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第39話 四大魔法の適正とは


 ライムとアリティアの魔力制御の訓練は毎日、午前中に行っている。


「集糸化法はとりあえず形になってきたようじゃな」


 ライムが行っている集糸化法の出来を見て、グレンは言った。

 ライムは驚く。今行っていた魔力の操作はとても形になっているとは思えない出来だったからだ。


 確かに最初に集糸化法の訓練を始めた時とは格段に上達した実感はある。

 しかし、形になったと言えるほどではないと思う。

 大量の魔力をかき集める事はできている。その点は自分でもよく出来ているとは思う。

 けれど、問題はその後の集めた魔力を取り零さすに収束させる事ができない。

 最終的には集めた魔力の大部分を取り零している。


 ライムが比較対象とできるのは、熟練者のグレンと初学者のアリティアだ。二人は集める魔力の量には開きがあるが、ライムと比べると大体アリティアの数倍の量、グレンの半分程度の量だ。

 しかしそれは集めた時点の話だ。魔力を収束させる時には、アリティアが制御する量の半分ほどしか魔力を制御しきれていない。


 しかも、収束したと言っても糸状までは収束できていない。

 今のライムには指の太さへの収束を十秒維持する事が限界だ。


「糸になるまではまだまだ程遠いんですけど?」

「まあそうなんじゃが、集糸化法の訓練としては一通り通して行う事ができるようになったからな。

 後はどれほど精度を高めていくかが問題になってくる。地道な訓練を続けていけば自然と上達していく。

 一応の一区切りまでは辿り着いたということじゃ」


 グレンは満足そうに頷く。しかし、ライムの方はそこまで成長しているのか、実感がない。

「次の段階に進むことにするかの。集糸化法の訓練は、今日の所はこれで終了でよいじゃろ。

 ライム、アリティア。これから次のステップのために行う事がある。そのために調べる事が有るから、二人ともリビングの方へ戻ってなさい」


 そう言うとグレンは先に家の中に戻ってしまう。


「次の段階ってなんだろう?」

「さあ?」


 ライムの疑問にアリティアは首をかしげる。

 二人はグレンに続いて家の中に入り、リビングへと向かう。そこにグレンの姿は無い。


「あれ? いない?」

「おじいちゃんなら自分の部屋じゃない? なんか持ってくるみたいだし」

「そうか、なんだろうね?」


「お茶、いれるけど、ライムはいる?」

「あ、うん。もらう」


 お茶と言っても今からお湯を沸かすものではない。作り置いた冷えたお茶をコップに注ぐだけだ。アリティアは三人分のお茶を注いで、席につく。

 グレンがリビングへとやって来る。

 その手には荷物を持っている。それをテーブルに置いて席につく。


「揃っておるな。さて、これからやるのは四大魔法における適正検査だ」

「適正検査?」

 

 ライムとアリティアはそろって首を傾げる。グレンはコップに口につけて、答える。


「さよう。四大魔法は全ての属性を習得する事が可能だ。

 だが、それぞれの属性の習得難易度は、個々人の適正によって左右される。

 始めに覚える属性は自分の適正に合った属性でないと、非常に習得しづらい。

 

 一度、一つの属性の扱いを覚えてしまえば、次の属性からは簡単に習得できる。


 同じ四大魔法だから基本は同じだからな。


 もっとも、適正に関係なく属性ごとに習得しやすさに差があるのだが」


 グレンが持ってきたのは丸めた大きな紙と裁縫箱だ。グレンは大きな紙をテーブルの上で広げる。そこには魔法陣が描かれている。

 魔法陣の系統は四大魔法である事はライムにも読み取れた。しかし、一つの属性だけを扱うものではなく四つの属性全てを扱うような複雑な魔法陣だ。


 魔法陣の方はともかくとして、裁縫箱の方は何の意味がわからない。ライムとアリティアは二人して不思議そうな顔で裁縫箱へ視線を向ける。

 その視線に気がついたグレンは答える。


「この検査法は簡易的な代物でな。

 この魔法陣の中央に血液を一滴たらすだけで、その後の血のにじみ方で適正が検査できるという代物だ。

 裁縫箱を持ってきたのは中の縫い針で指を刺してもらうためじゃ」


 その言葉にアリティアは不満気に拒否する。


「えー! それって痛いじゃない。わたしイヤだよ!」

「アリティアはたまに指を針で刺しているじゃろうが」

「それは失敗しちゃった時の話でしょ!? わざと針を指に刺そうだなんて考えていないわよ。他に痛くない方法は無いの?」


「あるにはあるが、準備が面倒な上に出る結果の制度はこれと変わらん。なら簡単なこちらの方がよいじゃろ」

「けどこっちは血を出すために痛い思いをしなきゃならないんでしょ? だったらイヤだよ。痛くないそっちにしようよ」

「ワガママ言うでない」


 言い合いを行う。祖父と孫に対してライムはオズオズと手を上げる。


「あのー。私も血を出す方法の検査はやめて欲しいんですけど……」


「わぁ! やっぱりライムはわたしの味方をしてくれるのね。そうだよね。痛い思いなんかしない方がいいものね」

「ライムよ。あまりアリティアを甘やかすでない。それではアリティアのためにはならんぞ?」


 アリティアは喜びの声を上げ、グレンはたしなめる。

 そんな二人にライムは非常に申し訳ない表情で、二人の言葉を否定する。


「いえ、そう言う訳じゃないんです。

 ただ、その検査方法じゃ、私には無理だなっと思って……」

「なんじゃ? ライムも痛いからイヤだ、などと言うつもりか?」

「いえ、そうではなく……」


 とライムは裁縫箱から縫い針をとりだし、二人が見ている中で己の指に突き刺してみせる。


「ちょっ……!」


 ブスリと無造作に深く突き刺す様子に、アリティアは顔を青くする。

 ライムはそのまま針を抜いて、傷口を二人に見せる。


「私は血の出ない体ですから、その検査ができないんですよ」


 針の刺した場所は丸く穴が開いていたが、血が出てくる様子も無い。傷口は速やかに小さくなって、あっという間に跡形も無く消えてしまった。


「あー……」


 グレンはなんと言って良いのか分からず、アリティアはあっけに取られ、そしてライムは申し訳ない思いを懐く。

 その場に微妙な空気の沈黙が流れる。


 最初に気を取り戻し、沈黙を破ったのはアリティアだった。


「おじいちゃん。やっぱりその検査方法はダメだよ。

 血を出すんじゃなくて、痛くない方法が有るんならそっちを使いましょ?」


 その言葉にグレンは孫と弟子を見比べる。

 孫は勝ち誇ったかのような表情をしている。だが、弟子の方は申し訳無さそうな顔をしている上に頭を下げてきた。

 

「えっと……。すいません、面倒をかけます……」


 グレンは目頭を揉みながら、深い溜息を吐いた。


「……わかった。正式の検査方にするとしよう……」

「やった」


 アリティアが小さな歓声を上げる。グレンはそんな孫をギロリと睨む。


「その代わり、準備に時間が掛かるのでな。二人は準備が終わるまで、集糸化法の訓練を行っているように」

「えー!?」


 不満の声を上げたのもアリティアだ。そんな孫を無視してグレンは弟子に言いつける。


「ライム、アリティアがサボらぬようにしっかりと監督を頼むぞ? ああ。だが、かと言って自分の訓練もおろそかにしないように」

「あ、はい」

「アリティア、サボらず訓練をするんじゃぞ? サボっていたらおぬしの方は血を出す方の検査にするからの」


「なんでわたしだけに言うのよ!」

「嫌なら真面目に訓練しておれ。

 ほれ、二人共、さっさと外に出て訓練を始めんかい」


 ライムとアリティアは追い出されるようにして家を出て、集糸化法の訓練を再開することになった。



  ◇  ◇  ◇



 結局検査が行われる事になったのは昼食の後しばらく経過してからになった。


 正式な方の適正検査は、血を使った簡易版とどう違うのかと思ったが、ライムにはよくわからない。

 ただ、正式版の方も簡易版と同じように大きな紙に描いた魔法陣を使うそうだ。


「血を使う物と、どう違うんですか?」


 テーブルの上に広げた魔法陣を見ながら、ライムが質問する。


「こちらの方が魔法陣の構造が複雑でな、厳密に描かねば機能しないじゃ。簡易版の方は多少雑に描いても機能するんじゃが」


 グレンはそう答えるが、ライムにはその場で見比べでもしないと違いはわからない。ただそう言われると、たしかにこちらの方が複雑なような気もしないでもない。


「それに特殊なインクも必要でな。

 ただ、こちらの方は複数回、使いまわせるという利点は有る。

 じゃが、二人程度なら簡易版の魔法陣を二枚描いた方が楽なんじゃよ」


 もし、簡易版と同じように一度しか使えないとしたら、アリティアは血を使った簡易版を使用する事になっただろう。


 正式版の使い方は血を垂らす代わりに、魔法陣中央に手を置いて、そこからわずかに魔力を注ぐだけだという。


「注ぐと言ってもコイツには、自然に魔力を取り込むようにしてあるからな。魔力をわずかに集める程度で十分じゃ。

 さ、早速やってみなさい」


 促され、先にライムがやることになった。

 魔法陣の中央に手を置いて魔力を集める。少しで良いとの事なので、集糸化法の訓練の時の様に大量には集めない。わずかな量の魔力を集めただけだったが、検査用の魔法陣には十分な量だった。

 魔力の粒子は魔法陣に吸い込まれ、魔法陣の一部だけが光を放つ。


 一番強く光を放っているのは、土の属性のシンボルが描かれた場所だ。そこ以外にもわずかに光を放つ場所があり、そこは水の属性のシンボルが描かれている。


「これは強く光ったシンボルが私の適正って事になるんですか?」

「ああそうだ。ライムのメイン適正は土属性か。少し意外な結果だな。

 まあ、サブ適正が水なのは納得できるが……」


「二つも適正があるんですか?」

「ああ、一つしか適正が無いという者が多いが、二つ適正があるのは珍しい事ではない」


 グレンは驚いた様子だが、ライムにとっては納得できる結果だ。

 石を大量に食べてきた経緯があり、肉体を岩石同様に硬化させるスキルも持ち合わせている。土属性に対して適正があるということは当然の事の様に思える。


 そしてサブ適正が水属性なのは、スライムという種族が基本、水の属性となっているためだろう。


 実に納得のできる結果だ。


 グレンが納得できないのは、メインとサブの適正が逆になっていないからだろう。


「まあ、よい。アリティア、次はおぬしの番じゃ」

「うん。やってみる」


 アリティアも魔力を魔法陣に注ぐ。その結果はライムと同じように二箇所から光を放った。ただし場所は違った。


「メイン適正が水属性。サブ適正が風属性か」

「やった。わたしも二つだ」


 グレンの適正の読みあげに、アリティアは小さく喜びの声を上げる。ライムと同じであることが嬉しいらしい。


「おじいちゃんの適正はなんだったの?」

「ワシか? ワシの適正はたしかメインが水でサブが土じゃなったかな。まあ、今はすべての属性を習得しているから、もう適正は関係無いんじゃがな。


 ま、おぬしら二人の適正が火属性で無かったという事が幸いじゃな」


 魔法陣を片付けながらグレンは言う。


「火属性だと問題なんですか?」

「火属性だと、危険で面倒なことになる。火は他に比べて動きが激しすぎるからの。失敗すると暴発やら火事やらを起こすから危なすぎるんじゃよ。

 ヤケドなんてしたくなかろう?」


 問いかけに二人はコクコクと頷く。その様子を満足げにしながらグレンは続ける。


「二人とも一番始めに教える属性は水属性になるな」

「え、私も水属性ですか? 私のメインの適正は土属性なんですけど?」


「ああそうだ。残念ながら土属性魔法は習得難易度が他の属性に比べて若干高いんじゃよ。


 火属性魔法とは反対に反応性が鈍すぎるせいじゃな。

 水適正か風適正をサブで持っているなら、そちらの方を先に教えた方が習得しやすい」


「なるほど、それで水属性の魔法の方が先ですか……」


 土属性を先に習得しない理由については納得できたが、ライムには不安な事があった。


「あの……師匠? 私が水属性の魔法を先に覚えても大丈夫なんでしょうか?」


 不安に思っていた事は、スライムの肉体の属性である水属性が強化されれば人の魂を圧迫しかねない、という話だ。


「ああ、それは大丈夫じゃよ」


 グレンはあっさりと否定する。


「前に言った話は、五行魔法に関する属性の話だ。

 今覚える水属性の魔法は、四大魔法における水属性じゃ。五行魔法の水属性とは別モノじゃよ」


「え。そう……なんですか?」


 てっきり同じものだと思っていた。


「ああ、四大魔法の方は魔力を魔法陣に通過させる時に、属性変換と魔法としての形を得る事が同時に行われる。

 一度魔法という形になった魔力は、術者に直接的に影響を与えない。


 つまり、魔力が魔法という形で固定されるので、その時に属性変換された魔力が術者に逆流することはないのだ。


 だが、五行魔法の方は先に術者自身が魔力を属性変換した後に、魔法陣を通して魔法としての形を得る。ゆえに属性変換した後の魔力が術者に影響を与える事があるのだ。


 魔法として固定される前の、属性変換した魔力に術者は触れている訳だからな。


 水属性を最初に習得する事が問題かもしれないというのは、五行魔法だからだ。

 四大魔法の水属性ならば何の問題も無い」


「そうですか、それなら良かった……」


 ホッと安心する。


「他に何か質問はあるか?」


 グレンの問いかけに二人は顔を見合わせるが、別の質問は出てこない。


「ではさっそく、水属性の四大魔法を使ってみる事にしよう」


「「え?」」


 グレンの言葉に、ライムとアリティアの疑問の声がハモった。



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