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第65話 乱戦


 一時、もたらされた和やかな空気だったが、戦場ではそれが続く事など許されない。


 再び、襲撃の鐘の音が響いた。

 今度は北の方から聞こえた。ライムが来た方向とは逆の方向だ。


 ライムはこの場に居る者の中で、一番早くに新たな襲撃地点にたどり着けるのが自分であることを、理解していた。

 自分よりも早くに駆ける足を持っている者は誰も居ない。


 この鐘の音がなければ、『火の大玉(ファイヤーボール)』を受けても死にきれなかったゴブリンたちのトドメを刺す作業を行うつもりだった。

 その作業を安全に行えるのも、遠距離から確実に行える攻撃手段を持つ自分だけであることも理解していた。


 けれど、鐘の音が鳴った場所で、今までの状況と同じく大群のゴブリンに襲われているのだとしたら、駆けつけて打破できる可能性が高いのも自分だった。


「すいません! 倒れてるゴブリンたちのトドメは任せます! 私は向かいます!」


 言ってライムは返事を聞く前に走りだす。

 走っていくルートは防衛線の外側だ。防衛線の内側にいる者たちから、足の速さにあっけにとられた視線を背で感じながら走る。


 やがて、鐘の音を鳴らしているであろう場所に近づいていく。しかし、防衛線の外側にはゴブリンの集団の姿は見えない。


「あれ? いない?」


 どういうことだ?

 今もなお鐘の音が鳴り響く防衛線の内側へ視線を向けて、気がついた。


 土塁の一部が崩され、空堀も埋まっている。


「防衛線を突破された!?」


 ライムは崩された場所に駆け寄り、そこから建物の陰になっていて今まで見えずにいた防衛線の内側を見た。


 そこから続く道にはたくさんの人たちが倒れ、その先では今だ、人間とゴブリンとの戦闘が続いていた。


 倒れている人たちは息のある者もいるが、ほとんどが事切れている。その中にはライムが見知っている顔もいくつかあった。


「くっ……!」


 ライムは小さくうめく。

 近くには、倒れている人に棍棒を振り下ろし続けているゴブリンがいた。怒りに任せて、取り出した石の板を投げつける。


「ガッ!?」


 背中に石の板が突き刺さったゴブリンは絶命し、棍棒と服と魔石だけを残して消失する。


 よくよく見ると、地面に転がっているのは、人ばかりではなく、粗末な棍棒と服、それに魔石もいくつも転がっている。

 人間側が一方的にやられたわけでない。そしていまだに戦いは続いている。


 ライムが倒したゴブリンに殴られていた人はすでに事切れている。その体にまとわりつく肉体から離れた魂によってそれは判っていた。

 ライムがそのゴブリンをまず倒したのはただ、近くにいたゴブリンがそいつだけだった話だ。


 人とゴブリンが乱戦になっている場所に『大玉(ボール)』系の魔法を撃ちこむわけにはいかない。それに乱戦となっている場から距離があるわけでもない。『風の矢(ウィンドアロー)』が相応しい距離でもない。


 ライムは駆け寄りながら、ある魔法を構築する。

 それと同時に取り出した石の板を投げつける。乱戦になっているゴブリンの背に石の板は命中する。戦っている村人たちへのわずかな援護となったが、ゴブリンの数は多い。徐々に村人たちがやられているような状況だ。

 しかし今、その乱戦に行える援護はこれだけだ。別の場所にいたゴブリンが二匹、ライムを見つけて襲い掛かってきた。


 至近距離であり、投擲をしたばかりなので、さらに投擲を行う事での対処は不可能だ。


 しかし問題は無い。構築している魔法は襲い掛かってくるゴブリンのために用意しているものだ。


「『土の剣(アースソード)』ッ!」


 発動のための魔法陣に魔力を注ぎ込むと、ライムの手のひらから剣が出現した。


 やたらと長い剣身だが、鍔は無い。握りと剣身しかない。全体が茶色っぽく、一見して真っ直ぐなだけの木の棒にも見える。


 この剣は『土の剣(アースソード)』。四大魔法の初級近接系攻撃魔法に位置する『(ソード)』の土属性魔法だ。


 近接系攻撃魔法の特徴は、一度魔法をして発動させれば十数分は維持され、他の魔法を自由に使える事だ。


 そして『(ソード)』は、属性に応じた攻撃力を継続的に発揮させる事で生まれた魔法だ。

 火属性なら焼き切るし、風ならカミソリのように切り裂き、水なら衝撃と共に切り裂く。

 しかしこの魔法はあくまで攻撃力を手元に継続的に持つための魔法である。そのため当てれば相手にダメージを与える事はできる。


 だが、それだけだ。

 なぜなら実体というものがない。火や風や水を剣の形にしても、鉄の剣で斬りつければ一瞬ですり抜けるだけだ。


 だが、土属性だけは例外だ。

 魔力から土へと一時的に変化し剣へと成形しているだけだが、土には実体が有るためすり抜ける事などない。剣の形になるために土同士は強固に結合しており、その結合強度は鋼並だ。

 こうなってしまうと普通の剣と変わらないし、オマケに切れ味もさほど良くはない。


 普通の剣を買った方がマシだと思われるが、『土の剣(アースソード)』には普通の剣にはない利点がある。


 『(ソード)』は手のひらを起点に剣を成形し、手の振り、手首の動き、握った指の僅かな調整によって、実際に手で握ってはいないのに、本物の剣のように追従して動く。


 『(ソード)』は腕の力で振られているわけでない。

 魔法の矢や弾丸が魔法という形の一部として自動で飛んで行くのと同じ原理で、起点となった手のひらに追従して動いているだけだ。


 そのため、剣を持っている者には剣の重量が掛かっていない。

 

 火の『(ソード)』や風の『(ソード)』ならばあって当然とも思えるその機能も、『土の剣(アースソード)』となると、全く別の意味を持つことになる。


 なぜなら土には質量がある。

 鋼の剣と同様の重さが存在しているのにもかかわらず、『土の剣(アースソード)』を振るう者にとってには、振る際の重量が掛からない。


 これがどういう事を引き起こすのか。


 襲い掛かってくるゴブリンに向けて、ライムは『土の剣(アースソード)』を振った。

 ゴブリン一匹につき、一振りづつ。計二振り。


 まるで小さな子供が小枝を振るうかのように、長い剣が振るわれた。


 ピピッと、小さな風切り音が鳴り――。


 次の瞬間には、二匹のゴブリンは胴体を輪切りにされて地面に転がった。


 剣を振るう者にとっては、小枝以下の重さが無いモノを降っている感覚しかない。

 だが、実際には先端に重量がある長い剣が振られている。

 物体と当たったとしても、持ち手にはほとんど抵抗が無い。


 その結果が、超高速の振りと切り返しから生み出される、この攻撃力だ。


 この剣が固定された物体に勢い良く衝突した時に引き起こされる結果は、物体と剣、頑丈な方が勝ち、脆い方が壊れる。


 そして肉程度の強度のゴブリンと鋼の強度を持つ『土の剣(アースソード)』。どちらが頑丈か。言うまでもない。


 欠点として、切れ味があまり良くない事があげられる。だが、長い剣を高速で振り回す事により生み出される絶大な攻撃力はその欠点を補って余りある。


「こっちだ! ゴブリンども!」


 ライムは声を上げ、乱戦中の者達の注意を人間、ゴブリン問わずに引く。

 その中で、こちらに対応できるだけの余力を持っているのはゴブリンの方だ。


 ゴブリンが数匹、ライムへと向かってくる。見た目少女のライムを嬲る獲物として見なしたのだろう。警戒した様子もなく接近する。

 対するライムは『土の剣(アースソード)』の間合いに入った瞬間に切り捨てた。


 数匹を一瞬で輪切りにし、吹き出した血が地面にぶちまけられた。けれどその血も、肉体と共に魔石だけを残して魔力として霧散する。


 こちらへ向かって来たゴブリンは一瞬で殺された仲間に戸惑い足を止める。その隙にライムは一気に間合いを詰め、大きく剣を振り回す。


 それだけで向かってきたゴブリンを一掃できた。


 そしてすかさず、人とゴブリンの乱戦へと参戦する。


 ライムは獅子奮迅の勢いでゴブリンを倒していく。

 大抵のゴブリンは一太刀で切り捨て、一太刀目を武器で防がれそうなら瞬間的に切り返し、二太刀目で命を刈り取る。


 ゴブリンが持つ剣など、『土の剣(アースソード)』の一撃なら手から吹っ飛ばしてしまう。それは周囲にいる味方にとって危険だ。


 それにしっかりと受け太刀などされれば、ゴブリンの剣を壊せるかも知れないが、『土の剣(アースソード)』も壊れてしまう。

 『土の剣(アースソード)』は壊れても一瞬で消えるという事はなく、大きく歪んだ後、数秒後に消える。それに、再び魔法を発動させれば新たな『土の剣(アースソード)』も呼び出せる。


 しかしそれでも、乱戦中に数秒間、武器を失う事になる。それを恐れてライムは剣同士の衝突を避ける。


 その事で若干速度は遅くなったものの、見る見るうちにゴブリンは数を減らして行った。


 やがてゴブリンの数が抵抗する人々の数より減っていくと、ゴブリン有利だった戦況は一気に逆転する。


 人間達の、仇として恨みを込もった鍬の一振り、槍の一突きがゴブリンの命を奪って行く。


 ライムもそんな彼らに加勢するように、『土の剣(アースソード)』を振るっていく。

 ただ、敵しかいない状況では大きく遠慮無く振り回せた長い剣は、味方が入り混じってくる戦場になっていくと振りにくくなり、ゴブリンを殲滅していく速度は落ちていった。


 ライムがゴブリンを一太刀で、多くて二太刀で倒せたのは、別にライムが剣の達人だからという理由ではない。


 ライムの剣の腕は、ひいき目に見ても素人に毛が生えた程度にすぎない。

 しかし、重さを感じることのない長い剣を、当たるを幸いに振り回し、人を遥かに超えた脚力で戦場を撹乱しながら、別の人を襲うのに忙しいゴブリンを優先的に狙って行ったからだ。


 簡単に倒せる相手を先に倒して、救助と共に戦力を確保してゆく。


 自分の選んだ選択は間違いではなかったと、その場にいたゴブリンたちをすべて殲滅して勝どきを上げる村人たちを見て、ライムは安堵の思いを懐く。


 肩で息をするような演技をしながら、ライムは近くに声をかけた。

 そこでライムは声をかけた人物が、この村の顔役の一人であることに気がついた。


「あ、えっと……確か、ドルフさん?」

「ああ、そうだ。ライムだったな、話すのははじめてだったか?」


 五十代程の木こりギルドの支部長の問いに、ライムは頷く。

 彼は手にした柄の長い斧を杖代わりにもたれかかっている。疲れた様子ではあるが、怪我をした様子は見られない。


「助かった。さすがはグレンが優秀な弟子だと手放しで褒めるだけ有るな」

「え? そう……なんですか?」

 

 そんな風に褒められた事は無いのでライムは戸惑う。

 確かに自分に才能が無いとは思わないが、色々な面で迷惑を掛けている。それでも師匠が自分の事を周囲に良く言っていると、他の人から聞かされてしまうと、気恥ずかしさと共に喜びがこみ上がる。


 しかし今はその喜びに浸っている状況ではない。ライムは気を引き締めてドルフに聞く。


「ドルフさん。一体ここに何があったんですか? 私は鐘の音を聞いて急いで駆けつけましたが、何で防衛線がその時には突破されていたんです?」


 ライムの質問に、ドルフは深くため息を付いて答えてくれた。


「奴らは防衛線の外にある、家の陰に隠れて接近してたんだ。

 それだけならまだマシだったんだがな……。


 村の他の場所から鐘の音が次々聞こえて。その後にも西と東、両方から何度も爆発音が聞こえてきたんだ。

 ここの担当のモンもそっちに気を取られてたんだ。

 で、気がついた時には防衛線を乗り越えていたゴブリンどもに、最初の一人が殴り倒されていた。


 あとはそのままこのザマだ。


 ライムが来てくれなかったら、俺たちは全滅してたかも知れん」


 ドルフは周囲を見回すと、また、深いため息をついた。村の道には多くの人が倒れている。息のある者もいるが、ほとんどが事切れている。

 立てる者は息ある者の救護を始め、事切れた人には嘆きの声が上げる。


 つい先程まで、勝利の勝どきを上げていたとは思えない愁嘆場が広がっている。


「ドルフさん? ここにやって来たゴブリン達はさっき倒した奴らで最後でいいんですか?」

「ん? ああ、奴らで最後だよ。防衛線を超えてきた奴らはアレだけだ」

「そう、ですか……」


 村の中に逃げられたという事になって居れば追撃を行わねばならないところだった。ライムは不要になった『土の剣(アースソード)』を解除し、魔力として霧散させる。


 『土の剣(アースソード)』も割と使える魔法だなとライムは思った。


 正直な所、この魔法を習い始めた時、この魔法を使って自分が接近戦をするとは思ってもいなかった。


 遠距離攻撃を主体にして敵には近づかない。それが一番安全な戦闘方法だからだ。

 今でも敵には近づくべきではないと思っている。


 けれど自分はどうも、いざとなると近距離で決着をつけようとする悪いクセがあるようだと、今更ながらにライムは気がついた。フリーズホーンしかり、村で遭遇したイノシシしかり、今の乱戦に飛び込んだ事しかり。


 今の状況なら、外から遠距離攻撃を続けていた方が確実に安全だったろう。もっともそれでは被害がさらに大きくなっただろうとも思う。


 『土の剣(アースソード)』はライムの接近戦に多大な貢献をしてくれる魔法だ。

 一度、ゴブリンの反撃を食らいそうになった時に、とっさに受け太刀をして、棍棒の一撃を防いだ。他属性の『(ソード)』では不可能な事だろう。

 唯一の欠点と言えるのが、発動中は片手が塞がってしまう事だ。しかしそれでも、攻撃だけではなく防御もできのなら、実に優秀な魔法だ。


 実践を経て、ライムはこの魔法を気に入った。しかし、この魔法を使う機会がなければ良いなとも思う。この時は接近戦をする時だからだ。


 けれどその機会は、今後も頻繁にあるような気がする。杞憂であることを祈るばかりだ。


 ライムはため息をついて再び、目の前の光景に意識を向ける。


 応急手当を行う人手は足りており、ライムには彼ら以上の事はできそうもない。ライムの魔法では彼らの傷を治す事はできない。


 ゴブリンの持っていた武器は、基本的には棍棒だったが、時折、剣や斧、槍などの刃物がついた武器も混じっていた。おそらく襲った村からの略奪品だろう。


 倒れている村人の中で怪我が酷い者や亡くなった者の怪我は、ほとんどが刃物による怪我だ。


 ――と、ライムはそこで奇妙な事に気がついた。その事を示しているのは死者の内二人と、怪我人の一人。

 ライムは応急手当を受けている怪我人へと近づいき、問いかけた。


「す、すみません。アナタのその矢の怪我は、味方からの誤射か何かですか?」


 ライムの質問に、肩に矢を生やして座り込んでいる男は顔をしかめて答えた。


「そんなわけ、ねーだろ。ゴブリンどもに射たれたんだよ」

「それじゃあ、矢を射たれて亡くなった人もゴブリンにやられたんですよね?」

「そうに決まってるだろ!」


 痛みと不快さに彼は声を荒げる。ライムはその勢いに怯むこと無く、周囲の不思議そうに視線を向けてくる人々へと問いかけた。


「それじゃあ、この中で! 弓矢を持ったゴブリンを倒した人は居ますか!?」


 ライムの焦りの篭った声に、人々は困惑した様子で互いに顔を見合わせる。


 だが、それを成したという人が名乗り出ることがない。

 また、誰かが倒したと言う者も出てこない。


 その事がどういう事か認識され始めると、人々の表情は困惑から危惧のモノへと変わっていった。


「お、おい。ということはなにか? 弓矢を持ったゴブリンを取り逃したって事か?」


 ドルフの問いにライムは頷く。


「少なくとも私は弓矢を持ったゴブリンを倒してませんし、見ても居ません。

 それに地面に転がっているゴブリンが持っていた武器の中にも、弓矢なんてありません。


 亡くなった方が倒していたのかもしれませんけど、それでも弓矢とゴブリンの魔石が残るはずです。

 誰か、見て居ませんか?」


 ライムの問いかけに、人々は周囲に視線をめぐらし探してみるが、見つけたとの言葉はない。


「それなら弓矢を持ってたゴブリンは、村の中に紛れ込んでいる事になります」


 ライムの言葉にドルフは舌打ちをした。


「チッ、最悪だ。おい、防衛線の外ばかりじゃなくて、周囲の状況にも警戒しておけ!

 手が空いてるヤツは村の中に弓矢持ちのゴブリンが入り込んだかも知れないってことを伝えておけ!」


 ドルフの大きな声に、人々は緊張も露わに警戒態勢を取ることになる。ただとのゴブリンを狩り出す事はしないのかと、ライムは疑問に思う。


「ドルフさん? その弓矢ゴブリンを追撃しないんですか?」

「残念だが、そんな人手が無い。怪我人や死人が出ても、ここは外からの警戒を続けなきゃならん。

 でないと此処から襲われたらひとたまりも無い。ライム。お前さんもしばらくはここで警戒を――」


 続けてもらう。そうドルフが言おうとした時。またもや鐘の音が響いて来た。


 今度は南側。村の中央を超えた先、ライムが今日最初に駆けつけた防衛線だ。


 『風の大玉(ウィンドボール)』で姿を見せていたゴブリンの集団を蹴散らしたとは言え、まだまだゴブリンの数は残っていた。再び姿を現したか、それとも攻撃を受けて居るのか。


 ライムはここに残るか、そこに駆けつけるか一瞬考え、決断した。


「すいません! ドルフさん。私は行きます!」

「お、おい! ここの警戒はどうする!?」

「私はここに残っているより、実際に戦ってる方が村の防衛には役立ちます!」

「ムリだ! どれだけの距離があると思ってる!?」

「大丈夫! 私は足が早いんです!」


 すでに駆け出していたライムはそう言い残した。ライムの駆ける方向は村の中央だ。


 村を突っ切って、反対側の南の防衛線へ向かう。

 しかし今の村は普段とは違い、村の道には数多くの柵が設置されている。村の中央を通って反対側へ行く事など不可能だ。


 弓矢ゴブリンが村に侵入した事が分かっても、ドルフが追撃を指示しなかったのは、その防衛柵が道に張り巡らしてあり、戦う力の無い女子供が避難する教会への道が困難だからだ。


 設置されている柵は成人男性の胸程の高さまで有る。ライムの身長と同じくらいだ。頑丈な太い木材で作られた柵によって、ゴブリン、人間、問わずに通行は不可能だ。


 ただし妨害されるのは、普通のゴブリンや人間の話だ。ライムは普通ではない。


 ライムは柵へと減速すること無く距離を詰め、思いっ切り地面を踏み切る。


 軽々とライムの体は宙を舞って、柵を飛び越える。


 柵の向こう側に着地しても一切減速をすること無く、次々と飛び越えていく。

 その間にも弓矢ゴブリンの存在を見つけられないかと周囲を探してみるが、見つける事はかなわなかった。


 やがて、教会の直ぐ側までやって来る。

 そこには最後の防衛線として何人かの人々が柵の後ろ側で武器を手に緊張の面持ちで警戒を続けていた。しかしその注意は鐘の音がなっている南側へと向いている。


 そんな彼らの横を駆け抜けながら注意を行う。


「北側で、弓矢を持ったゴブリンを取り逃しました! そちらの方にも警戒をしてください!」

「え? ライムちゃん?」


 武器を持ったセリカの戸惑った声が聞こえたが、ライムには返事を返す余裕は無かった。

 そこにあった柵を跳び越えて、南の防衛線へと急いだ。



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