第53話 乾燥と神聖魔法の話
徴税官の一団が村を発った。麦の徴収量は街で広まっていた噂とは違い、普段通りの量だった。
村長を始めとした噂を知っていた少数の者たちは、タダの噂だったかとほっと胸をなでおろした。
保存食作りを行った事で、これから食料事情が厳しくなるのでは無いか、と不安に思う村人たちも何人か出てきた。
予め事情を聞かされる事の無かった彼らも、村長から、噂の存在と念のための行動だったとの説明を受けて、抱いていた不安を晴らした。
作られた大量の保存食は、当初の予定通り、教会の地下倉庫に保管される事になった。何事も無ければ悪くなる前に村人たちに分配する予定だ。
保存食の製作は通常の料理とは違い、少々手間が掛かる。その手間の中で一番時間が掛かるのが乾燥を行う工程だ。
大量に狩った獲物を保存食とするなら、その肉をしっかり乾燥させなければならない。
本来ならば、風通しの良い日の当たる場所で一週間ほど干す。その間雨に濡れないように気をつけねばならない。
グレンの予報ではここ一週間はまとまった雨は無いが、通り雨程度ならあるかもしれない。何時振るかは確定できないとのことだ。
雨が振ったなら取り込む必要があるが、肉の量が多いだけあって、大勢の人手が必要になる。
だが、何時降るか分からない雨の対策で多くの人手を遊ばせるヒマなどない。
そこで少ない人手で肉を乾燥させる方法として用いられたのが、魔法の一つである『乾燥』だ。
保存食の調理の際に教会にグレンが居たのは、その魔法をかけるためでもある。
しかし、保存食を完成させるためには、その乾燥作業を数回に分けておこなわねばならないという。
魔法を使用するならば、一週間ほどかかる乾燥作業が三日間に短縮される。
さらに、風通しのいい日の当たる場所へ移動しなくても良いため、保管している教会の地下倉庫から動かさないでも済むという利点もある。
調理をした日を含めて、三日間その魔法をかければ、力仕事も必要ない。腕力の無いセリカにとって非常にありがたい事だった。
そして、二日目以降の『乾燥』の魔法をかける作業に白羽の矢が立ったのがライムだ。
ライム自身は『乾燥』の魔法の存在は知ってはいたが、覚えていない魔法だった。
なので、一日目を終えたグレンによって突貫作業で覚えさせられた。グレンの教育方針は実践できる機会があるならば積極的に実践させる事だ。
ということでライムは、単身教会を訪れる事になったのだ。
「セリカさーん。居ますかー?」
教会の扉を開けながらライムは声を上げる。
礼拝堂には彼女の姿は無い。
「セリカさーん?」
「はーい」
もう一度声を上げると奥から声が返ってきた。しばらくするとセリカが姿を現す。
「いらっしゃいライムちゃん。あら一人だけ? アリティアちゃんと一緒じゃないのは珍しいわね」
そんなに一緒にいるだろうか? 確かに勉強のときや、家にいるときは一緒にいることが多いが、手伝いとか、狩りとかでは結構個人行動をしているのだが。
「昨日、奥様方の一人に刺繍を教えてもらう約束をしたとかで、アリティアはそっちに行っています」
「あらそう? 残念。
ささ、お茶を淹れるから、ゆっくりしていってちょうだい」
セリカは後ろに回り、ライムの肩を押して奥の部屋へと誘導する。その方向は今回の仕事場である地下倉庫ではなく、セリカの私室の方だ。
「え? いや、まず仕事を終わらせたいんですけど……?」
「あら、少し位はいいと思うのだけど?」
「それなら、仕事を終わらせてからの方がいいんですけど?」
「ライムちゃんは真面目さんですね」
小さく苦笑してセリカは地下倉庫の方へと案内してくれる。
「あ、その前に桶か何か、水を淹れる物を貸してくれますか?」
「ああ、それは大丈夫よ。そういった道具も倉庫にあったはずだから」
「そうですか。それならいいんですけど」
地下倉庫へと向かう階段は礼拝堂の奥に扉で仕切られて存在していた。陽の光が入り明るい礼拝堂とは、違い昼でも階段とその先は真っ暗だ。
「ああ、けどランタンに火をつけて来ないといけないから、ちょっと待っていてね」
「いえ大丈夫です。明かりは自前で用意できますから」
「え?」
ランタンを取りに行こうとするセリカは不思議そうに首をかしげた。
彼女が待っていてくれと言ったのは、ランタンに火を灯すのにも手間がかかるからだ。そもそも、マッチやライターなど手軽に火を点ける道具はこの世界にはない。火が必要になったら火打ち石から火をおこすか、竈の中で熾き火にして取っておいた種火を使うしか無い。
ライムは小さく苦笑して、自分の手元に魔力を集めて魔法を使う。これから使う魔法は多くの魔力を必要とはしない。小さな魔法陣を構築して魔力を流す。
「『灯火』よ」
ライムの言葉と共にその手の上に中に浮かぶ、火の玉が現れた。
「わっ……!」
セリカは驚く。だがその驚きは一瞬だけで、興味深げにマジマジと炎の玉を観察する。
炎の玉はピンポン玉程の大きさで、激しく燃え盛る炎ではなく、オレンジ色の光を放つ静かな炎だ。
「一応火なんで、触るとヤケドしますよ?」
「え? いえ、そんな事はしませんよ?」
手を近づけて触れようとしていたセリカに注意を行うと、彼女は焦った様子で己がしようとしていた行動を否定する。
『灯火』の魔法は炎の光を放つ部分を重視した魔法だが、火であるため高温を放っている。ヤケドや延焼には注意が必要な魔法だ。
術者からの距離を決めて術者に追従する方法と、空間の中で位置を固定させる方法が自由に切り替えられる。そのおかげか今まで何度も使って来て、ライムが延焼の危険を感じる事はなかった。
魔法の灯りに照らされた地下倉庫への階段を下りながら、セリカは感心したようにつぶやく。
「私、普通の魔法を見るのははじめてです……」
「? 師匠が昨日も『乾燥』の魔法を保存食へとかけていましたけど? 見ていませんでした?」
「見たけど、グレンさんの使った魔法は、見た目にあまり変化がないでしょう? だからこんな分かりやすい魔法ははじめて見るなって話なの」
「見た目に変化がない?」
ライムは首をかしげ、自分とセリカの認識の違いに気がついた。
ライムにとって、魔法とは魔法を発動させるための魔力の動きをも含んだ話だ。
しかし、セリカは魔力が見えないために、魔法の効果だけしか見られないのだ。
彼女の認識は魔法使いではない多くの人々の認識だろう。
いつの間にか魔力を見ることが、ごく当たり前の事になっていたと気付かされて、ライムは驚きを覚えた。
「ああ、そういう事ですか……」
普通の人々は『灯火』のように明確な変化が見えないと、魔法だとは認識してくれないみたいだ。
階段を下りてその先にある扉の向こうが地下倉庫だ。扉を開くと、そこには多くの枝肉が天井の梁から吊るされていた。
乾燥しきっていない生々しいお肉がたくさん並んでいる光景はあまり、気分の良い光景ではない。
ライムは一度、倉庫の中を見て回り、足元に一つの桶が置かれているのに気がつく。その桶を手にとってセリカに聞く。
「セリカさん。これから魔法をかけて回りますけど、セリカさんはどうします? 使う魔法はちょっと危険なんで、見てるとしても入口にいて欲しいんですけど?」
「危険? 昨日グレンさんがやってくれた時はそんな事は言ってなかったけど?」
「師匠は出力調整も上手いですから。私はまだまだ未熟なので、あまり人の近くで『乾燥』の魔法は使いたくないんです」
苦笑しながらライムは答える。覚えたばかりの魔法である分、さらに注意が必要になる。
「そう。それじゃ、私は上でお茶の用意をしているから終わったら声をかけてね?」
「わかりました」
セリカは階段を上っていく。
「さて、はじめようか」
一人残されたライムはつぶやいて仕事を開始する。
『乾燥』の魔法は、『飲み水』という初級生活魔法の応用だ。
『飲み水』の魔法はその名の通り、飲み水を作りだす魔法だ。それ以外の水属性の魔法は飲み水では無いのかと問われれば、ほとんどの魔法は飲み水には適さない。
実際に存在している水を操作するのではない限り、水属性の魔法で現れる水は魔力が一時的に水の姿をとっているにすぎないという。時間経過で魔力に戻るので、その水を飲んだ者が脱水症状に陥る可能性があるそうだ。
話を戻すと『飲み水』は広い範囲の空気中から水分を抽出する魔法だ。そして『乾燥』の方は、空気中ではなく対象の物体から水分を抽出する。
二つの魔法は基本的に同じ術式だが、『乾燥』の方は中級に指定されている。対象から水分を奪う出力が高いのと、生物を対象にすると危険だからだ。
実際に存在している水分を移動させている魔法でもあるので、対象を乾燥させた分、水が出てくる。
ライムは吊るされている枝肉の前に立つと、己の足元に桶を置いて魔法陣を構築する。魔力を流し込むと対象とした枝肉から水分が強制的に奪われる。
奪った水分は凝縮して桶の中で真水として姿を現す。
十数秒ほどしたら魔法が終わるので、次の枝肉に対象を変えて再び魔法を使う。
複数回『乾燥』の魔法を使うと桶が水でいっぱいになるので、地下倉庫から外に水を捨てに行く。
再び地下倉庫にもどり、お肉へ『乾燥』の魔法をかけて回り、桶に水がいっぱいになるたびに外へ出て水を捨てる。
そんな事を六回ほど繰り返すと、ようやく全ての枝肉に『乾燥』の魔法をかけ終わった。始める前と比べると、枝肉は一回り縮まり、かなり乾燥していることが見て取れた。
「よし! お仕事終了!」
最後に水を外に捨てて、桶を元あった場所に戻すと同時に確認を行い、ライムは区切りをつけるように声を上げた。
◇ ◇ ◇
その後、セリカに終了の報告を行ったライムは、彼女とお茶を一緒にする事になった。
教会の奥にあるセリカの私室に招かれた。質素な内装だが所々に花が飾られ、可愛らしい小物が置かれている。部屋の主であるセリカらしい部屋だなとライムは思った。
ライムはテーブルに並べられたお茶とお菓子を笑顔で味合う事になった。
「ライムちゃんとは一度、ちゃんとお話したいなっておもっていたんですよ」
「そう、なんですか?」
笑顔で話しかけるセリカに、ライムは口の中のお菓子を飲み込んで聞き返す。
「ええ、だって魔法使いはどうすればなるのか、なんてほとんどの人が知りませんから」
「やっていることはタダの勉強ですよ?」
「その勉強がどう言うものなのかを知りたいんじゃない。私もシスターになるための勉強はしていたけど、魔法使いになるための勉強とは違うんでしょ?」
「はあ……」
ライムからしたらシスターになるための勉強がどういったものかが分からない。とりあえず、自分がグレンから教わっている事を説明することにする。
「そうですね。一番始めは魔力の操作の訓練でした。コレと同時に、魔法に関する本を読んでレポートを書いて、ある程度魔力の操作ができるようになったら、後は魔法陣の暗記と実際の魔法の使用ですね」
「魔法陣?」
「ええ。魔法は魔力で魔法陣を描いて発動させるんです。一つの魔法に一つの形の魔法陣ですから、覚えていく為に砂版――砂を敷いた大きな箱で魔法陣を書き取りして覚えていくんです」
「それって、……かなり大変なんじゃない?」
「まあ、大変ですけど私の選んだ道ですから。それに大変って言ったら魔法陣の暗記より、レポートの提出の方が大変です。最低でも二日に一回はレポートを出さないといけないですから」
「レポートをそんなに書いているの?」
「ええ大変ですよ。今書いてるのは『四大魔法と五行魔法がそれぞれ認識している、魔力の本質の違い』と『土行魔法の名前と効果をリストアップ』と後『陰陽魔法における世界の認識』というレポートです。
本当、大変ですよ。手を抜いて書いたらやり直しをくらいますから」
苦笑しながら、それでも楽しそうにライムは答えた。
「アリティアちゃんもこんな大変な勉強をしてるの?」
「いえ、アリティアはしていませんね。
あの子は魔法にはあまり興味が無いみたいで、師匠も無理に急がせるつもりは無いみたいです。ゆっくりと覚えていけばいいとか」
「ならライムちゃんもゆっくりと覚えていけばいいんじゃないの? ライムちゃんもまだ子供なのだし。聞いている限り、なんかすごい無茶な速さで勉強してるみたいだし」
セリカは呆れた表情で提案する。だが、ライムは首をふった。
「いえ、私はアリティアとは違いますから。あの子は師匠の孫として、家業として魔法を覚えないといけない立場です。今はゆっくり覚えていけばいいと師匠は言っていますけど、大人になる頃には家業として独り立ちできるように、呪符や魔法道具の作成技能は全部教えこむつもりでいるみたいです。
けど私は、師匠にとっては魔法を教えなくとも構わない存在だったんです。
それを自分から望んで、弟子にしてもらったんです。
それに師匠には、できる限り早く魔法を覚えたいというワガママを聞いてもらっている状態です。だから少なくとも私から勉強の進む速度を緩めてくれとは言えませんよ。
もっとも、覚えきれればの話ですけどね」
ライムは真剣な様子で語ったあと、最後に苦笑しながらつけくわえた。
「そう……、けどなんでそんなに早く魔法を覚えたいって思っているの?」
「それは……」
どう答えるべきかライムは迷った。さすがに人の体を得るためだとは言えない。
「魔法を覚えれば、私の望みが叶うかもしれないからです」
「望み?」
「ええ、そうです」
ライムは頷きすまし顔でカップに口をつける。
「その望みって何か聞いてもいい?」
「それはですね――」
「それは?」
「ヒミツです」
ライムは口元に人差し指を立てて、ニッコリと微笑んだ。
「え……? あのライムちゃん?」
「願いは秘めなければ叶わない。って聞いたことがあります。だからヒミツです」
「もうっ! 大人をからかうものじゃないですよ?」
可愛らしく憤慨するセリカに、ライムは笑いながら謝る。
「すみません、セリカさん。本当の所は魔法を覚えるのが楽しいから、早く覚えたいというだけなんですよね」
それは嘘では無い。けれど、本当に重視している部分でも無かった。重視している部分は先に言ってしまっている。
「ああ、そうだ。セリカさんに聞きたいことがあったんですけど、いいですか?」
「なに? 私に答えられることならいいのだけど?」
「セリカさん聞くのもどうかと思ったんですけど。神聖魔法ってどういうものなんですか? 神聖魔法について書かれた本を読んだんですけど、なんか具体的に書いて無いんですよ」
読んだ本は『神聖魔法の真髄。クラフス神に我が心を捧げる』という、神聖魔法を使える神官が書いたされる本だ。しかしその内容は著者の信仰に関するエピソードが延々と続く。独りよがりの文章が多く、なにを言いたいのかが分からない。
神聖魔法に関する書籍は世に出る事が少なく、神殿の方で秘匿されているフシがみられるとグレンは言っていた。
ライムが読んだ本は、珍しく神官が書いた神聖魔法について記した本だということで購入したという。ハズレの本だという事で後悔したそうだが。
「神聖魔法ですか? 私は使えないし、見たことあるのも数回程度なんですが、それでもいいのならお話しますよ?」
「え? 本当にいいんですか? 教会の方からヒミツにするようにとか言われてないんですか?」
秘匿されていると思っていたので、軽い様子で了承されたことに驚く。
そんなライムに彼女は苦笑する。
「別に神聖魔法を秘匿しているわけじゃないんですよ。ただ、神聖魔法が使える方にとって、あえて広言するようなモノでも無いというだけの話らしいんです」
「どういうことです?」
「神聖魔法とは神さまの加護の形にすぎないんです。
だから使える方にとっては、神さまの加護がごく当たり前に姿を現しているようにしか、思えないのだそうです。
神が地上で加護の力を現すのは当然の事であって、特別な事ではない。
というのが神聖魔法を使える、私の師匠筋に当たる方の言葉です。
そもそも、神聖魔法とは教会の外の者からの呼び方です。だから教会の者は神聖魔法という言い方はあまりしません。神聖法とか、加護法とか。ただ単に加護の顕現と呼ぶ方もいますね。
ですが、神聖魔法という呼び方が世間一般では一番広まっているので、そう呼ぶ事もあります」
「加護の力の顕現……ですか?」
ライムには少々分かり難い。習った内容では神聖魔法とは神への信仰の結果として、神の力を借りる魔法だという事らしい。
けれど、セリカが今、言った事とあわせて考えてみると、術者が神から力を借りているのではなく、神の力が術者の周りで勝手に発現しているように思える。
「セリカさん。神聖魔法の使い手って、自分の意思で神聖魔法を使うか否かを決定できるんですか?」
「んー。どうだろう? あれはどう言えばいいのかな? 傍から見たら、使い手の方が自分で奇跡を起こしているように見えるけど……。
本人からすると、祈ることで神さまに声を届けているだけで、奇跡が起きるかどうかは神さま自身の判断によるそうよ?」
自信が無さそうなセリカの言葉にライムは首を傾げるしかない。よく判っていない人の説明で理解するのは非常に困難だ。
仕方なしに、その質問の答えを得ることは諦める。
「それじゃあ、神さまの加護の力ってどういうものなんですか?」
「それは、神さまの人々に対する愛です」
「愛、ですか……?」
「そうです。クラフス様を始めとして神々は、地上に住まう人々を愛しています。けれど、残念な事にその力は、全ての人々に遍く注がれるわけでは無いのです。
遥か太古の神々の戦によって神々は大きく傷つき、その力のほとんどを損なわれました。天上の世界へと戻り、そこで傷を癒やしながら人々の生活を見守る事になったのです。
神々は我らを見守っています。けれどその力は有限となってしまった。
地上へと力を振るい人々を救うには、神の力はごく僅かな量しかありません。
ゆえに神は必要最低限の力でも人々を救えるようにと、信仰を捧げる者へ、僅かばかりの幸運を授けます。
それが加護の力と言われるものです」
「幸運。なんですか?」
「ええ、そうです。とは言え、神様ごとに与えられる加護――つまり幸運の種類は違います。
クラフスさまの加護はあらゆる事の幸運をもたらすとされています。
大地の神ゾルバゾンさまは豊作と山林での安全を。
太陽の神レートリュイさまは豊作と、日が出ている間の安全を。
天候の神アラスさまは豊作と、恋愛成就を。
海の神ネーメルーカさまは豊漁と、航海の安全を。
一部だけですが、そういった幸運をもたらすのが加護の力です」
「あらゆる事の幸運をもたらすなら、クラフスさまの加護だけがあればいいんじゃないですか?」
素朴な疑問を口にしたライムに、セリカは苦笑した。
「あらゆる事に幸運をもたらしてはくれますが、ある一つの事に関しては専門家の神さまがもたらす加護には敵いません。
そうですね。一つ分かりやすい例を上げると、帰還の神ティクトイシィさまの加護ですね。
ティクトイシィさまについて詳しくお話しますか?」
セリカに問われた。前にその神について詳しく話を聞くまえに、驚きのあまり逃げ出してしまった。彼女が真剣な表情で確認するのはそのためだろう。
一度ちゃんと聞いた方がいいだろうとライムは思う。自分と同じく異世界からやって来た人だという話なのだから。
「お願い、できますか?」
ライムは緊張の面持ちでセリカに頼み、彼女は微笑みながら快諾した。




