお任せしますと言うように無言で深く一礼をする。
それから、逃げるように土塁の修復へとりかかった。
崩された土塁の修復は、作った時とは違い『穴掘り』のブロック状にした土の塊を積み上げる方式ではムリのようだ。
作った時の土の塊は押し固められた土のブロックだったが、今はボロボロに崩され、空堀を埋めている。
この土を元の位置に戻しただけでは、土塁としての強度は得られないだろう。
「空堀を掘った土を積み上げて、それから固めないとダメか……」
つぶやいたライムは魔力を集め魔法陣を構築する。
使用する魔法は『穴掘り』だ。ただし、土塁作りで使った応用の方ではない。対象の土すべてを砂状にして移動させる『穴掘り』の基本の方だ。
これで空堀を埋める土を掘り出して崩された土塁部分に積み上げる。その後は『土の操作』で、固めれば良い。
土を固める前にあまり高く土を積み上げると崩れ落ちてしまうので、二つの魔法の切り替えを数回に渡って繰り返す事になる。
『土の操作』だけでも可能な作業だが、二つの魔法を併用した方が効率がいい。
人の手で直接行う事に比べれば圧倒的速さで土塁の修復は行われ、そろそろ修復が終わりそうな頃に声をかけられた。
「おい」
「ん?」
空堀を掘り直す必要上、ライムが居たのは土塁の外だった。なので、土塁の内側からかけられた声に顔を上げる。
そこには不機嫌そうなドミニク少年の姿があった。
この少年はいつも不機嫌そうにしているな、とライムは思う。
「なに?」
「ルパート様からの指示だ。お前は土塁の修復が終わったら、俺と一緒に教会の方へ待機していろとの事だ」
「え? 何で? 私はここに居た方がいいんじゃないか?」
ここにゴブリン集団が現れた時、速やかに範囲攻撃ができるのはライムだけだ。戦力として考えるならば、此処から外す必要など無いと思う。
この場にいる人たちの視線は気分が良くないが、それはライムのわがままだ。戦力と数えるならば、ライムの心情を考慮するには値しない。
そんな考えのライムに、ドミニクは首を振る。
「ゴブリンの集団に襲われる可能性があるのはここだけじゃない。むしろ今はここがまた襲われる可能性の低いとルパート様はお考えだ。
それならば中央の教会に待機してもらって、鐘が鳴った場所に急行してもらったほうが、村全体の防衛には役立つとの事だ。
ライムの足の速さならば、十分に間に合うだろうとルパート様は言っていた」
「ああ、そうか。なるほど」
つまり襲撃を知らせる鐘の音が聞こえたら、そこまで走って行って魔法をぶっ放してこいと言う事だろう。先ほどまでのライムの行動そのままを指示にした形だ。
確かに一部の場所を守っていても、その間に他の場所が突破されてしまっては防衛の意味がない。
「まあ。早めに鐘を鳴らしてくれれば、実際にゴブリンがぶつかってくる前にはたどり着けるし、ここに張り付いているよりはいいのか」
「そういうことだ。早めに鐘を鳴らすようにする命令は、すでに別の戦線に伝令が走っている」
「随分と早いね。私はまだ教会の方に移動していないのに」
「お前が土塁の修復を終える前に、ゴブリンが別の場所を襲うかもしれないだろ。
その時もお前には走って救助に行ってもらうのだ。早めに準備しておくのは当然だろう」
なにをバカな事を言っているのだという感情の混じったドミニクの言葉にライムは苛立ちを覚えた。
なので、表面上は平静を装って、少年の神経を逆なでするようなことを言ってみる。
「まあ、それもそうだね。私はルパートさんには期待されてるって事だね」
自尊心の高い少年には、尊敬する騎士サマの期待が別の者に向けられている事は屈辱的だろうとライムは思っていた。
だからこそドミニクの反応には以外に思った。
「そういうことだ。ルパート様の期待に応えろよ」
ドミニクの冷静な様子にライムは拍子抜けした。こういった反応をされてしまうと皮肉を続ける気にもなれない。
「まあ、村を守るためには全力を出すつもりだけどね」
ライムはそう言いながら最後の作業を行って、土塁の修復を終わらせる。
「よし! これで土塁の修理は終わり!」
ライムは空堀を跳び越えて、土塁の上に着地する。ライム自身の身長を越えている土塁に、同じくらいの幅がある空堀を越えて一足で跳び乗った事にドミニクは目を丸くする。
「……建物の屋根の上を跳び回って居た事もそうだが、その身体能力も魔法の効果なのか?」
「ん? まあ、そうだね。五行魔法の一つに『重量減少』って魔法がある。それを自分に使えばこれくらいはできるよ」
その説明は事実だが、ライムはその魔法を使っているわけではない。
ライムが屋根の上に跳び上がったり、屋根の上を跳び回ったりしているのは、スライムとしての身体能力を存分に発揮しているだけだ。
ライムは優れた身体能力を見せつけたのはマズかったかと思う。けれど、魔法を知らない相手――つまり魔力を視認できない相手ならば、本当に魔法を使っているかは判別できない。
それはつまり、魔法の効果による身体能力だと、ごまかせるという事でもある。
「そうか……。魔法っていうのはすごいんだな……」
ドミニクは感心した様子でライムを見ながら頷いている。そんな視線を向けられ、ライムは居心地が悪い。
「えっと……。もう私は教会の方に行ってもいいのかな?」
「ああ、俺と一緒に教会の方で待機だ」
ドミニクの言葉にライムは首を傾げる。
「あれ? ドミニク少年も教会へ行くのか?」
「ああ、ついていくようにルパート様に言われている」
歩き出すライムの隣をドミニク少年もついてくる。
彼がついて来ないのなら、ひとっ走りしてすぐさま教会に向かうのだが、とライムは思う。彼がついて来るなら振り切るわけにもいかず普通に歩くことにした。
ドミニク少年はライムの言葉に文句をつけた。
「というか、というかドミニク少年と呼ぶのはやめろ。お前は俺より年下だろうが。ドミニクと呼び捨てでいい」
「だったら、ドミニク少年が私の事をお前呼ばわりをやめたらそうするよ。私にはちゃんとライムという名前があるんだから」
睨み返すように告げるライムに、ドミニクとはしばしの間、睨みあいのような形になる。
しかしすぐにドミニクの方が折れた。
「分かったライムと呼ぶ。だから俺の事を少年呼ばわりはやめろ」
「分かったよ、ドミニク。それで私についてくるの?」
「俺はお前の――ライムのお目付け役だ」
「お目付け役?」
ライムは首を傾げる。
「というよりもライムの護衛役なんだよ」
「無くても大丈夫だけど?」
見せ付ける事になった魔法使いとしての戦闘力があるので、すぐに返り討ちにできるだろう。それに他の者は知らないが、ライムの体を物理的に傷つけられる攻撃力を、ゴブリンたちは有していない。
自分を傷つけられる者が居るとは思えないとライムは断り、その事にはドミニクも同意した。
「俺もそう思うがな。ルパート様が決めた事だ。貴重な魔法使いを単独で行動させて、危険な目に合わせるなということらしい。
それに俺にも仕事がある」
「どんな?」
問うと、ドミニクはライムを一瞬見やってから、ため息をつく。
「ライムが万全を期して襲撃に対応できるように、お前の休息中の護衛だ。あと、お前が休んでいる時に、鐘が鳴っても聞き逃す事の無いようにすることもルパート様に任された俺の仕事だ」
そんなことは必要ないと思うのだけれども、そう言い返そうとしたライムは、その時に気がついた。
周りの人々がライムを避けるように道を開ける。よそよそしいその視線が隣にドミニクが居ることで若干弱まる。
つまりドミニクがついて来るのは、人々のライムに対する不安を和らげるためのものであるようだ。
私は猛犬ではないのだけど。ライムは不満に思う。隣に歩くドミニクには、人々の視線に気がついている様子はない。
ルパートの配慮にライムは受け入れざるをえない。それが自分と人々どちらに対しておこわなれたものかはわからないが。
「……わかったよ。私からはお仕事を頑張ってと、しか言えない」
ライムはそうとだけ言った。
それからドミニクと共に、教会に向かって歩いて行く。教会までの道のりにいくつもの柵が存在している。その柵には一応通行できる部分は存在しているが、その場所を通過するには柵の一部を動かさなければならない。
ライム一人だけなら跳び越えるだけで済むのだか、ドミニクも一緒ではそうもいかない。
時間がかかるなと思いつつ、自分の力を見せつけるのは最小限にしておこうと、柵を動かしての通行を行っていた。
特に会話もなく歩いていたが、ドミニクが何故かチラチラとこちらを見てくる。
「ドミニク。何か言いたい事があるなら言ってもらった方がいんだけど?」
不機嫌そうにライムは言い、ドミニクは一瞬口ごもった後に問いかけた。
「……ライム、お前はどうしてあんなに強くなれたんだ?」
「強く?」
不思議な事を聞いた気がしてライムは聞き返す。
「だってそうだろう? さっきの戦い。俺がゴブリンを倒したのは十匹くらいだった。
これは止めを抜かした数だけど、その倒した数も柵越しに槍を刺したり、叩き落としたのが大半だ。
けれどライムは違う。さっきの戦いどれだけの数のゴブリンを倒したのかわかっているのか?」
ゴブリンを倒した数など、数える余裕も無かったし、数え切れる数でもなかった。
「えっと……大体、百匹くらいかな?」
「百匹程度じゃすまないだろう。少なく見積もっても、二百は越えてる」
たしなめるようにドミニクは言う
「それだけの戦果を上げているライムは、英雄と呼ばれてもおかしくは無いんだ」
「英雄?」
ライムは首を傾げる。英雄など自分にはあまりにも似合わない呼び名だ。
「そうだ。だからこそルパート様もライムを特別扱いして、すぐにどの戦線でも投入できるように中央の教会に配置するんだ」
教会に行くのは、異常な攻撃力を持つ自分を、怯えている人々から隔離してほとぼりを冷ますためだと思う。
ライムがあえて口をつぐんでいるとドミニクは興奮した様子で言葉を続ける。
「俺は、英雄という存在に憧れてる……。
人々の危機を救い、尊敬と憧れを受ける英雄になりたいって思ってる。だから俺は、ライムが羨ましい。あんな風にゴブリンを倒せるように、俺もなりたい。
だから聞くんだ。どうすれば俺もあんな風になれる?」
真剣な様子のドミニクにライムは戸惑うしかない。走り回って魔法を放ち続けている所しか見ていないだろうに、どうして英雄などというおかしな結論になるのか理解しにくい。
ライムは元々、力など求めては居ないし、英雄などなりたいなど思ったこともない。
屋根の上を飛び回れる身体能力は、スライムのそれを振り回しているだけだし、魔法の力も学んでいく課程で身につけただけで、力を望んで習得したわけでもない。
「とりあえず……。魔法を使いたいなら、魔法使いの弟子になればいいんじゃないかな?」
魔法の威力が大きかったので、そこに目を奪われているのだろうと思ってライムはそう提案する。
しかしドミニクには首を振って否定した。
「おれは別に魔法使いになりたいと思ってるわけじゃない。ライムに聞いたのも、魔法の覚え方じゃないんだ。
俺が知りたいのはどうすれば、あんな風に的確な判断ができるようになるのかって部分だ」
「的確な判断?」
何の話だとライムは疑問符を浮かべる。
「ライムがゴブリンをかき集めるって行った時、俺は何をバカなことを言うんだって思った。けれど、ルパート様はすぐにライムの意見に納得したんだ。確かにライムの言う通り、散らばったゴブリンを放置してはマズいって。
それでも、ゴブリンをかき集めるなんてムリだと思ってた。けれどライムはそれを達成して、しかもこちらへの圧力を少なくするために何度も炎の玉を近くで爆発させただろう?
俺は腹が立ったが、猛攻を受ける中で少しは休憩ができた。
結果として、あのゴブリン集団のほとんどをライムが倒したんだ。
どうすればあんな判断ができるのか、そして実行できるのか。それを俺は知りたんだ」
「そう言われても……。判断ができた理由なら、私は屋根の上に居たからゴブリンたちの動きが分かっただけの話だ」
「そう、なのか?」
ドミニクは唖然のとした表情を浮かべ、ライムは頷く。
「そう。単純に見えていた場所の違いだよ。ドミニクは柵の防衛で、ゴブリンと至近距離で相対してたんだろ? それならゴブリンの集団の動きが見えないのが当然だ。
ゴブリンを集める事に決めたのは、散らばって行くのが見えたから、このままじゃマズいって気がついただけだし」
ゴブリンが散らばったのは自分のミスが原因だとは、言わないでおく。その後の行動はそのミスを取り戻そうと必死になって行っただけだ。
「それに。私はだた、できることを必死になってやっただけだよ。
ゴブリンを倒した数が多いって事も、魔法の力だし。魔法でなんとかできると思ったからやっただけ。
……そうだね。まずはドミニクが今、自分にできることを確認して行けばいいんじゃないかな。
それが分かれば、何処まで何ができるのかも分かる。
私がさっきしたことも、私ができることをしただけだよ。自分に何ができるかを知ってたからできたことだ。
もっともあそこまで上手くいくとは思っていなかったけど」
「そうか、自分でできることを知る事か……」
「自分を知らないと、できもしない事をできるとか言っちゃう。
まずは自分を知らないと何もできない。
それで自分にできることが少ないって分かったなら、できることを増やしていけばいい。
欠点があってできない事があるなら、それを無くしていけばいいって分かるし。
あと少し実力が足らないからできないってだけなら、実力を伸ばす事に集中できる」
「なるほど……そういう事か……」
ドミニクは感心した様子で、一人頷いている。
ライムはこんな適当に話した事で納得していいのかと思った。
「ライムは、自分のことを完璧に把握できているのか?」
「そんなわけ無いでしょ」
何をバカなことを言うのだとばかりにライムは即答した。ライムにとって、自分のことなどわからないことばかりだ。何故自分の体がスライムになってしまったかなどは最大の謎だ。
その事を知るために必死になって魂に関わる魔法である陰陽魔法を学んでいるのだ。難解な陰陽魔法をほとんど習得できていない今、自分の魂がどうなっているのかも判っていない。
ライムがキツイ様子で即答したのは、その苦労を揶揄されているように感じてしまったからだ。
すぐにドミニクがそんなつもりで発言したのではないと気がついて、先の戦いでの事についてのみ話す。
「さっきの戦いは、私にできると分かっている範囲内の行動しかしていない。
私がもし、できるかどうか分からない事に手を出したら、きっと大きな失敗をするよ。
さっきも言ったけど私は、私のできる事を必死になってやっただけ。できることを増やしたいなら、必死になって自分を知るための勉強を続けないといけない」
人の体を取り戻す為には自分の事を知る事が第一だ。そのための勉強を必死になって続けている。ゴブリン集団を倒した力を得たのも、その副産物にすぎない。
そう考えて、ドミニクには必死さが足りていないのではないかと思った。
「ドミニクが本気で英雄になりたいなら、自分を知るために必死になれ。としか私には言えないよ」
「そう、か……」
ドミニクは頷いて、一人静かに考え始める。
ライムは特に話したい事があるわけではないので、静かになった事を歓迎して教会に向かう道を歩いて行く。
やがて二人は特に会話を行う事無く、教会までたどり着く。
柵によって防備された教会には何人もの村人たちが武器を手に警戒をしている。
その警戒をしている人々の中にアリティアの姿があった。少女の側にはセリカとミリィの姿もある。しかも何故か、彼女たちは柵の外に居る。
「あ、ライム!」
「アリティア! なんで教会の外に?」
アリティアは笑顔で手を振り、ライムへと駆け寄る。ライムも少女を迎えるように小走りになって近づく。
アリティアはセリカとミリィを、ライムはドミニクを置いて行くような形だ。置いて行かれた形になった彼女らと彼は、駆け寄る二人を微笑みながら見守る。
――と、その時、小さな風切り音がして。
トス……ッ。
と、少女の胸に矢が突き立った。




