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第68話 追い込み


 ゴブリンの数を減らすことを優先した為に、集団になっている場所に『大玉(ボール)』系の魔法を叩き込んでいた。

 当然、ゴブリンたちは集団行動をしていれば爆撃に襲われる事を理解し、散り散りに逃げ回った。


 その結果、散兵となったゴブリン達に浸透、圧殺されそうな今の状況がある。


 ライムは考える。


 ゴブリンたちの行動をコントロールしなければならない。

 やり過ぎたとは言え、ライムの思惑通り集団行動から散らす事はできたのだ。逆の事ができないはずがない。


 ライムは無理矢理自分に言い聞かす。


 ともかくゴブリンたちに個別行動をすることが危険だということを知らしめないとダメだ。散ったゴブリンたちを一箇所に集め、それと同時に集団が瓦解しないように数を減らしていく。


 できるか? ライムは不安に思う。けれど、やらないよりはマシな状況になるだろう。

 自分の足の速さならできる可能性がある。


「ルパートさん! 私はゴブリンどもをかき集めてここにぶつけます!」

「なに?」


 突然のライムの提案に、驚愕の声を上げた。


「ここにぶつける? 何を言っている!?」

「このままじゃ他の場所から教会の方に侵攻されます! その前に散ったゴブリンをかき集めないと、ここで囲まれるだけです! 大丈夫! 数は減らしていきます!」


 それだけを告げてライムは駆け出す。ルパートは怒鳴っていたが、今は時間が無い。屋根の上を駆けて、散っていったゴブリンたちの先頭集団を見つける。


 距離は遠いが『火の大玉(ファイヤーボール)』の射程外というわけではない。けれど使うのは『風の大玉(ウィンドボール)』だ。


 透明な『風の大玉(ウィンドボール)』を魔法陣より放つ。

 『風の大玉(ウィンドボール)』には射程距離以外に、発射体の大玉(ボール)が視認しにくいという利点がある。


 それはつまり、どこから発射されたか分かり難いということでも有る。透明な大玉が放物線を描いて、ゴブリンの背後から追い越すようにその目の前に地面に落ちる。


 途端に爆発を起こし、走っていたゴブリンを正面から吹き飛ばす。


 進む先にいた仲間が爆発音と共に吹き飛ばされ、追っていたゴブリンは恐怖に足を止めた。

 『風の大玉(ウィンドボール)』で吹き飛ばしたゴブリンは一匹だけだったが、散らばっていくゴブリンたちの動きを牽制できた事に、ライムは己の考えは間違ってはいないと手応えを感じる。


 もう一発。『風の大玉(ウィンドボール)』を放ち、一度目に爆発させた場所に一番近くで足を止めたゴブリンを吹き飛ばす。


 その爆発を見たゴブリンは二つの行動に別れた。

 ライムの思惑通りにきびすを返して駆け出す者と、爆発を起こす『風の大玉(ウィンドボール)』が自分の背後から飛んで来る事に気が付き、そのまま方向を変えること無く走る者だ。


 三発目はそのまま逃げていくゴブリンの正面に落とし、爆発させる。

 ゴブリンたちにそちらの方向へ向かうというのならば、優先的に爆発の餌食になると知らしめる。


 するとライムの思惑通りに、ゴブリン達は引き返す者が多くなった。


 その結果を見届ける頃になると、ちょうど四発目の『風の大玉(ウィンドボール)』が発射できるようになる。

 なので、こちらの方向へと走ってくるゴブリンたちを追い立てるように、彼らの背後に落とすように発射する。


 ライムは四発目の着弾を見届ける前に踵を返し、再び建物の屋根の上を駆ける。


 ゴブリンの誘導は一箇所で行えば済むものではない。これから、反対方向へと散ってしまったゴブリンたちの行動を誘導しなければならない。


 全力で屋根の上を跳び移り、それと同時にゴブリンの数も減らさないといけない。


 ライムはここしばらく出しっぱなしの魔法陣を『風の大玉(ウィンドボール)』から『風の矢(ウィンドアロー)』のモノへと書き換える。風属性以外の図形はすべて書き換えだ。

 誘導と同時にゴブリンの数も減らさないといけないが、その時に問題になるのが、誘導の邪魔になるような方法ではいけないということだ。


 その点、『風の矢(ウィンドアロー)』は矢自体が見づらく、音もほとんど無い攻撃方法だ。


 爆発が起きる『風の大玉(ウィンドボール)』で囲い込むように追い立て、追い立てる所定位置に着くまでの移動中に『風の矢(ウィンドアロー)』で間引いていく。


 だがその間引きはあくまで移動のついでだ。


 ルパートの待ち受ける陣地方向へと走っているゴブリンは放置し、『風の矢(ウィンドアロー)』が仕留めていくのは、柵に取り付いて移動を行わないゴブリンが中心だ。


 ライムは、ルパートの待つ陣地までもどり、そのまま減速すること無く、反対方向へと突き進む。陣地に居る者の中で、ライムの姿を見つけた人はいなかったようだ。


 さらに走り続け、同時に間引きを行う。ライムの移動する速度は早い。すぐさま追い立てができるように、魔法陣を『風の大玉(ウィンドボール)』に書き換える。


 その書き換えが終わる頃、こちら方向に散っていったゴブリンたちの先頭集団を見つける。


「先頭集団は全部吹っ飛ばす」


 ライムは『風の大玉(ウィンドボール)』を放つ。放物線を描いて、その透明な大玉は先頭集団の鼻先に落ちた。

 爆発はその集団のほとんどを吹き飛ばす。


 吹き飛んだ数が多かった為だろう。一回の追い立てよりも、良い反応を返す。

 慌てて引き返すゴブリンが多い。


 吹き飛ばされても死ななかったゴブリンに、追撃の『風の大玉(ウィンドボール)』をお見舞いする。


 一目散に引き返すゴブリンに三発目は必要なささそうだと判断する。


 しかし、こちら方向から追い立てるには、道が枝分かれしている。そちらの道に逃げ出さないように、『風の大玉(ウィンドボール)』を道の先に落としておく。


 その爆発に、爆発がないのはルパートたちの待ち受ける方向だと思わせる事に成功したようだ。

 ゴブリンたちは雪崩をうって、引き返していく。


 逃げ惑うゴブリンの中には、土塁の外へと逃げ出した者もいた。外に出てしまえば、今の所は追撃する必要も無い。一番の安全な場所でもあったが、その選択をとったゴブリンはほとんどいなかった。


 ライムは再び踵を返し駆ける。


 ゴブリンたちの中にも、柵に取り付くなどの行動をして、雪崩をうって引き返す流れに同調しない者も少なからずいる。『風の矢(ウィンドアロー)』での間引きは、そういったゴブリンたちを標的にしていった。


 引き返していく流れに乗らないゴブリンは、どこからとも無く飛んでくる透明な矢で殺されるとゴブリンたちに認識させる。


 それでも、そんな風に死んでいくゴブリンは数匹だけだ。


 ライムは間引きより優先して、急いで駆け戻る。


「ルパートさん! 大体追い立てて来ました! 準備をして!」


 陣地にそうとだけ声をかけて、減速することなく通過する。こちら方面のゴブリンが再び逃げ散る動きになっていないかの確認だ。


 ゴブリンの動きは案の定だ。走る先から爆発音が聞こえてきたせいだろう、その足並はバラけて好き勝手に散り散りになりかけている。


 ライムは『風の大玉(ウィンドボール)』を叩き込んで、そんなゴブリンたちを追い立てる。


 ライムの望む通りにゴブリンたちが走りだしたら、再びライムは駆ける。反対方向のゴブリンを追い立てるため、『風の大玉(ウィンドボール)』を外側から集まっていくように落としていく。


 まさに追い込み漁そのままだ。ライムは複数回往復を繰り返し、ゴブリンたちの追い立てを続ける。


 二つの群れが一つに集まっている為にライムが往復する距離も縮まり、追い立ての確実性も上がっていく。


 『風の大玉(ウィンドボール)』の役割はゴブリンたちを追い立てる為だけではない。実際に、ゴブリンの群れを外側から削り取るようにして数を減らしていっている。


 目的は、ゴブリンを集団にすることではなく、村の中にバラけたままで浸透されないようにすることだ。


 その集合していく流れに参加しないゴブリンは、優先的に風の爆発か風の矢の餌食になった。


 そしてゴブリンのほとんどが、流れに乗って集団になっていく。散り散りになったのが全体的な流れだったとすると、集団になるのも同様だった。


 そしてその集団の動きをコントロールしているライムは、自分がまるで牧羊犬にでもなったかのような錯覚を覚えた。ゴブリンが羊で自分が牧羊犬ということだ。


 ライムは思わず苦笑した。ゴブリンは羊のようにおとなしくは無いし、自分は牧羊犬のように守るためにゴブリンを集めているわけではない。


 反対に殺し尽くすために集めているのだ。


 二つのゴブリンの群れは合流した。その場所はルパートの待ち構える陣地の手前の丁字路だ。


 二つの群れは一つに融合し、追い立てられた圧力は逃げ道を求めて残った先へと流れこむ。


「多すぎるだろ! なんでこんなにかき集めた!?」


 近くの建物の屋根の上に立つライムに、陣地からドミニクの非難の声が届いた。

 あ、少年が居たのかと。ライムはその時にはじめてドミニクの存在に気がついた。


「安心しろ! すぐに減らす!」


 ライムは答えて、陣地へと雪崩を打つゴブリン集団を見やる。

 爆発に追い立てられ、恐慌状態に陥っているゴブリン集団の勢いは凄まじい。このまま放置すれば、陣地を突破してしまうだろう。


 なので、その勢いを殺すべく、ライムは魔法陣を『風の大玉(ウィンドボール)』から『火の大玉(ファイヤーボール)』へと書き換える。


 炎の玉を陣地へと向かう集団の先頭に叩き込む。


 爆炎と共に先頭集団は吹き飛ばされ、勢いが緩む。目の前を走っていた仲間が炎で吹き飛ばされたゴブリンは急停止をするが、そのさらに後ろに居たゴブリンはすぐには止まれなかった。

 結果勢いが滞り、その場のゴブリンの密度が上昇する。一部では将棋倒しも発生した。


「もう一発!」


 ライムが放つ『火の大玉(ファイヤーボール)』が、今日一番多い一番ゴブリンを吹き飛ばした。


 二連続の爆発が先頭集団で起きた事により、ゴブリンの混乱はさらに酷いものになる。

 このままではせっかく集めたゴブリンがまたバラけてしまうとライムは見て取って、再び駆け出す。

 

 目的地はゴブリン集団の最後尾だ。今度は距離が短いので、数秒で最後尾を狙える建物の上にたどり着く。


 逃げ散らないように、最後尾に『火の大玉(ファイヤーボール)』を叩き込む。


 三度目の爆炎に巻かれて、ゴブリンたちの動きは引き返すべきだという判断から、このまま先へと進むべきだという判断に傾いていく。それでも動き自体は鈍いものだ。


 先頭集団に二発の『火の大玉(ファイヤーボール)』はやり過ぎたかとライムは思う。


 ゴブリンたちの士気は明らかに激減している。


 それでも散り散りになっていないので問題はない。

 大きく動かないというのならば、この機会に数を減らすだけだ。


 ライムはまたも最後尾へ『火の大玉(ファイヤーボール)』を放つ。先ほどの最後尾への攻撃はゴブリンたちが引き返さないようにする威嚇が主体だった。


 だが、今回は最後尾から大きく削っていく為の攻撃だ。

 そのため、多くのゴブリンが爆炎に呑まれた。


 このまま動くことがなければ、爆撃を続けて一掃するだけだ。


 そんなライムの考えを感じ取ったのか、ゴブリン集団は自らを奮い立たせる咆哮を上げて、再びルパートたちの居る陣地へと突撃を開始する。


 勢いは強いが、また先頭集団を爆撃してしまえば、あっという間に散り散りになってしまいそうな危うさがある。


 先頭集団に攻撃を行って勢いを殺すことは、仕方なく諦める。


 もはや、追い立てることではなく数を減らすことが優先される状況だ。ライムはそう判断すると、ゴブリンの数を減らすこと決める。


 『火の大玉(ファイヤーボール)』を最後尾の方から包み込むように当てに行く。


 炎に押され、恐慌状態になっているゴブリン集団が陣地の柵にとりつく。その前に陣地の中から矢が飛んだが、その矢は先頭にいたゴブリンを転ばしただけで、その体を踏み倒して後続のゴブリンが続いた。


 柵に取り付いくゴブリンは乗り越えようとするが、その後ろからはさらに別のゴブリンが乗り越えようとし始める。


「今だ! 槍を突き入れろ!」

「うおおおおぉぉ!」


 ルパートの命令と共に柵と仲間に挟まれて身動きの取れなくなったゴブリンは、柵の間から突き出された槍の穂先に命を奪われる。


 ゴブリンの死体は残る事はない。そのため、そのゴブリンを足場にしていたゴブリンは柵から崩れ落ちる。


 柵内から槍を突き出され、次々と身動きの取れなくなったゴブリンは殺されていく。

 それと同時に、乗り越えようと柵から身を乗り出したゴブリンは鍬や剣によって叩き落とされる。


 そんなどれほど保つか分からない攻防を、近くの屋根の上から爆撃を行いながら見てとったライムは声を上げる。陣地に居る人たちに届くかどうか分からないが言わないよりはマシだ。


「これから近くで爆発を起こします! 注意して!」


 その大声を聞き取った者が居たかどうか、わからないままライムは『火の大玉(ファイヤーボール)』を放つ。


 ゴブリンが柵に取り付いている場所から、少し離れた集団のほぼ中心。爆炎の影響が、柵にはギリギリで届かない位置に炎の玉は着弾し、爆炎を撒き散らした。


「うおっ!」

「ふざけんなっ!」


 陣地の中で必死になってゴブリンを排除している者達は、近くで起きた爆発に悲鳴と罵声を上げた。


 もっとも、柵に取り付くゴブリンの肉壁に遮られ、爆発の影響は殆どない。


 そんな人々の不満よりも、ライムはゴブリンの対応に追われていた。


 集団の中心で爆発が起きたものだから、バラけそうな動きがある。集団のコントロールの為に、逃げ先としてゴブリン集団の意識が向いた方向で爆発を起こさねばならない。


 そのためには、ライム自身が位置箇所に留まって魔法を放っているわけにはいかない。


 建物の屋根の上を跳び回り、ゴブリンたちをまとめ上げるために『火の大玉(ファイヤーボール)』を周りに落としていく。

 その結果、再びゴブリンは集まり、ライムが唯一の逃げ道として設定した陣地の柵へと向かっていく。

 他の場所へ行こうとするゴブリンには、優先的に炎の洗礼が待ち受けている以上仕方のないことだろう。


 ゴブリンは周囲から締め付けるように徐々に範囲が狭まってくる爆炎から逃れる為に柵へと殺到するが、陣地を構える人々は武器を持ってそこを通すことを許さない。


 柵に取り付くゴブリンの数が多くなり、陣地への圧力が高まると集団中央に爆炎の花が広がる。


 かと言って、集団から離れようものなら優先的に狙われる。ゴブリンの士気は徹底的に落ち込んだ。


 爆撃をもたらすライムを狙おうにも、人外じみた足の速さで一時たりとも一箇所には留まらない。


 ゴブリンたちに事態を打開する事は不可能だった。


 戦況は完全に人間側に傾いた。


 この時の問題が、『火の大玉(ファイヤーボール)』が次々と使われた事による周辺建物の延焼だ。

 しかしゴブリンの数が減り、集団のコントロールが容易になってきたので、『水の大玉(ウォーターボール)』での消火を行う余裕も生まれてきた。


 消火も兼ねた『水の大玉(ウォーターボール)』での攻撃を囲いこむように放った後に、ゴブリン集団の中央に『火の大玉(ファイヤーボール)』が撃ち込まれる事が三度も繰り返される。


 もはや、ゴブリンは集団とは言えないほどの数しか残っていない。


 柵に取り付くゴブリンも数える程だ。


 ライムは最後の集まっているゴブリンに『火の大玉(ファイヤーボール)』を撃ち込んだ。

 爆炎にそのゴブリンは消えていく。


 残りは柵に取り付く数匹のゴブリンと、運良く、爆撃から逃れた数匹のゴブリン。それと、爆撃を食らったが死にきれず、地面に転がっているゴブリンだ。


 もう『火の大玉(ファイヤーボール)』は必要ないと、ライムは『風の矢(ウィンドアロー)』に魔法陣を書き換えて、まだ立っているゴブリンへと向けて放つ。


 連射される透明なガラスの様な矢に、立っていたゴブリンはすべて倒される。


 その頃には、柵に取り付いたゴブリンも、陣地に籠る人々によって打倒された。


「やった……! 勝ったぞ!」


 陣地の中から勝利の声が上がる。この陣地に篭ってからの戦いに軽傷を負った者はいても、死者や重傷者は出なかった。それ故に喜びはひとしおだ。


 人々は互いに喜びをわかちあう。彼らを指揮していたルパートも安堵のため息を漏らしたほどだ。


 そんな彼らの様子に、すぐ近くの屋根の上に移動したライムは、心苦しいモノを感じながらも言わねばならない事があった。


「ルパートさん! 掃討戦に入りましょう! 散っていったゴブリンはほとんど集めましたが、それでも何匹かには侵入されたはずです!」


 それに、今倒れているだけのゴブリンの止めも刺さねばならない。


「少し休憩してからでもいいんじゃないか?」


 勝利の喜びに水を差された形になり、村人の一人がそう意見を言った。そこに居た人々の意見はそれに同意しているようだ。

 彼らがそう思うのは仕方がないとはライムは思う。けれど、時間が立つほどに村の奥にゴブリンたちが浸透してしまう。


 幸いな事に、騎士であるルパートはライムの意見に同意してくれた。


「いや、すぐに掃討戦を始めよう!

 村の内側に入り込んだゴブリンを放置すれば何をされるか分かったものではない。村に火をかけられたり、戦ってる最中に背後から襲われてはひとたまりもない。


 数人毎に分かれて掃討戦に入ってくれ。但し、複数のゴブリンがまとまっているなら、ムリに戦うな。人を呼んで大人数で叩け。


 それと、半数はここに残って、外から新たなゴブリン集団がやってこないかの警戒と倒れたままのゴブリンの止めだ! 奴らは死体は残さない。体が残っているなら生きてる証だ。一匹たりとも生かしておくな!」


 ルパートは人々に指示を行う。ライムも掃討戦を行おうと移動を始めようとして、呼び止められる。


「ライムは待ってくれ。君には、破壊された土塁の修復と新たな防衛線の構築を頼みたい。

 疲れているだろうが頼めるか?」


 ルパートの依頼にライムは頷いた。


「ああ。確かに必要でしょうね。わかりました、すぐに直しにいきます」


 ライムは土塁が崩された場所へと向かう。


 そんなライムを見送り、ルパートはため息を漏らして、ゴブリン集団が存在していた場所を見回した。

 ゴブリンの着ていた服や持っていた武器が大量に散らばり、中には燃えている物もある。それらは放置しても延焼はしないだろう。

 周囲の建物にも焼け焦げた跡があるが、水の爆発によって消火されたために今は燃えていない。


 ルパートは驚愕の中で、周囲に消えぬようにつぶやいた。


「あんな少女が、あれほどいたゴブリン集団のほとんどを倒したというのか……。

 魔法使いというのはこれ程、恐ろしいものなのか……。

 いや、それともあのライムだけが特別なのか……?」

「ルパート様?」


 立ち止まったまま動かない騎士に、彼の従者であるドミニクが疑問の声をかけてきた。気を取り直したルパートは首を振った。


「いや、何でもない。私たちは倒れているゴブリンの止めを刺して回るぞ。倒れているとしても油断はするなよ!」


 ルパートは命令を下し、指示に従う者たちと共に行動を始めた。



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