第47話 五行魔法の習得始め
麦刈りが終わり、行商隊がカイロス村から次の村へと旅立ったとしても、カイロス村は一息つくわけではなった。
例年通りならば、行商隊が旅立った後には、農作業が急いでやらねばならない農作業が無いため、村にのんびりした空気が流れる。
しかし今年は未だに脱穀作業が終わっていない。
長雨の間、雨のかからない風通しの良い場所に、麦穂のまま吊るして乾燥させていたためだ。
ライムが脱穀作業時に驚いた事は千歯こきが普及していたことだ。呪符の件といい、この世界には地球からやって来た人の痕跡が所々で見られる。
脱穀作業が終わると、ようやくカイロス村は一息つく空気が流れた。これからしばらくの間、イベントらしい事は無いらしい。
村ではのんびりとした空気が流れていたが、ライムは魔法を学ぶ忙しい日々を送っていた。
気が付けば、四大魔法の初級魔法を習得していた。
次々と新しい魔法を覚えるライムにつられ、アリティアも同様に魔法を覚えていった。
アリティア本人は、ここまで頑張るつもりは無かったと言うが、確実に努力の結果だ。
ライムにつられてアリティアが勉強に励む事になるだろうという、グレンの思惑通りだったわけだ。
「おめでとう、二人とも。これで二人は魔法使いを名乗れるようになったわけじゃな」
そう褒めながら護符を渡された。四大元素を意匠化したペンダントだ。
初級魔法を覚えたという証明に、師匠から護符を授ける。その事によって、はじめて四大魔法の魔法使いを名乗ることが許される。
これが、四大魔法使い達の伝統だという。
魔法使いを名乗れるようになったとしても、魔法の勉強は続く。四大魔法の初級魔法を覚える事はゴールではなく、魔法を使う為の入り口に過ぎないからだ。
ちなみに四大魔法の初級魔法とは、初級攻撃魔法と生活魔法に分類されている。
射撃系攻撃魔法の『小玉』『大玉』『矢』『刃』『放射』の五種。
近接系攻撃魔法の『剣』『盾』の二種。
防御系魔法の『壁』『幕』の二種。
以上九種の魔法が初級攻撃魔法となる。初級攻撃魔法はそれぞれ四属性において行使され、また一つの魔法に関しても様々なバリエーションが存在している。
今のライムとアリティアが習得したのは、その基本だけとなる。
そしてこれらの攻撃魔法の他に、生活魔法と呼ばれる魔法がある。
火属性の『灯火』『着火』『暖め』の三種。
水属性の『飲み水』『水呼び』『洗浄』の三種。
土属性の『耕し』『穴掘り』『土嚢』の三種。
風属性の『微風』『冷却』の二種。
属性ごとの性質にあった簡単な魔法だ。
初級攻撃魔法と生活魔法をあわせて、四大魔法の初級魔法とされている。
四大魔法の初級魔法を覚えたと言っても、応用についても覚えねばならないし、中級以上の魔法もある。四大魔法を覚えると、一言で言っても、実現するにはまだまだ道は長い。
しかし、それらは徐々に覚える事になる。
新たに五行魔法の修行に入る為だ。
ただし、五行魔法を覚えるのはライムだけだ。アリティアが五行魔法を覚えるのは後の事だという。これは事前知識の差だ。毎日レポート課題を出され、魔法に関する書籍を多く読んでいるライムは、すでにアリティアの魔法に関する知識を上回っている。
本来魔法というのはこんな早く、大量に覚えるものでは無いとグレンは言う。ただライムの求める最終的なゴールは遥か高みに存在しているため、駆け足で習得を行っているのだ。
ライムが覚えるべき目標は、陰陽魔法の奥義とも行っても良い。陰陽魔法を学ぶための踏み台として五行魔法を覚えるのだ。
五行魔法を学ぶ事になったとしても、四大魔法の習得が終わったわけではない。初級魔法の応用も当然身につけ無ければならないし、中級以上も学ばねばならない。
だが、駆け足で学べる所は徹底的に学ぶ事になったのだ。そうでもしなければ、ライム自身の目的が果たされる事が、何時になるかわかったものではない。
一方アリティアの場合は学ぶ事に急ぐ必要が無い。本人も魔法に対してそこまでやる気が無い為、無理にライムの駆け足に付きあわせて、魔法嫌いに拍車をかける必要も無い。
グレンはそう判断し、四大魔法の応用をしっかりと身につけてから、五行魔法の修行に移る事に決めた。
ただし、ライムが五行魔法を学ぶ際には隣にいて、講義を聴いているようにとグレンに言いつけられた。
だからこそアリティアは刺繍をしながらも、リビングのテーブルで向き合う師弟の横で、講義を聞くことになった。
「さて、ライムや。これから五行魔法を習得する事になるのだが……。
まずは、四大魔法と五行魔法との違いについて述べてみなさい。この二つの魔法系統は似ているが、明確な違いが存在する。
混同していてはロクに習得はできんからな」
グレンに促され、ライムは一つうなずき、答えていく。
「四大魔法と五行魔法との違いは、属性変換を行うときのタイミングが違います。
四大魔法は魔力が魔法陣を通過した際に、無色の魔力が属性ごとに変化する。
けど五行魔法は魔法陣を通過させる前に魔力を、それぞれの属性に変換します」
「その通り。魔力の属性変換が、四大魔法では魔法陣を通す時に自動的に行われ、五行魔法では魔法陣に通す前に手動にて属性変換を行わねばならない。
そこの部分が一番大きい違いじゃな。他にもあるじゃろ?」
促され、ライムは首を傾げながら、今まで読んできた魔法関連の書籍の内容を思い出す。
「えっと、属性の性質の違いがあります。
四大魔法の属性――四つの属性の場合は、水属性ならば『水』という物体そのものを扱います。
けれど、五行魔法の属性の場合は、物体そのものを扱うのではありません。
五行魔法の属性は、それらが持っている性質、状態、運動、過程の事を指しています。
水を例にするならば、泉に湧く水が元として、その様子から生命力が生まれる性質と捉えています」
「うむ。四大魔法の属性と、五行魔法の属性を同一視していけない。
四大魔法と五行魔法には、同じような効果を持つ魔法が存在している。だが、その過程は大きく異なる。その事をよく認識しておくように。
では、水行以外の属性の説明をしてみなさい。
ああ。ちなみに、五行魔法の属性を言う際は水属性ではなく水行と言うように」
「あ、はい。じゃあ。まず木行から。
木行は、花や木の葉が広がっている樹木が元になり、それを成長、発育する性質としてとらえています。
火行は、光り輝く炎が元になり、灼熱や破壊、大きな衝動を見せる性質としてとらえる。
土行は、大地から植物の芽が出てくる様子が元となり、万物を保護、育成する性質としてとらえる。
金行は、大地から掘り起こされる光り輝く鉱物、金属が元となり、金属のように冷徹、堅固、確実な性質としてとらえる。
これが五行における属性です」
グレンは満足気にうなずく。
「よろしい。よく勉強している。
では発動される魔法の特徴を、五行魔法と四大魔法、それぞれを比較して述べてみなさい」
「はい。
えっと……。四大魔法の特徴は四大、つまり火、水、土、風を直接操ることにあります」
自信が無かったので目線でグレンに問う。師匠はうなずいて促すのでライムは続ける。
「そして決まった型にはめることで、同じ魔法が、全ての属性において使用が可能です。
ただし、決まった型にはめる事が多いのは、初級の攻撃魔法に限られます。
初級でも攻撃魔法以外は生活魔法と分類され、それぞれの属性にあった効果をもたらす魔法です。
中級以上は難易度が高いか、属性に合わせた効果を持つ魔法が多くなっていきます。
続いて五行魔法の特徴は、五行――つまり木火土金水を直接操る事は少ない、という事です。
五行魔法はそれぞれの属性が象徴する性質を、発現させる魔法が多いように思えます。
例えば単純に火を起こすという魔法でも、四大魔法では直接魔力から炎に変換しています。
けれど、五行魔法では『光り輝く』『灼熱』という火行の性質を呼び起こす事によって間接的に火を起こします。
また四大魔法の初級攻撃魔法にあった、属性違いであっても型にはめる事によって同じ形の魔法にする、という事は少ないと思います」
「その通り。五行魔法において、属性違いでも似たような魔法は多くある。だが似ているのは見た目だけであり、術式は属性に合わせてそれぞれ大きく異なる。
四大魔法と同じように、属性違いでも術式がほぼ同じなのは『五行の刃』のみだ。
では次に、五行魔法を習得する際の注意点を述べてみなさい」
「はい。五行魔法は複数の属性を、一時期に習得してはならない。これが五行魔法の習得において一番注意するべき点です」
「それは何故?」
「五行魔法では属性変換を魔法陣に通す前に行わねばならないため、術者に影響が出るからです。
複数の属性を同時期に学べば、どちらか一方を強めるか弱めるかしてしまう。それでは正しい属性の扱いは身につかないからです」
「少し違う。『強める』『弱める』ではなく。相手を『生み出す』か『討ち滅ぼす』か。というもっと強い関係性だ。そこ以外はその通り。
五行は他の属性との関係が重要となる。そのためにはまず、単体の属性の正しい扱いを学ばねばならない。
ではもう一つの注意点は?」
「もう一つは、習得する際の順番です。
二つ目以降の属性を覚える時には、次に習得する属性は、先に覚えた属性が『生み出す』関係にある属性にしなければなりません。
その関係――相生の関係ならば、習得しやすいからです。
けれど逆の関係の場合や、相剋――相手を討ち滅ぼす関係の属性となれば、習得は非常に困難になります。
そればかりじゃなく、一度覚えた属性も力を弱めかねません」
「相生と相剋の関係は五行魔法において最も重要となる要素だ。この関係はしっかりと意識しておくように。
では次に、五行魔法の利点と欠点を述べなさい」
「利点は、五行の持つ性質に則した、様々な効果を持った魔法が多い事です。
全ての属性を習得していれば、行使できる魔法の種類は非常に幅広くなります。
ただ欠点として、属性は一つずつ覚えなければならない事。一つの属性を習得するためには長い時間が掛かる事。
結果として、全ての属性の習得には非常に長い時間がかかり、少数の属性しか覚えていない状態では、行使できる魔法の種類も偏ったものになります。
利点と欠点双方に当てはまる事では、周囲に存在する属性によって、魔法効果の強化弱化がおこなわれる事です」
周囲に存在する属性とは主に、敵対術者が放った魔法のことだ。
敵対者が放った攻撃魔法に対して、相生属性の攻撃魔法を放つことにより敵の魔法を飲み込み、威力を増幅させながら敵を倒す事も五行魔法ならば可能だ。
ただしそれは、敵の攻撃に対して下手な属性で防御すれば、敵の攻撃を増幅させて自爆する事もある。
五行魔法は使用する属性の選択が非常に重要になる。
「それが戦闘に出る魔法使いの中で、五行魔法の使い手が少ない理由じゃな。
周辺の――と言うより、敵対した相手の使用する魔法によって、素早く的確に属性を選ばねばならないからな。
四大魔法のように適当に攻撃魔法を放ったり、防御魔法を使うという訳にはいかない。
大抵の者は五行魔法が戦闘には向かないと悟り、四大魔法や妖精魔法などを戦闘用の魔法として使いはじめるのだがな。
中には五行魔法の魅力に囚われて使い続ける者がいる。
結果として戦闘を行う五行魔法の魔法使いは、二種類に分かれることになる。
一つが未熟な五行魔法の使い手。
こちらは一つ二つ程度しか属性を習得しておらず、他の魔法系統を使えない者だ。運が良ければ生き残ることもできるじゃろうが、その未来はあまり明るくはない。
そしてもう一方が、達人とも言える五行魔法の使い手じゃ。
五行魔法というのは戦場で使うには安定した性能は無いかわりに、ハマった時には絶大な効果をもたらす。
敵の使う魔法のみならず、味方の使う魔法すらも利用し、自分の思うがままに戦場を支配する。素早く的確な判断能力とセンスが要求される、いわゆる天才だけに許された戦闘方法じゃ」
「五行魔法ってそんなにすごいの?」
と素朴な疑問を発したのは、隣で刺繍をしていたアリティアだ。
「なんか聞いてると、五行魔法って覚えにくくて、使いにくい感じの魔法だって思えるだけど……?」
アリティアの指摘にグレンは同意する。
「たしかに、四大魔法に比べたら覚えにくくて使いにくいのは事実だ。
しかし、他の魔法系統にはない特徴が五行魔法にはある。
ライムが利点と欠点双方に当てはまると言った点こそが、五行魔法の利点なのだ。
周囲の環境に影響されるということは、魔法の威力が安定しないと言う事になる。
しかし逆を言えば、周囲の環境さえ整えてやれば未熟な使い手であろうともそれなりの威力を叩き出す事ができる。
周辺環境が整っていなくとも、二つ以上の属性を習得しているならば、相生関係によって個人であろうとも威力の増幅は可能だ。
また、五行全て習得している者ならば、一人で相生関係を一周させるだけで、数倍から十数倍の威力を叩き出す事もできる。
未熟な五行魔法の使い手でも、集団となり複数人で五行全てをカバーしているのならば、これは可能だ。
結論を言おう。
五行魔法の利点とは、行使できる魔法の種類が豊富である事。周辺環境を整えてやれば、未熟な者でも高威力の魔法を使える事。
欠点としてあげられるのが、習得に時間が掛かる事と、威力に安定性が無いという事だ。
欠点はあっても、それを覆す利点が存在しているから習得する価値のある魔法系統なのじゃよ。理解できたかねアリティア?」
「うん。まあ、強い魔法を早くから身に着けたいって人には丁度良い魔法だってことは分かった」
アリティアの言葉にグレンは満足気に頷く。
これまで、アリティア一人を相手に魔法の講義を行っても、逃げられる事が多かったが、ライムへの講義という形ならばそれなりに聞いてくれる。その事にグレンは内心、してやったりと笑みを浮かべる。あまり構い過ぎるとまた耳を閉ざしてしまうので、弟子へと視線を向け直す。
「さて、これまで五行魔法の事を話していたが……。これから実際に五行魔法を習得するとなると、重要になるのがどの属性を一番初めに習得するのか、という事だ。
五行魔法を始めて学ぶ者には、どの属性を最初に習得するかを選んでもらわねばならない」
その言葉にライムは戸惑う。
「あの、師匠? 私の場合は土属性――じゃなくて土行で決まっているじゃないんですか?」
「確かに、ライムの場合はライム自身の、人の魂を保護するためには土行が一番望ましいな。
だがこの事は、五行魔法を始めて学ぶ者は事前に必ず知っておかねばならないことだ。
だからライムは少し我慢して聞きなさい」
そう弟子に注意をしてから、グレンは咳払いをして続ける。
「五行魔法というのは、属性によって使える魔法が全くと言っていいほど違う。
本人が使いたいと思っている魔法と、始めに学び始める属性が離れていては、その望みが叶うには長い習得時間がかかってしまう。
例えば水行の魔法を使いたいと望んでいても、一番初めに木行を学んでしまえば、水行の魔法を使えるようになるには、木行、火行、土行、金行と順番に覚えて行き、最後に水行を学ぶはめになる。
五行魔法を学ぶ全ての者が、五行全てを習得できるものでもない。下手をしたら一番使いたい魔法だけが使えないという事態に陥りかねない。
ゆえに一番初めにどの属性を学ぶかは非常に重要に選択になってくるのだ」
「なるほど……」
確かにそれは、学ぶ前に知っておかねば後悔しかねない。
「そこでライム。五行それぞれに、どのような魔法があるか述べてみなさい。
始めて学ぶ者が将来、後悔しないで済む選択ができるような説明を行ってみなさい」
なかなかハードルが高い要求だ。しかし弟子としては、師の要求に答えるしかない。ライムは五行魔法に関する書籍の内容を思い出しながら答える。
「えっと、まず土行から言ってみます。
土行には万物を保護、育成する性質があるため、防御魔法が充実しています。人の体を頑丈にしたり、防壁を崩れにくくしたり。
水を剋する性質あるため水による害を防ぎます。中には水の中で溺れなくする『避水呪』という魔法もあります。また、大地から植物の芽が出てくる様子が元となっているだけあって、植えた種からすぐに芽を出させる魔法もあります。
次に、土行から生み出される金行。
金行には金属のような冷徹、堅固、確実な性質あり、その魔法も金属のような硬質な刃を主体とした攻撃魔法や防壁が揃っています。冷徹という性質から物を冷やす魔法。確実という性質から、次に行う行動を正確に行える『確実化』。また大地から光り輝く鉱物という元となった象徴から、モノ探しの魔法や、明かりの魔法、などがあります。
次が、水行。
水行は、生命力が生まれる性質といわれるだけあって、命に関する魔法が多いです。病気を治したり、怪我を治したり、活力を与えたり。火を剋する性質を持っているので、火除けの魔法や、消火の魔法などもあります。
次が木行。
木行は、花や木の葉が広がっている樹木が元になり、それを成長、発育する性質として捉えています。植物の成長を促す魔法が一般的で、ほかには土を剋する性質があるため、大きな建築物を崩すとか魔法もあります。
ただ、木行の中には木の葉を揺らす風も含み、それによって呼び起こされる雷も含んでいるため、風や雷による攻撃魔法があります。また風は素早く駆けるものという性質があるため、移動速度を上昇させる魔法もあります。
そして最後が火行。
火行は、光り輝く炎が元になり、灼熱や破壊、大きな衝動という性質があるため、ほとんどが攻撃魔法です。炎を用いた攻撃魔法が一般的ですが、中には熱を伴わない破壊魔法や、炎の姿が見えない熱線の魔法もあります。また灯りの魔法もあります。こちらの灯りの魔法は金行の明かりの魔法と違って熱を帯びた光を出します。それと、瞬間的に大きな力を出す事が可能になる身体強化魔法も火行には存在しています」
「よろしい。大体の所は分かっているようだ。ただ一部が抜けているな」
「抜けていますか?」
読んだ本にはそれ以外には載っていなかった気がする。
「うむ。五行にはそれぞれ、本来ならば感知できないモノを感知できるようにする魔法も存在している。
土行なら『質量感知』、金行ならば『金属感知』、水行なら『水感知』と『生命感知』、木行なら『風感知』と『植物感知』、火行なら『熱感知』だ。
あまり使い道が無い魔法ではあるが、ライムの場合は将来的に、陰陽魔法を使う際に魂を感知できるようにならねばならない。これらの感知魔法の感覚を覚えることは、その際に役立つことになるだろう。
アリティアはわしとライムの説明を聞いて、どの属性を一番始めに学びたいと思った?」
「わたしは、そうだね……。水行かな? 怪我の治療とかができるなら、役に立ちそうだし」
「まあ、優しいアリティアならば水行を選ぶじゃろうな」
最も攻撃性の低い属性だ。アリティアは四大魔法の時も生活魔法に比べて攻撃魔法を覚えたがらなかった。グレンは孫の選択に納得し、説明を付け加える。
「水行を選ぶ者に多いのが、魔法医を目指す者じゃ。なにせ他の属性では回復魔法というものがないからな。
さて、ライム? おぬしが一番初めに学ぶ属性は、人の魂とスライムの肉体から制限が掛かっていると前に説明をしたと思う」
「人の魂が土行で、スライムの肉体が水行になっているから、水行を先に習得すると人の魂を害しかねないという事ですね」
「うむ。あの後、少し調べてみたのだが、その説を否定できるものは無かった。ゆえに安全策を取るとライムが一番初めに習得する属性には制限がかかる。
つまり、水行と金行は選んではならないということだ」
「水行はともかく、金行もですか?」
「金行を習得したら次が水行になるからな。
ゆえにおぬしが選ぶべきは、優先順に、土行、火行、木行となる。
おぬしの魂が一番安全なのは土行を選ぶ事だ。しかし、安全よりも優先して火行の魔法を使いたいのなら、火行を選びなさい。
そして安全よりも何よりも優先して、木行の魔法を使いたいと強く願うなら木行を選ぶ事だ」
火行より木行の方が条件が厳しいのは、木行を習得すると、土行を習得する為には火行をも習得する必要があるからだ。
「さて、ライム。これらの属性の中で、どれを一番初めに習得する?」
「土行でお願いします」
脅すかのような口調で問うグレンに、ライムは即答で答えた。
人としての魂を守る事が最優先事項だ。それよりも優先して使いたい魔法などない。
それに五行それぞれに大きな優劣があるとは思えない。
「うむ。まあそうじゃろうな。
それではこれで事前の座学は終了とし、早速習得に入るとする。ついてきなさい」
ライムの答えは予想通りだったのだろう、グレンは頷いて言うと、席を立つ。こういう時の師匠はフットワークが非常に軽い。
ライムとアリティアは慌てて席を立ち付いていく事になった。